米中削減目標 COP15への追い風だ

朝日新聞 2009年11月29日

温室ガス削減 さあ外交の正念場だ

「ポスト京都」の歯車がようやく回り始めた。米国と中国が2020年までの温室効果ガス排出抑制の中期目標を相次いで発表した。

世界の排出量の約4割を占める両国が、地球温暖化防止に本気で取り組む姿勢を示したことは歓迎できる。

約1週間後に迫った国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)では、現行の京都議定書に続く脱温暖化の国際枠組みについて、中身の濃い政治合意をまとめなければならない。米中の動きが、交渉進展のきっかけになることを期待したい。

とはいえ、両国が掲げた数値は称賛するにはほど遠い。

米国が打ち出した「05年比で17%削減」は、90年比に換算すると4%程度にとどまる。議会で審議中の関連法案から逸脱するような目標は掲げにくいという国内事情を抱えているとはいえ、この数字では他の国々に納得してもらうのは難しいのではないか。

一方の中国は「国内総生産(GDP)あたりの排出量を05年比で40~45%減らす」という。

ただ、経済が現状のまま成長し続けた場合、たとえGDPあたりの削減目標を達成できたとしても、総排出量が大幅に増えることは避けられない。

今回の両国の決断は、鳩山首相が9月に国連で「90年比で25%削減」という大胆な中期目標を掲げたことに触発されてのことでもあろう。

米中の打ち出した数値の低さのせいで日本の目標が高く見えるが、むしろその立場を強みにして、米中などへの働きかけに力を入れるべきだ。

鳩山政権は外交をフル回転させなければならない。首相をはじめ、外相、環境相らは総力を挙げ、後世の評価に堪えうる成果を生み出すべく、多角的な外交交渉を繰り広げてもらいたい。

そもそも日本の「25%削減」は、すべての主要国が意欲的な目標に合意することが前提だ。公平で実効性のある枠組みをつくるという意味でも、米中の数値を「意欲的な目標」にまで引っ張り上げる必要がある。

米国は、先進国全体の目標として求められている「20年までに90年比25~40%削減」を見すえるべきだ。この水準でないと「先進国が50年までに80%削減」という長期的な目標の実現が難しくなり、温暖化の被害が深刻化する危険性が大きくなってしまう。

中国も、経済成長の妨げになるような削減は避けたいという事情はわかるが、大排出国として、将来的に総排出量の減少につなげられるような思い切った目標を掲げてほしい。

そういう中国の積極姿勢は、ほかの新興国の背中を押すことにもなるはずだ。世界が一丸となって排出削減に向かってこそ、「ポスト京都」の実効性は増す。

毎日新聞 2009年11月27日

米中削減目標 COP15への追い風だ

来月の「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」に向け、米国と中国が相次いで温室効果ガスの削減目標を公表した。

米国の「05年比17%減」という数値目標は、90年比では数%に過ぎず、決して十分な値とはいえない。

中国の目標は国内総生産(GDP)当たりで示され、エネルギー効率は上がっても、排出総量の削減に結びつくかどうかはわからない。

それでも、京都議定書から離脱している米国と、議定書で削減義務を負っていない中国が、ともに削減に責任を持って取り組む姿勢を示した意義は大きい。

あわせて世界の4割を排出する両国が数値目標を示したことにより、温暖化対策の国際交渉が一気に加速する可能性があり、意思表示は評価できる。

デンマークで開かれるCOP15では、法的な拘束力を持つ「ポスト京都議定書」の採択は先送りされる見通しだ。代わりに政治合意文書の採択をめざすことになる。

議定書の採択が困難となった背景には、先進国と途上国の根強い対立による交渉の停滞がある。

途上国は、産業革命以来、化石燃料を大量消費してきた先進国の歴史的責任を強調している。国民1人当たりの排出量の比較からも、先進国がまず、大幅な削減をすべきだとの主張を続けている。

一方、先進国は、中国、インドなど、経済発展に伴い排出が急激に増加している主要途上国も、削減責任を負うべきだと主張。特に米国と中国は、相手が責任を果たすことを、自国の削減の条件としてきた。

互いに目標を示すことで、双方が削減に向けてかじを切ることができれば、世界の排出削減に役立つ。

一方で、出そろった先進国の目標を足し合わせても、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す先進国の削減必要量には達しない、という問題は残る。途上国の反発は続くと思われ、先進国は、途上国への効果的な資金援助や技術支援に頭を絞ることも必要だ。

90年比25%減という鳩山政権の数値目標は、国際的には歓迎されている。ただし、これをいかに実現していくか、国内の動きはにぶい。

削減に伴う国民負担を再試算する作業が進められているが、具体策がないため確度が低く、試算の目的もわかりにくい。環境税や排出量取引などの具体的議論もこれからだ。

国際交渉の行方にかかわらず、日本は低炭素社会に向け政策を進めていくべきだ。各国の思惑が交錯する国際交渉の場では、国益を守りつつ、世界の温室効果ガス削減を進める戦略も欠かせない。

読売新聞 2009年11月29日

CO2削減 米中の目標公表で弾みつくか

温室効果ガスの2大排出国である米国と中国が削減の中期目標を公表した。京都議定書に代わる公平な枠組み作りの弾みとしたい。

米国の目標は、温室効果ガスの排出量を2020年までに05年比で17%削減するというものだ。さらに、25年に30%、30年に42%、50年に83%と段階を踏んで減らす内容である。

「05年比17%減」は、1990年比に換算すると数%の削減に過ぎない。90年比で一気に25%削減しようという鳩山政権の目標との違いが際立っている。

経済の立て直しが最優先課題である米国にとって、現実的な色合いが濃い削減目標といえよう。

米国を抜き最大の排出国となった中国の場合は、国内総生産(GDP)当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を20年までに05年比で40~45%削減する。

日本や米国のように、排出総量の削減目標ではなく、一定単位のGDPを生み出す際のCO2排出量を削減するという考え方だ。GDPが増えれば、CO2の総排出量も増加する可能性が高い。

経済成長を損ねず、その一方で、排出削減に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるのだろう。中国は「国情に基づく自主的な行動」とも強調している。国際的に削減義務を負うことに対する警戒心がうかがえる。

12月7日から気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が開催される。13年以降の国際的な削減ルールとなる「ポスト京都議定書」について討議するに当たり、米国と中国が中期目標を示したのは、一歩前進には違いない。

だが、先進国と途上国の主張の隔たりは、依然として大きいのが現実である。早くも、新たな議定書の採択は絶望視されている。来年の議定書採択につながる踏み込んだ政治合意にこぎ着けられるかどうかが焦点といえる。

米国と中国の動向は、その成否のカギを握るだろう。

懸念されるのは、途上国の間に京都議定書の延長論が浮上していることだ。米国が離脱し、中国も途上国として削減義務を負っていない京都議定書は、世界の排出量を減らす実効性を欠いている。

鳩山首相は、国内の合意がないまま、「25%削減」を国際公約に掲げた。一方で、目標を目指す条件として、ポスト京都への「すべての主要国の参加」を挙げた。

日本にとって大切なのは、COP15で、この条件をあくまで堅持することである。

産経新聞 2009年11月28日

米中の削減目標 「効果は疑問」日本が突出

来月コペンハーゲンで開かれる「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」を前に、米国と中国が駆け込みで、2020年までの温室効果ガス削減の中期目標を公表した。

米国は総排出量を17%減らし、中国は国内総生産(GDP)当たりの排出量で40~45%削減するという。ともに2005年比での数値だ。世界の2大排出国が、ようやく具体的な削減目標を提示したわけである。

COP15では、現行の「京都議定書」に続く新たな議定書の採択が困難な情勢となっており、協議の前進には、米中の具体的行動がカギになるとみられていた。

その意味で、米中の目標提示を評価する声もあろうが、それは甘い。両国の目標に、どれだけの実質的な意味があるのか、冷静に見極めることが必要だ。

米国が示した17%減は、1990年比なら、わずか3%減にとどまる。日本が目標として掲げている90年比25%減には遠く及ばない。かつて、米国が京都議定書で約束していた7%減に比べても半分以下だ。

中国の対策も、効果のほどは大いに疑問だ。排出総量ではなく、GDPと比較しての削減である。そのため、経済成長が続けば、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出増加は避けがたい。何もしないよりはまし、という程度であろう。

それに対し、鳩山由紀夫首相が9月に国連の場で表明した90年比25%減という削減率は、異様に高い。まして、日本の省エネへの取り組みは、他国に先行して進められてきた。削減余裕の多い国とは全く事情が違うのだ。

COP15の交渉で日本は、国民生活や企業の経営に、過度の負担がかからない範囲にまで削減目標を下げるべきだ。鳩山首相も「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を大幅削減の前提条件としていたではないか。

米中の“歩み寄り”で、日本は25%からの下方修正を言いだしにくくなっている。退路をふさがれかねない状況だ。しかし、COP15の交渉では、国益を不当に損なうことのないよう、しっかり議論をしてほしい。

COP15では、国益と地球益のバランスを考えたうえでの、したたかな交渉が参加国の間で展開される。「友愛」を頼りに臨むなら、あまりに無謀だ。

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