桜宮高体育入試 深刻な体罰が招いた中止決定

朝日新聞 2013年01月24日

桜宮入試中止 わかりにくい折衷案だ

体罰が明らかになった大阪市立桜宮高校の入試について、市教委は橋下徹市長の求めに応じ、体育科とスポーツ健康科学科の入試をとりやめる。

ただし普通科として入試をする。体育系2科と同じ試験科目で受験できる。市教委が市長の顔を立て、同時に入試方式を変えないで受験生に配慮した折衷案での決着だ。

桜宮高校はスポーツを中心にした教育で全国に知られる。体育系2科を志願してきた中学3年生にとっては、入試中止の事態は避けられた。

とはいえ、わかりづらい点も少なくない。市教委はスポーツに特色のあるカリキュラムにする方針だ。「勝利至上主義ではなく他者を慈しむ心を育てる」というが、具体的に何を教えるのか。体育系2科と比べて履修教科に変更はないのか。出願まで1カ月を切っており、早急に示す必要がある。

来年度、市教委は改革の進み具合をみて学科のあり方を再検討するともいう。体育系2科が復活するのか、普通科で入学した生徒は編入できるのか。不安を抱えたままの受験となる。

体罰容認の実態が改まっていない現状では新入生を迎えられない。今回の中止は、橋下氏がそう発言したのがきっかけだ。

高校受験は人生の大事な節目である。本来、受験生にしわ寄せがいくのは好ましくない。

学校教育は生身の人間が主役であり、改革も現場主導が、あるべき姿だ。だが今回、橋下氏が前面に乗り出した。

もとのまま入試が実施された場合の予算執行停止にまで言及して、市教委を追い詰めたことには強い違和感が残る。

入試の中止に加え、教員の全員入れ替えなどのかけ声が先行し、学校やクラブ活動をどう良くするかという本質論が先延ばしになったのは残念だ。

入試の中止が決まった日、桜宮高校3年の運動部元キャプテン8人が市役所で記者会見し、「勝利至上主義ではなかった」「市長には生徒の声をもっと聞いてほしい」と訴えた。

市長が直接、方針を示す「荒療治」を是とする意見もある。社会には、教育現場への不信感があるのも事実である。

だが、橋下氏は生徒の声にもっと耳を傾けるべきだったし、一方的な発言で対立を深めるのでは、根本的な問題解決の糸口はつかみにくい。

体罰をめぐる意識改革などを、教育現場の自発的な発案、責任ある行動で進めていく。その過程があってこそ、学校は変わっていける。

読売新聞 2013年01月22日

桜宮高体育入試 深刻な体罰が招いた中止決定

試験日まで1か月を切る中で、極めて異例の対応である。

大阪市教育委員会は、体罰を受けて男子生徒が自殺した市立桜宮高校で体育系学科の今年の入試を中止することを決めた。橋下徹市長の要請を受け入れた。

入試を中止せざるを得ないほどに、桜宮高の体罰問題が深刻だという判断だろう。

橋下市長は「体罰を容認する風潮が残っている状況で新入生を迎え入れることはできない」と主張した。入試を実施する場合には、市長の予算執行権を行使し、入試関連予算の支出を凍結する可能性にも言及していた。

5人の教育委員のうち、教育委員長を除く4人が「入試を継続すれば、学校改革につながらない」などと市長に同意した。勝利至上主義の下、体罰を常態化させた学校の体質を根本から変えることを重視した結論と言えよう。

入試の中止に対しては、「受験に向けて準備をしてきた中学生に重大な影響を与える」と懸念の声も少なくなかった。市教委は中止による混乱を最小限に抑える措置を講じることが大切だ。

市教委は今回、体育系学科を志望する中学生を普通科に振り替えて受け入れる方針だ。

普通科の定員に体育系学科計120人を上乗せする。普通科の受験科目は通常5科目だが、体育系学科の志望者には、3科目と実技での受験を認めるという。

下村文部科学相が「受験生に影響がないような配慮であれば、よしとしたい」と理解を示したように、受験生の進路を確保する上で現実的な対応と言える。ただ、新入生は将来的に体育系学科に移れるのだろうか。

橋下市長が入試中止を求めた背景には、桜宮高や市教委への不信感がある。

体罰を加えた男性教師は男子バスケットボール部を強豪に育てた実績から、在籍10年以上で転任させるという市教委の要綱に反し、19年も在籍している。周囲も批判しにくい状況になっていた。

学校が体罰情報を得ながら、おざなりな調査で体罰はなかったと結論付けたことも問題だ。

今後、何より重要なのは、体罰の実態解明と再発の防止だ。

橋下市長は市教委に、桜宮高の運動部顧問の教師を入れ替えることも求めている。

少なくとも、体罰を行った教師については、厳しい処分と異動が必要だ。適切な人事配置で体罰の根絶を図らねばならない。

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