邦人7人死亡 自国民保護の態勢整えよ

朝日新聞 2013年01月25日

オバマ2期目 戦争をしない大統領に

米国のバラク・オバマ大統領が政権2期目に入った。

オバマ氏が体現する変革や連帯のメッセージは、今も内外の多くの人を引きつけている。再選のくびきから解かれた強みを生かし、理想とする社会づくりに取り組んでほしい。

公民権運動の黒人指導者、キング牧師の生誕記念の祝日でもあった21日、首都ワシントンで就任式典が開かれた。

初のアフリカ系大統領となった4年前のような高揚感はなかった。党派対立で、思うように政権運営ができなかった1期目の現実が重くのしかかる。

それでも、壇上のオバマ氏は力強さを取り戻していた。

演説で、気候変動、同性愛者の権利、移民政策といったリベラル色の強い問題を多く取り上げた。

2期目は、信念をより前面に出すという決意の表れだ。「ともに」「われら合衆国人民」といった言葉をちりばめ、国民の支持を背景に、物事を推し進めようとする姿勢がにじむ。

オバマ氏は再選を決めた後、野党・共和党との対決路線に重心を移した。

「財政の崖」をめぐる交渉では、一定の譲歩をしつつ、高所得者層への増税を勝ち取った。小学校での悲惨な銃乱射事件を受け、根強い抵抗がある銃規制の強化にかじを切った。

こうした姿勢が好感され、支持率は上がってきた。「力強い指導者」としての評価も多い。経済の回復基調も追い風だ。

逆に、下院で多数を占める共和党は、財政問題での頑迷な対応に風当たりが強まった。

政府の借り入れ上限額引き上げや歳出削減など、春にかけて難題が控える。オバマ氏としては、上向きの支持をうまく生かし、共和党の穏健派を引き寄せる必要がある。

演説で「安全と平和のために戦争を繰り返す必要はない」と語った。

1期目はテロ集団への無人機攻撃やリビア空爆など、軍事力も使ってきた。だが、攻撃だけではテロは根絶できない。アルジェリアの人質事件は、北アフリカでのイスラム過激派の伸長ぶりを見せつけた。

内戦状態のシリアなど、「アラブの春」後の中東にどう向き合うのか。アジアでは中国の台頭で変動が起きている。

意見の異なる国々と「関わっていくことで、疑いや恐れを取り除くことができる」という言葉は、ノーベル平和賞を受けたオバマ氏の考えをよく表している。「戦争をしない大統領」として功績を残してほしい。

毎日新聞 2013年01月26日

テロ犠牲者10人 「名前」が訴えかける力

誠に痛ましい結末だ。アルジェリアの人質事件で、日揮の駐在員ら日本人10人の死亡が確認された。

犠牲者本人はもとより、遺族や同僚、知人らの悲嘆や無念はいかばかりか。胸がつぶれる思いだろう。

犠牲者の伊藤文博さんの母、フクコさんは、宮城県南三陸町の仮設住宅で、近く帰国して再会するはずだった息子への思いを記者らに語った。東日本大震災で自宅を津波に流され、思い出の品もないという。渕田六郎さんの兄、光信さんも記者に対し優しい六郎さんの人柄を語り涙を流して悲しんだ。こうした報道に接し、民間人を巻き込んだテロ行為への怒りが改めてわき上がる。

政府と日揮は、遺体の確認後も遺族への配慮を理由に犠牲者の氏名を明かさなかった。内閣記者会が氏名公表を首相官邸に申し入れるなど「犠牲者情報」を巡り異例の経緯をたどったが、最終的に政府が公表に踏み切ったことは評価したい。

今回、実名公表の是非がネットなどで大きな話題になった。事件や事故(災害も含め)で亡くなった人を実名・匿名いずれで報道するのかはメディアにとって悩ましい問題だ。遺族の意向も考慮する。それでも、取材は「実名」がなければスタートしない。名前は本人を示す核心だ。

東日本大震災では津波被害などで2万人もの死者・行方不明者が出た。だが、数字だけで被害の大きさがリアリティーを持っただろうか。

生き残った人が亡くなった人への思いをメディアなどに具体的に語り、その声が積み重なって訴える力となり、国民が被災地を支える原動力になったのではないだろうか。

その時、「Aさん」「Bさん」では伝わるまい。名前は符号ではない。かけがえのない個人の尊厳を内包するものだ。

今回の理不尽なテロ事件も、犠牲者がどんな方々か分かったことで、社会として事件を記憶し、今後の教訓もくみとっていくことができる。

実名公表を巡り論争になった背景にメディアの取材姿勢への不信感があるのも確かだ。集団的過熱取材が強く批判されたこともある。遺族の心情を踏みにじるような取材が許されないのは当然だ。

新聞倫理綱領は「自由と責任」「品格と節度」をうたう。その原点を記者一人一人が自省すべきだ。社会の信頼に支えられての「報道の自由」である。匿名化が進む社会はどこか息苦しい。信頼を得ることで風通しのよい民主主義に寄与したい。

日揮、さらに政府の対応を今後チェックするのもメディアの大きな役割だ。日揮に対しては、生存者の生の声を取材できる機会を設けることなど一層の情報開示を求めたい。

読売新聞 2013年01月28日

オバマ氏2期目 米国再生へ真価が問われる

米国再生へ成果が問われる重要な4年間だ。

再選を果たしたオバマ米大統領が、2期目のスタートを切った。

オバマ氏は新たな任期に臨む就任式で「10年に及ぶ戦争は今、終わりつつある。経済の回復も始まった」と述べ、1期目の成果を誇示した。

アフガニスタン駐留米軍は戦闘任務をまもなく終え、来年末には撤収する。リーマン・ショックで急落した株価も危機前の水準を超えて大幅に上昇し、シェールガス革命でエネルギーブームだ。

オバマ氏には、ブッシュ前政権の「負の遺産」を克服したという自負心があるのだろう。

ただし、本格的な再生へ、前途はいばらの道である。

最重要課題は財政再建だ。

財政赤字は4年連続で1兆ドル(約90兆円)を超え、政府債務残高も16兆ドル超に膨れ上がった。

大型減税の失効と歳出の強制削減が重なる「財政の崖」からの転落は、ひとまず回避した。連邦政府の借り入れ枠である米国債発行枠(債務上限)を暫定的に引き上げ、デフォルト(債務不履行)も約3か月避けられる方向だ。

だが、抜本的な財政再建策は先送りされている。

オバマ氏は、議会で必要な法案が成立するよう、強い指導力を発揮しなければならない。

下院を野党・共和党、上院を民主党が制する“ねじれ議会”で、党派対立はむしろ深まっている。議会対策は容易ではあるまい。

オバマ氏が、財務、国務、国防各長官ら主要閣僚を交代し、議会に顔が利くベテランを指名したのも、そのための布陣と言える。

小学生20人が犠牲となった銃乱射事件を受けた銃規制の法整備、不法移民の子供に条件付きで市民権を付与する移民制度改革など、内政の難題は山積している。

外交・安全保障面では、進む一方の北朝鮮やイランの核開発に取り組まねばならない。停滞したままの中東和平や「アラブの春」後の混乱に対処する上でも、米国の積極的な関与は欠かせない。

とりわけ、アジア重視戦略の真価が問われている。

軍事的にも経済的にも膨張著しい中国を牽制(けんせい)しつつ、習近平政権とどういう関係を築くのか。自由で開かれた平和なアジア太平洋地域の構築へ、日本など同盟国との関係強化は不可欠である。

安倍首相は来月、訪米し、オバマ氏と首脳会談に臨む。中国をにらんだ戦略的な日米同盟の強化策を論じ合ってもらいたい。

産経新聞 2013年01月24日

オバマ氏2期目 同盟強化で世界に関与を

オバマ米大統領は2期目の就任演説を通じて、国内では「平等な社会」の実現をめざし、対外関係では「世界の隅々で強力な同盟の錨(いかり)であり続ける」などと訴えた。

目前に「財政の崖」の回避に必要な債務上限問題を抱え、外交・安保でも中国の台頭などへの対応に、北アフリカへ拡大したテロとの戦いが加わった。新たな4年の見通しは、1期目以上に厳しいともいえる。

その中で、オバマ氏が「最強の国家ゆえに、世界の平和に最大の利害関係を負う」と、その国際的責務を改めて強調したことを評価したい。来月、安倍晋三首相が訪米して臨む首脳会談では、同盟強化を通じて日本も協力し、負担を担う覚悟を持つ必要がある。

演説で気になったのは、オバマ氏が「平等な社会」論に自らのリベラル色を強くにじませ、現実主義が薄れたことだ。1期目に手を焼いた議会の共和党保守派らを暗に「絶対主義」「見せ物」などと批判し、対決の構えを示した。

だが、巨額の財政赤字を削減しつつ、債務上限問題を解決するには現実的な妥協のすべも忘れないでほしい。「財政の崖」の回避に失敗すれば、国防費の大幅削減も含めて、外交・安保政策への深刻な影響が予想されるからだ。

対外関係では、イラク、アフガニスタンと続いた「戦争の10年」が収束へ向かう半面、新たなテロとの戦いを余儀なくされる。中国の力ずくの海洋覇権行動や北朝鮮の暴発を抑止するため、アジア太平洋重視戦略を軍事・安保面でさらに充実させるべきだ。

だが、これを推進したクリントン国務長官らは勇退し、後任のケリー国務、ヘーゲル国防両次期長官を含めて2期目の外交・安保チームの力は未知数といえる。

オバマ氏が「世界の要請に米国だけでは応えられない」と演説で述べたように、「世界の警察官」の役割を放棄して対外関与の縮小を求める声が米国内に根強く存在することも見落とせない。

そうした意味でも、世界の同盟関係を強化し、「アジアからアフリカまで民主主義を支援する」というオバマ氏の約束は重い。これをかけ声だけで終わらせないためには、同盟国の役割分担と協力が極めて重要だ。

とりわけ尖閣諸島問題などを抱える安倍政権は、集団的自衛権の行使容認に踏み切るべきだ。

朝日新聞 2013年01月23日

人質死亡 テロの温床断つ努力を

改めて、卑劣なテロに怒りを禁じえない。

アルジェリアの天然ガス関連施設で起きた人質事件で、プラント建設会社、日揮などの日本人社員7人の遺体が確認された。被害者の無念、無事を祈り続けていた遺族や日揮関係者の悲嘆はいかばかりだろう。

現地からの報道によると、イスラム武装勢力は襲撃後、バスから逃げようとしたり、居住区にいたりした日揮社員らをいきなり射殺したという。理不尽で非道な行為である。

武装集団には、アラブやアフリカ諸国のほかカナダ国籍の者も加わっていたらしい。被害者の国籍は10カ国を超える。

国際テロ組織アルカイダが01年に起こした米国の同時多発テロを思い出す。攻撃の規模や手法が違うとはいえ、イスラム過激派によるテロ活動の脅威と広がりを痛感する。

米国や欧州でのテロ事件は、警備体制の強化によって減っているようだ。しかし、欧米を非難し、「聖戦」を叫ぶイスラム過激派による自爆テロや欧米人の誘拐事件は、中東アラブ、アフガニスタンなどからアフリカへと広がっている。

背景には、資源の利権や政治経済上の利害を巡る欧米とイスラム圏との複雑な構図がある。

アルジェリアの南隣、マリに軍事介入したフランス軍と武装勢力との間でも、戦闘が続いている。今回のテロの引き金になったが、周辺諸国の治安はさらに悪化する恐れがある。

国境を越えたテロ活動の拡大に合わせた対応が必要だ。

日本人も自分がイスラム過激派の標的になると考える人は少なかっただろう。だが、もはやひとごとだと座視できない。

資源開発や貿易といった分野でグローバルに活動する日本企業は、社員の安全や情報収集の態勢を再点検してほしい。

長期的な取り組みも欠かせない。政府は、地域情勢の調査を深めつつ、旧宗主国である欧州諸国やアフリカ各国との情報交換を密にする必要がある。企業とも情報を共有すべきだ。

イスラム過激派が勢力を広げる根本には、若者の失業率の高さや貧富の格差がある。社会的不公平を正すには、貧困の撲滅や雇用の創出が欠かせない。

折しも、日本で5年に1度のアフリカ開発会議(TICAD)が6月に開かれる。

テロの温床を断つための貢献は長い目で見れば、日本の安全を高めることにつながろう。

痛ましい犠牲を乗り越えて、狂信的なテロ活動を世界から根絶しなければならない。

毎日新聞 2013年01月23日

オバマ政権 世界を変える2期目に

「戦争の10年は終わりつつある」。オバマ米大統領は21日、ワシントンで開かれた2期目の就任式で、高らかに宣言した。具体的にはイラクとアフガニスタンでの軍事作戦のことである。だが、この日、北アフリカのアルジェリアでは、イスラム過激派による人質事件で邦人7人を含む外国人多数の死亡が確認され、テロの恐怖が世界に広がっていた。

01年の米同時多発テロがアフガンとイラクでの軍事作戦を呼んだように、人質事件を機に新たな対テロ戦線を構えるべきだと言う人も少なくない。大統領がこの事件に触れなかったのは意外だが、ともあれ2期目の船出は波乱含みといえよう。

米国の空気は確かに変わった。8年前(05年1月)、ブッシュ前大統領は2期目の就任式で「世界の圧政に終止符を打つ」ことを目標として「必要な時は我々と友人を軍の力で守る」と断言した。同時テロの記憶がまだ生々しかったころだ。

オバマ政権は前政権の武断路線とは対照的に、イラクから米軍を撤退させ、アフガン撤兵もすでに始めている。だが、米国の軍事的圧力によってイスラム過激派が中東などから後退するのはいいが、彼らがアフリカ地域へ移動してテロを繰り返す現状をどう見ればいいか。

欧州諸国だけで対応できる状況ではあるまい。就任演説でオバマ大統領は「米国は世界のあらゆる場所で強固な同盟の要であり続ける」と述べたが、この問題での米欧軍事協力は不可欠に思える。

2期目の課題としてオバマ大統領は1776年の独立宣言に言及しつつ、移民制度改革や銃規制、地球温暖化対策などを挙げた。男女の平等や同性愛者の権利にも触れ、リベラル色の強い演説になった。

独立の原点に立ち返って理想的な社会をめざそうというのだろう。オバマ大統領の真骨頂ともいえる改革の姿勢は高く評価したい。だが、減税の期限切れと歳出強制削減による「財政の崖」はひとまず回避したとはいえ綱渡りの財政運営が続く。失業率も心配だし、共和党は政権批判をますます強めそうだ。政権の視線は内向きになりがちだろう。

そんな事情も分からないではないが、オバマ大統領は「核兵器のない世界」によってノーベル平和賞を受けたことを忘れてはなるまい。外にも懸案は多い。米国の仲介が止まっているイスラエルとパレスチナの和平、人道危機が続くシリアの内戦やイランの核開発、さらに尖閣問題をめぐる日中摩擦や北朝鮮の核・ミサイル開発も含めて、東アジアにも米国の力を必要とする問題は少なくない。

残る4年、よりよい米国と世界をつくるべく全力を挙げてほしい。

読売新聞 2013年01月23日

邦人死亡確認 人命軽視はやむを得ないか

痛ましい結末だ。

アルジェリアの天然ガス関連施設がイスラム武装勢力に襲われた事件でプラントメーカー「日揮」社員ら日本人7人の死亡が確認された。

過酷な環境の異国で仕事に励む“企業戦士”を標的にした犯罪者集団を強く非難する。

安倍首相が「痛恨の極みだ。テロを絶対に許さない」と言明したのは、当然である。

30人を超す重武装のテロ集団が日米英など多国籍の外国人多数を拘束する特異な事件だった。

事件の全容解明と検証が急がれる。施設内に内通者がいて武装勢力を手引きした疑いがある。

アルジェリアのセラル首相は記者会見で、外国人37人が死亡、犯人29人を殺害したと述べた。

アルジェリア軍の早期制圧作戦には、人質の人命軽視との批判があった。セラル首相が「テロに屈しない」と強調した背景には、長年の内戦で15万人もの犠牲者を出した国内事情もあるだろう。

武装勢力が人質を連れて国外逃亡を図ったほか、ガス田施設を破壊しようと爆弾を仕掛けており、それを阻止するには早期制圧が不可欠だった、とも説明した。

今回の武装勢力の犯行を許せば、第2、第3のテロを誘発しかねない。アルジェリア政府としては、武力行使以外に選択肢がなかったということなのだろう。

文明社会で営まれる経済活動に一方的に攻撃を仕掛けられたら、応戦せざるを得ない。

キャメロン英首相は、武力行使の事前通告がなかったことに不満を表明していたが、事件終結後は「どの国の治安部隊にも非常に難しい任務」だったと指摘し、早期制圧に一定の理解を示した。

安倍政権は政府専用機をアルジェリアに派遣し、生存者の帰国や遺体の搬送を進める。なお安否が不明な3人の確認も急ぎたい。

どういう状況で軍事作戦が行われ、日本人が死亡したのかについて、アルジェリア政府に詳細な説明を求めることが大切だ。

一方で、日本政府の危機管理体制上の課題も浮かび上がった。

アルジェリア軍が軍事作戦を主導する中、欧米諸国と同様、事件情報がほとんど取れなかった。

自衛隊制服組の防衛駐在官は現在、世界全体で49人いるが、アフリカはエジプトとスーダンの2人だけだ。着実な増員が必要だ。

紛争地域に進出した日本企業を守るには、各地域やテロ対策の専門家を育成し、情報収集・分析能力を高めることが急務である。

産経新聞 2013年01月22日

邦人7人死亡 自国民保護の態勢整えよ

アルジェリアの人質事件で、城内実外務政務官らが死傷者の搬送先である現地の病院で邦人の安否確認をし、プラント建設大手、日揮の社員7人の死亡が確認された。

亡くなられた方々に心から哀悼を表すと同時に、残虐で卑劣なテロへの憤りを新たにする。

今回の悲劇を通じて、海外で邦人が危難に陥ったり危険地で孤立したりした際、迅速な救援と安全地への退避、関係者の現地到達に自衛隊を活用することがクローズアップされてきた。

小野寺五典防衛相は「現地から空港までのアクセスに苦労している」とし、自衛隊を派遣し陸上輸送に当たらせることができるように自衛隊法を改正する必要性を指摘し、自民党の石破茂幹事長も法改正を検討する意向を示した。

同法は、現地での安全が確保されていない限り、在外邦人の輸送を自衛隊に認めていない。

これでは、自衛隊は持てる機能を十分に発揮できず、自国民を保護するという、国家としての重大な責務を果たせない。

最大の問題は、政府の憲法解釈が「安全確保」という縛りをかける背景となっていることだ。

自衛隊が海外で武器を使用できるのは、自衛と自らの管理下に入った者を守る場合に限られる。それ以外は、憲法9条の解釈による「武力行使との一体化」に該当するとして禁じられている。国際基準の任務を妨げる行為を排除するための武器使用も認められず、国際常識とはかけ離れている。

その制約を受けて、自衛隊による邦人救出も、「武力行使」に当たる恐れがあるとして、極めて抑制的に位置付けられてきた。

石破氏は「単なる輸送だけではなく救出まで行うことができる」改正案を軸に検討するという。

邦人輸送に関する「安全確保」の制限を緩和し、避難する地域から空港、港湾までの陸上輸送や、邦人警護のための一定の武器使用も認めるという内容である。

小野寺氏は「武器使用基準や憲法の問題など、いろいろな制限がある。いくつか乗り越えなければいけない壁がある」と語った。憲法解釈の変更も求められよう。

遠隔地、北アフリカでの痛ましい犠牲は、テロや紛争に巻き込まれる危険性が一段とグローバル化していることを物語っている。万一の事態に素早く動ける態勢を整えておかなければならない。

産経新聞 2013年01月21日

武装勢力制圧 惨劇乗り越え国際結束を

アルジェリア南東部イナメナスで起きた外国人拘束事件は、天然ガス関連施設を占拠したイスラム武装勢力を軍が制圧し、終結した。アルカーイダ系の組織によるテロは、同国内務省発表で人質23人が死亡するという悲惨な結末を迎えた。

だが、この悲劇の一義的な責任はテロリストの側にある。その事実は改めて確認しておきたい。

オバマ米大統領は「とがめられるべきは犯行に及んだテロリストだ」と言明した。ノルウェーのストルテンベルグ首相は「いかなるテロも非難する」と述べた。安倍晋三首相も一貫してテロに対し「断じて許されない」との姿勢を表明してきた。当然である。

日本を含めて国際社会は、テロとの戦いで足並みを乱さぬよう、改めて結束を確認すべきだ。

日本人の安否については、アルジェリア政府から日本側に、死亡、生存未確認を含む「厳しい情報」(安倍首相)が伝えられたという。政府は留守家族の心情にも十分配慮し、引き続き正確な情報の収集を急いでほしい。

犯人グループは16日、イナメナスの天然ガス関連施設を襲撃し占拠した。日本人はプラント建設大手「日揮」の17人が事件に巻き込まれた。

3日間にわたったアルジェリア軍の制圧作戦は、人質を取られた多くの国への事前の通告もなく実施された。人質を乗せた車両への攻撃もあったとされ、性急すぎるとの不満や批判も出た。

今回の事件では、現場が砂漠地帯に位置し、現地からの情報が極めて入手しにくかったことも混乱に拍車をかけた。各国とも対応が後手に回る一因となった。

とりわけ日本政府の情報収集力には課題を残した。制圧作戦の開始を知ったのは、英国側から伝えられた情報によってだった。

アルジェリア当局は、メディアにも作戦の取材を認めず、犯人グループが隣国モーリタニアの通信社などに寄せる情報が先行して報じられ、情報が錯綜(さくそう)した。

テロ事件では、乏しい情報の中でも状況の積極的な把握につとめ、いかに的確な分析・判断をしていくかが重要だ。アルジェリア政府からの情報収集に問題はなかったのか。テロリストの動向と、この地域の危険性をどの程度認識していたのかなども検証し、教訓として生かすべきだ。

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