物価目標と日銀 政治への従属を憂う

朝日新聞 2013年01月23日

政府と日銀 政策連携と言うのなら

政府と日銀が、デフレ脱却を目指した「政策連携」について共同声明を発表した。

日銀は2%のインフレ目標を掲げて金融緩和を強化し、政府は構造改革などの成長戦略に努めるのが柱だ。

あわせて日銀は来年から毎月13兆円の金融資産を、期限を設けず買い入れる新たな緩和策を始めることも決めた。

安倍政権が狙うのは、国民の間に「インフレ予想」が広がって、早めの消費や投資を促し、経済を活性化させることだ。

目的は経済の成長であり、インフレ目標はその手段である。共同声明は目標を「できるだけ早期に実現する」としたが、賃金が上がらない中で物価を引き上げるのは容易ではない。

物価上昇が自己目的化すればバブルや行き過ぎた円安、金利上昇を招く危険がある。日銀はリスクを点検しつつ進めるという。政府は拙速な目標達成の強要は厳に慎むべきだ。

政府と日銀それぞれの政策の相乗効果を生み出そうという共同声明の狙いは理解できる。

気をつけなければいけないのは、政府がすでに国内総生産の2倍に及ぶ借金を抱えていることだ。

国債発行による安易な財政拡大に走り、日銀が尻ぬぐいをする「もたれ合い」に陥れば、国債の信用が揺らぐ。金融政策も効かなくなる。

一連の過程で、日銀に対する政府の影響力の強さが鮮明になったが、日銀が政府に従属していると見られるほど、日本そのものへの信用が失墜する。

財政規律への信認が一段と重要になってきたといえる。その点で、政府は中央銀行の独立性が、政策の効果や信用を保つ安全網として機能することをわきまえる必要がある。

日銀は四半期ごとに経済財政諮問会議で、金融政策の状況を説明する。日銀に圧力をかける機会にするのではなく、政府による構造改革への取り組みも点検する場として充実させてほしい。政策への信認を支えるのは両者の協力と補完のバランスだからだ。

インフレ政策を進めていけば、いずれ金利上昇の局面を迎えるだろう。これはデフレ脱却を急ぐ代償だ。

このとき、超低金利を維持するために、日銀が国債相場を買い支えることを強いられては元も子もない。

「政策連携」を掲げるからには、金利上昇が始まった際の日銀の対応についても、事前に一定の原則を定め、透明性を高めておくべきだ。

毎日新聞 2013年01月23日

物価目標と日銀 政治への従属を憂う

中央銀行の歴史上、重要な転換点となるのだろう。日銀が政府と共同声明を発表し、年率2%の物価上昇を目標に、期限を定めず金融緩和を実施していくと表明した。

日銀と政府の連携自体、決して悪いことではない。だが、今回の取り決めは対等な関係にある者同士の連携とは言い難く、事実上、政治家の要求を日銀がのまされた一方的なものだ。今後、どのような事態を招くのか、憂慮せずにはいられない。

主に二つの問題点を挙げたい。

まず、財政への影響だ。

今回、「目標」となった2%の物価上昇率だが、過去20年の間、継続して達成されたことはない。そうした高い目標を、声明のように「できるだけ早期に実現」しようとすれば、遅れを理由に政治家の無理な追加緩和要求が増すのではないか。

積極的な金融緩和とは、単純化すれば、日銀が新たにお札を刷って銀行から国債などを大量に買い増すことだ。日銀が国債を買えば買うほど、政府は当面の金利上昇(国債価格の下落)を心配せずに、借金を増やせると考える。財政再建の遅れや、一段の悪化を誘発しかねない。

短期的にうまくいっても、どこかの段階で、財政の持続性に無理があると市場が判断すれば、金利が高騰を始めよう。抑制しようと日銀がさらにお札を刷れば、許容範囲を超えたインフレが起きる。多くの国民が増税を強要されたのと同じ痛みを味わうことになるだろう。

二つ目の懸念は、政策の決定過程が見えづらくなり、責任があいまいになることだ。安倍政権は、復活させた経済財政諮問会議を日銀の政策の成果を点検する場として使おうとしている。同会議に限らず、新たな政策変更が事実上、日銀の金融政策決定会合の外で固まる恐れがある。

政治が指示したことを日銀が実行し、責任は日銀に、というのでは、無責任な政策が取られることにならないか。そのツケが経済の悪化や混乱という形で後々、国民に回ってくるのでは困る。

いずれの懸念も杞憂(きゆう)に終わってくれればいい。だが、日銀が政治に従属する方向へかじを切ったことで、懸念が現実味を帯びている。その責任は、日銀にもある。この1~2カ月だけでなく、政治家が都合よく日銀に圧力をかけることを許してきた結末が今回の声明文だ。

98年の新日銀法により、日銀の政府からの独立性は高まった。しかし、それが国民に広く支持、尊重されるための努力を日銀がどれだけ重ねてきたかということである。法律を変えなくとも、今回独立性はあっさりと低下した。その現実を日銀は真剣に見据えねばならない。

読売新聞 2013年01月23日

物価目標2% 政府と日銀が挑む「高い壁」

デフレ脱却に向け、政府と日銀が2%の物価目標を盛り込んだ共同声明をまとめた。達成のハードルは高く、連携強化の実効性が問われよう。

日銀の金融政策決定会合で共同声明を決めた後、白川総裁、麻生副総理・財務相、甘利経済財政相が安倍首相に報告した。

声明は、日銀が消費者物価の前年比上昇率2%の目標を設けて金融緩和を推進するとし、「できるだけ早期の実現を目指す」と明記したのがポイントだ。

日銀は従来、中長期的に望ましい物価上昇率を「当面1%が目途(めど)」としてきたが、首相の強い要請を受け入れた。日銀が具体的な物価目標を設定するのは初めてで、歴史的な転換である。

首相は「金融政策の大胆な見直しだ」と評価した。声明をテコに、政権が最重視する経済再生を加速したい決意の表れだ。

日銀は声明に併せ、2014年から、期限を定めず、国債などの金融資産を大量に買い入れる新たな金融緩和策を決めた。

日銀にとって「無期限緩和」は未踏の領域だ。より積極的に金融緩和を行うという、市場へのメッセージになるだろう。

ただ、日本では1990年代後半から、消費者物価上昇率はほぼ0%台かマイナスだ。2%まで上昇させる道筋は描けていない。

物価がうまく上昇しても、実体経済が浮揚せず、雇用拡大や賃金上昇が伴わない「悪い物価上昇」では、国民生活がかえって脅かされる事態すら懸念される。

日銀が政府の経済財政諮問会議に定期報告し、緩和策の効果が点検されることも決まった。国民生活などへの副作用にも目配りし、どうデフレから脱却するか。日銀に説明責任が求められる。

同時に重要なのは、日銀の独立性を堅持することだ。金融政策の手法などに対し、政府は過度な政治介入を慎む必要がある。

デフレ脱却には、政府も政策を総動員しなければならない。

金融緩和で資金を大量供給しても、新たな投資を生み出す資金需要が乏しければ、有効に活用されず、消費も伸びないからだ。

声明が政府に「大胆な規制・制度改革」「税制の活用」などの構造改革や、「競争力と成長力の強化」を促したのは妥当だ。政府は成長戦略を急いでもらいたい。

日銀による国債の大量買い入れが「財政赤字の穴埋め」と捉えられると、日本の信認が揺らぐ。声明が指摘したように、政府は財政健全化策も強化すべきである。

産経新聞 2013年01月23日

政府・日銀声明 新しい協調に「責任」示せ

これでは踏み込みが足りない。そう言わざるを得ない。

政府と日銀が22日に発表したデフレ脱却と経済成長に向けた共同声明は、それぞれの役割と責任を明確にし、政策協調のあり方を根本から変えるかもしれない、と注目されていた。

確かにこれほど政府と日銀の連携を強調した文書はなかったといえる。日銀が取り組むべき課題として物価上昇率2%目標と、金融緩和推進による「できるだけ早期」の達成を盛り込んだ。政府も機動的な財政運営や大胆な規制・制度改革など政策を総動員し、競争力と成長力を強化するとしている。

安倍晋三首相は政府と日銀の責任を明確にした「画期的な文書」と評価したが、書き込まれたのは両者の「役割」であり、「責任」の文字はない。

政府・日銀の政策運営を担保するのは、経済財政諮問会議での定期的な検証にとどまっている。未達成時は日銀総裁や担当閣僚が国会で説明するなど責任の果たし方を示すべきではなかったのか。

政府と日銀の協調態勢の文書化は、安倍首相が就任前から訴えていた目玉政策だ。

当初は、目標未達成の場合、総裁が文書で理由を説明し、対策を示すなど拘束力の強い政策協定も検討された。日銀法改正で内閣が総裁解任権を持つべきだとの意見も飛び出し、中央銀行の独立性の議論に発展した。そんな経緯を踏まえると、今回の声明は拍子抜けするほど常識的といえる。

中央銀行の独立は、政府の野放図な財政運営で生じた巨額な赤字の肩代わりや、政権が延命を狙って景気浮揚のために、インフレにつながる無理な金融緩和を強いるなど国民に害を与える政治の動きに抗するためのものだ。

政府や国民から遊離した中央銀行の判断や決定を認めているのではない。重要なのは、政府と議論を戦わせ経済の認識と政策の方向性を共有することだ。

その際、日銀に政府と対等の立場を法律的にも制度的にも保証することが独立性の確保といえる。政府から日銀への一方的な要請ではない今回の声明は、独立性維持の観点からも意味がある。

政府と日銀は、はっきりと声明からは見えてこない両者の「責任」を行動で具現化し、新たな協調の姿を示さねばならない。

産経新聞 2013年01月16日

次期日銀総裁 政治との対話力が重要だ

4月で任期が切れる白川方明日銀総裁の後任選びが本格化してきた。安倍晋三首相を中心に経済ブレーンの浜田宏一内閣官房参与らが15日に行った次期総裁についての協議はその号砲だ。

デフレ脱却を最優先課題に掲げる安倍政権の経済政策で次期総裁の担う役割は大きい。それだけに、既に首相は「大胆な金融政策が実行できる」「2%上昇の物価安定目標や雇用最大化に理解を示す」などを条件とする発言を繰り返している。

次期総裁が引き続き、目の前のデフレとの戦いに全力を挙げるのは当然だ。しかも、近く政府と日銀は物価上昇目標などを盛り込んだ政策協定を結ぶ。つまり、これは誰が総裁に就任しても守るべき政府との約束なのだ。

そこで、ここではあえて5年間という任期を見据えた人選が必要であることを強調したい。その際に最も重視すべきは「対話をする力」である。

中央銀行が求められる政治からの独立は、決して政治との対立を意味しない。その一方で、市場が「日銀は政治圧力に弱い」とみると信頼性は失われ、国債市場や外国為替市場を混乱に陥れる。

「独立性」と「政治との協調」の両立には政治と対話し、十分に意思疎通できている姿を市場に見せるしかない。それが政治や市場と信頼を醸成する対話力だ。

気になることがある。これまで首相以外にも有力政治家が総裁人事に言及するたびに「財務省OBは是か非か」の議論に傾斜しがちなことだ。金融政策の舵(かじ)取り役の条件として財務省OBかどうかがそれほど重要な問題だろうか。

その背景には、参院で自民、公明の両党が過半数を確保しておらず、官僚の天下りに批判的なみんなの党などの協力が必要という政治的な思惑が透けて見える。

国会同意人事である日銀総裁は衆参両院の賛成が必要だ。平成20年の交代時には参院で民主党など野党が政府案を次々に否決して総裁空席の事態が生じ、当時の福田康夫内閣が窮地に追い込まれた。「日銀総裁人事は政局に利用できる」ことを見せてしまったことも今回、影響しているようだ。

日銀総裁人事は世界の金融・市場関係者が注目している。最もふさわしい人物を選ぶことを最優先し、間違っても政争の具にするようなことがあってはならない。

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