邦人死亡確認 人命軽視はやむを得ないか

朝日新聞 2013年01月23日

人質死亡 テロの温床断つ努力を

改めて、卑劣なテロに怒りを禁じえない。

アルジェリアの天然ガス関連施設で起きた人質事件で、プラント建設会社、日揮などの日本人社員7人の遺体が確認された。被害者の無念、無事を祈り続けていた遺族や日揮関係者の悲嘆はいかばかりだろう。

現地からの報道によると、イスラム武装勢力は襲撃後、バスから逃げようとしたり、居住区にいたりした日揮社員らをいきなり射殺したという。理不尽で非道な行為である。

武装集団には、アラブやアフリカ諸国のほかカナダ国籍の者も加わっていたらしい。被害者の国籍は10カ国を超える。

国際テロ組織アルカイダが01年に起こした米国の同時多発テロを思い出す。攻撃の規模や手法が違うとはいえ、イスラム過激派によるテロ活動の脅威と広がりを痛感する。

米国や欧州でのテロ事件は、警備体制の強化によって減っているようだ。しかし、欧米を非難し、「聖戦」を叫ぶイスラム過激派による自爆テロや欧米人の誘拐事件は、中東アラブ、アフガニスタンなどからアフリカへと広がっている。

背景には、資源の利権や政治経済上の利害を巡る欧米とイスラム圏との複雑な構図がある。

アルジェリアの南隣、マリに軍事介入したフランス軍と武装勢力との間でも、戦闘が続いている。今回のテロの引き金になったが、周辺諸国の治安はさらに悪化する恐れがある。

国境を越えたテロ活動の拡大に合わせた対応が必要だ。

日本人も自分がイスラム過激派の標的になると考える人は少なかっただろう。だが、もはやひとごとだと座視できない。

資源開発や貿易といった分野でグローバルに活動する日本企業は、社員の安全や情報収集の態勢を再点検してほしい。

長期的な取り組みも欠かせない。政府は、地域情勢の調査を深めつつ、旧宗主国である欧州諸国やアフリカ各国との情報交換を密にする必要がある。企業とも情報を共有すべきだ。

イスラム過激派が勢力を広げる根本には、若者の失業率の高さや貧富の格差がある。社会的不公平を正すには、貧困の撲滅や雇用の創出が欠かせない。

折しも、日本で5年に1度のアフリカ開発会議(TICAD)が6月に開かれる。

テロの温床を断つための貢献は長い目で見れば、日本の安全を高めることにつながろう。

痛ましい犠牲を乗り越えて、狂信的なテロ活動を世界から根絶しなければならない。

毎日新聞 2013年01月23日

オバマ政権 世界を変える2期目に

「戦争の10年は終わりつつある」。オバマ米大統領は21日、ワシントンで開かれた2期目の就任式で、高らかに宣言した。具体的にはイラクとアフガニスタンでの軍事作戦のことである。だが、この日、北アフリカのアルジェリアでは、イスラム過激派による人質事件で邦人7人を含む外国人多数の死亡が確認され、テロの恐怖が世界に広がっていた。

01年の米同時多発テロがアフガンとイラクでの軍事作戦を呼んだように、人質事件を機に新たな対テロ戦線を構えるべきだと言う人も少なくない。大統領がこの事件に触れなかったのは意外だが、ともあれ2期目の船出は波乱含みといえよう。

米国の空気は確かに変わった。8年前(05年1月)、ブッシュ前大統領は2期目の就任式で「世界の圧政に終止符を打つ」ことを目標として「必要な時は我々と友人を軍の力で守る」と断言した。同時テロの記憶がまだ生々しかったころだ。

オバマ政権は前政権の武断路線とは対照的に、イラクから米軍を撤退させ、アフガン撤兵もすでに始めている。だが、米国の軍事的圧力によってイスラム過激派が中東などから後退するのはいいが、彼らがアフリカ地域へ移動してテロを繰り返す現状をどう見ればいいか。

欧州諸国だけで対応できる状況ではあるまい。就任演説でオバマ大統領は「米国は世界のあらゆる場所で強固な同盟の要であり続ける」と述べたが、この問題での米欧軍事協力は不可欠に思える。

2期目の課題としてオバマ大統領は1776年の独立宣言に言及しつつ、移民制度改革や銃規制、地球温暖化対策などを挙げた。男女の平等や同性愛者の権利にも触れ、リベラル色の強い演説になった。

独立の原点に立ち返って理想的な社会をめざそうというのだろう。オバマ大統領の真骨頂ともいえる改革の姿勢は高く評価したい。だが、減税の期限切れと歳出強制削減による「財政の崖」はひとまず回避したとはいえ綱渡りの財政運営が続く。失業率も心配だし、共和党は政権批判をますます強めそうだ。政権の視線は内向きになりがちだろう。

そんな事情も分からないではないが、オバマ大統領は「核兵器のない世界」によってノーベル平和賞を受けたことを忘れてはなるまい。外にも懸案は多い。米国の仲介が止まっているイスラエルとパレスチナの和平、人道危機が続くシリアの内戦やイランの核開発、さらに尖閣問題をめぐる日中摩擦や北朝鮮の核・ミサイル開発も含めて、東アジアにも米国の力を必要とする問題は少なくない。

残る4年、よりよい米国と世界をつくるべく全力を挙げてほしい。

読売新聞 2013年01月23日

邦人死亡確認 人命軽視はやむを得ないか

痛ましい結末だ。

アルジェリアの天然ガス関連施設がイスラム武装勢力に襲われた事件でプラントメーカー「日揮」社員ら日本人7人の死亡が確認された。

過酷な環境の異国で仕事に励む“企業戦士”を標的にした犯罪者集団を強く非難する。

安倍首相が「痛恨の極みだ。テロを絶対に許さない」と言明したのは、当然である。

30人を超す重武装のテロ集団が日米英など多国籍の外国人多数を拘束する特異な事件だった。

事件の全容解明と検証が急がれる。施設内に内通者がいて武装勢力を手引きした疑いがある。

アルジェリアのセラル首相は記者会見で、外国人37人が死亡、犯人29人を殺害したと述べた。

アルジェリア軍の早期制圧作戦には、人質の人命軽視との批判があった。セラル首相が「テロに屈しない」と強調した背景には、長年の内戦で15万人もの犠牲者を出した国内事情もあるだろう。

武装勢力が人質を連れて国外逃亡を図ったほか、ガス田施設を破壊しようと爆弾を仕掛けており、それを阻止するには早期制圧が不可欠だった、とも説明した。

今回の武装勢力の犯行を許せば、第2、第3のテロを誘発しかねない。アルジェリア政府としては、武力行使以外に選択肢がなかったということなのだろう。

文明社会で営まれる経済活動に一方的に攻撃を仕掛けられたら、応戦せざるを得ない。

キャメロン英首相は、武力行使の事前通告がなかったことに不満を表明していたが、事件終結後は「どの国の治安部隊にも非常に難しい任務」だったと指摘し、早期制圧に一定の理解を示した。

安倍政権は政府専用機をアルジェリアに派遣し、生存者の帰国や遺体の搬送を進める。なお安否が不明な3人の確認も急ぎたい。

どういう状況で軍事作戦が行われ、日本人が死亡したのかについて、アルジェリア政府に詳細な説明を求めることが大切だ。

一方で、日本政府の危機管理体制上の課題も浮かび上がった。

アルジェリア軍が軍事作戦を主導する中、欧米諸国と同様、事件情報がほとんど取れなかった。

自衛隊制服組の防衛駐在官は現在、世界全体で49人いるが、アフリカはエジプトとスーダンの2人だけだ。着実な増員が必要だ。

紛争地域に進出した日本企業を守るには、各地域やテロ対策の専門家を育成し、情報収集・分析能力を高めることが急務である。

産経新聞 2013年01月22日

邦人7人死亡 自国民保護の態勢整えよ

アルジェリアの人質事件で、城内実外務政務官らが死傷者の搬送先である現地の病院で邦人の安否確認をし、プラント建設大手、日揮の社員7人の死亡が確認された。

亡くなられた方々に心から哀悼を表すと同時に、残虐で卑劣なテロへの憤りを新たにする。

今回の悲劇を通じて、海外で邦人が危難に陥ったり危険地で孤立したりした際、迅速な救援と安全地への退避、関係者の現地到達に自衛隊を活用することがクローズアップされてきた。

小野寺五典防衛相は「現地から空港までのアクセスに苦労している」とし、自衛隊を派遣し陸上輸送に当たらせることができるように自衛隊法を改正する必要性を指摘し、自民党の石破茂幹事長も法改正を検討する意向を示した。

同法は、現地での安全が確保されていない限り、在外邦人の輸送を自衛隊に認めていない。

これでは、自衛隊は持てる機能を十分に発揮できず、自国民を保護するという、国家としての重大な責務を果たせない。

最大の問題は、政府の憲法解釈が「安全確保」という縛りをかける背景となっていることだ。

自衛隊が海外で武器を使用できるのは、自衛と自らの管理下に入った者を守る場合に限られる。それ以外は、憲法9条の解釈による「武力行使との一体化」に該当するとして禁じられている。国際基準の任務を妨げる行為を排除するための武器使用も認められず、国際常識とはかけ離れている。

その制約を受けて、自衛隊による邦人救出も、「武力行使」に当たる恐れがあるとして、極めて抑制的に位置付けられてきた。

石破氏は「単なる輸送だけではなく救出まで行うことができる」改正案を軸に検討するという。

邦人輸送に関する「安全確保」の制限を緩和し、避難する地域から空港、港湾までの陸上輸送や、邦人警護のための一定の武器使用も認めるという内容である。

小野寺氏は「武器使用基準や憲法の問題など、いろいろな制限がある。いくつか乗り越えなければいけない壁がある」と語った。憲法解釈の変更も求められよう。

遠隔地、北アフリカでの痛ましい犠牲は、テロや紛争に巻き込まれる危険性が一段とグローバル化していることを物語っている。万一の事態に素早く動ける態勢を整えておかなければならない。

産経新聞 2013年01月21日

武装勢力制圧 惨劇乗り越え国際結束を

アルジェリア南東部イナメナスで起きた外国人拘束事件は、天然ガス関連施設を占拠したイスラム武装勢力を軍が制圧し、終結した。アルカーイダ系の組織によるテロは、同国内務省発表で人質23人が死亡するという悲惨な結末を迎えた。

だが、この悲劇の一義的な責任はテロリストの側にある。その事実は改めて確認しておきたい。

オバマ米大統領は「とがめられるべきは犯行に及んだテロリストだ」と言明した。ノルウェーのストルテンベルグ首相は「いかなるテロも非難する」と述べた。安倍晋三首相も一貫してテロに対し「断じて許されない」との姿勢を表明してきた。当然である。

日本を含めて国際社会は、テロとの戦いで足並みを乱さぬよう、改めて結束を確認すべきだ。

日本人の安否については、アルジェリア政府から日本側に、死亡、生存未確認を含む「厳しい情報」(安倍首相)が伝えられたという。政府は留守家族の心情にも十分配慮し、引き続き正確な情報の収集を急いでほしい。

犯人グループは16日、イナメナスの天然ガス関連施設を襲撃し占拠した。日本人はプラント建設大手「日揮」の17人が事件に巻き込まれた。

3日間にわたったアルジェリア軍の制圧作戦は、人質を取られた多くの国への事前の通告もなく実施された。人質を乗せた車両への攻撃もあったとされ、性急すぎるとの不満や批判も出た。

今回の事件では、現場が砂漠地帯に位置し、現地からの情報が極めて入手しにくかったことも混乱に拍車をかけた。各国とも対応が後手に回る一因となった。

とりわけ日本政府の情報収集力には課題を残した。制圧作戦の開始を知ったのは、英国側から伝えられた情報によってだった。

アルジェリア当局は、メディアにも作戦の取材を認めず、犯人グループが隣国モーリタニアの通信社などに寄せる情報が先行して報じられ、情報が錯綜(さくそう)した。

テロ事件では、乏しい情報の中でも状況の積極的な把握につとめ、いかに的確な分析・判断をしていくかが重要だ。アルジェリア政府からの情報収集に問題はなかったのか。テロリストの動向と、この地域の危険性をどの程度認識していたのかなども検証し、教訓として生かすべきだ。

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