高齢者医療 国民はなめられている

朝日新聞 2013年01月12日

高齢者医療 国民はなめられている

どうやら有権者は、なめられているようだ。

安倍政権が、70~74歳の医療費の窓口負担を当面、1割に据え置くことを決めた。いつ法律通りの2割にするか、その決定は今夏の参院選後まで棚上げする見通しだ。

ねじれ国会解消のため、自公で参院の過半数を獲得するのが政権の最優先課題。「負担増」のようなマイナス材料は極力、少なくしたい。参院選を無事に乗り切れば、すぐに引き上げの議論を始めればよい。

そんな見え見えの選挙戦術が通用すると高をくくっているのだろうか。

2割負担とする法律をつくったのは小泉政権の時だ。08年度に実施するはずだったが、高齢者の反発を恐れた自公政権が特例的に1割に据え置いた(一定所得以上の人は3割)。その後も民主党政権を含め、据え置いたままだ。

1割を維持するのにかかる費用は年約2千億円。これを13年度も当面続けるため、安倍政権は「緊急経済対策」の補正予算案に計上する。

すでに支出は1兆円に迫る。その多くは、後世代へのツケ回しである。苦し紛れの制度いじりが禍根を残す典型例だ。

さすがに自民党内からも異論が出ている。いつまでも貴重な税財源を投じ続けるわけにはいかない。2千億円は次世代のために使った方がよい――。実に真っ当な感覚だ。

しかも、引き上げを後ろにずらすほど、物価下落時に据え置いていた年金額の引き下げ(今年10月から)や、消費増税(来年4月)と重なってくる。

野党から「選挙後に決めるのはだまし討ちだ」などと攻撃されるより、安倍政権に勢いがあるうちにさっさと決めておいた方が得策だろうに。

そもそも、「負担増」といっても、想定されている引き上げ方法では、個々人の負担が増えるわけではない。

新たに70歳になる人から順番に2割にしていくからだ。69歳までの窓口負担は3割なので、負担軽減の程度が今よりはせばまるというだけである。いま1割の人はそのままだ。

この程度のことも真正面から説けないで、与党としての責任を果たせるのか。

民主党政権を経て、有権者は社会保障に魔法の杖がないことを学んだ。厳しい財政事情のもと、高齢者にも相応の負担を求めざるをえないことへの理解は広がっているはずだ。

そこを信頼しないでは、あるべき社会保障の姿は描けない。

産経新聞 2013年01月14日

高齢者医療 いつまで「優遇」するのか

高齢者への「過度な優遇」を廃さなければ、社会保障制度は早晩維持できなくなるだろう。

安倍晋三政権が、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げを見送り、来年度も1割に据え置く特例措置の継続を決めたことは、危機感が欠如していると言わざるを得ない。

夏の参院選で高齢有権者の反発を避けたいとの思惑があったようだが、高齢者にも支払い能力に応じて負担してもらう仕組みに改めなければならないことは分かっていたはずだ。痛みを伴う政策から逃げず、国民に理解を求めていくことこそ、政権与党の取るべき姿勢ではなかったのか。

社会保障改革で政府・与党の最大の使命は、高齢化で急速に増え続ける年金、医療・介護費用の抑制に道筋をつけることだ。据え置きには約2千億円が必要とされ、改革逆行もはなはだしい。

そもそも、2割への引き上げは小泉純一郎政権時の医療制度改革関連法で平成20年に実施が決まっていた宿題だ。今回の据え置きは政府・与党の判断だけで決定された。新政権による社会保障費への切り込みに向けた試金石でもあっただけに、極めて残念だ。

懸念されるのは、高齢者への過度の配慮を続けることで、若い世代の不公平感が強まることだ。

高齢者の医療費は本人の負担以外に、勤労世代の保険料や税金で支えられている。高齢者の窓口負担を抑えれば、それだけ若い世代へのしわ寄せが大きくなる。

既に高齢者医療への巨額な支出によってサラリーマンの健康保険は財政が悪化した。保険料引き上げを余儀なくされ、解散に追い込まれる健保組合も相次いでいる。「取りやすいところから取る」といった安易な負担の押しつけは直ちにやめるべきだ。

若い世代に年金支給開始年齢引き上げなど将来の負担増や給付抑制を求めるにも、現在の高齢者にも分担を求めなければ、到底理解は得られまい。勤労世代の負担も限界に達しつつある。社会保障改革を成功させるには、全ての世代が少しずつ我慢し、譲り合いの精神を持つことが不可欠だ。

社会保障制度改革国民会議の議論もまもなく再開される。

安倍首相には、選挙が近付くたびに痛みを伴う改革を先送りしてきた「大衆迎合」の政治と決別する覚悟をみせてもらいたい。

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