緊急経済対策 「強い日本」取り戻す第一歩に

毎日新聞 2013年01月12日

緊急経済対策 見えない再生への効果

政府が総額10.3兆円の「緊急経済対策」を閣議決定した。第2次安倍政権が発足してわずか2週間余りのスピード策定だ。政府は「これまでと次元の異なるレベル」と意義を強調するが、過去の自民党政権下で実施した景気浮揚策をさらに膨らませた、といった感が否めない。

対策は「3分野」を重点化したという。(1)復興・防災対策(2)成長による富の創出(3)暮らしの安心・地域活性化−−である。「バラマキ」批判を意識したのかもしれないが、果たして「重点」と呼べるのか。

実情は、こうした旗の下に従来型の予算要求項目が多数ちりばめられているというものだ。例えば「安心の確保」という目的で防衛装備品の調達が盛り込まれ、「生活空間の質向上」といううたい文句で都市公園の整備などが含まれている。イノシシやシカなどから農作物を守る金網などに補助金を出すといった支出もある。なぜ「日本経済再生に向けた緊急経済対策」になるのかと疑いたくなるものが少なくない。

だが何より気がかりなのは実質4.7兆円の公共投資だ。12年度1年分に匹敵する額を補正予算で新たに追加する形である。被災地復興は当然重点的に取り組む必要があるが、復興や防災・減災の名目で予算の無駄遣いが起きるようでは困る。

産業支援のため、政府が民間とさまざまな基金(ファンド)を設立しようとしている点も、本当にそれが競争力強化につながるのか、民業の圧迫や既得権を与えることにつながらないか、疑問が残る。

懸念されたことだが、規模ありきで編成を急いだため、吟味する余裕がなく、緊急性や効果が疑わしいものまで押し込んでしまった。省庁縦割りの総花的対策だ。財源は足りず、新たに5.2兆円もの借金(国債発行)をする。民主党政権下で何とか死守してきた新規国債の年間発行上限である44兆円はあっさりと破られてしまった。財政の悪化を許してまで実行する必要のある事業がどれくらい盛り込まれているのか、ぜひ国会で点検してもらいたい。

経済対策には確かに、「これまでと異なる次元」が含まれる。日銀が「明確な物価目標」を定め積極的に金融緩和を行うよう促している点だ。日銀総裁が出席する経済財政諮問会議などを通じて、政府が追加緩和の要求を強める恐れがある。金融政策を決めるのは、法律で日銀の金融政策決定会合だと定められていることを十分尊重すべきだ。

緊急経済対策を盛り込んだ12年度補正予算に続き、待ったなしで13年度予算の編成が本格化する。今度は質と財政規律に十分、配慮したものにしてほしい。

読売新聞 2013年01月12日

緊急経済対策 「強い日本」取り戻す第一歩に

成長を重視してデフレ脱却を目指す「アベノミクス」の第1弾である。迅速に実行し、日本経済の再生に弾みを付けなければならない。

安倍政権が、国・地方合わせた事業規模が20兆円超にのぼる緊急経済対策を決定した。

復興・防災対策、成長による富の創出、暮らしの安心・地域活性化の3本柱に約10兆円の国費を投入する。対策は、実質国内総生産(GDP)を2%押し上げ、60万人の雇用を創出するという。

対策の裏付けとなる2012年度補正予算案の総額は約13兆円に達し、リーマン・ショック後の不況対策で麻生政権が策定した09年度第1次補正予算に迫る。

首相は記者会見で「縮小均衡の再配分から、成長による富の創出へ転換を図る」と語った。政府は補正予算案を早期に成立させ、「強い経済」の実現を目指すスピードが問われよう。

対策が、民間投資の活性化など企業の成長力を強化する姿勢を打ち出したのは評価できる。

ただ、総じて、景気浮揚への即効性を重視するあまり、公共事業頼みとなった感は否めない。補正予算案に盛り込む5兆円強の公共事業費は、12年度当初予算の公共事業費を上回る規模だ。

公共事業主体の景気刺激策は一過性の効果しか期待できない。成長の底上げや雇用拡大にどこまで結びつくか、懸念される。

持続的成長につなげる総合的な戦略の策定を急ぐ必要がある。政府と日本銀行の連携による大胆な金融緩和の実現も欠かせない。

忘れてならないのは、成長と財政再建をどう両立させるかだ。

大規模な財政出動に踏み切る結果、12年度の新規国債発行額は当初予算と補正予算を合わせて約50兆円に膨らむ。民主党政権下で財政規律維持の目安としてきた年44兆円を大きく上回る。

14年4月に消費税率引き上げを予定通り実施するには、着実な景気回復が必要になる。当面は積極財政で景気のテコ入れを重視するとの判断はやむを得まい。

そうであっても、先進国で最悪の財政事情を考えれば、ばらまき型予算を排除し、歳出を絞り込むことが重要だ。民主党政権で大幅カットされた公共事業の復活を目指す動きも問題である。

13年度予算編成では、投資効率の低い公共事業を防災名目で潜り込ませてはならない。

政府は、具体的な財政再建目標を設定し、中長期的な財政健全化への取り組みを急ぐべきだ。

産経新聞 2013年01月12日

緊急経済対策 景気浮揚へ迅速な実行を

安倍晋三内閣は最優先課題とする「経済再生」の第1弾として緊急経済対策を閣議決定した。

国の直接的な財政支出で約10兆3千億円、地方負担や民間支出を含む総事業費で20兆円超とリーマン危機時を除き過去最大規模の経済対策だ。

即効性を重視した、公共事業や成長分野への投資促進などで、2%の国内総生産(GDP)押し上げ効果を見込む。当面の景気刺激策としては評価できる。積極的な財政出動をスピード感を持って実行し、早期の景気回復を実現してほしい。

来年4月に予定する消費税増税は、今年4~6月期のGDP成長率などの景気動向で判断する。景気が悪ければ、増税は難しくなり、安定的な社会保障財源の確保、財政再建にも支障を来す。時間はあまりない。

財政出動と同時に金融緩和と成長戦略も打ち出し、増税の環境整備に全力をあげる必要がある。

安倍首相は記者会見で、「(民主党政権が進めた)縮小均衡の再配分から成長による富の創出へと大胆な転換を図る」と強調した。景気刺激で企業収益を高め、雇用や個人所得の増加など経済全体の底上げにつなげてもらいたい。

公共事業では、被災地の道路や農業施設の復旧、トンネルや橋梁(きょうりょう)など老朽インフラの点検・補修などに、4兆円近くを投じる。

笹子トンネル天井板崩落にみられるように、高度成長期以降にできたインフラの劣化は深刻だ。大規模災害に備える点でも、その維持・強化は不可欠だ。事業は早期に執行する必要がある。

ばらまきに陥らぬように、事業の厳選も怠ってはならない。

企業の省エネ技術支援や電気自動車の普及などにも約3兆円を振り向けて、民間投資の呼び水となる官民ファンドも創設する。

公共事業の効果は短期に終わりかねない。民間投資を促す成長戦略の前倒しも検討すべきだ。

日銀に対しても「積極的な金融緩和を強く期待する」と注文を付けた。2%の物価上昇目標の設定など、政府と緊密に連携した金融政策が問われる。

安倍首相は「基礎的財政収支の黒字化も目指す」と財政規律の重要性も指摘した。国債価格の暴落で長期金利が急上昇すれば、予算編成に悪影響を与えかねない。持続可能な財政は経済再生の基盤であることを忘れてはならない。

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