薬ネット販売 安全確保を大前提に

朝日新聞 2013年01月12日

薬ネット販売 国会と政府に反省促す

法律をつくったり改めたりする国会。その法律にもとづき、細かなきまりを定める政府。両者のあり方に警鐘を鳴らす判決を、最高裁が言いわたした。

処方箋(せん)がなくても買うことができる一般用医薬品について、ビタミン剤などを除いて、ネットによる販売を一律に禁止する厚生労働省の省令が、違法で無効と判断された。

法律(薬事法)にネット販売を禁ずる定めはなく、位置づけはあいまいだ。それなのに、役所の権限で制定できる省令(施行規則)で広く網をかけてしまうのは、職業活動の自由を縛るいきすぎた規制といえる――。

最高裁はそう結論づけた。

厚労行政に大きな影響をおよぼす判断である。

薬の副作用問題にとり組む人からは批判もでるだろう。「薬剤師らのチェックがないまま服用すれば、スモンのような薬害がくり返されるおそれがある」という懸念は傾聴に値する。

最高裁もネット販売を積極的に支持しているわけではない。

それでもなぜ、違法・無効なのか。判決をつらぬくのは、次のような考えである。

規制の必要があるのなら、国会でしっかり議論し、法律で明らかにしなければならない。省令で決めていいのは、法律からゆだねられたことがらだけで、それ以上に踏みこんで、国民に義務を課したり、権利を侵害したりしてはならない――。

もっともな見解だ。

行政がそののりを越え、法治主義がうやむやになることは、私たちの社会やくらしの基盤をむしばみ、やがて災厄をもたらす。裁判所のメッセージをしっかり受けとめたい。

判決の確定をうけて、厚労省は対策を急ぐ必要がある。

ネット業界も、購入者への情報提供のあり方を柱とする自主規制案をつくっている。薬の安全、消費者の利便、ビジネスの発展などの要請が並び立つよう知恵をしぼってほしい。

改めて思うのは、国会、省庁双方の意識の低さである。

薬事法改正の際、ネット販売の扱いは当然問題になった。だが国会での議論は生煮えで、結果として「対応は厚労省にお任せ」という事態を招いた。

唯一の立法機関としての使命を十全にはたさない国会。公の場で複雑な利害を調整するリスクと手間を避け、自分たちの自由になる省令で、大切なことを決めてしまう役所。それらが一体となって、違法・無効な省令が生まれたといえよう。

反省し、教訓をくむべきは、ひとり厚労省だけではない。

毎日新聞 2013年01月12日

薬ネット販売 安全確保を大前提に

医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売を原則禁じた国の規制について、最高裁が違法と結論付けた。

薬事法に明確な規定がないのに、厚生労働省が省令で原則禁止を定めた行為は「法の委任の範囲を逸脱し、違法であり無効」だとしたのだ。

09年に改正薬事法が施行されるまでは、電話やインターネットによる通信販売は広く普及していた。

副作用の危険もある医薬品のネット販売の是非については、長年関係業界が対立してきた。ネット販売は再開が予想されるが、安全性の確保が大前提となるのは当然だ。

厚労省は、関係業界と協議し、まずは利用者の安全が守られる販売のルール作りに取り組むべきだ。

薬事法改正に伴い、厚労省は市販薬を3分類した。副作用リスクが高い順に第1類(胃腸薬など)、第2類(風邪薬など)、第3類(ビタミン剤など)とし、第1類と第2類の通販を省令で禁じた。

過去の薬害の教訓に照らし、医薬品は対面販売を原則とすべきだとの考え方が背景にある。ただし、健康を守る医薬品である以上、国民が広く購入できる利便性も欠かせない。法改正ではリスク情報を利用者に伝える体制を確保した上で、販売方法の多角化も認めようとした。

その結果、第2類の医薬品は、登録販売者を確保すれば、スーパーやコンビニエンスストアでも販売できるようになった。一方で、通販は第3類に限定された。

改正法施行後に厚労省が実施した調査では、ネット販売による副作用被害の実例はなかった。また、現実には対面販売で必ずしも十分な説明がされているとは言えない。何より、外出がままならない人や、コンビニが近くにない地域に住む人たちの利便性は大きく低下した。

厚労省による規制の線引きは一貫性に欠け、合理性に乏しかったとの批判は免れないだろう。

とはいえ、ネット販売の問題性も見過ごせない。少年らが自殺のために鎮静剤をネットで大量購入した事例もあった。日本薬剤師会は、ネットは匿名性が高いため健康食品や脱法ドラッグ販売で過去に健康被害を生んだような事態が起こりかねないと指摘する。最高裁判決も、憲法で保障された「職業(営業)活動の自由」に言及しつつ、規制自体を全面的に否定しているわけではない。

購入の数量制限や、電話を使った薬剤師による説明義務など、通販でもリスクが的確に伝えられる仕組みは工夫できるはずだ。悪質業者の締め出しも必要だ。ドラッグストアを含めた販売業界や薬剤師会などは権益を超え知恵を出し合ってほしい。

読売新聞 2013年01月14日

薬のネット販売 安全確保するルール作り急務

医師の処方なしで買える市販薬のインターネット販売を事実上、解禁する司法判断である。

市販薬のうち、副作用の危険が比較的高い医薬品のネット販売を禁じた厚生労働省令は違法だとして、通販会社がネット販売できる権利の確認などを国に求めていた。

最高裁は国の上告を棄却する業者側勝訴の判決を言い渡した。

厚労省は2009年の改正薬事法で市販薬を3分類した。このうち、一部の胃腸薬や発毛剤などの医薬品については、省令で薬剤師らによる対面販売を義務付け、ネット販売を禁じている。

判決は「改正薬事法からは対面販売を義務付ける趣旨は明確に読み取れず、省令は違法で無効」と結論付けた。法的な裏付けがないまま、省令でネット販売を規制した措置を批判したと言えよう。

勝訴した業者はネット販売を再開した。他の通販各社も参入し、市場拡大が見込まれる。

田村厚労相は、ネット販売の規制緩和に関する検討会を設置する意向を表明した。年内にも方針を打ち出す考えだが、販売ルール作りは急務である。

市販薬のネット販売の利点は、薬局や薬店がない離島や山間部でも市販薬を入手できることだ。移動手段が限られる障害者や高齢者には便利だろう。

ネット販売が普及すれば、医療現場の負担を軽減する効果も期待できる。軽い風邪でも救急病院に駆け込むケースが多く、医師を疲弊させているからだ。

厚労省は、軽症なら自分で薬を買って養生する「セルフメディケーション」の必要性を訴えていたのに、一方でネット販売の禁止は明らかに一貫性を欠く。

ただ、最高裁がネット販売の安全性にお墨付きを与えたわけではないことを忘れてはならない。

市販薬でも、厚労省に副作用が報告されており、数は少ないながら死亡例もある。

それだけに重要なのは、薬を購入しやすい利便性と、薬の安全性をどう両立させ、ネット販売ルールを策定するかだ。

ネットでは薬を買う人の顔色や症状などを確認できない。販売業者が適正な薬の使い方や副作用情報を丁寧に説明し、その内容を確認しなければ購入できない案を検討する動きも業界などにある。

大量購入する場合の対処法や、薬剤師を配置していない違法業者対策なども課題だ。便利で安全なネット販売を実現するため、官民で知恵を絞ってもらいたい。

産経新聞 2013年01月16日

薬のネット販売 安全守る法の見直し急げ

医師の処方箋なしで買える一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売を禁じた厚生労働省令について最高裁は「違法で無効」と判断し、勝訴した通販業者はネット販売を再開した。

市販薬のネット販売が事実上解禁され、他の業者も参入する見通しだ。利用者にとっての利便性も高まるほか、規制緩和の意義や経済効果も期待される。

だが、どんな薬にも副作用がある。服用を誤れば被害は深刻だ。判決は「ネット販売は安全」というお墨付きではない。薬の安全に関する情報を利用者にきめ細かく伝え、安全性と利便性を両立させることが不可欠だ。ネット販売も含め、国はそうしたルールづくりを急いでもらいたい。

厚労省は平成21年4月の薬事法改正で市販薬を副作用リスクに応じて3つに分類し、第1類(一部の胃腸薬など)と第2類(かぜ薬など)については省令で薬局などでの対面販売を義務づけ、ネット販売を原則禁じていた。

今回の判決は「改正薬事法には対面販売の必要性が明示されていないし、ネット販売を規制する趣旨も見当たらない」とし、「省令は法の委任範囲を逸脱している」とした。法的裏付けがないのに、省令でネット販売を禁じた厚労省の姿勢を指弾したといえる。

ネット販売は体が不自由な障害者や高齢者には便利だ。薬局や薬店がない離島などでも薬を入手できる。ネット販売の活用は時代の流れといえそうだ。

一方で利点とは別に、問題もある。対面販売とは異なり、顔色などの症状が直接確認できない。行政や買う側にとっても、薬剤師を配置していないなどの違法業者を見抜くのが難しいことだ。

薬の購入には副作用のリスクなど安全性をよく理解する必要がある。自ら健康を管理する「セルフメディケーション」の基本だ。

田村憲久厚労相は「新たなルールを早急に検討する」と語った。薬剤師による対面販売も本来の趣旨が形骸化していると指摘され、薬の販売全体に関する薬事法の再見直しが急がれている。

サリドマイドやスモンも市販薬による薬害だった。ネット販売が普及した国々では、偽造薬の販売が社会問題化した例もある。規制緩和の一方で、国民の安全を確保するために、違反業者に対する罰則の整備と強化が必要だ。

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