日米密約 歴史に耐えうる検証に

朝日新聞 2009年11月28日

日米密約 負の歴史の徹底検証を

岡田克也外相が命じた日米密約の解明作業が最終段階に入った。外務省の内部調査は終わり、外交史の専門家らによる有識者委員会の検証を経て、来年1月中旬に報告書が公表される。

これまでの調べで、日米安保条約改定時の核持ち込み密約を裏付ける日本側の文書が見つかった。

米国側の情報公開や関係者の証言で密約は公然の事実となっていたのに、歴代自民党政権と外務官僚たちは存在を否定し続けてきた。そのウソが足元から崩されたのだ。

政権交代がなければ実現しなかったに違いない。

今回、関連文書が見つかったのは、核兵器を積んだ米艦船の日本への寄港や領海通過は事前協議が必要な核「持ち込み」に当たらないとする密約だ。

外務省の調査結果が公表されていないため、具体的な内容や、有事の際の沖縄への核再持ち込みを認めた別の密約などがどこまで解明されているのかはわからない。

密約の内容や交渉の経緯はもちろんのこと、どうやって隠され続けたかも含めて、内部調査に不十分な点はないかを、有識者委は第三者の目で点検し、明らかにしてもらいたい。

長年にわたって政府が国民を欺いてきたという、民主主義の根幹にかかわる問題である。

来年の安保改定50年に向け、両国政府が同盟の深化を議論しようという矢先でもある。外相の言う「国民の理解と信頼に基づく外交」のためにも一日も早い情報公開を望む。

さらに有識者委に求めたいのは、密約が生まれた歴史的背景の分析だ。

民主主義国の外交で、国民に説明できない密約は本来好ましくない。やむをえず必要な場合があっても、後年できるだけ早く、記録を公開し、歴史の検証にさらすべきだ。

密約関連文書をめぐっては、情報公開法が施行された01年ごろ、当時の外務省幹部が破棄を指示したとされる。本当に破棄されたのかどうか、誰がそれを指示したのか、明らかにされねばならない。

外交文書は30年たてば公開されるのが原則だが、外務省の判断で非公開になる例が多い。日米安保改定や沖縄返還、日韓国交正常化交渉などは、相手国が公開しているのに未公開のままだ。文書公開を広げるための具体的な提言も有識者委には期待したい。

政府が正式に密約の存在を認めることになれば、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とした非核三原則との関係が問われることになる。

鳩山由紀夫首相は9月の国連安保理首脳会合で、非核三原則の堅持を国際社会に約束した。現実的で妥当な判断である。透徹した目で、この半世紀の検証を進めてもらいたい。

毎日新聞 2009年11月28日

日米密約 歴史に耐えうる検証に

核搭載艦船の寄港容認などの日米密約を検証する有識者委員会が外務省で初会合を開き作業をスタートさせた。

密約が公式に認定されれば、これまで一貫して「核持ち込みはなかった」としてきた歴代政権の主張が崩れることになる。非核三原則との整合性を含め今後の日本の安全保障政策や日米同盟のあり方に大きな影響を及ぼす問題だけに、有識者委員会には歴史に耐えうる精緻(せいち)な検証と公正な評価、提言を行うよう求めたい。

密約に関する調査は9月の政権交代直後、岡田克也外相の指示を受けた外務省のチームが着手し、先週作業を終えた。対象は1960年の日米安保条約改定時と72年の沖縄返還時に結ばれた4件の密約である。

このうち安保条約改定の際に当時の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使の間で交わされた「討議記録」では、核搭載米艦船や米軍機の寄港・領海通過、飛来は日米政府間の事前協議が必要な「核持ち込み」に当たらないとすることが確認されている。この記録は米国ですでに公開されているが、今回の外務省チームによる調査で同省内にも関連文書が保管されていることが確認されたようだ。

公式には4件の密約に関する関連文書の存否は明らかにされていないが、北岡伸一東大教授を座長とする有識者委員会のメンバー6人が外務省チームの調査結果を踏まえ、来年1月中旬をめどに報告書をまとめる予定だ。委員会の任務は、東西冷戦が終わった89年までの関連文書の内容を検証し、密約が交わされた当時の時代背景を踏まえて歴史的な評価を加えることとされている。さらに、今後の外交文書の公開のあり方について提言も行う方針という。

密約の背景に、米ソ対立の状況の中で、自衛力の限界に加え国民の間に強い反核感情がある日本の安全を日米安保条約のもとでいかに守るべきかという事情があったのは確かだろう。その歴史的な評価は有識者委員会の報告を待つ必要がある。

しかし、理解できないのは、関連文書が米国で公開され「事前協議がない以上、核持ち込みはなかった」との論法が破綻(はたん)したあとも、日本政府が長きにわたって密約の存在を否定し続けてきたことである。こうした不誠実な姿勢は厳しく問われなければならない。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威など新たな東アジア情勢の中で、核の傘を中心とする米国の拡大抑止と非核三原則の関係をどう整理すべきか。日本外交の信頼性を取り戻すには何が必要か。こうした重要問題の答えを導き出すための有効な手引きになるような報告書を期待したい。

読売新聞 2009年11月26日

日米密約調査 核抑止力の低下は避けよ

核持ち込みなどに関する「日米密約」の真相究明は、日本外交への国民の信頼を回復するために重要だ。だが、その結果、米軍の核抑止力を低下させる事態は避けねばなるまい。

密約問題を検証する外務省の有識者委員会の初会合が27日に開かれる。外交文書に関する内部調査結果を基に、外務省OBらの聞き取り調査も実施し、来年1月に報告書を岡田外相に提出する。

検証対象は、1960年の日米安保条約改定時に、核搭載の米軍艦船や航空機の日本寄港・通過を事前協議の対象外としたとされる件など四つの密約問題だ。

核持ち込みについては既に、公開された米外交文書や元外務次官らの最近の証言により、「密約はない」とする政府見解の維持が困難となっていた。さらに、今回の外務省調査で、密約の存在を裏付ける文書が見つかったという。

政権交代を機に、岡田外相が密約の調査・検証を始めた意義は小さくない。政府が、その結果を踏まえて、密約の存在を正式に認めることが、国民の不信感を解消する一歩となろう。

ただ、政府が東西冷戦期に、国民の核アレルギーに配慮しつつ、米国の「核の傘」の実効性を確保するため、密約を結ばざるを得なかった事情は理解できる。

有識者委員会は、当時の時代背景も踏まえて、密約締結の経緯をきちんと検証してほしい。

外交交渉には秘密が付き物だ。相手国との信頼関係を維持し、関係者への悪影響を避けるため、すぐには公開できない情報は多い。一定期間の後、どんな条件の下で公開するのが適当なのか、議論を深めることが大切だろう。

今後、重要なのは、核を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする非核三原則のあり方の議論だ。

北朝鮮が核保有を公言するなど現在の日本の安全保障環境は厳しい。米軍の核抑止力を維持、向上させることが求められる。

米国は91年に米軍艦船・原潜から戦術核を撤去した。当面は、核持ち込みの事態は想定されにくくても、中長期的に、近隣国が核や生物化学兵器で日本の安全を脅かす事態がないとは限らない。

様々な事態の変化に対応できるよう、軍事面の柔軟性を確保することが、安全保障の要諦(ようてい)だ。

核を「持ち込ませず」のうち、陸上への核配備の禁止は継続しても、核搭載艦船や航空機の寄港・立ち寄りは可能とする「非核2・5原則」の採用を、前向きに検討していいのではないか。

産経新聞 2009年11月30日

「核密約」検証 抑止力の強化につなげよ

非核三原則に絡む核持ち込みなど日米「密約」問題の外務省調査を検証する有識者委員会の初会合が開かれた。来年1月に結果を岡田克也外相に報告する。

検証対象は日本の安全に直結している。内容もすでに明らかなことばかりだ。日本にとって今必要なことは「密約があった、なかった」の検証に労力を費やすよりも、北朝鮮の核など新たな脅威に対応する拡大抑止(核の傘)の強化策を講じることだ。過去でなく日米同盟の明日へ向けた論議を深めてもらいたい。

密約論議の発端は、1960年の日米安保条約改定の際、核兵器を積んだ米艦船・航空機の日本寄港や通過を「事前協議の対象外」とした日米了解について昨年秋以降、元外務次官らが「密約があった」と発言し始めたことだ。

岡田外相は就任後、外務省に徹底調査を指示し、「関連文書が見つかった」との報告を受けた。沖縄への有事の核持ち込み、朝鮮半島有事の在日米軍基地使用問題など計4件の外務省報告を検証する目的で委員会が設置された。

外相は「(密約には)それなりの時代の要請があったかもしれない」と語った。一連の検証を意味あるものにするには、検証を経た上で今後、何をするかの方向性が重要だ。

とりわけ日本は安保条約を通じて米国が提供する核の傘に国の安全を委ねてきた。しかも、北東アジアは今、北の核・ミサイル開発や中国の軍拡などによって脅威が高まっている。

産経新聞は、かねて非核三原則(作らず、持たず、持ち込ませず)の「持ち込ませず」について、核積載艦船などの寄港・通過の容認も含めた方向で見直すよう問題提起してきた。隣の韓国も6月の米韓首脳会談で「核の傘の保障」を改めて確認した。日韓の安全に核抑止が不可欠な現実は、冷戦終結後も少しも変わらない。

にもかかわらず、外相が米国に核先制不使用宣言を求め、核の傘から「半分踏み出す」などとしているのは疑問だ。鳩山由紀夫首相も、三原則の見直しや法制化に言及するなど発言が二転三転し、責任ある姿勢とはいえない。

米側も「核抑止や日米関係に悪影響がないよう注意してほしい」(ゲーツ国防長官)と懸念している。有識者委員会を機に、政府は同盟の抑止力の充実強化にこそ力を注ぐべきだ。

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