激動期の日本外交 しなやかに、したたかに

朝日新聞 2013年01月07日

激動期の日本外交 しなやかに、したたかに

年明け早々、安倍首相が切った外交カードは韓国への首相特使派遣だった。

竹島問題をめぐって冷え込んだ日韓関係の改善は、安倍政権が引き継いだ重い宿題だ。2月に就任する朴槿恵(パククネ)次期大統領に親書を手渡し、大統領訪日に向けた調整に入ることになった。

関係修復への第一歩がしるされたことを歓迎したい。

首相は、早い時期の訪米にも意欲を示す。

民主党政権下で傷ついた日米同盟の修復などの懸案について、2期目に入るオバマ大統領とじっくり話しあうことは時宜を得ている。

世界も東アジアも大きく動いている。その現実を見据え、日本外交の針路をしっかりと定めなければならない。

日米同盟を深化させ、友好国との連携を深めて中国に向き合う――。安倍政権の外交戦略を一言でいえばこうだろう。その方向は間違っていない。

ただし、国際政治を国家間のパワーゲームと見る従来の視点だけでは、いま世界で起きていることの意味を十分にとらえることはできない。

国際政治の世界に、歴史的ともいえる新しい潮流が渦巻いているからだ。

その第一は、「多極化」の流れである。

昨年12月に米政府機関である国家情報会議がまとめた未来予測が波紋を広げている。

「2030年の世界は、今日とは一変した世界であろう。そのときまでに、米国も中国も、その他のいかなる大国も、覇権的な国家ではなくなっている」

米国が圧倒的な力を誇った時代が終わるだけでなく、中国の成長も減速する。

20年以内に、世界を単独で牛耳る力を持った国はなくなるというのだ。

報告は、パワーは国家間で拡散するだけでなく「非公式のネットワーク」にも広がるとも予測する。国家と並び、NGOや多国籍企業も国際政治に大きな影響力を持つようになる。

多極化し、利害関係が複雑に絡まり合う不安定な世界を生き抜くには、柔軟でしたたかな外交戦略が必要だ。

たとえば、いまの米中関係は、冷戦時代の米ソのような単純な敵対関係ではない。軍事面では競いながらも、経済面ではわかちがたく結びつく。

だからこそ、米国の中国政策は、もしものときの軍事的備えと、中国を国際秩序に積極的に取り込もうという関与政策のふたつの面をもっている。

日本の対中外交も、こわもてだけではなく、硬軟両様の構えが不可欠だ。

日中間で緊張が続く尖閣問題については、長期化を覚悟せねばなるまい。それを前提に、不測の事態が起きた場合の危機管理体制を両国で早急に築く。

同時に必要なことは、この対立とは切り離して、経済関係や人的交流を拡大することだ。

安倍首相が「世界地図を俯瞰(ふかん)するような視点で戦略を考えていくことが必要だ」と言うように、多角的な外交がこれまで以上に重要になる。

「極東重視」を打ち出しているロシア、経済成長著しい東南アジアやインド。そうした国々や地域と連携を深めるなど、新しい発想で外交のネットワークをどう築いていくのかも問われている。

国際政治のもう一つの潮流も忘れてはならない。世界各地で吹き荒れているナショナリズムの高まりである。

経済と情報のグローバル化は、少数の人の手に膨大な富を集積する一方、格差を生み、社会を不安定にした。

欧州で排外主義的な政治勢力が勢いを増しているのは、緊縮財政に苦しむ人々が、ナショナリズムに不満のはけ口を見いだしているからにほかならない。

東アジアには、これに加えて歴史問題がある。

日本と中韓が対立する領土問題は、過去の植民地支配や戦争の記憶が絡む、きわめて複雑な問題だ。昨年の中国の反日デモを見ても分かるように、扱いを誤れば可燃性の高いナショナリズムに容易に火がつく。

国境を超えた様々なレベルでの対話によって、和解の努力を重ねていくしかない。

振り返れば、戦後日本はじつに恵まれた国際環境を享受してきた。

米ソ冷戦時代には、米国の庇護(ひご)の下、復興と経済発展に励むことができた。外交の基本も沖縄返還や、近隣との国交正常化など、敗戦で失ったマイナスを取り戻す道のりだった。

いまや世界は様変わりした。

相互依存の高まりは各国が繁栄を共有できる可能性をもたらしたが、同時にそれぞれの利害が錯綜(さくそう)する。

いま求められるのは、そんな世界で針路を切り開いていく外交力である。

毎日新聞 2013年01月08日

安倍政権の外交 アジアでの足場固めを

安倍外交の輪郭が明確になってきた。日米同盟が一方の柱なら、インドや東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリアといった自由や民主主義などの価値観が同じである国との連帯が片方の柱だ。

これは、第1次安倍内閣で安倍晋三首相と麻生太郎外相が外交の軸とした「自由と繁栄の弧」構想を下敷きにしたものとみられる。麻生氏が今回入閣し、当時の外務次官で構想の推進役だった谷内正太郎氏を内閣官房参与に起用したのも、安倍氏が再びこうした「価値観外交」を看板にしたい意欲の表れだろう。

安倍氏は昨年末の就任直後にインドやオーストラリア、ベトナム、インドネシアなどの首脳と電話で相次ぎ協議した。年明けには麻生副総理がミャンマーを訪問して円借款供与を伝えた。岸田文雄外相は近くフィリピン、シンガポール、ブルネイ、オーストラリアを歴訪する。

こうした外交展開には二つの意味がある。一つは日米同盟強化のためのアジアでの足場固めだ。安倍氏の祖父・岸信介元首相が就任後まずインド、ミャンマーなどを歴訪して米国を訪れたのも、その意図からだった。安倍氏は初外遊先を米国としたい意向だが、その前にアジア太平洋諸国との連携強化を印象づけることは米国と戦略的な話し合いをする環境づくりにも有益なはずだ。

もう一つは日中関係の視点だ。中国を取り囲む諸国と連帯を強めることは、対中外交で日本の立場を有利にするためにも重要である。

ただし、こうした外交には慎重さも求められる。中国との安定的な関係構築を考えれば、露骨な中国包囲網と受け取られないことが肝心だ。「価値観外交」などのスローガンを再び強く押し出すよりは、首脳、外相会談実現など対話のメッセージを送り続け、中国を責任あるパートナーとして地域の秩序維持に関与させる努力をすることが大切だ。

過去の植民地支配と侵略を謝罪した95年の村山富市首相(当時)談話を踏襲する一方、新たに安倍談話を検討するとされているが、村山談話からの後退とみられる内容と映るようだとアジア太平洋諸国との関係強化にも水を差す。歴史認識を巡る問題は注意深く賢明に扱うべきである。

相手につけこまれるスキを見せないと同時に、言うべきことははっきり言う必要がある。韓国政府は従軍慰安婦問題に抗議して靖国神社に放火した中国人の男を日本に引き渡さなかったが、歴史認識を理由にした放火犯を「政治犯」とする主張はあまりにも筋違いだ。安倍政権がこれに抗議したのは当然である。歴史認識にからむ問題では韓国側にも理性と常識ある対応を強く望む。

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