日韓関係を損なう韓国司法の不当な決定だ。
東京の靖国神社の神門に放火した疑いで日本政府が韓国政府に身柄引き渡しを求めていた中国人容疑者について、ソウル高裁が「政治犯」と認定して引き渡しの拒否を決定し、容疑者は中国に帰国した。
容疑者の身柄引き渡しを巡っては、中国が政治犯としての処遇を求めて強制送還を公然と要求していた。日本より中国への配慮が強くにじみ出た決定と言えよう。
安倍首相が「韓国の対応は日韓犯罪人引き渡し条約を事実上、まったく無視したものだ。極めて遺憾で、強く抗議したい」と述べたのも当然である。
この容疑者は、昨年1月にソウルの日本大使館に火炎瓶を投げ込んだ罪で韓国で懲役10月の実刑判決が確定し服役した。取り調べ中に、一昨年12月の靖国神社への放火についても自供していた。
日本の施設を連続して狙った犯行の動機について、容疑者は、祖母がいわゆる従軍慰安婦で、日本政府の歴史認識や対応への怒りからだと供述していたという。
ソウル高裁は、靖国神社について、「侵略戦争を主導し、有罪判決を受けた戦犯が合祀」され、閣僚らが参拝するなど国家施設として使用されている「政治的象徴性がある」と指摘した。
そのうえで、放火は日本の政策変更を狙った政治的な目的による犯行で、引き渡しを拒否できる「政治犯罪」にあたるとした。
驚くべき判断だ。これでは、過去の歴史と絡めて、放火という重大な犯罪に“政治的大義”を認め、放免したに等しい。靖国神社には何をしても許されると言ったも同然ではないか。
同種の犯罪を誘発しないかと危惧せざるを得ない。
日本と韓国の間に過去認識を巡って大きな溝が存在するのはまぎれもない事実だ。だが、放火という犯罪に政治的な意味合いを持たせるのは明らかにおかしい。
歴史問題に絡んだ韓国の司法当局の判断は他にもある。
一昨年8月に憲法裁判所は、韓国政府が元慰安婦の賠償請求権について解決に努力しないのは憲法違反にあたると判断した。
昨年5月には最高裁が、第2次大戦中に日本企業に徴用された韓国人元労働者の個人の賠償請求権は有効とする判断を示した。
請求権問題は国交正常化の際の協定で「完全かつ最終的に」解決されている。その立場を、日本政府は今後も堅持すべきである。
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