2013年を展望する 骨太の互恵精神育てよ

毎日新聞 2013年01月01日

2013年を展望する 骨太の互恵精神育てよ

2013年は、戦後日本の生き方が、二つの意味で試される年になるのではないだろうか。

一つは、日本経済の底力だ。経済政策には、全体のパイをどう増やしていくか、という側面と、それをどう分配するか、と2通りある。民主党政権は後者の分配政策を重視、子ども手当、高校授業料無償化、農家への戸別所得補償といった形で若年層、第1次産業に手厚く予算を配分した。これに対し安倍政権は、前者の成長政策を前面に押し立て、デフレ脱却の名の下に大胆な金融緩和と公共投資の必要性を唱えている。

確かに、全体のパイが大きくなれば誰もがハッピーになるはずで、のっけからくさすつもりは毛頭ない。ただし、指摘すべきは、バブル崩壊後の20年余り、歴代政権は何もしてこなかったのではなく、金融政策としてはゼロ金利や量的緩和、財政政策としては公共事業を中心とした数次に及ぶ緊急経済対策を打ってきた。いわば類似政策を積み重ねてきた結果が、1000兆円にものぼる借金財政を生んだ、という事実だ。

成長できない背景には、少子化による人口減と高齢化、新興国の台頭、資源・エネルギーの環境制約があるのだが、安倍政権にはこういった構造的要因にも手をつけてほしい。

特に、すでに4人に1人が65歳以上となっている世界最速の高齢化には、腰を据えた対策が必要だ。若い人たちが自分たちの子どもを産み育てることのできる環境を整備するためには、限られたパイの中で、豊かな高齢者層から雇用も所得も不安定な若年者層へのより明確な所得移転が必要になるのではないだろうか。

その際に心がけたいのは、互譲と互恵の精神である。相手に譲ることで自らが恩恵を受ける、豊かになる、それを相互に繰り返す、そういった心の持ちようだ。若い人たちを生かすことが社会全体の活力につながり、めぐりめぐって高齢者層の利益になる。全体のパイが増えなくてもそんなプラスの分配サイクルはできないか。民主政権では踏み込めなかった政策をぜひ前に進めてほしい。

戦後軽軍備・経済重視路線を堅持する中で、為替危機、石油ショック、バブル崩壊などいくつもの激変を乗り切ってきた日本経済である。今こそ、その底力を発揮して成熟経済対応にギアチェンジする時である。

互恵の精神は、世代間対立だけでなく、国と国との関係にも応用できる。二つ目に試される日本政治の平和力とも関わってくる。

日本外交の当面の最大の課題は、台頭する中国とどう向き合うか、にある。尖閣諸島をめぐる対立は、中国側の領海、領空侵犯で武力紛争の可能性まで取りざたされるに至っている。戦後67年間一回も戦争をせずにこられた我が国の平和力を今一度点検し、どうすれば最悪の事態を回避できるか、国民的議論が必要だ。

戦後の平和を支えてきたのは、あの戦争に対する反省からきた二度と侵略戦争はしないという誓いと、現実的な抑止力として機能する日米安保体制であろう。係争はあくまでも話し合いで解決する。もちろん、適正な抑止力を維持するための軍事上の備えは怠らない。そのためには、日米安保体制の意義、機能を再確認しておくことが大切だ。そのうえで1920年代の歴史から学びたい。

日本で初めて2大政党が定着し大正デモクラシーが高らかに宣言された時代である。だが、結果的に政党政治は平和を守り切れなかった。関東大震災や世界恐慌で経済が混乱し中国大陸に対する帝国主義的な領土拡張競争が激化する中、排外主義的対外強硬路線の大声が、妥協主義的国際協調路線の良識をかき消し、軍部独走、大政翼賛政治が私たちを無謀な戦争に追いやった。領土や主権をめぐる争いは双方がどちらも譲歩できないことにより、いたずらに対立がエスカレートするのも歴史が教えるところである。

安直な排外主義を排し、大局的な国際協調路線に立ちたい。尖閣を巡る一連の経緯を振り返ると、棚上げされてきたはずのこの問題に対して、力による現状変更を仕掛けてきているのは明らかに中国側であり、日本はあくまで対話と法理で問題解決を図ろうとしている。こういった日本の立場と主張をアジア諸国を中心に世界に対し粘り強く丁寧に説明し理解を得て仲間を作る。決して孤立化しないことだ。

中国との間では、戦略的互恵路線がいかに両国関係にメリットをもたらしたかを改めて確認したい。まずは、強硬路線の悪循環を排し現状維持の緊張に耐え抜くことだ。そして、対話と妥協の機をうかがう。例えば、中国は公船の派遣をやめる。日本も外交問題はあることまでは認め話し合いのテーブルにつく。両国首脳の知略と勇気に期待したい。

パイの配分と平和の継続。時代は互譲の裏付けのある骨太な互恵精神を求めている。戦後の歩みを振り返ると、私たちにはその時代の要請に応える力は十分に備わっているように思える。実現に汗をかくのは一義的には政治家だが、彼らにそういう仕事をさせるのは、私たち国民であることを改めて胸に刻みたい。

読売新聞 2013年01月07日

日本経済再生 デフレ脱却の成果が問われる

◆活性化へ企業競争力を高めよ◆

安倍政権が最優先課題に掲げているのが、日本経済の再生だ。

景気回復とデフレ脱却を実現し、中長期的な安定成長に道筋をつけられるかどうか。今年こそ、バブル経済崩壊から続く「失われた20年」にピリオドを打ちたい。

安倍首相が掲げる「これまでとは次元の違う経済政策」の具体策を早急にまとめ、機動的に実行することが肝要だ。

◆ゼロ成長に甘んじるな◆

家計や企業の実感に近い名目国内総生産(GDP)は約470兆円で、20年前と変わらない。同じ期間にGDPが約20倍に急拡大した中国とは対照的な「ゼロ成長国家」に甘んじている。

今後は少子高齢化と人口減少で経済成長はさらに難しくなると、多くの専門家も指摘する。もはや日本で成長は望めない。そう将来を悲観する人もあろう。

本当にそれでいいのだろうか。首相は就任後の記者会見で「成長をあきらめた国に未来はない」と訴えた。その通りだ。国民が希望と意欲を失えば、経済の活力は決して戻らないだろう。

まず、10年以上に及ぶデフレを退治しないことには、展望は開けない。デフレは企業の利益や家計の収入を減らし、経済の縮小を加速させるからだ。

大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」で、強い経済を取り戻すという、安倍政権の処方箋は妥当である。

年末から年始にかけて、東京市場の平均株価が急騰し、円相場も1ドル=88円台まで円安が進んだ。新たな経済政策に対する期待の大きさを示している。

◆物価目標で連携強化◆

日銀の金融緩和と並行して、政府が効果的な公共事業などで需要不足を補うことが求められる。

特に重要なのが、政府と日銀の連携強化である。

首相は日銀の白川方明総裁に、2%の物価目標と政策協定の締結を要請し、日銀は今月中に導入する見通しだ。明確な物価目標を定め、その達成に政府と日銀が連帯して責任を負うべきである。

気がかりなのは、首相などが日銀法改正や総裁の後任人事と関連づけて、政策協定などを日銀に求める場面が目立つことだ。

戦時中、政府が国債を日銀に引き受けさせ、国債暴落や超インフレを引き起こした歴史がある。

日銀の独立性が揺らげば、国債の急落を招く恐れもある。日銀に政治圧力をかけていると誤解される言動は厳に慎しんでほしい。

バラマキ政策をやめ、消費税率を着実に引き上げて、財政再建に取り組むことは、国債の信用を維持するためにも大切だ。

◆法人税下げの検討を◆

デフレ以外にも日本経済は多くの課題を抱えている。

歴史的な超円高が解消されつつあるのは朗報だが、円安も行き過ぎれば、貿易赤字拡大などの副作用がある。

特に、原子力発電所の代わりに火力発電所をフル稼働しているため、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入は急増している。

円安で燃料の輸入費が上がり、電気料金の上昇に拍車がかかる。そんな「悪い物価上昇」は避けたい。安全を確認できた原発の再稼働は、円安の副作用を緩和する意味でも重要である。

現役世代の減少につれて、消費などの国内市場が縮小に向かうのは間違いない。働き手が減れば経済成長力も低下しよう。

子育て支援の充実で人口減少に歯止めをかける。女性や高齢者の就労促進で労働市場の縮小を防ぐ。高すぎる法人税率を引き下げて企業の競争力を高める――。

活性化に必要な政策のメニューは、すでに分かっている。

高齢化で需要の増える医療や介護などの分野には、もっと高額でもいいから質の高いサービスを求める潜在需要がある。硬直化した規制の見直しも進めたい。

政府は効果的な施策に大胆に予算や人員を集中投入し、実行を急がねばならない。

再起動する経済財政諮問会議と新設する日本経済再生本部を活用して、府省縦割りの弊害や、さまざまな既得権益を打破することが求められる。

アジアなど海外の需要を取り込むため、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は不可欠である。

経団連をはじめ経済界は、成長促進のため早期参加を強く求めている。政府が決断を急ぎ、貿易・投資のルール作りに関与することこそ国益にかなう。

産経新聞 2013年01月03日

日本経済再生 脱デフレへ歩み確かに 規制改革で民間に勢いつけよ

今年こそ、デフレ脱却と日本経済の再生に一歩踏み出せるのではないか。近年、これほど期待を持って迎えた新年はなかった。そういっても過言ではあるまい。

その先頭に立っているのは5年3カ月ぶりに政権復帰を果たした安倍晋三首相だ。安倍氏は衆院選で、デフレ脱却と円高是正を最優先課題に掲げて「これまでとは次元の違う政策」を唱えた。自民党が大勝すると、首相就任前から矢継ぎ早に手を打った。

日銀に物価目標の導入と大胆な金融緩和を促す一方で、思い切った財政出動の実施を表明する。さらに、復活した経済財政諮問会議と日本経済再生本部を経済政策の両輪とする構想を打ち出した。

≪財政に新たな歯止めを≫

時の政権が、デフレ脱却への明確な意志とその実現のための具体的手段と枠組みを示す。これこそが、野田佳彦前首相はじめ、ここ数年の政権に最も足りなかった部分であり、市場や経済界が切望していたものだった。

安倍氏の姿勢が歓迎され、衆院選前から株価が上昇、円高是正が進んだのはこのためだ。しかも、これまでのところ、こうした考えは、形を整えつつある。

日銀は1月21、22日の金融政策決定会合で物価目標の導入を打ち出す見通しだ。その目標達成に、日銀と政府が役割と責任を分担する政策協定も検討されている。安倍政権も発足早々、東日本大震災からの復興や防災などに重点を置いた10兆円規模の大型補正予算の編成を進めている。

脱デフレへ上々のスタートを切ったといえるが、財政出動に伴う財源問題は素通りできない。

補正予算と平成25年度予算の国債頼みは避けられまい。しかし日本の財政事情は既に危険水域だ。借金の残高は国内総生産の2倍超と、危機に陥ったギリシャなど欧州諸国より深刻な状況にある。

それでも国債価格が安定しているのは、日本は財政規律を守る国という信頼感があるからだ。

ここが揺らぐと、国債価格は下落し、長期金利は上昇する。国の利払い費が増えて財政を圧迫、国債を大量に抱える銀行の経営をも直撃する。財政危機と金融危機を同時に起こしかねない。

安倍政権は2020(平成32)年に基礎的財政収支を黒字化する目標は堅持するという。麻生太郎財務相も「国債発行額にこだわらない」としつつ、25年度予算編成では「財政健全化目標を踏まえる」と述べた。

民主党政権下の「新規国債発行44兆円以下」は棚上げするにせよ、市場の信頼をつなぎ留めるためにも新たな歯止めは必要だ。

デフレ脱却とともに日本経済再生の鍵を握るのは実効性ある成長戦略の構築だ。規制改革、構造改革は、その起爆剤となる。

≪貿易立国の復活を図れ≫

貿易収支で黒字大国の名をほしいままにしてきた日本も、今は赤字が常態化しつつある。海外景気の減速による輸出の減少、原発停止に伴う火力発電燃料の輸入増が大きいが、国際競争力の低下という根深い問題を見過ごせない。

韓国、台湾などの追い上げに、国内家電メーカーは、価格ばかりか、技術面でも後塵(こうじん)を拝しているケースも多い。

競争力回復の主役である民間が勢いを取り戻すには、法人税減税や民間活力をそいでいる規制にもメスを入れねばならない。企業活動の自由度を拡大し、新たなビジネス市場の創出が欠かせない。

資源小国で人口減による国内市場の縮小が顕在化している日本が貿易立国の旗を降ろせば国の衰亡につながる。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加は、貿易復活の前提条件である。

自民党は海外との違いを合理的に説明できない制度的障害は「3年以内に撤廃する」とし、規制の見直しでは事業仕分け的手法の導入も検討している。総論賛成、各論反対に陥らぬよう、あらゆる手段を駆使し、撤廃・緩和を一気に進める必要がある。経済財政諮問会議や日本経済再生本部は、その司令塔となるべきだ。

故梶山静六元官房長官の言葉を借りれば、デフレは「陰気な化け物」だ。日本列島に15年以上も居座り、経済だけでなく社会全体を閉塞(へいそく)感で覆った、これを追い払う。今年はその最大にして最後のチャンスかもしれない。政府、日銀はもとより、日本全体の覚悟が試される1年である。

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