第2次安倍内閣 「自民の変化」示す政治を

朝日新聞 2012年12月27日

安倍内閣発足 再登板への期待と不安

2度目の安倍晋三内閣が船出した。

混迷続きだった民主党政権の3年余をへて、日本の政治に安定を取り戻せるか。

突然の政権投げ出しから5年。挫折のなかから首相に再登板した安倍氏は、自民党への「政権再交代」を支持した民意に今度こそ応えられるのか。

この間、日本を取り巻く環境はいっそう複雑さを増した。

東日本大震災と原発事故。出口の見えないデフレ不況。1千兆円にも及ぶ国の借金。中国や韓国との領土対立、宙に浮く米軍普天間基地の移設……。

だれが政権を担っても、簡単に答えは出ない。

求められるのは、派手なパフォーマンスや掛け声ではない。

地に足をつけ、一歩ずつ問題を解きほぐす。そんな現実的な政策判断にほかならない。

たとえば経済政策である。

副総理に麻生太郎元首相をあて、財務相と金融相を兼務させる。新設の経済再生相の甘利明・前政調会長とともに、景気対策の司令塔にする狙いだ。

「デフレ脱却」への国民の期待は強い。政権が最優先課題に掲げるのは当然の判断だろう。

一方で、中央銀行を財布代わりにお金をばらまき、公共事業を積み増していけば、国債金利の急騰から財政破綻(はたん)を招く危険な道につながりかねない。

10兆円規模の大型補正予算。10年で200兆円の公共投資。

自公両党からは威勢の良い呼び声が先行するが、そんな大盤振る舞いをする余裕が、いまの日本にあるはずがない。

将来の原発・エネルギー政策をどう描くかも、最重要課題のひとつである。

自公両党は、連立合意で「可能な限り原発依存度を減らす」ことを確認した。

「原発ゼロ」の公明党と「原発ゼロは無責任」と批判する自民党。最終目標の違いは棚上げにしたということだろうが、両党が「脱原発依存」で足並みをそろえた意義は大きい。

ただ、安倍氏は新増設に含みをもたせるなど真意が不明な部分もある。公明党は、安倍氏を引っ張ってでも脱原発を着実に進める責任を自覚すべきだ。

領土問題できしむ近隣外交の立て直しも、民主党政権から引き継いだ懸案である。

日中韓の指導者がそろって交代するいまこそ、むしろ関係改善のチャンスだ。

安倍氏自身、そのことは十分意識しているようだ。

来年2月22日の「竹島の日」を政府主催の式典に格上げすることはとりやめた。靖国参拝や尖閣諸島への公務員の常駐についても明言を避けている。

外交の試金石は、年明けの訪米である。民主党政権下で揺らいだ日米同盟の再構築を急がねばならない。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加の是非についても、結論を出す時期が迫っている。

期待の半面、心配もある。

安倍総裁直属の教育再生実行本部の本部長として、党の教育分野の公約をまとめた下村博文氏が文部科学相に就いた。

公約は、歴史教科書の検定で近隣国に配慮するとした「近隣諸国条項」の見直しをうたっている。

近隣国との信頼を築くうえでこの条項の存在意義は重い。これを引き継がないとなれば、中韓との関係はさらに悪化する。

新政権の要職には、下村氏をはじめ、安倍氏がかつて事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」のメンバーが並ぶ。この会は、歴史教科書の慰安婦をめぐる記述を「自虐史観」と批判し、慰安婦への謝罪と反省を表明した河野談話の見直しを求めてきた。

また、行政改革相に就いた稲田朋美氏は「南京大虐殺」を否定し、東京裁判を「不法無効な裁判」と批判してきた。

河野談話や村山談話の見直しは「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍氏の持論だ。

だが、そうした歴史の見直しは戦前の軍国主義の正当化につながる。戦後日本が国際社会に復帰する際の基本的な合意に背く行為と受け取られかねない。実行すれば、中韓のみならず欧米からも厳しい批判は避けられない。

前回の安倍政権は、愛国心を盛り込んだ改正教育基本法など「安倍カラー」の法律の成立を急いだ。その強引な手法が世論の反発を招き、参院選の大敗と退陣につながった面もある。

その教訓と「ねじれ国会」の現実をふまえてのことだろう。今回は、来夏の参院選までは憲法改正をはじめ「安倍カラー」は封印し、経済政策などに集中する。それが新政権の基本方針のようだ。

現実的な選択である。

そのうえで、新政権に改めて指摘しておきたい。

世界の中で孤立しては、日本の経済も外交も立ちゆかない。

毎日新聞 2012年12月27日

第2次安倍内閣 「自民の変化」示す政治を

安倍晋三首相が誕生した。首相への返り咲きは戦後、吉田茂氏以来64年ぶりで、自民党総裁としては初めてだ。自公両党も約1200日ぶりに与党に復帰、第2次内閣が国政のかじ取りを担う。

再登板で政権を民主党から奪還しての船出だけに、気負うのがむしろ自然かもしれない。だが、さきの総選挙の自民圧勝は民主党批判の裏返しだ。日本を取り巻くさまざまな困難の責任の多くはかつての自民党にあることを忘れてはならない。

来夏の参院選まで有権者はまず、新政権が本当に信用に足るかをじっと見極めることだろう。自制ある政権運営で着実に改革に努め、自民党の変化を証明しなければならない。

首相は「政権を担った経験を生かし、安定感のある政権運営をしたい」と記者団に意気込みを語った。首相が目指す改憲について自公両党の連立合意は「国民的な議論を深める」との表現にとどめた。内外の課題に取り組みを迫られる中、拙速を避ける判断は妥当である。

閣僚人事にはふたつの課題があった。ひとつは民主党政権で混乱した「政と官」の関係の立て直し、もうひとつは06年の1次政権当時「お友達内閣」と称された側近重用人事からの脱却である。

首相は政権の後見役的存在である麻生太郎元首相を副総理兼財務・金融担当相とし、閣内の抑え役とした。谷垣禎一前総裁、総裁選を戦った石原伸晃氏らの入閣でバランスに配慮する一方で下村博文、新藤義孝、稲田朋美各氏ら首相に近い保守色の強い人材の登用も目立つ布陣だ。

注目すべきは前政権の国家戦略室に代わり経済財政諮問会議を復活させることに加え、日本経済再生本部を設け、官邸の経済政策の司令塔と位置づけることだ。

民主党政権は一体改革への取り組みと裏腹に成長戦略が不十分だった。ITなど民間の知見も取り入れ、タテ割り官庁の施策の寄せ集めに陥らず規制緩和や内需創出に大胆に取り組んでもらいたい。

一方で、経済政策のリスクも指摘せねばならない。金融緩和一色の傾向や、財政規律がゆるむおそれである。国の借金が1000兆円という危機的状況自体は政権が代わっても不変だ。日銀法を改正までしての圧力行使は明らかに行きすぎであり、通貨の信認を損ないかねない。

通常国会に提出される大型補正予算も公共事業など無軌道なばらまきに陥っては何のための消費増税かと言われる。今日の財政危機の主たる責任は自民にあることを忘れたかのようにふるまえば、かつて国民に忌避された姿そのままである。

外交関係も安倍内閣が直面する大きなリスクだ。首相が最重要テーマに掲げる経済再生に全力を挙げ取り組むためにも、近隣諸国との関係を安定させ、政権運営に波乱要因を持ち込ませないことが不可欠となる。

とりわけ領土をめぐる中国や韓国との関係改善は喫緊の課題である。日中韓の3国に新しい指導者が誕生した機会をとらえ、負のスパイラルを前向きな流れに転換させるリーダーシップの発揮を求めたい。

首相は衆院選後、尖閣諸島への公務員常駐検討や「竹島の日」の政府主催式典開催など自民党公約に盛られた政策を当面棚上げする意向を示している。柔軟で現実的な外交姿勢を貫くことで対話ムードを醸成し、対話の糸口を探ることが肝要だ。

外相未経験者だった岸田文雄氏の起用で、首相自ら官邸主導の外交を展開する局面が多くなるだろう。日米同盟の再構築や沖縄基地問題も含め国家の危機管理のため外交を戦略的に構築できるかが問われよう。

国を開き、経済の競争力を高める意味からも環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への積極参画は避けて通れない。自公合意は「国益にかなう最善の道を求める」との表現で自民公約より前向きな表現になった。参院選前の決断も見据え、検討を急ぐことは当然だ。

エネルギー政策も問われる。福島原発事故はかつての自民党政権の安全対策のずさんさにも起因するはずだ。首相は原発の新増設をしない民主党政権の方針の見直しに含みを持たせるが、現実には困難だ。使用済み核燃料の処理問題などを放置したまま「脱原発依存」路線を変更すれば無責任とのそしりを免れまい。

民主党政権の迷走は内外の環境が急変する中で財政危機や超高齢化に直面し、本格的な人口減少社会に突入していく日本が置かれる状況の難しさの反映でもあった。だからこそ自公民3党は一体改革の推進に合意した。年金、医療など歳出抑制や効率化を進めないと、持続可能な社会保障制度の構築はままならない。前政権から引き継いだ社会保障制度改革国民会議の枠組みを生かし、衆参ねじれ国会の下で着実な合意形成に努める必要がある。

首相は党三役に女性2人を起用した人事について参院選に向け「自民党は変わったと示せる執行部」だと強調した。女性の積極登用は大いに評価するが、3年の野党経験が真に試されるのは政策だ。問われるのは「古い自民」からの脱却である。

読売新聞 2012年12月27日

第2次安倍内閣 危機突破へ政権の総力挙げよ

「強い経済」取り戻す知恵が要る

デフレからの脱却、震災復興、原発政策の再構築、外交立て直し――。日本が直面する難問を解決しようという意欲のうかがえる布陣だ。

第2次安倍内閣が発足した。戦後、首相の再登板は吉田茂以来2人目である。

安倍首相は就任後の記者会見で「一日も早く結果を出すことで信頼を得たい」と強調した。短命政権に終わった5年前の苦い経験を教訓に政策実現能力が問われる。「危機突破内閣」の看板通り、閉塞状況を打開してもらいたい。

◆「霞が関」を使いこなせ◆

閣僚には、自民党の麻生元首相や谷垣禎一前総裁、公明党の太田昭宏前代表ら重鎮が並んだ。根本匠復興相ら首相に近い中堅・若手の登用も目立つ。

内閣の要となる官房長官に腹心の菅義偉前幹事長代行、官房副長官には世耕弘成前参院政審会長ら側近を据えた。内閣官房参与に小泉元首相の政務秘書官を務めた飯島勲氏を起用している。

首相官邸を中心にしたチーム力と大災害時などの危機管理能力を高めるのが狙いだろう。

民主党政権の誤った「政治主導」とは一線を画し、官僚機構を十二分に使いこなして、霞が関の機能を引き出すことが大切だ。

安倍内閣の最重要課題は、日本経済の再生である。麻生太郎副総理・財務・金融相、甘利明経済再生相、茂木敏充経済産業相の3閣僚が、その中核を担う。

いずれも政調会長を経験した政策通である。実効性のある政策を迅速に打ち出してほしい。

◆司令塔を機能させたい◆

社会保障財源を確保するため、消費税率を着実に引き上げていく必要がある。それには、後退色を強める景気を下支えする大規模な補正予算の編成が急務だ。

経済再生に向けて、首相は経済財政諮問会議を復活させ、新たに日本経済再生本部を置く。二つの組織を経済の司令塔として、しっかり機能させねばならない。

野田政権の「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針では電力の安定供給が揺らぎ、産業空洞化も加速する。これを早急に撤回し、現実的な原発・エネルギー政策を再構築すべきである。

少子高齢化と人口減で中期的には国内需要の縮小が避けられない。日本の成長に弾みをつけるには環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を決断するしかない。

林芳正農相は、一層の市場開放に備え、農業の国際競争力を強化する重要な役割を担う。

老朽化したインフラ(社会基盤)の整備と防災対策も欠かせない。古屋圭司防災相が目玉政策の「国土強靱(きょうじん)化」を担当する。

無論、日本が深刻な借金財政に陥っていることも忘れてはなるまい。将来世代にこれ以上重いツケを回さないよう、効率的な公共投資を工夫することが肝要だ。

社会保障制度を持続可能にするには給付の削減は避けられない。社会保障の専門家である田村憲久厚生労働相の手腕が問われる。

外相には、岸田文雄元沖縄相が就任した。鳩山政権が著しく損なった沖縄県との信頼関係を回復しなければ、米軍普天間飛行場の移設問題は前進しない。

沖縄県の事情に通じ、仲井真弘多知事とも一定の信頼関係があると言われる岸田氏の起用は妥当だと言えよう。

防衛相には小野寺五典元外務副大臣が起用された。

尖閣諸島を巡って中国は、領海だけでなく、領空まで侵犯した。経済、軍事両面で膨張路線をとる中国とどう向き合うかは外交・安全保障の最重要課題だ。

首相は岸田、小野寺両氏と十分連携し、柔軟で、したたかな戦略を打ち立てる必要がある。

一方、自民党の新執行部体制では、高市早苗政調会長、野田聖子総務会長という女性2人の党三役への登用が注目される。

◆自公民路線は堅持を◆

地方で人気のある石破幹事長とともに来夏の参院選で「党の顔」とすることを狙った人事だ。自民党の変化を示すものだという。

だが、イメージだけでは党に対する国民の信頼は回復しない。政治を前に動かすために、一層の努力と謙虚な姿勢が求められる。首相が言う通り、「伝統にあぐらをかけば、あっという間に陳腐な古い自民党と化す」だろう。

参院選までは衆参のねじれが続く。社会保障と税の一体改革の実現に向けて、自公民3党の協力路線を堅持していくべきである。

「決められない政治」はもううんざりだ。これまでとは次元の違う政権運営を期待したい。

産経新聞 2012年12月27日

第2次安倍内閣 「強い国」へ使命果たせ スピードと成果こそが勝負だ

第2次安倍晋三内閣が発足した。安倍首相が「強い日本を取り戻す」という歴史的使命を果たす時である。3年余の民主党政権による日本の惨状を一刻も早く立て直してもらいたい。

先の衆院選で示されたように、国家の再生が多くの国民の願いであり、希望である。これを心に刻んで、内外の難題解決に総力を挙げてほしい。

安倍首相にとっては5年前の突然の辞任からのカムバックだ。首相の再登板は第2次吉田茂内閣以来64年ぶりである。安倍氏はその期待に応える重い責務がある。

≪デフレ脱却を最優先に≫

首相は会見で、「一日も早く結果を出し、信頼を取り戻したい」と述べた。その表明通り、スピード感をもって成果を挙げていくことが肝要だ。来年夏の参院選の乗り切りも求められよう。

まず、デフレ脱却を最重要課題として取り組み、「強い経済」への転換を示すことが重要だ。

経済・財政運営の司令塔として、具体的な成長戦略を練る「日本経済再生本部」とマクロ経済政策を決める「経済財政諮問会議」を明確に位置付けたのは、その表れといえる。

甘利明経済財政担当相が新設の経済再生担当相を兼ね、副総理でもある麻生太郎元首相が財務相・金融担当相に就いた。

一方、日銀は安倍氏の要請を受け、物価目標や政府との政策協定締結の検討に入っている。

デフレ脱却を強力に推し進める陣立ては整ったといえる。2つの司令塔のトップも務める首相自身が、大型補正予算や来年度予算、成長戦略などを通じてどう政策を具体化していくかが問われる。

政権発足までに円安株高が加速したが、市場は政権発足後の首相の実行力も注視している。

積極財政論の麻生氏の起用は、脱デフレへの転換を示すメッセージとなり得る。ばらまきに陥らずデフレ克服に効果的な政策を打ち出してほしい。甘利氏には、経済再生の観点から、安全性を確保した上で必要な原発再稼働を進め、電力の安定供給を確保する現実的対応が求められる。

脱デフレへの集中的な取り組みによって、来年4~6月の成長率を押し上げられるかは、再来年の消費税引き上げの大きな判断材料となる。政権交代を経て景気、雇用が好転に向かう実感を国民にどれだけ与えられるかもカギだ。

外交安保面での立て直しも喫緊の課題だ。傷ついた日米関係の修復が急がれる。1月にも行う訪米でオバマ大統領との信頼関係を再構築し、同盟の抑止力を強化することが求められている。

中国に向き合うにも日米関係が堅固でなければならない。政府公船による尖閣諸島沖の日本領海の侵犯を繰り返している中国に対し、首相は一歩も譲らないとしている。当面は対峙(たいじ)することになるが、一方で、中国に日本との関係を改善しなければ国はもたないことも理解させねばならない。

≪日米同盟立て直し急げ≫

国の守りを強めるため、10年連続で削減されてきた防衛費を増額に転じ、海上保安庁の予算を充実させることも急務だ。これは来年度予算編成において直ちに実現しなければならない。

安倍首相には、自民党の政権公約に掲げた憲法改正をいかに政治日程に乗せていくかという大きな課題もある。すでに国防軍の保持などを明記した憲法改正草案をまとめているが、連立相手の公明党は「憲法改正はいまの課題ではない」と慎重な姿勢だ。

当面、憲法96条が定める改正要件緩和を先行させるとしている。憲法改正がなぜ必要かを国民にわかってもらうことが大切だ。

集団的自衛権の行使容認について公明党は否定的だ。北朝鮮が先に発射した長距離弾道ミサイルは米本土を射程内に収めることが明らかになった。これまでのように米本土に向かうミサイルは迎撃しないという解釈は通用しない。行使を容認する憲法解釈の変更を広く訴え、決断してほしい。

民主党政権の統治能力が問われた原因は、「政治主導」をはき違えて官僚を遠ざけ、その能力を活用できなかったことが大きい。

安倍首相は、官僚OBである谷内正太郎・元外務事務次官と丹呉泰健・元財務事務次官を内閣官房参与に起用した。「危機突破」は官僚や野党など、国の総力を結集して初めて可能になる。

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