ドル安・円高 協調で通貨危機回避を

朝日新聞 2009年12月02日

日銀の決断 デフレ克服へ総力挙げよ

円高の追い打ちで深刻化するデフレ不況。その対策に日銀が動いた。臨時の金融政策決定会合を開き、新たな金融緩和策を打ち出したのだ。

鳩山政権のデフレ対策は後手に回ってきた。政府・日銀が政策を総動員しない限り、景気の二番底からデフレスパイラルに陥りかねない。きょう会談する鳩山由紀夫首相と日銀の白川方明総裁は、危機克服に全力を注ぐことを明確にする必要がある。

日銀が0.1%に誘導している短期金利の対象を拡大し、市場金利を全体的にさらに低く抑え込もうというのが今回の金融緩和策だ。具体的には、金融機関に対して国債や社債、貸し付け債権などを担保に3カ月の資金を金利0.1%で貸し出す。

当面の総額は10兆円だが、需要があれば、ためらうことなく積み増す構えだ。白川総裁はこれを「広い意味での量的緩和策」と説明した。

日銀は2001年3月から06年3月まで量的緩和政策を続けた。このときは金融機関にゼロ金利の資金を貸し込み、余った資金が日銀に逆流して預金口座に積み上がった。それが一時は30兆円を超した。この策は金融システムの安定には寄与したが、景気刺激の効果は限られたとされる。

今回は景気刺激と物価底上げのため、企業に融資される資金量に焦点を当て、金融機関に実質ゼロ金利で資金を貸すことになった。ただ、実際に経済全体にどれくらいの量の資金が出回るかは、資金の需要次第だ。

日銀はこの緩和策を無期限で続けることも強調した。さきの量的緩和策の時も、ゼロ金利が長引くと人々が思うので、市場全体の金利水準が下がるという効果があるとされた。これが「時間軸効果」と呼ばれ、米国も経済危機に直面してこれにならった実質ゼロ金利政策を採っている。

いわば本家の日銀がその再現を狙うかたちで景気と物価に利きそうな手だてを考えたのが、今回の「広い意味での量的緩和」といえそうだ。

こうした日銀の緩和策は白川総裁が「デフレ」を遅まきながら認めたように、デフレ克服に力を注ぐ姿勢の表れとして評価したい。新たな政策に挑戦する姿勢も買いたい。

しかし、残念ながら政策とメッセージの迫力は、いまひとつ足りない。デフレと円高の悪循環に歯止めをかける工夫と大胆な努力がなお必要であることは、きのうの為替市場の反応をみても明らかだ。

もちろん、デフレの根本原因が巨額の需要不足にある以上、金融政策だけでは足りない。

政府が第2次補正予算に盛る経済対策は、家計と企業の不安を軽減し、消費や設備投資を引き出す力を十分に発揮するものでなければならない。

毎日新聞 2009年12月02日

デフレ・円高対策 日銀は動いたけれど

日銀が臨時の政策決定会合を開き、金融緩和を一段と強化した。鳩山由紀夫首相と白川方明総裁の会談前に、日銀として追加対策を表明することで、政府と歩調を合わせる姿勢をアピールしたかったのだろう。

これまで「景気は持ち直しを続け、物価の下落幅も縮小していく」と説明してきた日銀である。その日銀の白川総裁が11月30日に「デフレ」という表現を突然用い、翌1日には政策委員会が追加緩和策を決めたことは急な方針転換にも見える。

日銀によると、「ドバイショック」に端を発した市場の動揺や円高が背景にあるという。ようやく持ち直してきた日本経済が、円高で再び萎縮(いしゅく)したりしないよう、政府が近くまとめる追加景気対策とタイミングを合わせて金融緩和を強化した。

翌日に返済する、借入期間が極端に短い資金に適用してきた年0・1%という超低金利を、銀行が3カ月間借りる場合にもあてはめ、10兆円規模の資金を市場に供給する。期間がより長い資金の金利を下げることで、銀行の貸し出しを増やす効果などを期待している。

今のように市場が過敏に反応しがちな状況で、政府と日銀の足並みが乱れれば、無用な混乱を生みかねない。両者が政策の総動員をアピールすることはそれなりに評価できる。

ただ、現在、起きているドル安(円高)や物価の下落は、目先の“対策”ですぐに解決できるようなものではない。長期的に取り組まねばならない根深い問題だ。政府は「ドバイショック」や「デフレ」「円高」をことさら強調し、それを口実に、財政健全化など取り組むべき長期的課題を棚上げするようではいけない。日銀に国債買い取りを迫り、国の借金をどんどん増やすなど論外だ。

白川総裁は、これまで超低金利の長期化がもたらす弊害にも注意を喚起してきた。その問題意識は今後も維持してほしい。今回のドバイショックで新興国への資金流入は一時的に減速するだろうが、超低金利の国で資金を借り、それを金利が比較的高い国や金、原油などに投資する動きは基本的に続くだろう。これが行き過ぎるとまたバブルだ。いつまでも過度な金融緩和に頼り続ける危険性を熟知している白川総裁は、政府や他国の中央銀行にもそれを十分、伝えねばならない。

鳩山首相と白川総裁には、足元の市場動向だけでなく、日本経済が抱える中長期的な課題について深い議論を望みたい。その場しのぎの対策の連発ではなく、潜在成長力の高い技術やサービスに資金が回り、リスクを果敢にとって新規事業を開拓する起業家が大勢出てくるような戦略が求められている。

読売新聞 2009年12月02日

量的金融緩和 日銀がデフレ退治に動いた

デフレ退治のため、日銀が新たな量的金融緩和策に踏み切った。

日銀は1日、金融政策決定会合を臨時に開き、0・1%の超低利で、返済期間3か月の資金を金融機関に供給する新たな金融緩和策の導入を決めた。

2日に予定される鳩山首相と白川日銀総裁の会談を前に、日銀として追加策を取りまとめ、政府と一体となってデフレ解消に取り組む姿勢を打ち出したものだ。

日銀は、今後も政府と連携を強め、デフレと不況が同時に進むデフレスパイラルの防止に全力を挙げてもらいたい。

資金供給は今月上旬から週8000億円のペースで実施し、3か月後に残高を約10兆円に積み上げる。必要に応じて上積みする。

白川総裁は記者会見で、今回の措置を「広い意味での量的緩和」と認めた。短期金利を0・1%に誘導する現行の政策より、幅広い緩和効果が期待できるという。

日銀は、中東ドバイの信用不安による国際金融市場の動揺や、急速な円高に対応するため、金融緩和の強化が必要と判断した。

政府もすでにデフレを宣言し、円高対策も含めた追加景気対策を今週中にもまとめる方針だ。

日銀が定例会合を待たず、機動的に追加策を打ち出したのは適切な判断だ。一段の金利低下は、円高の改善も後押ししよう。

ただ、日銀が企業金融支援の一部を打ち切る「引き締め策」を10月末に決めたのは残念だった。

わずか1か月後の今回の緩和措置に、日銀の真意が理解できないという人も多いのではないか。日銀はデフレ解消まで緩和を続けることを丁寧に説明すべきだ。

むろんデフレ対策は、金融緩和だけで十分とは言えない。

景気は、省エネ家電のエコポイントなど消費刺激策で持ち直しつつあるが、政府が公共事業の一部を凍結した悪影響などが心配だ。来年度予算の編成が遅れる事態は厳に避けるべきだ。

財政は危機的だ。だが今は、ある程度の国債を増発してでも、景気浮揚効果の高い事業に予算を重点配分することも必要だろう。

ただし、国債増発で長期金利が急上昇すれば、景気への悪影響は大きい。日銀が国債買い入れ額をさらに増やすなど、財政を側面支援することが求められよう。

円高は輸出企業に打撃を与え、景気を悪化させる。同時に輸入品の物価が下がり、デフレ圧力も高まる。政府は円高阻止の決意を明確に示すべきだ。

産経新聞 2009年12月03日

鳩山・白川会談 市場の不信感を払拭せよ

鳩山由紀夫首相と白川方明日銀総裁が会談し、「デフレ脱却に向け協調して対応していく」との認識で一致した。急激に進む円高・株安で日本経済が「二番底」に陥るのを回避するため、政府・日銀の一体感をアピールしたかったようだ。

会談後、首相は「互いの認識の共有の中で努力していく」と語ったものの、明確なメッセージは出ずじまいだった。市場は会談の中身を注目していただけに、「結局は形式にすぎなかった」との印象を与えてしまったのは否めない。

急激な円高は、米欧の金融機関が抱える不良債権問題の解決が遅れていることが根っこにある。とはいえ、鳩山政権の政策運営に対する不信感も背景にあることを忘れてはならない。財政悪化や成長戦略の欠如に市場は日本経済の行方を不安視しているのだ。

鳩山政権は麻生太郎前政権の財政健全化目標を放棄し、今年度2次補正予算、来年度予算の編成では赤字国債の増発が避けられない見通しだ。来年度の国債発行額を44兆円以下に抑えるとする公約も守られそうにない。

鳩山政権は子ども手当や高速道路無料化など財政悪化を招く政策を掲げた上、2次補正の財源を捻出(ねんしゅつ)するため、政権発足後、今年度1次補正を見直し、かなりの執行を停止した。それが経済を下押しする結果になった。閣僚の発言の不一致も目立つ。そうした政策運営が市場の不信を募らせる。

政府は2次補正予算に反映させる経済対策の規模について、1次補正を見直して捻出した2・7兆円からさらに上積みし、「真水」で4兆円規模とする方向だ。その中身として、中小企業の資金繰り支援策、省エネ家電普及のためのエコポイント制度の継続などが挙がっているが、市場は即効性が期待できないとみている。

日銀は、政府の経済対策と歩調をあわせて、会談の前日に短期市場への10兆円規模の新たな資金供給策を発表した。だが市場には「デフレや円高に対応するには物足りない」との見方が広がっており、政策意図をきちんと説明する必要がある。

政府・日銀は密に連携し、常に経済悪化に歯止めをかける姿勢を示すことだ。それなのにいまだに政府・日銀の定期協議の場が設置されていない。市場や国民に安心感を与えることがなにより肝要だと認識してほしい。

朝日新聞 2009年11月28日

円高ドル安 市場介入をためらうな

デフレ不況にあえぐ日本経済に円急騰の衝撃が走った。きのうの外国為替市場で一時、1ドル=84円台まで円が買われ、95年7月以来、14年4カ月ぶりの水準となった。

国内の輸出企業が想定する水準や、経済の実態から見れば急激すぎる。放置すれば、景気が「二番底」に陥ったり、デフレが深刻化したりする恐れが強い。政府・日銀は米国などと連携し、断固たる態度で市場の投機的な動きを封じるべきだ。

今回の円高は、世界的なドル急落の一面である。巨額の財政出動と超金融緩和で再生を目指す米経済だが、景気が再び悪化する懸念がある。超低金利が長引くと見込まれるため、対米投資の魅力は薄れ、世界のマネーのドル離れはやみそうにない。

そんな中、連邦準備制度理事会(FRB)が公開した金融政策決定の会議の議事録に、当局がドル安を容認していると読めるくだりが見つかり、投機的な動きに火がついた。

さらに、中東のドバイで不動産バブル崩壊の懸念が再燃し、関係の深い欧州の金融機関の信用に影が差した。マネーはユーロからも逃げ口を求め、円相場の急騰につながった。

円買いの思惑と投機の連鎖が起きている理由は、日本側にもある。鳩山政権が「内需主導の景気回復」という路線にこだわるあまり、「輸出支援と受け取られかねない為替介入を忌避しているのではないか」といった見方が市場関係者の間に広くある。

「日本政府は市場に介入しない」という推測が投機を勢いづけ、異常な円高を助長した面は否定できない。この空気を変えなければならない。

G20で合意した世界経済の回復シナリオは、為替相場の安定を暗黙の前提としていた。今、それが大きく揺らいでいる。米国はガイトナー財務長官が「強いドルは重要」と繰り返すが、本音では米国からの輸出を増やすドル安を歓迎している、と見透かされている。人民元の対ドル相場を固定している中国も同様だ。

一方、欧州連合(EU)はこの状況に不安をつのらせ、人民元切り上げへの圧力を強めつつある。

80年前の世界大恐慌では、各国の通貨切り下げ競争が世界経済の不毛な疲弊を招いた。その教訓を生かし、各国は財政金融政策の協調で一定の成果をあげてきたが、ここは為替相場、とくにドルの安定が重要だという強いメッセージを共同で出すべきだ。

米国はドル急落を放置してはならないし、日米とも為替市場への介入をためらうべきではない。

円の短期市場金利がドルより高いことも、円買いを助長している。日銀はデフレ下の円急騰という事態を直視し、金融緩和を徹底する必要がある。

毎日新聞 2009年12月01日

追加の経済対策 菅国家戦略相の仕事だ

鳩山由紀夫首相の指示で、政府は2次補正予算案に円高や株安の対策を追加する。菅直人副総理兼国家戦略担当相は「一つのメッセージとして、1次補正で凍結した範囲を超えても対応していこうという姿勢で一致している」と予算規模を2兆7000億円から上積みする方針を示した。また、鳩山首相と白川方明日銀総裁が近く経済運営について意見交換する。

先週26日からのドル安・円高と株価下落による不安心理を受けて何らかの対応をとろうとし、日銀との連携も密にしようとしているスピード感と姿勢は評価できる。

ただし、現在の円高と株安には冷静な分析も必要だ。この円高は、世界の通貨で比較的安全とみられた円への資金移動であって、日本(円)が売られる最悪の事態ではない。株安は、銀行や電機などで大型増資の発表が相次ぎ、増資で1株当たり利益が薄まるのを嫌気したのが発端だ。「日本株だけが取り残されている」との声もあるが、ドルに換算すれば、つまり海外の投資家から見れば、日本株は安く放置されてはいない。

だから何もしなくていいとは言わないが、こうした面も説いて目先の「上がった」「下がった」でドタバタしないように呼びかけるのも、政府の役目ではないか。従って、政府の対策も輸出企業へのセーフティーネット(安全網)構築などといったドタバタしたものでは困る。

外為や株式の市場関係者が疑問に感じ、あるいはつけ込むスキと思っているのは新政権の経済運営が見えにくいことだ。国民の多くも、それが不安だろう。個々の政策や政策手法にはかつてない大胆さがあり、共感を生むものがあるが、体系化されておらず大きな骨組みが見えてこない。「コンクリートから人へ」「外需から内需への転換」のスローガンは聞こえるが、具体化した政策はダム建設中止と子ども手当創設くらいしか思い浮かばない。環境税創設の一方で、高速道路無料化といったちぐはぐさの方が目につく。

政府に求めたいのは今の円高や株価への対策ではなく、目先の市場動向で揺らいでしまうほど、脆弱(ぜいじゃく)になった経済を再構築する取り組みだ。デフレ対策とも重なるし、日本経済の実力を強化する中長期の仕事になる。2次補正予算編成から、それを始めなくてはならない。

ここは経済運営の司令塔である国家戦略室の真価が問われる時ではないか。見た目で支持された「事業仕分け」とは違って、市場や国民に意図や戦略がきちんと届き、消化されなくてはいけない。政権発足以来、存在感の薄かった菅副総理の手腕がまさに試される。

読売新聞 2009年11月27日

円急騰 ドル離れ進む世界の投資資金

外国為替市場で、ドル離れが加速し、円が急騰した。足元が不安定な日本の景気回復に打撃を与えかねない事態だ。

26日の東京市場の円相場は、1ドル=86円台をつけ、約14年ぶりの円高水準になった。ドルは、ユーロや新興国通貨などに対しても値下がりし、「ドル全面安」の状況を呈している。

藤井財務相は、相場が異常に動いた場合には、円売り介入する考えを示唆した。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長も先日、「ドル相場を監視する」と発言し、急激なドル安を牽制(けんせい)したばかりだ。

ドル売り圧力は強く、円高・ドル安傾向が続くとみられる。日米などの通貨当局が、市場介入の可能性も探りながら連携し、過度な変動を抑える必要があろう。

ドル安が進んでいる最大の要因は、米国の景気回復の足取りが重く、超低金利政策が長期化すると予想されているためだ。

米国の失業率は10%台に上昇し、まさに「雇用なき景気回復」だ。輸出拡大による景気テコ入れを狙い、米当局が本音では、緩やかなドル安を容認している、との観測も背景にある。

さらに厄介なのは、低金利のドルを売って、高金利通貨などに投資する「ドルキャリー取引」が活発化している問題だ。

2004~07年ごろに目立った「円キャリー取引」に代わり、今回はドルが、世界のマネーの動きを揺さぶっている。

金の価格が史上最高値の1トロイ・オンス=1200ドル近くに急騰した。ドルの「代替通貨」として買われており、ドル離れを示すものだ。投資資金の流入で、原油や穀物価格も上昇している。

急激な円高・ドル安は、デフレに陥り、本格的な景気回復が遅れている日本経済にとって、特に重荷になるだろう。

輸出企業の多くは、今年度下期に1ドル=90円程度の円相場を想定しており、急激な円高・ドル安が続けば、業績には大きな打撃だ。牽引役である企業の体力が弱れば、景気も腰折れしかねない。

ユーロの急騰は、欧州経済の本格回復にも悪影響を及ぼす。ドル離れした投資資金が流入しているブラジルなどの新興国では、バブル経済を懸念する声もある。

結局、世界経済を混乱させるドル安に歯止めをかけるには、米国が「雇用なき景気回復」を脱却し、ドルの信認を取り戻すことが肝要だ。効果的な雇用対策の実施が急務といえよう。

産経新聞 2009年12月02日

追加金融緩和 二番底回避は政府の責任

日銀は臨時の政策決定会合を開き、金融市場に潤沢な資金を供給する新金融緩和措置を決めた。急激な円高と株安が企業心理などを通じて実体経済に悪影響を及ぼす懸念があると判断した。

これまでの日銀の対応には批判もあったが、機動的な措置と受け止めたい。次は政府が行動する番だ。鳩山由紀夫首相は閣議で2次補正予算に盛り込む経済対策の基本方針を決めたが、その効果は未知数だ。「二番底」に落ち込むのを避けるために、日銀の対応と相乗効果を発揮できる具体的政策を打ち出してほしい。

今回の緩和措置は国債や社債、コマーシャルペーパー(CP)など幅広い証券を担保に、金融機関に対して0・1%の固定金利で3カ月間貸し出す制度だ。何度でも借り換えが可能という。

日銀はすでに銀行間取引の目標となる政策金利を0・1%にまで下げており、金利調節面での緩和余力がない。そこで短期金融市場における金利のさらなる低下を促すことを目的に新たな資金供給手段を設けた。

今後、週に1回程度ずつ、8000億円前後の資金供給を行うという。当面10兆円の供給目標を掲げたが、需要次第で増額も検討し期限は設けない。

日銀は企業の資金繰り対策として、企業債務の範囲内で資金を無制限に貸し出す「企業支援特別オペ」を実施しているが、社債やCP市場が安定してきたとの理由で来年3月末で停止する。これに対し、政府や経済界が批判を強めたことも今回の緩和措置を促す要因になった。

経済をデフレから脱却させ、物価安定の下で持続的成長を可能にするのが日銀と政府に課せられた責務だ。日銀は「デフレ」の認識でやっと政府と歩調を合わせた。これから市場が注視するのは政府の対策だ。にもかかわらず、鳩山政権の経済対策には需要を創出するのに必要な成長戦略が明確でなく、加えて主要閣僚の見解もバラバラに迷走してきた。

この点を鳩山首相は強く反省し、性根を据えて円高・株安への緊急対策とデフレに対応する中長期対策に取り組む必要がある。

首相は2日に白川方明日銀総裁と会談する。市場と国民を納得させる明確なメッセージを期待したい。戦略不在の鳩山政権に対する市場の不信感は「頂点に達しつつある」と認識すべきだ。

毎日新聞 2009年11月28日

ドル安・円高 協調で通貨危機回避を

外国為替市場で円高の勢いが強まっている。この3日間で、円は米ドルに対し一時、3円以上も値上がりした。急激な円高に見えるが、ドル売りが進行した結果で、日本国内というより、米国など海外に起因する不安が背景にある。日本単独で流れを変えることは現実には難しそうだ。ドルの暴落など新たな金融危機に火が付くようなことのないよう、日、米、欧州、そして中国を含む主要国の協調が求められる。

このところのドル下落を招いた最大の要因は、米国の超低金利だ。連邦準備制度理事会(FRB)は、事実上のゼロ金利を長期間、続ける姿勢を明確にした。ドルを安いコストで借り、金利の高い国の通貨や資産に投資する取引が活発になった。これがドル安をもたらし、ドル安はさらにこうした取引を促進した。

米政府やFRBがドル安を容認していると見られていることも、ドル売りへの安心感につながっている。

円以外のアジア通貨や豪ドルなどの上昇が目立っていたのだが、ここへきて中東発金融不安が表面化した。アラブ首長国連邦のドバイ首長国が持つ政府系投資会社が巨額な借金の返済不能に陥る可能性が露呈したのである。市場では、リスクの高い資産を手放す動きが一気に強まり、金や相対的に安全と見なされた円が集中して買われた。

円高は必ずしも悪いことばかりではない。輸入品の値下がりによる恩恵が受けられるし、海外旅行も割安になる。外国の企業も買収しやすくなる。しかし、急激な変動やそれによる市場の混乱は、世界経済を再び危機に突き落としかねない。

そこで、当局による為替市場への介入が注目されているわけだが、日本の単独介入では、一時的な抑制効果しか期待できそうにない。米国が静観するようならドル売りにますます拍車がかかる恐れもある。

米国はドル安を通じて輸出を増やし、雇用創出につなげたいのだろう。だが、大型景気対策で膨らんだ借金は中国や日本など外国勢が支えている。大幅なドル安により保有する米国債の値打ちが急減する恐れが出てくれば、貸手国と米国との間に政治的緊張が高まる。

ドバイ問題は情報不足もあり先を見通しにくい。一方、米国では、ドルに対して人民元相場を事実上固定している中国への批判が高まる一方だ。市場が神経質になっているだけに、主要国の政府は発言や対策に細心の注意を払わねばならない。自国さえよければ、の発想で政策対応を進めると、市場を思わぬ大混乱に陥れかねない。

そうなればどの国も打撃を受けよう。主要国の緊密な情報交換や連携が今まで以上に求められている。

産経新聞 2009年12月01日

円高・株安対策 バラバラな方針の是正を

急激な円高と株安が止まらず、日本経済に対する危機感が高まっている。鳩山由紀夫首相は主要閣僚との緊急協議に続き、1日に白川方明日銀総裁と会談する。

経済は世界同時不況から立ち直りつつあるが、自律的回復力は弱く、鳩山政権の対応は迷走を続けてきた。このままではデフレは加速し、輸出企業の採算も悪化、「二番底」のシナリオが現実になりかねない。

日銀総裁との会談では円高とデフレの抑止に向け、断固としたメッセージを示してほしい。

主要閣僚協議では、2次補正予算案について当初想定していた2・7兆円から上積みし、円高や株安に対応した経済対策を新たに盛り込む方針を決めた。

企業の資金繰り対策としての緊急保証制度の延長や保証枠の数兆円規模の拡大などだ。これまで鳩山政権が示す景気対策といえば、「雇用、環境、子供」、さらには中小企業向け融資や住宅ローンの返済猶予だった。それでは抜本的な円高、株安対策にはならない。まして中長期を見据えた成長戦略にもならない。ようやく現実の危機を認識したようだ。

緊急保証制度拡充はよいが、今年3月に再開された「銀行等保有株式取得機構」の機能拡充も考えていい。機構は銀行と企業の持ち合い株を公的資金で買い取る目的で設立された。購入対象を流通している株式など有価証券全般に広げる案も検討すべきだ。

ただ藤井裕久財務相が円高について「介入はあり得ない」と語ったり、亀井静香金融相は補正予算の大幅増額を主張するなど、主要閣僚の見解はバラバラで統一した政府方針が見えない。国民が経済の先行きに最も不安を覚えるのはこの点だ。

日銀の役割も重要だ。日銀はこれまで今の物価下落を「デフレ」と表現してこなかったが、初めてデフレと認め、政府と歩調を合わせた。物価下落が続く中での円急騰という現実を直視し、金融緩和の徹底を図ってもらいたい。市場の動向次第で年末で「停止」との判断を示している社債買い取りの延長など非伝統的な手法による緩和をためらってはならない。

政府の明確な経済政策が示されなければ、市場は判断できない。政府・日銀は口先だけではない裏付けとなる政策を示してこそ、市場の信認が得られることを肝に銘じるべきだ。

産経新聞 2009年11月28日

円高進行 協調して行き過ぎ止めよ

円高が加速し、27日の東京市場では一時、1ドル=84円台まで円高ドル安が進んだ。「二番底」に落ち込む懸念がある日本経済にとって打撃が大きい。鳩山由紀夫政権は為替の安定に向けて、米欧当局に対して積極的に協調体制を働きかけるなど政策運営に万全を期してほしい。

14年ぶりの水準となる今回の円高は、米国の低金利が長期化するとの見通しからドルが売り込まれ、円が買われたことが要因だ。中東のドバイ首長国の政府系企業が債務返済猶予を求めた「ドバイ・ショック」も欧米の金融市場を直撃し、投資資金が、比較的安全とされる円に流れ込んだことも円高に拍車をかけた。

さらにデフレ下の日本の金利が米国より相対的に上昇し、日米の実質金利が逆転したことも響いている。政府と日銀は、景気認識をめぐる違いが取りざたされる。今月中にも開く予定だった定期協議もいまだに開かれていない。

円高を阻止するためにも、デフレ脱却に向けて危機感を共有しなければならない。双方の努力を求めたい。

日本の輸出企業の想定為替レートは1ドル=94円程度に設定されている。これを大幅に上回る円高は企業業績を押し下げる。

昨年9月のリーマン・ショックから脱し切れていない日本企業にとって、こうした急激な円高進行は深刻だ。27日の日経平均株価も円高を嫌って300円も値を下げるなど、市場全体に影を投げかけている。

金融市場がいまだ不安定な米国は、景気回復に向けて自国の輸出増につながる緩やかなドル安を望んでいる、との観測もある。しかし、信用不安につながるような急激なドル安は米国としても回避したいはずだ。ここは日米欧の当局が連携して、「急激な変動には協調介入を含めた断固とした措置を講じる」との明確なメッセージを為替市場に送る必要がある。

藤井裕久財務相は「無秩序な動きには適切に対応を取る」と市場介入を示唆した。しかし、藤井氏は就任当初、為替介入に対して否定的な考えを表明し、その発言で円高が進んだ経緯がある。

民主党の経済政策は輸出よりも内需の拡大に重点を置く。だがさらなる円高は輸出企業の根幹を揺るがすものとなる。それを回避するためには単独でも市場介入に踏み切る決断を行うべきだ。

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