自公連立合意 危機突破へ実行力みたい

朝日新聞 2012年12月24日

原発・エネルギー政策 「変わった」自民を見せよ

「原発ゼロは無責任」と主張する自民党の安倍総裁が、まもなく首相に就任する。

自民党は連立に向けた政策協議で、「可能な限り速やかにゼロ」とする公明党に配慮し、原発依存度を下げることで合意した。しかし、安倍氏が新増設に含みをもたせるなど、真意は不透明だ。

福島は、今も苦しみの中にある。どこかで再び事故が起きれば日本は立ちゆかない。だから朝日新聞は、将来的に原発をゼロにすべきだと主張してきた。

すでに、安全性を重視した新たな枠組みとして原子力規制委員会が発足し、複数の原発で活断層の存在を確認しつつある。

「原発推進ありき」で規制を甘くし、電力業界の利益保護を優先させてきた、かつての自民党政治にはもはや戻れない。

衆院選の大勝を受け、石破幹事長は「(原発政策を時間をかけて検討するという公約が)支持された」という。

だが、朝日新聞の選挙後の世論調査では、自民党が10年以内に判断するとしていることについて「評価する」は37%、「評価しない」が46%だった。

原発政策の決定を先送りしていては、代替エネルギーに必要な投資も新規参入も進まない。地域独占に守られた電力システムの改革も待ったなしだ。

政策決定のあり方では、民主党政権が新たな境地を開いた面がある。生かすべきところは継承すべきだ。

新政権は、民主党政権が設けたエネルギー・環境会議や国家戦略室を廃し、新たな経済財政政策の司令塔として「日本経済再生本部」を置く。原発政策は経済産業相の諮問機関である総合エネルギー調査会に委ねる雲行きだ。

しかし、原発事故後、エネルギー政策は単なる経済政策ではなくなった。被害にあった住民や地域の救済、温暖化防止などの環境問題、核不拡散をめぐる安全保障外交との兼ね合いが問われる。

原発の推進と規制を兼ねてきた経産省と資源エネルギー庁への国民の不信は根強い。環境省や文部科学省、外務省なども束ね、縦割りを防いで指示や相互調整ができる担当大臣と事務局を設ける必要がある。

政策の決定過程を透明化し、議論が偏ったり二項対立に陥ったりすることがないよう、随所で専門家や第三者による検証を重ねることも重要だ。

民主党政権では、電源ごとの発電コストや電力需給の見通しについて、専門家による検証委員会を設け、議論の土台となる客観的なデータを整えた。

今後は代替エネルギーへの投資や廃炉にかかる費用、立地自治体への支援など「脱原発コスト」の比較検証も必要になってくる。圧倒的に多くのデータをもっている電力会社が情報を恣意(しい)的に操作しないよう、監視する役割も必要だ。

「討論型世論調査」のように国民が政策決定に具体的に関わる手立てもぜひ継続してもらいたい。複雑な問題を「お任せ」にせず、自ら学び、意見をかわす場をつくることが、最終的には政策への理解や政治への信頼回復へとつながるからだ。

エネルギーに関するさまざまな議論の場を公開とし、ネット中継などで広く国民に開放することは言うまでもない。

こうした基盤を整えたうえで急ぐべきは民主党が積み残した課題である。

賠償や除染に対する国の責任の明確化であり、使用済み核燃料の再処理をめぐる問題だ。

巨額の賠償費用に加え、10兆円以上ともいわれる除染費用を東京電力だけに負わせる今の仕組みは早晩、破綻(はたん)する。

国有化でようやく緒についた改革機運を維持しつつ、東電処理を根本からやり直すことが急務だ。国策民営で原発を推進してきた責任を明らかにし、どう費用を負担するか、再検討しなければならない。

東電支援のための原子力損害賠償支援機構法が昨年8月に成立した際、付帯決議が盛り込まれた。同法を1年後、原発事故の賠償を原則的に事業者に負わせる原子力損害賠償法は2年後をめどに見直すとする内容だった。主導したのは、野党だった自公である。

破綻(はたん)しているのは、核燃料サイクル政策も同様だ。国内で技術を確立できないまま、膨大な国費がつぎこまれている。

原発を減らしていけば、使用済み核燃料を再利用する必要性も薄れる。早期廃止を決め、限りある財源を別の政策や立地自治体の立て直しに振り替えるのが、現実的な政策だ。

使用済み燃料を保管する場所の確保や、放射性廃棄物の最終処分地の選定も、国が主体となって仕切り直すしかない。

3年あまりの野党時代を経て「変わった」自民党を、ぜひ見せてほしい。

毎日新聞 2012年12月28日

原発ゼロ見直し 議論を白紙に戻すな

原発新増設について、茂木敏充経済産業相が「専門的知見を十分蓄積したうえで政治判断していきたい」との考えを明らかにした。新増設を認めないとした民主党政権の方針を白紙に戻し、今後、建設を認める可能性を示したものだ。茂木経産相は「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」という旧政権の方針も、見直しを明言している。

これでは、「可能な限り原発依存度を減らす」という自民・公明両党による連立合意の実現を目指しているとは到底、思えない。

そもそも総選挙で自民は、エネルギー政策について「10年以内に持続可能な電源構成を決める」と訴えるにとどめ、中長期的な原発の取り扱いを明示していなかった。選挙で大勝したことを錦の御旗(みはた)にして、直ちに新増設の検討を始めるとなれば、衣の下から「原発推進」というよろいが透けて見えてくる。それでは、原発からの脱却を求める国民の声に逆行することになるだろう。

東京電力福島第1原発の事故は、ひとたび過酷事故が起きた時の影響の大きさと地震国日本に原発があることの危うさ、原発安全規制行政のずさんさを明らかにした。

だからこそ、今夏に実施された国民からの意見聴取会や「討論型世論調査」で「原発比率ゼロ」を求める支持者が最も多くなったのであり、自民を含め選挙で原発推進を掲げた主要政党がなかったのではないか。これまでの議論の積み重ねを無視して、新増設に踏み出すようなことがあってはならない。公明が「(新増設は)国民の理解が得られない」と懸念するのはもっともだ。

当面は、既存原発の再稼働が焦点となるだろう。安倍政権は、原子力規制委員会で安全性が確認された原発については政府の責任で再稼働を進める意向だが、簡単ではない。

規制委は来年7月までに新たな安全基準を策定するが、地震や津波対策の強化に加え、福島原発事故のような過酷事故対策も義務付けられる。追加対策には一定の時間がかかるし、基準を満たすことができずに廃炉を迫られる原発も出てくることだろう。

規制委が進める原発敷地内の活断層再調査でも、電力会社のこれまでの調査や規制当局の安全審査に疑問符が付いている。Jパワー(電源開発)の大間原発(青森県)建設再開に、対岸の北海道函館市が反対するなど、地元理解の得方についても検討が必要だ。新政権の思い通りに再稼働が進むか見通せない状況だ。

新政権は短期的にも、中長期的にも、原発頼みに陥ることのないエネルギー政策に向き合うことが、必然として求められることになる。

読売新聞 2012年12月26日

自公連立合意 TPP先送りなら国益損ねる

国益を本当に重視するなら、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する決断を先送りしてはなるまい。

自民党の安倍総裁と公明党の山口代表が会談し、景気・経済対策、外交安保など8項目の連立政権合意書に署名した。

合意書は、「自由貿易をこれまで以上に推進する」としたうえ、TPPについて「国益にかなう最善の道を求める」と明記した。

先の衆院選政権公約は、自民党が「聖域なき関税撤廃が前提なら反対」、公明党も「(国会で)十分審議できる環境をつくる」と、いずれも慎重だった。連立合意は、TPP交渉参加に含みを持たせたのであれば、前向きな動きだ。

米豪など11か国は、来年中のTPP交渉の妥結を目指している。日本は参加に踏み切れず、カナダ、メキシコにも後れをとった。

自由貿易を通じた経済成長にも日米同盟の強化にも、TPP参加は有力な手段となるはずだ。

自民党内では、来年初めの首相訪米時の参加表明を求める積極論がある一方で、農業票の離反を恐れて来夏の参院選後に決断を先送りする慎重論も根強い。

参院選前は「安全運転」に徹したい事情は理解できるが、交渉参加を遅らせる不作為は、日本の主張を貿易・投資ルールに盛り込む余地を狭め、結果的に国益を損ねることを忘れてはならない。

通商協定では、国益に反すると判断すれば、交渉過程で離脱することも、最終的に国会で承認しない選択もあり得る。交渉前から、悪いシナリオばかりを想定するのは建設的ではない。まずは早期に交渉参加を表明すべきだ。

連立合意は、消費税率引き上げ時の低所得者対策として、食料品などの軽減税率の導入を検討することを盛り込んだ。自民党が公明党に歩み寄ったものだ。

軽減税率は、民主党政権が主張する給付付き税額控除よりも簡明で、分かりやすい。新聞や書籍を対象とすれば、知的文化を守ることにつながる。対象品目の線引きなどの課題は、自公両党が十分協議し、克服してもらいたい。

原発政策は、公明党が公約に掲げた「原発ゼロ」を採用せず、「原発依存度を減らす」との表現で当面の活用をうたった。安全が確認された原発の再稼働も容認し、現実的な内容と評価できる。

安倍氏は、原発新設を認めない民主党政権の方針を見直す考えも示している。経済・雇用への悪影響を最小限に抑えることと、原発の安全確保との両立が大切だ。

産経新聞 2012年12月28日

「原発ゼロ」転換 現実的な判断を歓迎する

政権交代に伴う現実的な政策転換として、歓迎したい。茂木敏充経済産業相が、野田佳彦前政権の「原発ゼロ」方針を見直す意向を表明したことである。

代替エネルギーの見通しもないまま打ち出された無責任な目標だっただけに、見直しは当然だ。安定的な電力供給は社会や経済発展の基盤であり、安倍晋三内閣は安全性が確認された原発について、早期の再稼働も主導しなければならない。

原発について、民主党政権は「2030年代に稼働をゼロにする」方針だった。これに対し自民、公明両党は政権合意の中で「可能な限り原発依存度を減らす」としている。

茂木氏は、中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」をこれからまとめる中で、「原発ゼロ目標の再検討が必要」と述べた。電力の安定供給に責任を持つ立場の経産相として、現実的かつ妥当な判断だ。

「脱原発」など一時的なムードに流されることなく、資源小国に最もふさわしい電源構成の議論を進めるべきだ。

茂木氏は、原子力規制委員会が安全性を確認した原発について「政府の責任において再稼働する」とも言明した。民主党政権では原発再稼働をめぐって、規制委と政府のどちらが判断主体となるかがはっきりせず、責任を押し付け合う構図が続いていた。

原発が立地する地元自治体の同意取り付けを含め、政府が最終的な責任を持って再稼働を判断しなければならない。茂木氏は自ら早期再稼働に当たってほしい。

電力各社は原発に代えて火力発電をフル稼働させており、燃料代も上昇している。関西電力や九州電力が値上げ申請したが、原発再稼働が遅れれば、それだけ追加的な値上げが避けられない。日本経済に与える打撃も大きい。

原子力規制委は来夏に新たな安全基準を策定するが、政府はその前倒しや原発の新増設など、実効性のあるエネルギー政策を示してほしい。

民主党政権が進めてきた電力の自由化も、改めて検証が必要だ。競争を加速させて料金引き下げを促す政策は有効だが、現在のような電力不足の下で発送電を分離すれば、かえって料金の値上がりを招くとの指摘もある。慎重に対応すべきだ。

産経新聞 2012年12月26日

自公連立合意 危機突破へ実行力みたい

自民党の安倍晋三総裁が掲げる「危機突破」政権の党内布陣が決まり、自民、公明両党の連立政権合意がまとまった。

合意文書にはあいまいな部分も残るが、「原発ゼロ」を排して、「憲法改正」を明記するなど、日本の国益を踏まえた内容になっていることを評価したい。

内政外交にわたり日本の危機的状況は一段と深刻化している。安倍氏の使命は、その進行を食い止め、危機克服策を実行していくことにある。

参院のねじれを考えれば、自公連立、さらには民主党とも協力して具体的な成果を示していかなければならない。

安定的な政権運営が求められているが、その一方で憲法など戦後放置されてきたテーマにも取り組むことによって、「強い日本を取り戻す」とした姿勢を具現化する必要がある。

合意は「本格的な大型補正予算や来年度予算の編成・成立に万全を期す」としたほか、物価目標2%の設定や名目3%以上の経済成長実現を明記するなど、経済政策への積極的姿勢を示している。

原発・エネルギー政策では「原発ゼロ」を盛り込まず、省エネや再生可能エネルギーの導入、火力発電の効率化などで「可能な限り原発依存度を減らす」との表現に落ち着いた。原発の再稼働も容認する余地を残した。

新政権として、経済再生に不可欠な電力の安定確保に責任を持つべきだ。それがなければ、強い経済は実現できない。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)では「国益にかなう最善の道を求める」として、参加反対とはしなかった。国益を守るためにも、新たな自由貿易のルール作りに参加する決断が重要だ。

憲法については「憲法審査会の審議を促進し、憲法改正に向けた国民的な議論を深める」とした。安倍氏が目指している「衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成」という憲法96条の改正要件緩和も政治日程に乗せるべきだ。

一方、党三役人事で総務会長に野田聖子元郵政相、政調会長に高市早苗元沖縄北方担当相をそれぞれ起用した。

政権公約では女性の力を「成長戦略の原動力」と位置付けたが、党三役に女性2氏を抜擢(ばってき)したのは初めてだ。新しい自民党の姿をこれからも国民にみせてほしい。

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