自民圧勝 謙虚に政治の安定を

朝日新聞 2012年12月24日

原発・エネルギー政策 「変わった」自民を見せよ

「原発ゼロは無責任」と主張する自民党の安倍総裁が、まもなく首相に就任する。

自民党は連立に向けた政策協議で、「可能な限り速やかにゼロ」とする公明党に配慮し、原発依存度を下げることで合意した。しかし、安倍氏が新増設に含みをもたせるなど、真意は不透明だ。

福島は、今も苦しみの中にある。どこかで再び事故が起きれば日本は立ちゆかない。だから朝日新聞は、将来的に原発をゼロにすべきだと主張してきた。

すでに、安全性を重視した新たな枠組みとして原子力規制委員会が発足し、複数の原発で活断層の存在を確認しつつある。

「原発推進ありき」で規制を甘くし、電力業界の利益保護を優先させてきた、かつての自民党政治にはもはや戻れない。

衆院選の大勝を受け、石破幹事長は「(原発政策を時間をかけて検討するという公約が)支持された」という。

だが、朝日新聞の選挙後の世論調査では、自民党が10年以内に判断するとしていることについて「評価する」は37%、「評価しない」が46%だった。

原発政策の決定を先送りしていては、代替エネルギーに必要な投資も新規参入も進まない。地域独占に守られた電力システムの改革も待ったなしだ。

政策決定のあり方では、民主党政権が新たな境地を開いた面がある。生かすべきところは継承すべきだ。

新政権は、民主党政権が設けたエネルギー・環境会議や国家戦略室を廃し、新たな経済財政政策の司令塔として「日本経済再生本部」を置く。原発政策は経済産業相の諮問機関である総合エネルギー調査会に委ねる雲行きだ。

しかし、原発事故後、エネルギー政策は単なる経済政策ではなくなった。被害にあった住民や地域の救済、温暖化防止などの環境問題、核不拡散をめぐる安全保障外交との兼ね合いが問われる。

原発の推進と規制を兼ねてきた経産省と資源エネルギー庁への国民の不信は根強い。環境省や文部科学省、外務省なども束ね、縦割りを防いで指示や相互調整ができる担当大臣と事務局を設ける必要がある。

政策の決定過程を透明化し、議論が偏ったり二項対立に陥ったりすることがないよう、随所で専門家や第三者による検証を重ねることも重要だ。

民主党政権では、電源ごとの発電コストや電力需給の見通しについて、専門家による検証委員会を設け、議論の土台となる客観的なデータを整えた。

今後は代替エネルギーへの投資や廃炉にかかる費用、立地自治体への支援など「脱原発コスト」の比較検証も必要になってくる。圧倒的に多くのデータをもっている電力会社が情報を恣意(しい)的に操作しないよう、監視する役割も必要だ。

「討論型世論調査」のように国民が政策決定に具体的に関わる手立てもぜひ継続してもらいたい。複雑な問題を「お任せ」にせず、自ら学び、意見をかわす場をつくることが、最終的には政策への理解や政治への信頼回復へとつながるからだ。

エネルギーに関するさまざまな議論の場を公開とし、ネット中継などで広く国民に開放することは言うまでもない。

こうした基盤を整えたうえで急ぐべきは民主党が積み残した課題である。

賠償や除染に対する国の責任の明確化であり、使用済み核燃料の再処理をめぐる問題だ。

巨額の賠償費用に加え、10兆円以上ともいわれる除染費用を東京電力だけに負わせる今の仕組みは早晩、破綻(はたん)する。

国有化でようやく緒についた改革機運を維持しつつ、東電処理を根本からやり直すことが急務だ。国策民営で原発を推進してきた責任を明らかにし、どう費用を負担するか、再検討しなければならない。

東電支援のための原子力損害賠償支援機構法が昨年8月に成立した際、付帯決議が盛り込まれた。同法を1年後、原発事故の賠償を原則的に事業者に負わせる原子力損害賠償法は2年後をめどに見直すとする内容だった。主導したのは、野党だった自公である。

破綻(はたん)しているのは、核燃料サイクル政策も同様だ。国内で技術を確立できないまま、膨大な国費がつぎこまれている。

原発を減らしていけば、使用済み核燃料を再利用する必要性も薄れる。早期廃止を決め、限りある財源を別の政策や立地自治体の立て直しに振り替えるのが、現実的な政策だ。

使用済み燃料を保管する場所の確保や、放射性廃棄物の最終処分地の選定も、国が主体となって仕切り直すしかない。

3年あまりの野党時代を経て「変わった」自民党を、ぜひ見せてほしい。

毎日新聞 2012年12月19日

原発政策 震災前には戻れない

「原発ゼロ政策」を掲げた民主党が大敗し、これを「無責任」と批判してきた自民党が圧勝した。だからといって、震災前の原発依存社会に戻りたいと思う人はいないだろう。

そもそも、自民党も「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を公約に掲げている。連立を組む公明党が「可能な限り速やかな原発ゼロ」を掲げていることも軽視できない。

原発の過酷事故を踏まえ、国民の声を聞きつつ探ってきたエネルギー政策の方向転換を振り出しに戻してはいけない。原発事故の背景には自民党政権が進めてきた原発政策や規制の甘さもあった。新政権は、その反省を出発点に、原発からの脱却を求める国民の声に真摯(しんし)に向き合ってもらいたい。

自民党は公約で、「10年以内に持続可能な電源構成を確立」との方針を示している。問題は、原発比率の決定を10年も先送りにすることによって、投資や研究開発の方向性が定まらなくなることだ。「3年間、再生可能エネルギーの最大限の導入、省エネの最大限の推進」も掲げるが、行く手にどのような社会をめざすのかが描けないと、企業も国民も腰が引けてしまう。

現実的に考えれば、原発の再稼働が簡単に進むとは思えない。原子力規制委員会が進める活断層の再調査では、これまでの電力会社の調査や規制当局の審査の甘さが浮き彫りになった。全原発での見直しは避けられない。

規制委は、来夏までに新たな安全基準を策定する。既存の原発施設にも最新基準の適応を義務づける「バックフィット制度」も盛り込まれる。その結果、大規模な改造が求められる施設も出てくるだろう。原発の寿命を原則40年とする改正原子炉等規制法もないがしろにはできない。総合的に見て、原発が減り続けることは自明であり、脱依存を前提とした政策に向き合わねばならない。

規制委の厳しい判断に異論が出る恐れもあるが、自民党は「安全性については規制委の専門的判断に委ねる」と明言している。規制委を独立性の高い「3条委員会」にするよう求めたのは自民・公明両党であり、その独立性を侵害するようなことがあってはならない。

原発政策を考える上で避けて通れないのは使用済み核燃料を再処理して再び燃やす「核燃料サイクル」の扱いだ。自民党は決定を先延ばししているが、政策変更のハードルは先送りするほど高くなる。核燃料サイクルは行き詰まっており、公明党が掲げる「高速増殖炉もんじゅの廃止」などを足がかりに、サイクルからの脱却もめざしてもらいたい。

読売新聞 2012年12月18日

安倍政権へ始動 次の参院選まで息が抜けない

「決められない政治」と決別し、政策課題を前に進めてほしい。

自民党の安倍総裁は、この国民の期待を受け止めて、安定した政権運営を心がけてもらいたい。

安倍氏は、党役員人事で石破幹事長を留任させ、来夏の参院選の指揮を執らせる考えを示した。

自民、公明両党は衆院選で計325議席を獲得した。26日召集の特別国会で安倍氏が首相に指名されるが、衆参のねじれを解消しない限り、政治は安定しない。

参院選を「決勝戦」と位置付けて、その勝利を最重視する布陣の第一歩と言えよう。

安倍氏も認めるように、今回の自民党圧勝は「民主党よりはまし」という有権者の消極的な支持の結果だろう。自民党の比例選の得票率は27・6%で、大敗した前回の26・7%とほぼ同じだ。

参院で否決された法案を再可決できる衆院の3分の2以上の議席確保に慢心し、強引な国会運営や失政を重ねれば、参院選で厳しい審判を受けかねない。

安倍氏は、新内閣を「危機突破内閣」と位置付け、休眠状態にある政府の経済財政諮問会議を経済政策の司令塔として復活させる方針を示した。大型の今年度補正予算を編成する意向も表明した。

当面の最優先課題は、デフレからの早期脱却だ。再来年4月の消費税率8%への引き上げを予定通り実施するためにも、来年前半の景気回復が前提条件となる。

経済対策の充実により、景気をてこ入れするのは当然だが、公共事業や農業で旧来型のバラマキに逆戻りするのは避けるべきだ。

外交政策について、安倍氏は、来年1月下旬にも訪米し、民主党政権で混乱した日米関係の再構築に取り組む考えを強調した。

北東アジアの安全保障情勢が厳しい中、日米同盟の強化は急務だ。2006年以降、日本の首相が7年連続で交代することも日本外交にとって大きなマイナスであり、国際社会における存在感の低下に歯止めをかけねばならない。

安倍氏は18日に公明党の山口代表と会談し、連立政権の樹立を確認する。自公両党の政策協議では集団的自衛権や補正予算、原発政策などがテーマとなろう。

自民党が衆院選で集団的自衛権の行使を可能にする政府の憲法解釈の変更を訴えたのに対し、公明党は一貫して慎重な立場だ。

日米同盟の強化の観点からも行使を可能にすることが望ましいのは明らかだ。自民党は公明党を粘り強く説得することが大切だ。

産経新聞 2012年12月20日

エネルギー政策 「原発ゼロ」転換が急務だ

原発などのエネルギー政策をめぐる迷走に終止符を打つときである。

衆院選で、性急な「脱原発」は多くの支持を得られなかったといえる。来週発足予定の安倍晋三内閣は、民主党政権が決めた「2030年代に原発稼働ゼロ」にするというエネルギー戦略を直ちに転換し、実効ある政策に練り直す必要がある。

そのうえで、当面の電力不足を解消するため、安全性が確認された原発の再稼働を急がなければならない。原子力規制委員会も安全基準を早期にまとめ、政府が原発立地自治体の同意を含めて責任を持って再稼働を主導すべきだ。

野田佳彦民主党政権がこの9月に決定した革新的エネルギー・環境戦略は、30年代に稼働ゼロとする原発の代わりに、太陽光、風力などの再生可能エネルギーを拡大するとしている。

だが、政府試算では原発ゼロ実現のために必要な投資は、省エネを含め100兆円を超える。その場合、電力料金も現在の2倍超に上昇するなど国民生活や産業に大きな打撃を与えるのは確実だ。

民主党政権は、「原発ゼロ」戦略を前提に、将来の電源構成を定めるエネルギー基本計画や、再生エネの普及を図るグリーン政策大綱などを策定する予定だった。

新政権には、その前提を見直すことから始めてもらいたい。

自民党は衆院選の政権公約で、「10年以内に電源構成を決め」、3年内に全原発の再稼働の可否を判断するという、他党に比べれば現実的な選択肢を示している。

だが、今は、原発再稼働の遅れに伴う電力不足を補うため、火力発電の燃料費が年3兆円も余計に嵩(かさ)んでいる。再稼働の判断に時間をかける余裕はあまりない。

民主党政権は、再稼働判断を原子力規制委に丸投げするなど無責任な対応が目立った。それが原発立地に協力してきた地域の不信感を増幅したことは否めない。

失われた地元の信頼を回復し、政府自ら自治体の同意獲得をはじめ早期再稼働の先頭に立つことが、新政権の急務である。

原子力規制委は20日にも、東北電力の東通原発(青森県)の敷地内を通る破砕帯が活断層かどうかを判定する会合を開く。安全性の優先は当然とはいえ、拙速な判断だけは避けなければならない。最終的な評価は、科学的調査で幅広い知見を集めて下してほしい。

朝日新聞 2012年12月17日

自民大勝、安倍政権へ 地に足のついた政治を

またしても、小選挙区制のすさまじいまでの破壊力である。

総選挙は、自民、公明両党が参院で否決された法案を再可決できる320議席を確保する大勝となった。自民党の安倍総裁を首相に、3年ぶりに政権に返り咲く。

かたや民主党は衝撃的な大敗を喫した。退陣する野田首相は党代表の辞任も表明した。

勝者と敗者の議席差はあまりに大きい。だが、過去2回の総選挙のような熱気はない。

最大の理由は、3年前、政権交代を後押しした民意が民主党を拒み、行き場を失ったことだろう。「第三極」も幅広い民意の受け皿たりえなかった。

その結果、地域に基盤をもつ自民党が、小選挙区制の特性もあって相対的に押し上げられた。それが実態ではないか。

投票率は大きく下がった。世論調査での自民党の支持率も2割ほど。安倍氏は昨夜「自民党に100%信頼が戻ってきたわけではない」と語った。

安倍氏はそのことを忘れず、大勝におごらぬ謙虚な姿勢で政権運営にあたってほしい。

いま、何よりも求められるのは政治の安定である。

不毛な政争を繰り返した結果、わずか6年で6人の首相が辞める。まさに異常事態だ。

その間、経済も外交も有効な手を打てず、内外で「日本の衰退」が言われる。

第1院、第1党の党首が腰を据えて国政のかじを取る。そんな当たり前の政治を、今度こそ実現しなければならない。

安倍氏の責任は重大だ。前回、体調を崩したせいとはいえ、結果として1年ごとの首相交代の幕をひらいた。同じ轍(てつ)をふんではならない。

大事なのは、現実的で柔軟な政策の選択である。内政にせよ、外交にせよ、問題を一気に解決してくれる「特効薬」などあるはずがない。

自民党は公約の柱に経済再生を掲げた。国民もデフレ不況からの脱出を願っている。

日本銀行にお金をどんどん刷らせ、政府は公共事業を膨らませる。自民党はそう主張するが、懸念がある。行き過ぎたインフレや財政悪化を招く「副作用」はないのか。

尖閣諸島をめぐって、中国の理不尽な挑発行為が続く。北朝鮮による事実上のミサイル発射も、日本のナショナリズムを刺激した。日本の安全をどう守るのか、国民が関心をもつのは当然のことだ。

自民党の公約には強腰の項目が並ぶ。憲法を改正し自衛隊を国防軍に。集団的自衛権の行使を可能に。尖閣諸島に公務員を常駐させる。政府主催の「竹島の日」の式典を催す。

だが、それが本当に日本の安全につながるのか。

戦前の反省をふまえた、戦後日本の歩みを転換する。そうした見方が近隣国に広がれば、国益は損なわれよう。米国からも日本の「右傾化」への懸念が出ている折でもある。

課題は山積している。

社会保障と税の一体改革を前に進め、財政を再建する。震災復興や自然エネルギーの開発・普及を急ぎ、経済成長の道筋を描く。日米関係や、こじれた近隣外交を立て直す。

利害が錯綜(さくそう)する複雑な問題を調整し、ひとつひとつ答えを出す。いまの世代のみならず、将来世代にも責任をもつ。安倍氏に期待するのは、地に足のついた実行力にほかならない。

前回の安倍政権では靖国神社参拝を控え、村山談話や河野談話を踏襲して、日中関係を立て直した。そうした現実的な知恵と判断こそが重要である。

民主党をはじめ野党との信頼関係をどう築くかも、新政権の安定には欠かせない。

現状では、少なくとも来夏の参院選までは衆参の「ねじれ」が続く。安倍氏は自公連立を軸に、政策ごとに連携相手を探る構えだが、とりわけ参院で第1党の民主党の存在は重い。

まず民自公で合意した一体改革、さらに衆院の選挙制度改革をしっかり実行することだ。

民自公3党の間では、赤字国債発行法案を政争の具にしない合意もできた。この流れを逆もどりさせず、政党の枠を超え、協力すべきは協力する。そんな政治文化をつくりたい。

原発政策もしかり。総選挙では多くの政党が「脱原発」を主張した。自民党の公約は原発の将来像の判断を先送りしているが、安倍氏は「できるだけ原発に依存しない社会をつくる」と語る。少なくともその方向では、すべての政党が協力できるはずではないか。

もちろん、新政権が行き過ぎたりしないよう、野党がブレーキをかけるのは当然のことだ。与野党の不毛な対立を防ぐためにも、連立を組む公明党には政権の歯止め役を期待する。

民主党にも言っておきたい。

惨敗したとはいえ、これで政権交代が可能な政治をつくることの意義が損なわれたわけではない。自民党に失政があれば、いつでも交代できる「政権準備党」として、みずからを鍛え直す機会としてほしい。

毎日新聞 2012年12月18日

穏健な国際協調外交で…安倍次期政権に望む

財政や経済、社会保障、原発・エネルギー、統治機構など今の日本は多くの危機に直面している。衆院選での自民党圧勝を受け次期首相に就任する安倍晋三総裁が、自らの内閣を「危機突破内閣」と呼ぶ考えを強調したのは当然だろう。

中でも外交危機の打開、とりわけ国交正常化以降最悪といわれる日中関係の立て直しと国際発信力の強化は、最重要課題である。

安倍氏は17日の記者会見で、日中関係を2国間関係の枠組みだけで考えず、日米同盟を軸とした幅広い外交戦略の中に位置づける姿勢を示した。そのためにも年明けに訪米し、日米同盟の基盤を固めることにまず取り組む方針のようだ。

私たちは、強固な日米同盟をテコに中国との関係を戦略的に安定させるべきであると主張してきた。民主党時代の不協和音を取り除き、健全で安定した日米同盟関係を再構築することを最優先にする安倍外交のアプローチは適切である。

日米同盟の強化は、尖閣諸島をめぐる中国の執拗(しつよう)な挑発を抑止するためにも欠かせない。力で現状を変えようとする行為は日米両国との関係を決定的に悪化させ、国際社会の反発も招くということを、中国に理解させなければならない。

そのうえで肝心なのは、日本が対立激化の新たな要因を作ったと中国に言わせる状況を作らない知恵である。世界は安倍自民党の大勝に日本の「右傾化」「保守化」などとレッテルを貼っている。日本の振る舞いが国際社会にどう映るかを常に意識することは大切だ。日米同盟を中核にしながらも、穏健な国際協調路線を基本に据えて、慎重で賢明な外交を展開してもらいたい。

安倍氏は記者会見で、靖国神社参拝についてはその外交的影響を考慮して、明言を避けた。思想信条はともかく、首相という立場の重さを意識して現実的に対応する可能性をのぞかせたものであろう。

そもそも日米同盟はアジア太平洋の秩序を維持し、この地域のすべての国に自由と繁栄をもたらすことに存在意義がある。中国と敵対するのではなく、その秩序作りに中国を関与させ、対話と協調によってアジアを平和的に発展させることが、日本外交の目標でなければならない。

安倍氏はかつての首相時代、中国と戦略的互恵関係を目指すことで関係改善を図った。中国に新指導部が誕生した機会に安倍氏が首相として再登板し、日中関係の立て直しを託されるのもめぐり合わせである。米中両国の指導者と大局に立って世界の秩序を論じてほしい。

産経新聞 2012年12月17日

自公圧勝 国家再生へ責任は重い 安倍氏は現実重視の道歩め

3年余にわたる民主党政権の迷走と停滞に、ようやく終止符を打つことができた。

第46回衆院選は、自民党が公明党と併せて参院で否決された法案を衆院で再可決できる320議席を確保する圧勝となった。民主党は壊滅的敗北を喫し、日本の舵取りは再び自公両党に託された。

日本は内外ともに危機的な状況に直面しており、今月下旬に発足する安倍晋三政権の責任は極めて重い。

自民党への雪崩現象が生じたのは、民主党政権に対する不信と批判が強かったのはむろんだが、安倍氏の「強い日本を取り戻す」などの危機克服に向けた訴えが国民に支持されたことが大きい。

≪信失い惨敗した民主党≫

安倍氏は政治への信頼を回復することに加え、国家の立て直しに邁進(まいしん)してもらいたい。

留意すべきは、国論を二分する政策課題について国民が現実的な判断を下したといえることだ。

尖閣諸島の実効統治強化策について自民党は国家公務員常駐などを掲げた。民主党は「中国を刺激する」などと強化策を否定し、自民党の主張を「排外主義」と批判したが、国民は中国の攻勢に何もしない方策よりも、領土・主権を具体的に守ることを選んだ。

原発・エネルギー政策では民主党など多くの政党が「脱原発」を掲げ、「原発ゼロ」の時期を競い合う論争を展開したが、自民党は「無責任な議論」と批判した。

安倍氏も「安全性が確認されれば必要な原発は再稼働する」と語った。産業空洞化を回避し、安価で安定的な電力供給には再稼働が欠かせないとの現実的判断が評価されたといえる。

野田佳彦首相は民主党惨敗の責任を取って党代表辞任を表明した。党は既に国民の信や政権の正統性を失っていた。ばらまき政策を並べた政権公約は破綻し、公約にない消費税増税法を通したことへの反発は強く、明確な「即時退場」を突き付けられた。

ただ、参院のねじれ状態は解消されておらず、新政権は社会保障・税の一体改革で民自公による三党合意を尊重する必要がある。

第三極勢力の日本維新の会は既成政党への批判の受け皿となり、主要政党の仲間入りを果たした。日本未来の党は惨敗した。

注目したいのは、憲法改正草案を既にまとめている自民党に加え、自主憲法制定を掲げた維新、さらに改憲の方向性を示しているみんなの党と、新憲法を志向する勢力が大量の議席を占めたことである。今回の政権枠組みに結びつくものではないとしても、国のありようを根本的に変える憲法をめぐる政界再編の潮流が拡大する可能性を秘めている。

安倍氏が唱えた外交立て直しの主眼は、民主党政権が普天間飛行場移設問題の迷走などで悪化させた日米関係を修復し、同盟を強化・充実することにある。

≪多数を占めた改憲勢力≫

安倍氏は16日夜、早期訪米とオバマ大統領との信頼構築に意欲を示した。弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮や中国への対応で速やかに緊密な連携を図ることが必要だ。焦点は、公約にも挙げた集団的自衛権の行使容認にある。公明党は慎重だが、新政権は行使を禁じている憲法解釈の変更に踏み込むべきだ。

保守を志向する安倍カラーを新政権としてどう打ち出していくのかも問われる。

6年前の首相当時、安倍氏は教育基本法改正、防衛庁の省昇格、国民投票法成立を果たした。やり残した大きな仕事は靖国神社参拝と政府の歴史認識見直しだ。

安倍氏は靖国参拝について「国の指導者が参拝し、英霊に尊崇の念を表するのは当然」とし、首相在任中に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と述べている。

根拠なしに慰安婦強制連行を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話についても「私たちの子孫にこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」と新たな談話を出す必要性を主張している。

首相当時に「強制連行を直接示す資料はない」との政府答弁書を閣議決定したものの「広義の強制性があった」として河野談話を踏襲し、不徹底さも指摘された。

保守色を打ち出した「安倍自民党」に期待した有権者も多いはずだ。謝罪外交を断ち切るため、従来の政府見解などをいかに見直していくかも重要課題となる。

朝日新聞 2012年12月09日

総選挙・原発政策 ゼロへの道筋を示せ

選挙戦も後半を迎える。

各党は原発政策の見直しを掲げているが、有権者にとって判断基準たりうる中身になっているだろうか。

残念ながら、まだ十分とは言えない。

最もあいまいな姿勢に終始しているのは自民党だ。

原発を推進してきた党として何を反省し、どう見直すのか。「10年以内に持続可能な電源構成を確立します」と言うだけでは、無責任きわまりない。

民主党をはじめ「脱原発」を掲げる側にも注文がある。

原発ゼロへの速度を競う姿勢が目立つが、実際に原発を閉めていくうえで最大の課題は、「どうやって」の部分だ。

大規模停電は避けなければならない。原発を止めた分、火力発電の燃料代負担が電力会社の経営を圧迫し続ければ安定供給に支障が出るおそれもある。

かといって、電気代を一度に大幅にあげれば生活や経済活動を圧迫しかねない。立地自治体や環境問題への目配りも必要だろう。

「即停止」を主張する政党は激変をどう乗り切るのか。実効性ある道筋を示すべきだ。

日本未来の党は、一定の政策パッケージを明らかにしてはいる。だが、ゼロ達成までの間、手段としての「再稼働」を認めるのかどうかが不透明だ。

民主党は「原子力規制委員会が安全と認めた原発を再稼働」「運転開始から40年で廃炉」といった条件を示す。ただ、これだけでは2030年代にゼロにならず、最終目標と矛盾する。ていねいな説明がいる。

使用済み核燃料の処理についても具体的な言及が乏しい。

原発を減らしていく以上、核燃料を再利用する核燃料サイクル事業は不要になるどころか、余剰プルトニウムを生み出すことで、核不拡散との関係で国際的な問題を引き起こす。事業は中止するしかない。

ただ、再処理をやめれば、「資源」だった使用済み燃料は「危険なゴミ」になる。再処理を条件に施設や廃棄物を受け入れてきた青森県は、中止と同時に各電力会社に引き取りを求める姿勢を明らかにしている。

各原発に持ち帰って保管するのか、ほかの手立てを講じるのか。今後は国がきちんと責任をもつ必要がある。これまでの再処理で生じたプルトニウムの管理・処分方法も含め、考え方を示すべきだ。

残り時間は限られるが、各党とも、有権者が「選べる」レベルまで原発政策の中身を引き上げてもらいたい。

毎日新聞 2012年12月18日

長続きする経済成長を…安倍次期政権に望む

円安・株高が進んでいる。衆院選後初の取引日となった17日、東京株式市場の日経平均株価は、8カ月半ぶりの水準を回復した。

政権交代により、「何かよい方向へ変わりそうだ」と楽観ムードが広がるのは良いことだ。肝心なのは、せっかくの期待を一時のブームや実体の伴わない見かけの活況で終わらせないことである。次期政権には長期の視野に立った、堅実な経済運営を望みたい。

安倍晋三・自民党総裁は、さっそく大規模な補正予算を編成する構えである。問題は中身だ。総裁は17日会見し、来年の参院選で勝利する必要性を強調したが、選挙を意識したばらまきであってはならない。

短期間で景気対策をまとめようとすればどうしても規模優先で効果が後回しになる。拙速に大型の補正予算を組むより、補正は最小限とし、来年度予算の内容の吟味と早期成立に全力を挙げるべきだ。

景気対策の名の下に、場当たり的な財政出動を重ねた古き自民党政権に戻ってはならない。財政健全化に努めるのであれば、民主党政権が導入した「中期財政フレーム」の路線を堅持・発展させる必要がある。

同フレームは、完全とは言い難いが歳出や新規国債発行額に枠をはめ膨張の歯止め役を果たしてきた。当初予算だけでなく、補正も含む通年の枠組みとするなど、ルールを明確にすることで信頼が生まれよう。

政府と日銀の関係も注目される。日銀総裁も一員となる経済財政諮問会議が復活し、両者の間で理解が進むとすれば、望ましいことである。しかし、物価上昇目標を設定し、日銀に早期に守らせようと政治が強引に金融緩和を求めるようなことは、最終的に国家のためにならない。事実上の借金引受係として日銀を利用することも厳に慎むべきだ。

今は輸出の助けになるとの理由から円安が歓迎されている。だが、無節操なインフレ政策が始まったと市場が受け止めれば、円売りが国債売りや株売りを伴うトリプル安につながる危険もある。

経済は有権者が最も重視したテーマだった。具体的に何を託したのか推察することは困難だが、「何より物価を上げてほしい」とか「借金を無制限に増やしても構わない」というメッセージではないはずだ。

新たな雇用が生まれ、所得が上がり、先行きに安心感が生まれてこそ政策の成功といえる。短期決戦ではない。英知を結集し、民間主導の経済成長を後押しするような規制改革や構造改革こそ、本気で取り組んでもらいたい。

毎日新聞 2012年12月17日

自民圧勝 謙虚に政治の安定を

安定した、着実な政治を望む民意の表れだろう。衆院選が投開票され自民党が単独過半数を大きく上回る議席を得て圧勝、公明党とともに09年の惨敗以来約3年ぶりの政権返り咲きが決まった。民主党は壊滅的惨敗を喫した。

政治の変化を実感させるどころか迷走に終始した民主党政権に失望し、第三極にもかじ取りを委ねきれない中で有権者は自民党に回帰した。「風なき圧勝」を首相となる安倍晋三総裁は謙虚に受け止めるべきだ。衆院で得た多数におごらず、ねじれ国会の合意形成に努め、政治の混乱を終結させることが新政権の責務である。

師走の空の下、民主党に吹いた逆風は容赦なかった。一時は第三極に吹くかに見えた追い風も限定的だった。低投票率が象徴するように12党の候補が乱立する中の悩み深い選択は結局、自民党に傾いた。「郵政選挙」(05年)の自民や「政権交代選挙」(09年)の民主に匹敵する圧勝である。

政権交代から3年、現職閣僚の多くが枕を並べて小選挙区で討ち死にし、岩盤が崩れるような惨敗が民主党に与えた衝撃は郵政選挙以上だろう。有権者がこれほど明確に「ノー」を突きつけたのは歴代3首相の下で政治を変える期待が裏切られ続けた怒りにも似た感情に尽きよう。

財源の裏付けを欠く09年マニフェストは実質破綻し、政治主導は極端な官僚排除から官僚への依存に変質した。ねじれ国会で政治が停滞、近隣諸国との関係も危機的水準に悪化した。東日本大震災後も内紛とお粗末な閣僚交代を繰り返す姿に有権者は政権担当能力への疑念を抱いたに違いない。

野田佳彦首相が消費増税に取り組んだのは危機的な財政に照らせば正しい選択だった。だが、目指す社会保障のビジョンや社会像までは語れなかった。首相は代表辞任を表明した。政権交代以来党が目的を喪失している状況が根底にあり、再建は容易ではあるまい。

2大政党に対抗し「変化」を訴えた第三極勢も旋風を起こすまでに至らなかった。日本維新の会は確かに大きく勢力を伸ばしたが石原慎太郎代表との合流に橋下徹氏が踏み切り、逆に党の方向がわかりにくくなった。

争点だったエネルギー政策で日本未来の党など「原発ゼロ」を掲げる諸政党も納得いく工程を示したとは言い難い。民主党離党組の新党への駆け込みはご都合主義を印象づけた。

そんな中、変化より回帰を強調し、政党の離合集散と一線を画した自民党に有権者は派閥など古い体質の温存を感じつつも、政党として「よりまし」と安心感を抱いたのかもしれない。

デフレ、円高対策の強調は景況感が冷え込み、地方を中心に経済が疲弊する中で有効だったはずだ。第1党に議席が集中しやすい小選挙区制特有の事情も大きく影響したとはいえ、勝利を選挙制度ゆえの産物と単純に決めつけるべきではあるまい。

ただ、審判はもちろん白紙委任などではない。公共事業によるバラマキに依存する「古い自民」の復活などもってのほかだ。3年前に政権を転げ落ちた原点を忘れてはならない。

とりわけ、安倍氏ら自民党が自衛隊を「国防軍」に改称する9条改憲や、尖閣諸島への公務員常駐の検討など保守色の強い路線に傾斜していることは気がかりだ。海外にも日本に偏狭なナショナリズムが広がることを警戒する声がある。冷静に外交を立て直さねば孤立化の道すら歩みかねない。

自公連立が復活しても民主党が参院で第1党の「ねじれ」は変わらず、来夏の参院選で解消する保証もない。衆院で3分の2以上の多数を確保すれば法案の再議決が可能となるが、数を頼みとする手法を用いるべきでない。政策ごとの部分連合を探るべきだ。

税と社会保障の一体改革に関する自公民3党合意の堅持は選挙結果からも当然である。税制改革をぶれずに実行し、社会保障制度改革国民会議による議論を深め、年金、医療、低所得者対策などの道筋を描くことが政権党の責任だ。

民主党政権が進めた脱原発依存路線も態度をあいまいにしたままの逆行は許されない。与野党で合意形成に努めつつ、使用済み核燃料の処理問題や電力の供給確保の方策を構築しなければならない。

公明党は9条改憲に加え、集団的自衛権の行使容認にも慎重だ。日本維新の会なども含め衆院で改憲派がかなりの勢力になるからといって拙速に改憲を急ぐようでは連立がきしみかねない。政策の優先順位を誤らず「自公プラス民」を軸に政権運営にあたるべきだ。

年内に新首相が誕生すれば06年以来、7年連続の首相交代という異常事態となる。ひんぱんなトップ交代は内政のみならず、国際的発言力の点からも好ましくないことは言うまでもない。

過去2回の衆院選の極端な圧勝を経た政権の上滑りがその後、参院選の揺り戻しと「ねじれ」につながった教訓に学ぶべきだ。新衆院議員の任期4年をまっとうし得るくらいの着実な改革を新政権に望みたい。成否のカギはひとえに「安倍首相」のかじ取りである。

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