犯罪史上、極めて異様な事件の真相解明が難しくなった。事件の中心人物を死亡させたのは、警察の大失態である。
兵庫県尼崎市の連続変死事件で、殺人容疑などで再逮捕されていた角田美代子被告が兵庫県警本部内の留置場で死亡した。県警は自殺とみている。
被告は、婚姻や養子縁組を通して姻戚関係となった家庭に乗り込み、服従させて金を巻き上げたとされる。一連の事件で5家族が一家離散に追い込まれ、計6人の遺体が見つかった。
角田被告の供述が、事件の全容を解明するカギだった。死亡による捜査への影響は計り知れない。被害者の1人が「警察は一体、何をしていたのか」と憤ったのも当然である。
角田被告は2か月前、留置担当の警察官に「生きていたくない。どうしたら死ねるのか」と“相談”していた。死亡前日には、接見に訪れた弁護士に遺言めいた言葉も漏らしていたという。
このため、県警は動静を細かく確認し、記録する「特別要注意者」に指定していた。警察庁の通知では、単独居室で24時間体制の対面監視を原則としている。
ところが、これに反して、県警は、角田被告を3人部屋に入れていた。巡回数は通常より増やしていたものの、監視の目が行き届かない時間帯もあった。明らかに県警の手抜かりと言える。
被告は長袖Tシャツを首に巻いて死亡していた。巡回中の警察官が、寝息を立てていないことに気付き、他の警察官を呼んで解錠するまでに11分を要した。
同部屋の2人の脱走などを防ぐためだったというが、この対応にも疑問が残る。
県警は当初、「落ち度はなかった」と強弁したが、後に「ミスがなかったとは言えない」と不手際を認めた。なぜ、自殺を防げなかったのか、徹底検証が必要だ。
警察庁によると、警察の留置場での自殺は毎年、数件起きている。自殺に使用される恐れがあるベルトやネクタイは、留置場内に持ち込めないことになっている。しかし、衣類を使って首をつる事例が後を絶たないという。
2007年には、栃木県さくら市で主婦が殺害された事件の被告が、留置人面会室で首つり自殺するというケースまであった。
全国の警察は、兵庫県警の失態を教訓に、再発防止に全力を挙げてもらいたい。まずは、留置場の監視体制について、総点検することが必要だ。
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