衆院選・教育 子供を見据えた政策を

毎日新聞 2012年12月08日

衆院選・教育 子供を見据えた政策を

今回の選挙で政党の多くは「いじめ防止」を公約にしている。自民党は6・3・3・4制から教科書検定制度の見直しまで、教育政策を項目的に広く取り上げた。

前に政権にあった時、「教育再生」を掲げた安倍晋三総裁の意向が強くにじんだものだろう。

例えば教科書検定では「自虐史観」がまだ教科書にあるとし、近隣アジア諸国との間の近現代史の扱いに国際理解や協調の見地から配慮する「近隣諸国条項」を見直すという。

だが今、多様な問題を抱えた教育現場を見据え、子供たちの学びの場を支える政策をまず優先したい。

今週公表されたこんなデータがある。普通学級で学ぶ「発達障害」の可能性がある小中学生は6・5%で、その4割は支援を受けていない。

文部科学省の調査に協力した専門家は「医師らのチームや教員増員が必要だ」と訴えている。

また、いじめ問題でも、さまざまな「支え」が不足していることが浮き彫りになった。教育委員会が十分機能しなかった面もあった。民主党、自民党、日本維新の会は教委制度の見直しを挙げている。

しかし制度変更や廃止、あるいは管理を強めることが万能ではない。校内でいじめがしばしば見落とされたり、隠蔽(いんぺい)されたりする。その背景には、雑務に追われて子供に接する時間の乏しさ、教員不足や地域とも連携して取り組む態勢の欠落、評価への影響などの存在が挙げられる。

文科省はようやく、いじめを隠さず積極的に取り組むことをプラス評価すると通知したが、当然だ。教員が孤立したり、時間に追い詰められたりしないようなスクラムが組まれなければならない。

本紙のヒアリング調査でも、現役教員の多くが「時間不足」を挙げた。そして保護者との信頼関係、校内の体制不備に悩んでいる。

対応のずさんさや不注意は責められるべきだが、相談相手がいない、カバーし合えないといった状態は放置していては解決しない。

学力低下の指摘がある。検証、対策が必要だが、日本の子供たちの学習意欲が相対的に低いという調査データもある。こうした側面にも目を向けなければ全体像は見えにくい。

教育は「百年の大計」と、政治演説でしばしば改革がうたわれるが、具体論は乏しくなりがちだった。日々の学校の営みを見据え、子供の横に座るような視界で論じることも今必要ではないか。

選挙後も党派を超えて熟議につながるような論の交わりがほしい。

読売新聞 2012年12月11日

教育政策 子どもの将来見据えた論戦を

教育政策は有権者の関心が高い。次代を担う子どもたちをどう育成するのか。各党はその将来像を示すべきである。

公約で教育を重点課題に掲げたのは自民党だ。経済、外交、暮らしと並ぶ再生の4本柱に位置づけ、「土曜授業の復活」や「6・3・3・4制の見直し」などを挙げている。

安倍総裁には、首相時代に、道半ばに終わった教育改革に再挑戦する思いもあろう。

安倍氏はこれまでの選挙戦で、日本教職員組合の影響を受けている民主党には、真の教育再生はできない、と繰り返し述べている。

学力向上策として2007年に始まった全国学力テストは、民主党に政権移行後、全員参加方式から約3割を抽出する方式に縮小された。「競争をあおる」という日教組の批判に配慮したものだ。

抽出方式で対象校が減り、きめ細かな分析ができなくなった。自民党が全員参加方式に戻すと主張しているのは理解できる。

民主党政権の目玉政策の一つである高校授業料の無償化についても、自民党は対象に所得制限を設ける方針を打ち出した。

一方で、幼児教育の無償化など大規模な財政支出を伴う政策を盛り込んだことは懸念される。

危機的な財政状況の中では、財源の確保が重要だ。政権復帰を目指す以上、大衆受けする政策を並べるだけでなく、現実的な道筋を示してもらいたい。

民主党の教育に関する公約が具体策に乏しいのは物足りない。

今回の選挙では、教育委員会の在り方も重要な論点である。大津市の中学生がいじめを受けて自殺した事件で、市教委の機能不全が問題視されたためだ。

自民党は、議会の同意を得て首長が任命する常勤の教育長を責任者とするよう提案している。

この点でも民主党は「制度の見直し」を公約しているだけだ。

日本維新の会は「制度の廃止」に言及し、みんなの党は「自治体による選択制」を主張する。

戦後導入された教委制度では、教育が首長による政治的な影響を受けないよう、地域住民の中から任命された教育委員が合議制で、教員の人事や教科書採択などの重要事項を決めてきた。

だが、独立性を付与したはずの仕組みが形骸化し、責任の所在が不明確になっている面は否めない。教育に誰が責任を持つのか、踏み込んだ議論が求められる。

産経新聞 2012年12月11日

教育と衆院選 踏み込み不足で物足りぬ

衆院選での教育政策に関する論戦が低調だ。各党の公約も抽象的なスローガンが多く、踏み込んだ記述に乏しい。

選挙戦では、なによりもまず民主党が与党として3年余の総括を示す必要がある。野党にも積極的な議論を求めたい。

前回衆院選で民主党がマニフェスト(政権公約)の目玉のひとつに掲げた高校無償化策は、いまやばらまきの典型だと批判を浴びている。北朝鮮や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と密接な朝鮮学校を支給対象とする動きも問題視された。

見逃せないのは、学力向上策として実施されてきた全国学力テストが、民主党政権で規模縮小されたことだ。道徳副教材の予算も大幅に削減された。いずれも有力支持団体である日本教職員組合(日教組)の意向に沿った判断だったとされている。

今回衆院選で民主党は、いじめ対策の強化を公約に盛り込んだ。大津市の中2男子自殺問題など関心の高いテーマに処方箋を示した形だが、記載内容は「子どもたちの命を守り、教育の質を高める」など踏み込みに欠ける。

一方で、教員増や少人数学級、教育委員会制度の見直しなど、相変わらず日教組の主張に近い記述が並ぶのが気がかりだ。

政権交代直後には日教組傘下の北海道教職員組合(北教組)による政治資金規正法違反事件が発覚し、北教組が支援した民主党議員が辞職している。北教組はじめ野放図となっている公務員の政治活動に警鐘が鳴らされた。

公教育への国民の信頼を裏切る行為だ。民主党は選挙戦で改めて国民にしっかりと説明する責任がある。野党もまた、公教育の立て直しにいかなる態度で臨むのか。競うべきテーマだ。

日本維新の会は教育委員会制度の廃止を含めた「教育制度改革」を訴えている。だが、記述はいまひとつ抽象的だ。自治体の長として教育改革に熱心に取り組んだ石原慎太郎、橋下徹の両氏が率いる政党の公約だけに物足りない。

自民党が、いじめも含めた教育への国の責任を明記し、学力向上や愛国心、規範意識の醸成などにも言及したのは評価できる。

教育は国家の行く末を左右する重要政策だ。消費税や原発も重要だが、有権者もムードや時流に流されぬ確固とした目で政治を捉えていく必要がある。

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