朝日新聞 2009年11月26日
鳩山献金疑惑 「ずさん」にも限度がある
鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金問題に絡んで、また新たな問題が浮上した。首相の母親の資金が、偽装献金の原資だった疑いが出てきたのである。
一連の問題ではまず、資金管理団体の政治資金収支報告書に記載された個人献金者として、亡くなった人や献金した覚えのない人の名前が含まれていたことが発覚。東京地検は、1件5万円以下で氏名を記す必要のない献金の大半と合わせ、2億円超を偽装と見て、元公設第1秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いで立件する方向で詰めの捜査に入っている。
焦点のひとつが、偽装献金の原資はだれのカネか、である。首相は6月の記者会見で、首相個人の資金だったと説明した。今月4日の衆院予算委員会で、母親からの資金が含まれるか聞かれた際も「知る範囲でそのようなことはないと信じている」と答弁した。
ところが関係者によると、04年から08年に、数千万円の母親の資金が原資に充てられていた疑いがあるという。事実とすると、問題は新たな局面に入ることになる。
政治家本人以外の個人が資金管理団体に献金できるのは年150万円までであり、今回の疑惑はこの上限を大きく超える。首相への贈与なら贈与税が生じる可能性がある。首相への貸し付けだったとすればそうした問題は起きないが、すべて自分の資金だと言ってきた従来の説明と明らかに食い違う。
首相は母親の資金が充てられた疑惑について「私の知らないところで何が行われていたのか。真実が見えないところもあって大変驚いている」と記者団にコメントした。首相は先に、恵まれた家庭に育ったことを理由に挙げて「資産管理が極めてずさんだった」と記者団に語ったが、事実なのに知らなかったとすれば、もはやずさんという言葉で言いあらわすこともできない。
首相は予算委で、政治改革に取り組んできた自らの原点について「おカネを持っている持っていないではなく、青雲の志を持った人間が国会議員になれる道をつくろうというところがスタートラインだった」と語った。
だが、実際は金持ちの有利さを最大限に活用してきたのではないのか。うさんくさい企業からのカネではなく、自分のカネなのだから問題ないと高をくくっていたとすれば、思い違いもはなはだしい。
もし、首相がこうした献金偽装の内実を承知していたとすれば、自身が法律違反に問われることになる。事態の重大さを認識しているのだろうか。
首相は所信表明などで国民へのおわびを語っているが、疑惑は次から次へとわいて出る。自民党などが求める衆院予算委での集中審議に応じ、献金をめぐる追及に正面から答えるべきだ。
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毎日新聞 2009年11月26日
偽装献金問題 首相は会見して説明を
不明朗な政治資金処理に改めて驚く。鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金問題だ。鳩山首相は東京地検特捜部の捜査に委ねる姿勢を続けているが、この問題から逃げている印象はぬぐえない。首相自身が問題点を整理し、短時間のインタビューでなく、記者会見を開いてきちんと説明すべき時だ。
この問題に関し、東京地検特捜部は実務を取り仕切っていた首相の元公設第1秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)で在宅起訴する方向で検討に入ったという。12月中旬の処分を目指しているとされる。
首相は総選挙前の6月、政治資金収支報告書に寄付者名を記載した個人献金のうち05~08年の2177万円余について、既に死亡していたり実際には献金していない人の氏名を虚偽記載していたことを認めた。
しかし、その後の捜査では寄付者の名前を記載しない匿名の献金に関しても04~08年の間、その大半の約1億7000万円が虚偽と判明。また、パーティー券収入のうち計1億数千万円分も虚偽と分かり、総額は3億数千万円にも上るという。
首相の実母が少なくとも数千万円を提供し、3億数千万円の原資の一部になっている可能性も出てきた。首相は今月4日の衆院予算委員会で実母の資金が原資になっているのかと追及され、「ないと信じている」と答えたが、この答弁の信ぴょう性にも疑問符がつき始めている。
なぜ、こんな不可解な資金処理をしていたのか。もはや、ずさんだったというだけでは済まないだろう。あるいは首相の言うように本当に元秘書の独断だったのか。いずれにしても首相はこれまで説得力のある説明をしていない。
毎日新聞が21、22日実施した全国世論調査によると、鳩山内閣の支持率は64%と依然、高い水準だ。今回の調査では鳩山内閣を評価するうえで虚偽記載問題を「重視しない」と答えた人は48%で、「重視する」の41%を上回っている。
「業界などからの裏金ではない」と見る人も多いだろう。この問題以上に首相にはまず、実際の政策でこの国を変えてほしいという期待が大きい表れでもあろう。
しかし、まさか首相もこうした世論に甘えているわけではあるまい。今国会はこの問題を追及されたくないという首相側の事情から会期を短く設定したと指摘されてきたが、会期は延長されそうで党首討論も開催される可能性が出てきた。当然、この問題も追及されるだろうが、時間の制約で中途半端に終わる懸念がある。あらゆる疑問に答えるためにはたとえ長時間になろうと、首相は率先して記者会見し、説明を尽くすのが最善の方法だ。
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読売新聞 2009年11月28日
首相偽装献金 「検察に任せる」は通用しない
鳩山首相の資金管理団体をめぐる偽装献金問題が、大きな広がりを見せている。
「すべて検察の捜査に任せている」という首相の言い訳は、もう通用しない。首相は、早急に国会の場か記者会見で、知り得る限り、問題の全体像を公表すべきだ。
鳩山首相が2004~08年に、母親から計9億円の政治資金の提供を受けていた疑惑が、元公設秘書の説明などで明らかになった。その一部は、資金管理団体の偽装献金の原資となったという。
東京地検は12月中にも、元秘書を政治資金規正法違反で在宅起訴する方向とされる。
首相は従来、偽装献金の原資は自らの個人資金だと説明してきた。母親の資金については、「ないと信じている」と語り、元秘書の説明と大きく食い違っている。
仮に母親の資金が資金管理団体への寄付なら、個人献金の上限の年150万円をはるかに超え、政治資金規正法の量的制限違反となる。首相への贈与だった場合は、贈与税の脱税に問われる。
元秘書は、貸付金だと説明しているという。だが、9億円もの借金に、借用証もなく、元金や利息の返済もないとすれば、実質的に贈与と変わらない。原資が企業献金でなく、身内の資金であっても問題の重大さは同じだ。
さらに深刻なのは、首相が「私が知らないところで何が行われているのか」などと、人ごとのような発言をしていることだ。
鳩山首相は、6月末の“故人献金”の記者会見前に、元秘書から事情を聞き、弁護士に追加調査をさせている。それでも、母親からの巨額の借金の存在を知らないというのは、あまりに不自然だ。
虚偽記載の総額も、首相は当初、2177万円と説明していた。だが、5万円以下の匿名献金も大半が虚偽と判明し、総額は最低でも2億数千万円に上るとされる。
首相は昨年、7000万円超の株式売却益を申告しておらず、ずさんな資金管理が次々と明らかになっている。首相が口にした「恵まれた環境に育ったから」というのは、弁明にならない。
首相は02年3月の民主党代表時代、加藤紘一・自民党元幹事長の元事務所代表の脱税事件について、こう語っている。
「金庫番だった人の不祥事は、(政治家も)共同正犯だ。即、議員辞職すべきだ」
首相は、この言葉を思い起こし、政治とカネの問題について、自らきちんと説明する責任がある。
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産経新聞 2009年11月26日
鳩山家資産 やはり参考人招致が必要
多額の虚偽献金が政治資金規正法違反の疑いも出ている鳩山由紀夫首相の資金管理団体「友愛政経懇話会」に、首相の母親から5年間で計約9億円に上る資金が提供されていたことが新たに分かった。
母親からの贈与であれば首相に贈与税の支払い義務が生じる。政治献金なら個人から一つの政治団体に献金できる上限額(150万円)を超えて規正法違反となる可能性がある。関係者の説明では資金はいずれにも該当せず、首相への貸付金として処理されているというが、きわめて不透明だ。
首相は母親からの資金提供について「(ないと)信じていたし、今でも信じたい」と語ったが、まず自らが親族間の資金の動きを説明すべきだ。国家の最高指導者が疑惑を持たれて、国民が政治に信をおくことができるのかを考えなければなるまい。
巨額で継続的な資金提供は、外形上は鳩山家の資産を資金管理団体に移動させる目的があるようにも見える。個人資産と政治資金が混然一体となっていることが、首相の疑惑の背景にある。
鳩山首相の母親は大手タイヤメーカー「ブリヂストン」創業者の長女で同社の大株主だ。虚偽献金を行ったとされる会計事務担当の元公設第1秘書から「政治資金が足りない」と相談を受け、5年にわたり毎年約1億8000万円を提供したという。
これらを貸付金と呼ぶには、金額が大きすぎるし、資金の使途や貸付期間なども明確ではない。これらの疑問に説明がつかなければ、贈与税を払わず、政治資金規正法上の量的制限も受けずに、巨額な資産を移動させる方策をとったと受け取られよう。
首相や母親の資産管理を担当している「六幸商会」は、総額3億円前後に上る虚偽献金の原資を元秘書が引き出した、首相の個人口座も管理している。
自民党は11月4日の衆院予算委員会で、柴山昌彦氏が「六幸商会」社長の参考人招致を要求したが、与野党間で実現に向けた具体的な協議には至っていない。自民党は首相の虚偽献金について脱税の疑いも指摘している。
国会の正常化に伴い、自民党は「政治とカネ」の集中審議の開催を要求している。「六幸商会」の関係者の参考人招致を含め、国会は事実関係の解明にあたる必要がある。
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