公務員政治活動 過剰な摘発への警鐘だ

朝日新聞 2012年12月11日

公務員と政治 過剰なしばり解く判決

評価が7割、疑問が3割、といったところだろうか。

休日に、身分を明かさずに、支持する政党のビラを郵便うけに配る。同じことをして同じ国家公務員法違反の罪に問われた2人について、1人は無罪、1人は罰金10万円の有罪が、最高裁で確定することになった。

判決が示した考えはこうだ。

法律が禁じる「政治的行為」とは、公務員の職務の中立性を損なうおそれが、観念的にではなく、実質的に認められるものに限られる。それは、公務員の地位、職務の内容・権限、行為の性質や態様などを総合して判断すべきである――。

もっともな見解だ。これまで政治的行為は一律に禁止され、刑罰の対象になると考えられてきた。38年前の最高裁判決がそう読める内容だったからだ。

私たちは社説で、この判例を見直すよう求めてきた。

公の仕事はもちろん公正・中立に行われなければならない。

しかし公務員もひとりの国民であり、政治活動の自由を含む表現の自由がある。刑罰をふりかざし、中身を問わずに行動をしばるのは間違っている。

この当たり前の主張がようやく通った。制約の側に傾きすぎていたはかりを、あるべき位置にもどした事実上の判例変更と受けとめ、歓迎したい。

だが、すっきりしない点は残る。せっかくの新たな判断基準も適用を誤れば意味がない。

被告のひとりは厚生労働省の課長補佐だった。判決はこの点をとらえ、ビラ配布をゆるすと「政治的傾向が様々な場面で職務内容にあらわれる可能性が高まり、命令や監督を通じて部下にも影響を及ぼすことになりかねない」との立場をとり、二審の有罪判決を支持した。

これこそ判決が否定したはずの「観念的」な理屈で、説得力を欠く。「一私人、一市民としての勤務外の行動で、職務の中立性を損なう実質的なおそれはない」とする須藤正彦判事の反対意見の方が常識にかなう。

そんな問題をかかえるものの今回、最高裁が政治活動の自由を「民主主義社会を基礎づける重要な権利」ととらえ、公務員の政治的行為の禁止を「必要やむを得ない範囲に限るべきだ」と述べた意義は大きい。

一部の労組活動のいきすぎを理由に、公務員が市民として当然にもっている権利まで抑えこもうという風潮がある。それで世の中はよくなるだろうか。

私たちが本当に守るべき価値を見すえることの大切さを、事件は教えている。息苦しい社会に、発展や躍動はのぞめない。

毎日新聞 2012年12月08日

公務員政治活動 過剰な摘発への警鐘だ

国家公務員が休日に共産党機関紙「赤旗」を配った行為に刑事罰を科すのは適切なのか−−。

公務員の政治的中立性と憲法で保障された表現の自由がてんびんにかけられた2件の裁判。最高裁は「政治的行為として禁止の対象となるのは、公務員の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為に限られる」との初判断を示した。

国家公務員法は、国家公務員の政治的行為を罰則付きで制限する。同法に基づく人事院規則は、政党機関紙の配布など多くの行為を政治的行為として列挙している。

国家公務員の政治活動に広範な規制をかけたうえ、刑事罰まで科す国は欧米には見られない。政治活動の規制がこれまで過剰に過ぎたきらいは否定できない。思想信条や表現の自由という基本的人権の核心に強く配慮した判決をまず評価したい。

結論として旧社会保険庁職員は2審の無罪、厚生労働省元課長補佐は2審の有罪がそれぞれ確定する。

無罪・有罪を分けたのは何か。

旧社保庁職員については「地方出先機関に勤務し管理職でもない。職務の内容や権限に政治的中立性を損なうような裁量の余地はなかった」とした。一方、元課長補佐は「多くの職員に影響を及ぼすことができる地位にあった」と認定した。

最高裁大法廷は74年、衆院選で勤務時間外に社会党の選挙ポスターを張ったり配ったりした郵便局員を有罪とした。いわゆる「猿払(さるふつ)事件」で、国家公務員の政治活動を、その職種に関係なく一律に広く禁止する法の規定を合憲とした。

今回、旧社保庁の職員を有罪としない判断をしたのは、判例を事実上変更したものと評価できるだろう。

旧社保庁職員については、警察が多数の捜査員を動員して長期間尾行を続けるなど、まるで狙いすましたような捜査手法も批判を浴びた。

特定の政治団体を支持する公務員をやみくもに摘発するような捜査が許されないのは言うまでもない。

ただし、最高裁判決は政治的行為に対する明確な基準を示したわけではない。禁止される政治的行為かどうかは、地位や権限、行為内容を総合判断するとの見解だ。依然、あいまいさは残る。

公務員の行き過ぎた組合活動や、中立性に疑問を投げかける政治的行為はもちろん許されない。ただし、民主主義が根づき、国民の政治意識も変化している。衆院選を争っている各党の間には、地方公務員の政治的活動も国家公務員並みに制限すべきだとの意見もあるが、国民意識からかけ離れてはいないか。

刑事罰を科すのは限定的にという最高裁の考え方に沿って慎重な判断が必要だ。

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