法的に禁じられている国家公務員による政党機関紙の配布について、最高裁は、場合によっては罪に問われることはないとの判断を示した。
国家公務員の政治活動の範囲が、なし崩し的に広がらないか、懸念が拭えない判決だ。
過去の衆院選で、共産党機関紙の号外を休日にマンションなどに配布したとして、元厚生労働省課長補佐と元社会保険庁職員が国家公務員法違反に問われた。
最高裁は、元厚労省課長補佐を有罪、元社保庁職員については無罪とする判決を言い渡した。
国家公務員法は、職員の政治的行為を制限し、それに基づく人事院規則が、政党機関紙の配布を明確に禁じている。
判決がまず、国家公務員について、「政治的に公正かつ中立的立場で職務の遂行に当たることが必要」と指摘したのは当然だ。
だが、その先の最高裁の判断には疑問符が付く。
今回の裁判で、最高裁が重視したのは、2人の地位だ。有罪となった元厚労省課長補佐は、管理職的地位にあり、政治活動をすれば、他の職員の業務にも影響を及ぼし得る、との見解を示した。
一方、窓口相談などを担当していた元社保庁職員は管理職でなく、政治活動が職務に影響することはない、と判断した。
この見方は、一面的ではないか。地位にかかわらず、職場に強い影響力を持つ職員はいるだろう。例えば、官公庁の労働組合の幹部は管理職ではない。
どんな場合に政治活動が違法となるかについて、最高裁は、公務員の地位や権限を総合判断し、「行政の中立的運営に実質的に影響を及ぼす場合」との見解を示した。この線引きもあいまいだ。
最高裁は1974年、国家公務員の政治活動について、「地位や職種に関係なく政治的行為を禁じることは憲法に違反しない」と判断した。この判例との整合性でも理解しにくい面がある。
今回の判決により、管理職に就いていなければ、政治活動が許されるという解釈が広がる恐れもある。政権政党に、国の機関の職員がビラまきなどで協力するような事態も考えられる。
教育現場への影響も心配だ。教員は国家公務員並みに政治活動が制限されている。民主党との癒着が批判された北海道教職員組合の政治資金規正法違反事件のようなケースが起こりかねない。
やはり、公務員の政治活動は、厳格に規制されるべきだ。
この記事へのコメントはありません。