総選挙・ネット利用 即解禁が「いいね!」

朝日新聞 2012年12月06日

総選挙・ネット利用 即解禁が「いいね!」

また、同じ光景が繰り返された。選挙戦が始まる前夜、候補者たちのホームページやツイッター、フェイスブックに「選挙が終わるまで更新をやめます」の文字――。

インターネットでの選挙活動の解禁が今回も見送られた。選挙期間中、ネット上の文書や画像を更新すると、公職選挙法が定める「文書図画の頒布禁止」に抵触するという。

半世紀も前にできた法律にネット選挙を想定した規定があるはずもない。「抵触」は、90年代に総務省(旧自治省)が示した見解にすぎない。

世界を見渡せば、米大統領選を挙げるまでもなく、ネットは政治と民意をつなぐ重要なチャンネルであり、政治の変革をも生む存在となっている。

日本の政治家も認識しているはずだ。過去何度も改正法案が出され、10年には与野党合意にこぎつけた。

それなのに、政局優先の国会運営でお蔵入りが続く。政治の怠慢と言うしかない。

特に今回は、新党結成が相次ぎ、候補者は現憲法下で最多の1504人に及ぶ。有権者としては、政党や候補者が掲げる政策や主張についての情報が少しでも多く欲しい。

従来の公報や街頭演説では時間も内容も対象者も限られる。ネットはそうした制約を補完できる重要な「道具」だ。

ツイッターやフェイスブックに代表される「ソーシャルメディア」は、政治の世界でも急速に広がった。その最大の特徴は双方向性である。

何を知りたいか、どこに共感するか、何を求めるか。有権者は、自分の思いを直接伝えられる。政治政党や候補者も、支持者以外の幅広い意見を具体的にくみ取ることで、政策や戦術を練り直すことができる。

そうした取り組みは、選挙にとどまらず、政治のあり方そのものを変えることにつながっていくはずだ。

日本維新の会の橋下徹代表代行は「ツイッター続行」を宣言した。「文書図画」には当たらないとして音声をホームページ上で更新する候補者もいる。

候補者がいじらなくても、支持者が投稿したり、コメントを書いたりすることで事実上のページ更新が行われる、対立候補がそれに文句をつけるといった数々の混乱が起きるだろう。

選挙管理委員会や警察の対処という次元を超えた問題だ。

選挙後、どの政党が政権をとろうとも、与野党一致で一刻も早く時代遅れの規定を改めるよう強く求める。

毎日新聞 2012年12月07日

視点…時代錯誤の公選法=論説委員 人羅格

選挙運動にさまざまな規制をはりめぐらせ、ネットの活用すらいまだに解禁しない。このままでは日本の選挙は国際標準から孤立した「ガラパゴス化」の道をたどるのではないか。

衆院選公示を境に候補らのツイッター、ブログなどネット情報の更新が今回もストップ、政策論争の重要な手段が失われた。選挙期間中の書き込みによる特定候補や政党への投票呼びかけは公選法が禁じる「文書図画」頒布とされるためだ。

日本維新の会の橋下徹代表代行は公示後もツイッターで政策などの発信を続けている。ネット規制を「バカらしい」と批判しつつ、公選法や政府見解を踏まえる考えも示した。

混乱を避ける意味からも今回は従来の見解に従うべきだろう。だが、選挙運動と政治活動の線引きは実際には難しい。支持者や有権者の発信を現実に規制できるかも疑問だ。

資金力で運動に差がつかないようにするのが文書規制の本来の狙いのはずだ。ネット規制で深刻なあおりを食うのは資金の乏しい勢力だろうから本当に「バカらしい」話だ。

国会はこんな状況を予想しながら手を打たなかった。与野党は10年の参院選前にネット解禁で合意していた。ネット活用に伴うさまざまな問題に対処するためにも立法や政党合意でルールを決めておくべきなのだ。

ところが、鳩山由紀夫首相(当時)の退陣騒動で解禁は先送りされ、放置された。新党勢の進出が予想される中、解禁しない方が得策との計算が働いたと勘ぐられても仕方ない。

活動を幅広く規制する公選法は「べからず集」と呼ばれる。「選挙運動期間」を設け、戸別訪問などを厳しく制限する国はほとんどない。

今衆院選では脱原発を掲げる政治団体「緑の党」が衆院比例代表東京ブロックの候補擁立に必要な供託金(最低4人で2400万円)を調達できず、擁立を断念する事態も起きた。売名目的などの出馬を防止するという供託金本来の趣旨を逸脱する高額なハンディである。

規制だらけの公選法の大義名分は「選挙の公正」維持なのかもしれない。だが、運動を自由化すれば公正さを失うと性悪説的に過剰に心配するのは有権者の判断力を信用していない表れではないか。

時代錯誤の法律が政策論争の足かせとなり、むしろ選挙の公正を阻害している。そもそも政権の行方を決める論戦の期間がたった12日でいいのか。ネット解禁はもちろん、公選法のコンセプト自体を問い直す時だ。

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