国民会議 「最強」ならではの議論を

毎日新聞 2012年11月28日

国民会議 「最強」ならではの議論を

税と社会保障一体改革は野田佳彦政権の数少ない成果の一つと言えるだろう。しかし、年金や医療の主要な改革はほとんど手つかずのままで、社会保障制度改革国民会議に先送りされた。その国民会議のメンバー15人が発表された。わが国の社会保障の将来像を示し、実現可能な処方箋を示してほしい。

民自公の3党合意は、年金、医療、介護、少子化の4分野について国民会議で審議し、それを踏まえて必要な法制上の措置を1年以内に実施することを定めた。当初は委員に日本医師会などの業界団体や国会議員を含めることも検討されたが、会長に予定されている清家篤慶応義塾塾長をはじめ大学教員を中心とした有識者だけで構成された。「最強の布陣を念頭に置いた」(岡田克也副総理)といい、民主党の政策に批判的な委員も含まれている。「持続可能な社会保障制度の確立を総合的かつ集中的に推進する」が国民会議の目的だ。業界の利害が絡んだ各論に陥りがちな要素を除いた点でも人選は評価できる。

いくつか注文をしたい。年金をめぐっては政治家だけでなく経済学者の間でも破綻説から安泰説まで意見が分かれる。「年金はすでに破綻している」と言われると不安は一気に高まるが、冷静に見るとデータ(根拠)を明示せず、あるいは都合のよいデータをつまみ食いして自説を展開しているものがある。難解な数理計算が一般国民による妥当性の判断の妨げにもなっている。

一方、年金記録問題などの不祥事を起こしてきた厚生労働省が「年金は破綻しない」と言っても信じられない人は多いだろう。野党時代には声高に破綻論を主張した民主党幹部が政権に就くとこぞって「破綻していない」に変わったことも混乱に輪をかけている。国民会議では根拠のあるデータを基に各説の信頼性や妥当性について徹底検証し、国民にわかりやすく説明してほしい。

「総合的かつ集中的に推進」するためには4分野ごとの見直しだけでなく、各分野にまたがる問題の調整や統合を大胆に進めることも必要だ。高齢者医療と介護の連携や役割分担、無年金・低年金と生活困窮者対策(生活保護)の整理などは縦割り行政の下ではなかなか進まない課題だ。国民会議ならではの大局観に立った改革案を示してもらいたい。

少子高齢化と財政状況の厳しさを考えれば、負担増や給付減の改革は避けられない。国民が納得できるか、それとも現実離れした甘い公約になびいてしまうかは、国民会議の議論にかかっている。これ以上、社会保障への不信や不安を政争の具にしてはならない。

産経新聞 2012年11月29日

社保国民会議 具体的な抑制案まとめよ

「社会保障制度改革国民会議」の委員がようやく決まり、30日に初会合が開かれる。

国民会議に求められる使命は、人口の高齢化に伴い膨らみ続ける年金や医療・介護費用について、具体的な抑制策をまとめることだ。消費税増税によって財源確保が一息つくとはいえ、社会保障費に切り込まなければ、将来的に制度は維持できなくなる。

団塊世代が引退し、社会保障財政は厳しい局面を迎える。会議のメンバーには、会長に選出予定の清家篤慶応義塾長はじめ学識経験者らが選ばれたが、もはや「議論のための議論」の段階は終わり、政策を実行に移す段階に入ったという厳しい認識をもって臨んでもらいたい。

気掛かりなのは、各政党が衆院選を控えて国民に負担を求めることに口をつぐみ、サービス拡充策を訴えていることだ。万が一にも、国民会議が「政治的思惑」に翻弄され、結論をあいまいにすることがあってはならない。

国民会議は社会保障・税一体改革関連法に基づき設置される組織で、与野党は出される結論を最大限尊重しなければならない。メンバーは大局に立って今後の日本が進むべき道をしっかり示し、むしろ与野党の議論をリードする役割を担ってほしい。

とはいえ、与えられた時間は多くない。関連法は社会保障制度の抜本改革について「国民会議で議論して1年以内に法制上の措置を講じる」と定めているためだ。来年の通常国会に法案提出できるよう結論を得るには、最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止といった非現実的な政策の是非を一から議論する余裕などない。

改革のメニューについては、歴代政権下の有識者会議で、おおむね出尽くしている。その中から何を選択し、導入にあたって生じる問題点をどう解決するかが問われる。生産的な議論にこそ時間を割き、積極的に解決策を探ってゆくことが肝要である。

社会保障を取り巻く状況は厳しい。不安定な雇用環境に置かれた人も増え、勤労世代への負担は限界に達しつつある。

高齢者も含め、支払い能力に応じた負担を求めなければ世代間の不公平感は広がるばかりだ。政府は具体的にどこまでのサービスを提供すべきなのか、タブー視しない議論が必要となる。

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