裁判員制度半年 経験者の声生かすべきだ

毎日新聞 2009年11月25日

裁判員制度半年 守秘義務の議論深めて

「被告や被害者のことを考えると世の中の不条理を思い、昨晩は涙腺がもろくなりました」。8月に東京で行われた全国初の裁判員裁判終了後、裁判員の男性は会見で率直な感想を語った。隣人殺人事件で、懲役16年の求刑に対し15年の実刑だった。男性は2日後のインタビューで、時間がたつにつれ刑を言い渡した重みや不安を感じると答えてもいる。

裁判は被告の人生を左右する。人間らしいまなざしを持って法廷に臨み、責任も自覚した発言である。裁判員制度が5月21日にスタートして半年がたった。各地の裁判員の会見からは、多くの人が真摯(しんし)な姿勢で取り組む様子がうかがえ、法曹関係者も前向きに評価する。

最高裁が裁判員経験者にアンケートした結果(79人が回答)でも、選任前は気乗りしない人が過半数を占めたが、終了後は97・5%の人が「よい経験をした」と感想を述べている。裁判員の経験が人生のプラスになれば、制度の意義もさらに増す。

ただ、いくつかの課題も浮き彫りになってきた。一つは守秘義務である。裁判員には「評議の秘密」などを守る義務が課され、罰則もある。そのため、会見は感想を聞くのが中心だ。立ち会う裁判所職員が、守秘義務を理由に質疑をさえぎる事態も各地でたびたび起きている。

「評議の秘密」には、各裁判官・裁判員の意見や評決の数、評議の経過が含まれる。事件当事者のプライバシーや他の裁判員の意見を暴露するのは論外として、自分の意見や評議の経過を話すのは問題ないとの考えは、法曹内部にも少なくない。

一方で、特定の裁判員が表明した意見や評議の経過についての発言が事実なのか分からないではないかと、慎重な考え方もあるだろう。

いずれにしろ、国民の健全な常識が裁判に反映されているのかチェックできないのでは困る。守秘義務が一生続くことの負担感も含め、議論を深める必要がある。

性犯罪事件は、被害者のプライバシー保護の観点から裁判員裁判として妥当か。議論はあったが、被害者の苦しみを受け止めた判決は従来より重く、司法関係者にこれまでの量刑のあり方を問うきっかけになった。一方で、覚せい剤の営利目的輸入事件のように、市民感覚とかけ離れた事件を対象とする必要があるのかとの疑問の声もある。裁判迅速化のあまり審理が拙速になっていないかも含め、政府は、3年後の見直しに向け問題点の洗い出しを進めるべきだ。

死刑求刑事件や本格的な否認事件など、裁判員裁判の真価が問われるのはこれからである。裁判員の精神的負担の重さも含め、配慮やケアに工夫してほしい。

産経新聞 2009年11月22日

裁判員制度半年 経験者の声生かすべきだ

20歳以上の一般国民が刑事裁判に参加する裁判員制度がスタートして半年たった。これまでのところ、一応順調な滑り出しを見せている。

国民の理解と協力を得るには、いかに裁判員の負担を軽くし、参加しやすくするかの環境作りが肝要だ。必要な是正措置を講じてほしい。

裁判員制度は、1審の刑事裁判に国民の一般常識を反映させることを最大の目的として5月21日施行された。実際の裁判は8月の東京地裁が第1号で、以後、全国の地裁や支部で判決が出ている。

最高裁は、9月末までに計11地裁で行われた14件の裁判に参加した裁判員79人を対象にアンケートをした。その結果、約98%とほとんどの裁判員経験者が「よい経験と感じた」と回答し、予想以上に制度運営がうまくいっていることが裏付けられた。

法廷での審理について、約75%が「理解しやすかった」と答え、評議に関しても「話しやすい雰囲気」が9割近くに達するなど、制度を前向きにとらえている人が圧倒的に多かった。

しかし、今後もこうした高い数字を維持できるかは疑問だ。調査対象とした裁判は、大半が3~4日の短期間で終了した。事件自体も複雑でなく、被告が罪を認めているケースばかりで、争点は量刑のみに絞られていた。裁判員への負担が比較的軽かったことが好意的感想につながったようだ。

課題も少なくない。裁判員候補者として裁判所に呼ばれながら、裁判員に選ばれず、「せっかく都合をつけて来たのに」と不満を漏らす人もいた。裁判員選任手続きにどの程度の人数を呼ぶべきか、裁判所は考慮する必要がある。

アンケートでは、検察側の立証を「分かりやすい」と評価する人が多数を占めた。反対に弁護側については「分かりにくい」との意見があり、弁護人は裁判員裁判でのわかりやすい立証方法に早く習熟することが急務である。

裁判員自体についても、判決後の記者会見に全員欠席した例や、公判中の感情的発言を裁判長に制止されたケースがある。裁判員には判決後も厳しい守秘義務が課されているが、その範囲については極力限定する必要があろう。

今後は被告が否認したり、争点が複雑だったり、死刑選択を迫られる事件が増えてくる。経験者の貴重な声を尊重し、裁判員への配慮と工夫ある運営を求めたい。

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