◆電力安定確保の観点で選択を◆
国民生活と経済成長に不可欠な電力をどのように安定的に確保するか。衆院選でエネルギー政策は大きな争点となる。
東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、各党の原発政策が注目される。
「脱原発」か、否か、という単純な二項対立では、資源小国・日本の諸課題を解決できない。各党は景気や雇用、地球環境、核不拡散など多角的な視点から、地に足の着いた論戦を展開すべきだ。
◆無責任な民主党の公約◆
福島の事故で原発の安全に対する国民の不安は高まった。原発の安全性を向上させ、再発防止に万全を期さなければならない。
エネルギー自給率が4%の日本が、全電源の約3割を占める原発をただちに放棄するのは非現実的だ。
ムードに流されて安易に脱原発に走れば、「経済の血液」である電力供給が弱体化する。日本経済の将来に禍根を残しかねない。
各党と有権者は、重大な選択の岐路に立っていることを自覚して選挙に臨む必要がある。
懸念されるのは脱原発を掲げる政党が目立つことだ。国民の不安に乗じて支持拡大を狙う大衆迎合ではないか。
民主党は政府が「革新的エネルギー・環境戦略」で打ち出した2030年代の「原発ゼロ」を、政権公約(マニフェスト)に盛り込むという。経済への打撃を軽視した、欠陥だらけの「戦略」をそのまま公約するのは問題だ。
民主党政権の「脱原発路線」の影響で、ほとんどの原発が再稼働できていない。老朽化した火力発電所をフル稼働する綱渡りの中、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入が急増し、年3兆円もの国富が流出し続けている。
工場が海外移転する産業空洞化も加速し、国内雇用は危機に直面している。民主党は自らの“電力失政”への反省が足りない。
自民党の安倍総裁は、民主党の「原発ゼロ」方針を「極めて無責任だ」と批判した。科学的に安全性が確認できた原発は政府が責任を持って再稼働させると明言したのは、政権復帰を目指す責任政党として妥当な姿勢である。
自民党の公約が、中長期的なエネルギー構成を10年かけて決めるとしているのはスピード感に欠ける。原発を有効活用する明確な方針を打ち出すべきだ。あわせて核廃棄物の処理について検討を進めることが欠かせない。
民主、自民の両党に次ぐ「第3極」を目指す日本維新の会が、石原慎太郎前東京都知事の率いる太陽の党と合流した際、「30年代に原発全廃」の従来方針を取り下げたのは結構な判断だった。
だが、新たな政策が「新しいエネルギー需給体制の構築」というだけでは、あいまい過ぎる。
一方、即時あるいは早期の原発ゼロを主張するのが、国民の生活が第一や共産党などである。
◆再生エネ過信は禁物だ◆
反原発派は夏のピーク時に停電しなかったため「原発なしで電気は足りる」と主張するが、生産停滞や電力料金の上昇などの悪影響を無視した的外れな見解だ。
脱原発のマイナス面も率直に有権者に示して選択を求める誠実な姿勢が求められる。
ほとんどの党は、原発の代替電源として太陽光や風力など再生可能エネルギーを挙げる。再生エネの普及に期待したいが、水力を除けば全発電量の1%強にすぎない。すぐに原発に代わる主要電源に育つと見るのは甘すぎる。
当面は石炭やLNGなど火力発電の増強で対応せざるを得まい。火力発電の増加による温室効果ガス排出や大気汚染など、環境問題に触れずに、「脱原発」を唱えるのはご都合主義である。
発電燃料を原油に頼り、停電の危機に陥った石油ショックの教訓は重い。原発を含む多様な電源の選択肢を持つことが大切だ。
◆外交・安保にも影響が◆
政府・民主党の「原発ゼロ」方針には、核燃料サイクルを同時に進める矛盾について欧米から疑問が呈された。米国は原子力の平和利用や核不拡散に支障が出かねないとして、強い懸念を示した。
再処理した核燃料を発電に使わないと、核兵器に転用できるプルトニウムの保有量が、再処理で増え続けることになるからだ。
日米原子力協定で認められているプルトニウム保有という特別な権利も、アジアにおける米核政策のパートナーの地位も、日本は同時に失う恐れがある。外交・安全保障の観点からも、安易な「脱原発」は避けるべきである。
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