エネルギー政策 電力の安定供給に道示せ

読売新聞 2012年11月25日

エネルギー政策 「脱原発」の大衆迎合を排せ

◆電力安定確保の観点で選択を◆

国民生活と経済成長に不可欠な電力をどのように安定的に確保するか。衆院選でエネルギー政策は大きな争点となる。

東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、各党の原発政策が注目される。

「脱原発」か、否か、という単純な二項対立では、資源小国・日本の諸課題を解決できない。各党は景気や雇用、地球環境、核不拡散など多角的な視点から、地に足の着いた論戦を展開すべきだ。

◆無責任な民主党の公約◆

福島の事故で原発の安全に対する国民の不安は高まった。原発の安全性を向上させ、再発防止に万全を期さなければならない。

エネルギー自給率が4%の日本が、全電源の約3割を占める原発をただちに放棄するのは非現実的だ。

ムードに流されて安易に脱原発に走れば、「経済の血液」である電力供給が弱体化する。日本経済の将来に禍根を残しかねない。

各党と有権者は、重大な選択の岐路に立っていることを自覚して選挙に臨む必要がある。

懸念されるのは脱原発を掲げる政党が目立つことだ。国民の不安に乗じて支持拡大を狙う大衆迎合ではないか。

民主党は政府が「革新的エネルギー・環境戦略」で打ち出した2030年代の「原発ゼロ」を、政権公約(マニフェスト)に盛り込むという。経済への打撃を軽視した、欠陥だらけの「戦略」をそのまま公約するのは問題だ。

民主党政権の「脱原発路線」の影響で、ほとんどの原発が再稼働できていない。老朽化した火力発電所をフル稼働する綱渡りの中、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入が急増し、年3兆円もの国富が流出し続けている。

工場が海外移転する産業空洞化も加速し、国内雇用は危機に直面している。民主党は自らの“電力失政”への反省が足りない。

自民党の安倍総裁は、民主党の「原発ゼロ」方針を「極めて無責任だ」と批判した。科学的に安全性が確認できた原発は政府が責任を持って再稼働させると明言したのは、政権復帰を目指す責任政党として妥当な姿勢である。

自民党の公約が、中長期的なエネルギー構成を10年かけて決めるとしているのはスピード感に欠ける。原発を有効活用する明確な方針を打ち出すべきだ。あわせて核廃棄物の処理について検討を進めることが欠かせない。

民主、自民の両党に次ぐ「第3極」を目指す日本維新の会が、石原慎太郎前東京都知事の率いる太陽の党と合流した際、「30年代に原発全廃」の従来方針を取り下げたのは結構な判断だった。

だが、新たな政策が「新しいエネルギー需給体制の構築」というだけでは、あいまい過ぎる。

一方、即時あるいは早期の原発ゼロを主張するのが、国民の生活が第一や共産党などである。

◆再生エネ過信は禁物だ◆

反原発派は夏のピーク時に停電しなかったため「原発なしで電気は足りる」と主張するが、生産停滞や電力料金の上昇などの悪影響を無視した的外れな見解だ。

脱原発のマイナス面も率直に有権者に示して選択を求める誠実な姿勢が求められる。

ほとんどの党は、原発の代替電源として太陽光や風力など再生可能エネルギーを挙げる。再生エネの普及に期待したいが、水力を除けば全発電量の1%強にすぎない。すぐに原発に代わる主要電源に育つと見るのは甘すぎる。

当面は石炭やLNGなど火力発電の増強で対応せざるを得まい。火力発電の増加による温室効果ガス排出や大気汚染など、環境問題に触れずに、「脱原発」を唱えるのはご都合主義である。

発電燃料を原油に頼り、停電の危機に陥った石油ショックの教訓は重い。原発を含む多様な電源の選択肢を持つことが大切だ。

◆外交・安保にも影響が◆

政府・民主党の「原発ゼロ」方針には、核燃料サイクルを同時に進める矛盾について欧米から疑問が呈された。米国は原子力の平和利用や核不拡散に支障が出かねないとして、強い懸念を示した。

再処理した核燃料を発電に使わないと、核兵器に転用できるプルトニウムの保有量が、再処理で増え続けることになるからだ。

日米原子力協定で認められているプルトニウム保有という特別な権利も、アジアにおける米核政策のパートナーの地位も、日本は同時に失う恐れがある。外交・安全保障の観点からも、安易な「脱原発」は避けるべきである。

産経新聞 2012年11月26日

エネルギー政策 電力の安定供給に道示せ

自民党が政権公約で示したエネルギー政策には「電力需給の安定に万全を期す」とある。責任政党として求められる当然の主張である。

慢性的な電力不足の解消に、原発の活用が欠かせないのは明らかだ。自民党公約は「すべての原発で3年以内に稼働の可否を判断する」としているが、原子力規制委員会が安全性を確認した原発は直ちに再稼働させる必要がある。そのためにも、立地自治体の同意を含め、再稼働への手順を早期に確立しておかねばならない。

衆院選の原子力・エネルギー政策として、民主党は「2030年代の原発稼働ゼロ」を掲げる。公明党やみんなの党、国民の生活が第一なども「原発ゼロ」を打ち出している。一時のムードに流されてのゼロ政策は、政治の責任放棄というほかない。電力料金の高騰を招き、産業の空洞化も進行させてしまう。

各党とも太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡大に力を注ぐとしているが、現行の再生エネは全発電量の2%程度にすぎない。新規産業にもなる分野ではあるが、過度の期待は禁物だ。

そうした中で、自民党は「原発ゼロ」と距離を置き、安全性を確保しつつ再稼働の判断を進めるとした。現実主義に立って、政府が再稼働に責任を持つ体制を明示してほしい。それが国民の「原発不信」を解消する道で、国際社会への責務でもある。日本のエネルギー政策は、世界が注視していることを忘れてはならない。

自民党が「10年以内に最適な電源構成を確立する」としたことに対し、枝野幸男経済産業相は「いま目標を定めないのは、逃げではないか」と批判している。だが、再生エネの普及が不透明なままで「原発ゼロ」を主張する方が、よほど無責任だろう。

民主党政権が検討を進めてきた発送電の分離にも、慎重な議論が必要だ。現在のような電力不足の中で発電と送電を分離すると、かえって電力料金の高騰を招く恐れも指摘されている。

経団連参加企業と民主党の意見交換会では、原発ゼロを掲げて経済成長を果たすとする民主党公約に批判が相次いだ。電力供給に不安を抱え、料金も値上がりする中では成長など期待できないからだ。原発ゼロを掲げる政党は、現実を直視すべきである。

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