衆院選では、各党のデフレ克服策が重要な争点となる。本格的な論戦の前に、自民党の安倍総裁が投じた“一石”が波紋を広げている。
安倍氏は、17日の熊本市内での講演で、無制限の金融緩和を日銀に求めるとともに、公共事業のために発行する建設国債については「いずれは日銀に全部買ってもらう」などと述べた。
これには野田首相が「日銀に国債を直接引き受けさせるやり方は禁じ手だ」と指摘するなど、政府などから批判が相次いだ。
確かに、いくらでも紙幣を発行できる日銀に、国債の直接買い取りを求めたのなら問題だ。戦時中のように国債増発に歯止めがかからなくなり、財政規律が崩壊して超インフレが起きる恐れが強い。
だが、安倍氏は同時に、通常の金融調節手法である「買いオペ」で購入するとも述べていた。21日の記者会見では「直接買い取りとは言っていない」と否定した。
それでも、自民党が政権に復帰したら日銀に財政赤字の穴埋めを求めようとするのではないか、との疑念は拭いきれない。安倍氏はさらに丁寧に説明してほしい。
問題は、デフレ退治も超円高の是正も進んでいないことだ。従来の金融・財政政策の発想を超える思い切った政策が求められる。
物価上昇率はほぼゼロで、名目国内総生産(GDP)は5年前より30兆円以上も減った。日銀は1%の物価上昇を目指し金融緩和を続けているが、効果は乏しい。
安倍氏の提唱に好感し、株高・円安が進んだことは、金融政策に対する市場の期待が大きいことを示している。
各党もデフレ脱却への具体的な処方箋を示し、衆院選で論議を活発化させる必要がある。
自民党は21日に発表した政権公約に、2%の「インフレ目標」設定など、現在より踏み込んだ政策を盛り込んだ。政府・日銀がインフレ目標を掲げ、達成に責任を共有する狙いは理解できる。
政府・日銀が連携を強化する仕組みを作り、大胆な金融緩和を行うとしたのも妥当である。
ただ、「日銀法の改正」に触れた点は懸念される。自民党の一部には、政府に日銀総裁の解任権を持たせる構想もある。
解任権を振りかざして、政府が日銀に政策を無理強いすれば、中央銀行の独立性が損なわれる。政治の過剰介入で、経済と市場を混乱させる愚は避けるべきだ。
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