原発・エネルギー政策 後戻りなき変化を土台に

朝日新聞 2012年11月19日

原発・エネルギー政策 後戻りなき変化を土台に

原発ゼロを目指すのか。それとも、あくまで一定割合の原発を使い続けるのか。

原子力・エネルギー政策は、将来の「国のかたち」を左右する。今度の総選挙で最大の争点のひとつだ。

福島第一原発事故によって、多くの国民は原子力の負の側面とそれを覆い隠そうとしてきた政治・行政の罪を、自分たちの生活に直結する問題として認識した。

首相官邸前の反原発デモに、大勢の市民が自らの意思で集まったのは、その表れだろう。

将来のエネルギー政策をめぐって、この夏行われた「国民的議論」も、不十分ながら、政治と国民との関係に新しい接点をもたらした。

ある大手企業トップは言う。

「審議会などで電力会社のやり方に少しでも疑義を唱えたら翌日から次々に圧力がかかる。それが当たり前だったエネルギー議論で、ようやく民主化が進み出した。これはもう止められない変化だ」

まずは、この「後戻りのできない変化」を共通の土台として確認しておきたい。

そのうえで今後の原子力政策を考えれば、明らかなことがある。原発はこれ以上増やしようがないという事実だ。

「地域振興」の名目で過疎地にお金をつぎ込み、原発を集中立地する手法は、事故でその矛盾と限界をさらけ出した。

安全基準は厳しくなり、原発への投資は一層、巨額になる。

しかも、電力需給の面だけなら、ほとんどの原発が必要ないことが明白になった。

これらを踏まえれば、脱原発依存という方向性はおのずと定まる。

そこで、各政党に明確にしてもらいたいのは、

(1)原発をどんな手順とスピードで減らし、放射性廃棄物の問題をどう解決するのか。

(2)東京電力の処理をどのように進め、賠償や除染、廃炉といった原発事故に伴う費用負担に国がどう関わっていくか。

(3)発電と送電の分離をはじめとする電力システム改革に、どのように臨むか。

この3点である。いずれも工程表を示すべきだ。

民主党はマニフェストに「2030年代の原発稼働ゼロ」を盛り込む方針という。

だが、政権の座にありながらその中身を詰め、実現への段取りを示すことができなかった。「口約束にすぎないのでは」。有権者は疑っている。

燃料費の増加など脱原発に伴う当面のコスト増をどのように分担するか。日本の脱原発に懸念を示す米国や、立地自治体への対応についても、もっと踏み込んだ説明が必要だ。

脱原発を公約に掲げる公明党や小政党も、課題は共通する。

自民党は民主党のゼロ政策を「無責任」と批判するものの、自らの方針は明確ではない。

一定の原発を維持する方針であれば、増え続ける放射性廃棄物の問題にどう臨むのか、具体的に示す責任がある。原発を推進してきた過去をきちんと総括もせず、「10年かけて考える」は論外である。

東電処理の見直しも待ったなしだ。除染などの費用もすべて東電に負わせる今の枠組みは行き詰まりつつあり、福島県の復旧・復興や電力供給に支障を来しかねない。

東電のリストラだけでは到底まかない切れない事故費用は、電気料金か税金で負担するしかない。どう分担するのか。

その議論を、「国策民営」という原発政策のあり方や原子力賠償制度の再検討にも結びつけなければならない。

もちろん、新たな負担について国民を説得するのは、容易ではないだろう。

節電には協力した消費者が、東電の値上げに強く反発した背景には、「電力の選択肢がない」ことへの不満があった。

地域独占に守られた電力会社が支配する今の体制では、新規参入や新たな技術の導入はなかなか進まない。

野田政権は、送電網の運営を発電事業と切り離し、多様な電源や新しいサービスを促す方向へ、かじを切った。自然エネルギーや自家発電などをできるだけ取り込むことで、脱原発を進めつつ、電力を確保していこうという考えだ。

自民党政権は過去、地域独占による安定供給を重視し、大手電力の既得権を擁護してきた。今後、方針を転換するのか。早く将来図を示してほしい。

首をかしげるのは、日本維新の会の橋下徹代表代行である。電力消費地の立場から、脱原発や電力改革に意欲を見せてきたが、「反・反原発」の石原慎太郎氏率いる太陽の党の合流で、「脱原発」の看板は消えた。

いったい原発政策をどうするつもりなのか。有権者へのきちんとした説明が不可欠だ。

毎日新聞 2012年11月23日

2012衆院選 日本の針路「原発と社会」

原発をゼロにするのか、維持するのかは日本の社会の未来像を左右する。原発・エネルギー政策は、今回の総選挙の大きな争点である。

東京電力福島第1原発の事故から1年8カ月を経てなお、16万人以上が避難生活を余儀なくされている。事故の現場では終わりの見えない収束作業が続く。汚染地域の除染作業は進まず、住民の低線量被ばくへの不安も収まらない。

これほど甚大な事故のリスクがあるとわかった以上、原発の新増設はもはやありえない。厳格なリスク評価を前提に、再稼働は当面認めるにしても、これまで地震活動などの危険性を過小評価してきたことを思えば、原発を減らしていく以外に選択肢はあるまい。

各党には、そうした現実を踏まえ、責任のあるエネルギー政策を示してもらいたい。

民主党は、マニフェストに「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す方針を盛り込むという。しかし、その道筋が一向に示されないため、説得力に欠ける。野田内閣が、同様の方針を閣議決定しなかった経緯から「本気度」を疑う声もある。

私たちは、各原発のリスクを横並びで評価し、優先順位をつけて廃炉にしていくことを提案してきた。そうした手法も含め、脱原発の工程表を示してもらいたい。これは、公明党など脱原発を掲げる他の政党にとっても共通の課題といえる。

一方、自民党の公約は「10年以内に電源構成のベストミックスを確立する」というものだ。これでは、問題の先送りであり、脱原発を目指すのか、従来路線を踏襲するのかも定かでない。

事故を招いた遠因は、甘い安全規制や原子力ムラのなれ合いにあり、それを放置してきた自民党にも責任はある。それも踏まえた上で、明確な方針を示すべきだろう。

日本維新の会は、原発ゼロ政策の旗を降ろし「安全基準などのルールを作る」というにとどまる。原発推進派の石原慎太郎前都知事と手を組むために、原発政策をないがしろにしたと見られても仕方あるまい。これでは国民は選択しようもない。

原発をやめるにしろ、維持するにしろ、必ず取り組まなくてはならない現実的課題は山積している。

その一つが使用済み核燃料の問題だ。民主党は原発ゼロをめざしつつ、核燃料を再生産するための再処理を続けるという矛盾した方針を示してきた。立地自治体や、安全保障も絡む米国との関係などに配慮したためだとされる。マニフェストに核燃料サイクル事業の見直しをどう盛り込むか、まだはっきりしないが、ここでもやめるのか、維持するのかの「方向感」を示すべきだろう。

これまでの先送り政策を見直すため、自民党など他の政党にも具体的な方針を示すよう望みたい。

原発に対する国の責任をどう位置づけるかも大きな焦点になる。

まず問われるのが、東電再建への追加支援だ。現行制度の下で、事故に伴う損害賠償の全責任を負うはずの東電は、「一民間企業では背負い切れない」として政府に追加支援を要請している。

東電の努力でまかない切れないのであれば、国が分担するしかない。「国策民営」で原発を推進してきた責任は国にもあるからだ。国の責任とは国民負担ということである。安易な救済策では、国民の理解は得られまい。過去の原発政策の反省も踏まえた国の責任分担のあり方について、各党の考えを聞きたい。

国民生活への影響を考えると、電力システム改革に対する各党の対応にも注目する必要がある。

原発依存度を引き下げるには、代替の電源が必要になる。中長期的には太陽光、風力などの再生可能エネルギーが期待されるが、それらが普及・拡大するまでは燃料費の高い火力発電が中心になる。

再生エネにしろ、火力にしろ発電コストがかさむ。コスト増がそのまま電気料金に上乗せされるようでは、家庭の負担が増すばかりか、製造業の国際競争力に大きなダメージを及ぼしかねない。

電気料金を抑制するためには、電気事業への新規参入を促し、大手電力間の競争も促進する電力システム改革が不可欠になる。

民主党政権は、家庭用まで含めた電力小売りの全面自由化や、電力会社の発電部門と送電部門を切り分ける発送電分離を進めるとしてきた。競争を促す政策として評価できる。かつて、小売りの自由化などに反対してきた自民党は、改革への覚悟が問われる。

原発・エネルギー政策は電力の安定供給、料金負担、エネルギー安全保障などの問題に直結し、国民に大きな影響を与える。各党が目指すのは低エネルギー社会への転換か、原発事故前への回帰か。

各党は国民が自ら選択するための材料として、それぞれが描く未来とそこに至る道筋を具体的に示してもらいたい。

産経新聞 2012年11月20日

原発ゼロと衆院選 現実見ぬ選択では国滅ぶ

日本の将来を左右する原子力・エネルギー政策が衆院選の大きな争点となっているが、民主党が「原発ゼロ」を打ち出したのをはじめ、多くの政党も「脱原発」を標榜(ひょうぼう)している。

だが、エネルギー小国の日本が原発を完全に手放してしまうのは現実的でない。一時のムードに流された脱原発は、ただちに国力低下につながる危険な選択であることを改めて訴えたい。

政府・民主党は、革新的エネルギー・環境戦略として「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すことを決定した。原発の新増設は認めず、運転から原則40年での廃炉を徹底するという。

しかし、原発に代わる太陽光などの再生可能エネルギーを整備する道筋は描けていない。政府試算では再生エネ投資で50兆円、省エネ投資は100兆円が必要となる。発電コストが高い再生エネの普及によって、電力料金も現在の2倍以上にはね上がる。

電力の安定供給や代替エネルギーの確保、電力料金の値上げ、それに伴う産業空洞化にどう対応するのか。各政党は脱原発をうたうならば、選挙公約などでこのような疑問に、はっきりと答えなければならない。

原発の再稼働が進まない現在の日本では、足元の電力供給すら綱渡り状態だ。泊原発の運転が再開できない北海道の住民・企業に対し、政府は今冬、厳しい寒さの中で7%以上の節電を求める。住民の生命にも危険が及ぶ。

安定的な電力供給ができずに節電ばかり恒常化すれば、企業の海外進出が加速して雇用が失われ、国内総生産(GDP)も落ち込んでしまう。「原発ゼロ」が徹底されれば原子力技術者は日本で育たなくなり、廃炉作業に影響が出るのも必至だろう。

政権奪回をめざす自民党は「10年内に新たなエネルギーの供給構造を構築する」としているが、方向性は不透明だ。まずは安全性の確保できた原発について早期に再稼働させ、電力の安定供給を実現すべきである。

日本が蓄積してきた原発技術は、今なお世界的に評価が高い。福島第1原発の事故を教訓に一層安全性を高めた原発を開発し、国民の信頼を回復するとともに、世界に輸出して新興国のエネルギー需要に応える。これが日本に課せられている責務である。

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