習近平体制発足 膨張中国と向き合う戦略築け

毎日新聞 2012年11月16日

習近平政権 長老支配に戻った中国

これが世界第2の経済大国の政権党なのか。驚くほど前近代的な中国共産党の指導部交代だった。まるで天安門事件の後のような長老支配をさらけ出した。世代交代にかけた期待は裏切られた。新指導部は、長老集団の干渉をはねつけ、断固として政治改革に取り組む決意、国際協調を追求する謙虚な外交姿勢を国際社会に示さなければならない。

中国共産党第18回大会が終わった。習近平(しゅうきんぺい)・国家副主席を総書記とする新指導部が成立した。今後2期、10年間の中国を指導する。

権力闘争の結果生まれた党政治局常務委員7人は、来年の春、国家主席になる習氏と、首相になる李克強(りこくきょう)氏以外は、江沢民(こうたくみん)・前国家主席派で占められた。習政権は江氏ら長老の支配干渉を受け、保守的強権的な統治、強硬な大国主義外交に走る可能性が高い。

今回の党大会は10年に一度の、大幅な世代交代人事を決める大会だった。だが初日から失望した。引退したはずの保守派長老たちが公然と登場したのである。人民大会堂の舞台最前列に置かれた議長団席に現役指導者といっしょに横一列に並んだ。

長老は3割を占めた。多くが80歳を超えている。中央に江氏、李鵬(りほう)・前全人代常務委員長もいた。天安門事件の後の江・李体制が再現された。歴史の歯車が20年以上逆転したようだ。習政権の背後には終身現役の長老集団がいる。これでは改革は進まない。

政治局常務委員人事で象徴的なのは、張徳江(ちょうとくこう)・副首相の昇進である。来年春に全人代常務委員長に就任するとみられる。中国では党総書記、首相、全人代委員長の3者が「核心領導(かくしんりょうどう)」(権力中枢)とされる。習氏を共産主義青年団(共青団(きょうせいだん))派の李克強氏と、江沢民派の張氏が支える派閥均衡の形になっている。

だが、胡錦濤(こきんとう)・前総書記系の共青団派の排除は明らかだ。総書記に代わって党務を処理する書記局筆頭書記は、江沢民派でも強硬派の劉雲山(りゅううんざん)・前党中央宣伝部長。普通なら党大会の準備をしてきた李源潮(りげんちょう)・前党中央組織部長の昇進が順当だが、政治局委員に据え置かれた。天安門事件当時、民主化運動に理解を見せたことが原因らしい。

また、党高官の汚職腐敗に対する監視役である党中央規律検査委員会書記には革命元勲の子である「太子党」の王岐山(おうきざん)氏が就任した。汚職摘発が権力闘争の材料になってきただけに、ここを握ることで党内ににらみをきかせることができる。

習氏はもともと派閥色の薄い地方官僚だった。しかし太子党の一員として江沢民派から次期総書記候補に推された。ところが、今年の春先に重慶(じゅうけい)市党委員会書記だった薄熙来(はくきらい)氏のスキャンダルが発覚し、常務委員の候補から落後したため激しい権力抗争が起きた。

太子党の薄氏を保守派長老や江沢民派幹部がかばい、胡錦濤派が厳しい処分を求めた。この時、習氏は薄氏糾弾に回り、江沢民派との距離が一時、開いた。

薄熙来事件は、軍の中にも激しい権力闘争を誘発した。党中央軍事委員会主席を兼務する胡氏と副主席の習氏、元軍事委主席の江氏が三つどもえで軍首脳ポストを争った。

胡氏は太子党の軍人が軍事委副主席に昇進するのを抑止した。しかし、党総書記を引退した後も軍事委主席に留任する江沢民方式の踏襲はできなかった。胡氏が軍事委に残れなかったことで習政権に対する江沢民派の影響は決定的になった。

胡氏は、天安門事件の後に※小平(とうしょうへい)氏が「10年後の後継者」として指名した人物である。一方、江氏は、保守派長老たちが※小平系の胡耀邦(こようほう)、趙紫陽(ちょうしよう)両総書記を次々に失脚させ後釜に据えた人物である。今回の権力闘争は、※氏が指名した胡総書記の任期満了と連動して爆発した。「改革開放」路線の※小平系と、反※小平系の保守派長老との対立にまでさかのぼるからだ。

習総書記が※小平路線を継承しようとすれば長老たちの抵抗は大きいだろう。※氏は「実力は内に向けて外に向けるな」という意味の「韜光養晦(とうこうようかい)」という言葉を残した。周辺国との紛争を回避し、国内の経済建設に全力を挙げる全方位外交路線だ。尖閣の領有権主張を棚上げして日中関係を安定させた。覇権を争わないとして米国との関係も重視した。一方、江沢民時代になると大国主義が台頭した。社会の不満を強権的に抑え、愛国主義を鼓吹し、海洋主権確保の名目で軍事力を増強した。

これからの中国は減速経済という、経験したことのない状況に入る。高齢化が進み、貧富の格差解消は進まず、土地を収奪された農民や公害に苦しむ住民の抗議行動が激しい。胡政権は「調和のある社会」を実現できなかった。共産党統治に対する信頼は大きく揺らいでいる。習政権は、※氏の「改革開放」路線の原点に立ち返り、内政外交に取り組む以外に道はないはずだ。

習政権は、胡政権時代の「日中戦略的互恵関係」を変えるおそれもある。日中双方に益はない。新政権との意思疎通を欠いてはならない。

読売新聞 2012年11月16日

習近平体制発足 膨張中国と向き合う戦略築け

中国共産党の中央委員会総会が開かれ、指導部が大幅に交代した。今後10年、中国のかじを取る習近平体制の始動だ。

総書記に選ばれた習近平国家副主席は記者会見で、「我々の責任は引き続き中華民族の偉大な復興のために努力奮闘し、中華民族を世界の民族の中でさらに力強く自立させることである」と語った。

その言葉通り、習政権は一党独裁を堅持しながら改革・開放を進め、米国と並ぶ超大国を目指して経済力と軍事力の一層の強大化を図るのだろう。軍事・経済の「膨張路線」は当面変わるまい。

元副首相を父に持つ習氏は、高級幹部の子女グループ「太子党」の代表だが、党長老の影響力が残る中、どこまで指導力を発揮できるかは不透明と言える。

今回の人事で注目されるのは、これまで2期10年、政権を率いてきた胡錦濤氏が総書記だけでなく軍を握る中央軍事委員会主席も退任して、習氏に譲ったことだ。

総書記退任後も2年近く軍事委主席にとどまった江沢民元総書記と異なる道を選ぶことで、胡氏には、最高指導部の意思決定を複雑化させてきた二元支配を終わらせる狙いがあるのだろう。

ただ、胡氏は自らに近い軍幹部2人を党大会前に軍事委副主席に昇格させたほか、政治局にも自派閥の人材を配置した。退任後も自らの影響力を党指導部に残すために打った布石に違いない。

調和のとれた持続可能な発展を目指す胡氏の「科学的発展観」が党大会で行動指針に格上げされ、党規約に盛り込まれたのもその証左である。

政治局常務委員は従来の9人から7人に削減された。顔ぶれを見ると、習氏の意向より江氏と胡氏の派閥闘争を反映した人事だ。

習氏は来春、国家主席に就任し、党、国家、軍の3権を掌握する。習政権にとって最優先課題は、深刻化している社会のひずみの克服である。急成長に伴う格差の拡大や幹部の腐敗、環境破壊に、真摯(しんし)に対策を講じる必要がある。

中国が尖閣諸島の国有化に反発して始めた日本製品不買運動は日本経済だけでなく、中国経済にも打撃を与えた。習政権は威圧外交を速やかに自制すべきだ。

日本政府は膨張中国と、どう向き合うのか。腰を据えて対中戦略を固めることが肝要である。

東アジア首脳会議などの枠組みを重層的に利用し、中国が国力に見合った国際的責任を果たすよう働きかけを強めねばならない。

産経新聞 2012年11月16日

習近平体制 「覇権国」への備え急げ 国内矛盾転嫁に注意が肝要

中国共産党第18回全国大会の閉幕を受け、習近平国家副主席が新たな党総書記に選ばれた。首相候補の李克強副首相とともに政治局常務委員に就任し、新体制が始動した。両氏は来年3月の全国人民代表大会(国会)で胡錦濤国家主席、温家宝首相と交代し、今後10年の中国のかじ取りを務める。

胡氏の完全引退に伴い、習氏は党中央軍事委員会主席にも就き、党と軍を掌握した。日本はこの体制を直視し、紛争抑止や有事への万全の備えを急ぐ必要がある。

日本政府の尖閣諸島国有化を契機とした領海侵犯の常態化や常軌を逸した反日暴動などは、中国が「異様な国家」であることを改めて世界にみせつけた。

≪経済改革の後退を懸念≫

その渦中に米国防長官と会談した習近平氏は国有化を「茶番劇」「戦後の国際秩序を否定する日本の行為を絶対許さない」と口を極めて非難した。反省のかけらもなく、さらなる膨張と海洋覇権をめざす以上、同じ事態が今後も繰り返される恐れが強い。

今後を懸念させる要素は、党大会初日に胡錦濤主席が行った報告の随所にうかがえる。

とりわけ、「国家の主権、安全保障、発展の利益を断固として守り、外部のいかなる圧力にも屈服しない」「強固な国防と強大な軍隊の建設は、現代化建設の戦略的任務」「海洋権益を断固守り、海洋強国を建設する」などは、その象徴といっていい。

10年前、「調和のとれた社会の建設」や「平和的発展」「善隣友好」を掲げて登場した胡錦濤・温家宝政権への期待は高く、「胡温新政」とも呼ばれた。江沢民前政権が「反日親米」外交と富国強兵路線を突っ走ったのとは対照的で清新なデビューだった。

にもかかわらず、結果は全くのかけ声倒れに終わり、任期最後の大会報告は多くの面で江沢民時代に逆戻りした観が強い。

その理由は、江氏ら上海閥・太子党(高級幹部子弟)勢力に推されて総書記となった習近平氏の思想や政策が、胡氏の大会報告にも組み込まれたからだろう。

温氏が何度も提起した政治改革では「党指導下で民主と法治を堅持」して「西側の政治制度のモデルを引き写ししない」とし、何の新味も改革意欲もみられない。

経済改革でも「公有制経済を強化し、国有経済の活力、支配力、影響力を絶えず増強させていく」と民営化、市場経済化の流れを後戻りさせるような言及がある。習氏の属する太子党など既得権益層の意向を反映しているのか。

これでは薄煕来事件で露呈した幹部の腐敗、特権乱用、所得格差に歯止めがかからない。

一方で、習氏は就任会見で新体制の目標が「偉大な中華民族の復興」にあると強調した。国内矛盾を外に転嫁して対外膨張を加速する懸念が一段と高まるわけだ。

≪中国リスクを見極めよ≫

日本のとるべき道は明確だ。

習体制は尖閣問題で一層の圧力をかけてくる可能性があるが、日本は断じて屈してはならない。

領土・領海を守る十分な防衛力と、それを的確に動員可能にするために、憲法改正を含む法整備を急ぐ。日米同盟を基軸に豪州、東南アジア、インドなどとの政治、軍事的連携も強化すべきだ。

過度の対中経済依存を防ぐために生産拠点を分散し、領土・領海に関する日本の主張を国際社会に普及することも必要だ。中国国内や世界の華僑社会に向けた中国語の情報発信にも力を入れたい。

米国のアジア太平洋重視外交と連携して中国に「責任ある行動」を求める一方、不測の事態を防ぐため政治、軍事、経済、文化など幅広い対中交流を可能な限り維持拡大する工夫も欠かせない。

江氏らの上海閥、太子党、胡氏率いる共産主義青年団(共青団)の対日姿勢は異なる。上海閥と太子党は概して日本に厳しい。習氏は過去の言動からも「親米反日」の傾向がうかがえ、軍の権力を掌握したことも要注意だ。

共青団系は対日姿勢が比較的穏健とされ、李氏は滞日経験もある。それでも、尖閣奪取の攻勢を容認した胡氏が共青団直系だったことを忘れてはならない。

日本は国益を断固堅持し、何よりも日中が衝突する最悪の事態に十分に備えた上で、互恵・共存の道を探ることが大切である。中国共産党政権は「力が全て」の相手だからだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1241/