中国共産党第18回全国大会の閉幕を受け、習近平国家副主席が新たな党総書記に選ばれた。首相候補の李克強副首相とともに政治局常務委員に就任し、新体制が始動した。両氏は来年3月の全国人民代表大会(国会)で胡錦濤国家主席、温家宝首相と交代し、今後10年の中国のかじ取りを務める。
胡氏の完全引退に伴い、習氏は党中央軍事委員会主席にも就き、党と軍を掌握した。日本はこの体制を直視し、紛争抑止や有事への万全の備えを急ぐ必要がある。
日本政府の尖閣諸島国有化を契機とした領海侵犯の常態化や常軌を逸した反日暴動などは、中国が「異様な国家」であることを改めて世界にみせつけた。
≪経済改革の後退を懸念≫
その渦中に米国防長官と会談した習近平氏は国有化を「茶番劇」「戦後の国際秩序を否定する日本の行為を絶対許さない」と口を極めて非難した。反省のかけらもなく、さらなる膨張と海洋覇権をめざす以上、同じ事態が今後も繰り返される恐れが強い。
今後を懸念させる要素は、党大会初日に胡錦濤主席が行った報告の随所にうかがえる。
とりわけ、「国家の主権、安全保障、発展の利益を断固として守り、外部のいかなる圧力にも屈服しない」「強固な国防と強大な軍隊の建設は、現代化建設の戦略的任務」「海洋権益を断固守り、海洋強国を建設する」などは、その象徴といっていい。
10年前、「調和のとれた社会の建設」や「平和的発展」「善隣友好」を掲げて登場した胡錦濤・温家宝政権への期待は高く、「胡温新政」とも呼ばれた。江沢民前政権が「反日親米」外交と富国強兵路線を突っ走ったのとは対照的で清新なデビューだった。
にもかかわらず、結果は全くのかけ声倒れに終わり、任期最後の大会報告は多くの面で江沢民時代に逆戻りした観が強い。
その理由は、江氏ら上海閥・太子党(高級幹部子弟)勢力に推されて総書記となった習近平氏の思想や政策が、胡氏の大会報告にも組み込まれたからだろう。
温氏が何度も提起した政治改革では「党指導下で民主と法治を堅持」して「西側の政治制度のモデルを引き写ししない」とし、何の新味も改革意欲もみられない。
経済改革でも「公有制経済を強化し、国有経済の活力、支配力、影響力を絶えず増強させていく」と民営化、市場経済化の流れを後戻りさせるような言及がある。習氏の属する太子党など既得権益層の意向を反映しているのか。
これでは薄煕来事件で露呈した幹部の腐敗、特権乱用、所得格差に歯止めがかからない。
一方で、習氏は就任会見で新体制の目標が「偉大な中華民族の復興」にあると強調した。国内矛盾を外に転嫁して対外膨張を加速する懸念が一段と高まるわけだ。
≪中国リスクを見極めよ≫
日本のとるべき道は明確だ。
習体制は尖閣問題で一層の圧力をかけてくる可能性があるが、日本は断じて屈してはならない。
領土・領海を守る十分な防衛力と、それを的確に動員可能にするために、憲法改正を含む法整備を急ぐ。日米同盟を基軸に豪州、東南アジア、インドなどとの政治、軍事的連携も強化すべきだ。
過度の対中経済依存を防ぐために生産拠点を分散し、領土・領海に関する日本の主張を国際社会に普及することも必要だ。中国国内や世界の華僑社会に向けた中国語の情報発信にも力を入れたい。
米国のアジア太平洋重視外交と連携して中国に「責任ある行動」を求める一方、不測の事態を防ぐため政治、軍事、経済、文化など幅広い対中交流を可能な限り維持拡大する工夫も欠かせない。
江氏らの上海閥、太子党、胡氏率いる共産主義青年団(共青団)の対日姿勢は異なる。上海閥と太子党は概して日本に厳しい。習氏は過去の言動からも「親米反日」の傾向がうかがえ、軍の権力を掌握したことも要注意だ。
共青団系は対日姿勢が比較的穏健とされ、李氏は滞日経験もある。それでも、尖閣奪取の攻勢を容認した胡氏が共青団直系だったことを忘れてはならない。
日本は国益を断固堅持し、何よりも日中が衝突する最悪の事態に十分に備えた上で、互恵・共存の道を探ることが大切である。中国共産党政権は「力が全て」の相手だからだ。
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