赤字国債合意 ねじれ国会の暫定休戦協定だ

朝日新聞 2012年11月16日

赤字国債 予算改革の覚悟を示せ

国の予算編成で、税収などではまかなえない不足分を補う赤字国債の発行法案が、きょう成立する見通しだ。

あわせて、年度ごとに法案を成立させる原則を改め、15年度までは赤字国債が自動的に発行できるようになる。

「ねじれ国会」のもと、参院で多数を占める野党が、赤字国債法案に反対して与党をゆさぶる事態が続き、今年度は予算の一部支出停止に追い込まれた。混乱を防ぐため、民自公3党がルール変更で合意した。

私たちも社説で、赤字国債法案を政争の具にしない工夫が必要だと主張してきた。新ルールはひとつの知恵である。

ただ、新たな仕組みで財政規律が失われてしまっては本末転倒だ。

そもそも、なぜ赤字国債の発行に年度ごとの法律が必要とされたのか。

赤字国債を戦後初めて本格的に発行したのは、石油ショック後の75年度。ときの大平正芳蔵相が「毎年、苦労して法案を成立させることで、赤字国債を抑制していこうという思いを致す」ために決断したという。

そうした緊張感が、3党にあるだろうか。今回のルール変更の前提として「赤字国債発行の抑制に取り組む」とうたうが、はなはだこころもとない。

たとえば、東日本大震災の復興予算である。

被災地の再建に直接結びつかない項目が次々と明らかになった。復興基本法を巡る協議を通じて、幅広い事業を盛り込めるような予算編成に道を開いたのは3党である。国会のチェックもきかなかった。

政府の予算案を国会がしっかり審議する。成立した予算の使い道に目を凝らし、決算を厳しく点検して、次の予算案に反映させていく。そんな循環を作っていく必要がある。

新たな動きもある。

復興予算の問題ではさまざまな党派の若手議員が動き、決算や行政監視を担う衆参の委員会で審議が実現した。超党派のグループは近く提言をまとめる。

会計検査院の検査や行政刷新会議の検討も総動員し、効率的な予算と決算の徹底チェックを実現しなければならない。

消費税が導入された後の91年度から3年間、赤字国債の発行はゼロになった。ところが、その後は発行が当たり前になり、今年度の予定額は38兆円を超える。5%の消費増税で新たに手にする税収の3倍近い。

この財政の惨状にどう向き合うのか、各党とも総選挙で覚悟を示してほしい。

毎日新聞 2012年11月14日

赤字国債3党合意 「特例」の思い忘れるな

今年度予算の執行に不可欠な赤字国債(特例公債)の発行が、ようやくできることになった。民主、自民、公明の3党が特例公債法案の今国会中成立で合意したためだ。今年度分に加え、13~15年度の赤字国債発行もあらかじめ認めることにした。

年内の衆院解散・総選挙に向けた環境整備が前進したといえる。14日には党首討論があるが、残された大きな懸案である、衆院選の「1票の格差」是正でも迅速な決着を望む。

それにしても11月中旬まで、この法案を成立させなかったことについて、与野党はまず猛省すべきだ。国の財源が底をつき、国債市場に混乱をきたす寸前である。それも予算や財政の中身で与野党が対立したからというより、政争の具としてもてあそんだ結果だ。自治体が地方交付税を受け取れないなど、国民はそのしわ寄せを被った。

このような愚行を繰り返さないために、15年度までの赤字国債発行を前もって取り決めたのは、ある意味で前進ではある。ねじれ国会が起こりうる以上、無用な空転や混乱を避ける工夫は必要だ。

しかし、これに安住して巨額な借金への抵抗感が薄れることは絶対いけない。赤字国債がなぜ「特例」公債と呼ばれ、1年ごとに法案を国会に提出しなければならなくなったかを、もう一度思い起こしてほしい。

財政法は道路など将来世代に役立つインフラ整備目的に限り、国債発行を認めている。建設国債だ。しかし、それだけでは歳出をまかなえない事態に陥った。1975年度のことである。第1次石油危機によるインフレと戦後初のマイナス成長で、財政が急激に悪化したのだ。

このため政府は、本来禁じられている赤字国債の発行に踏み切るのだが、当時の大平正芳蔵相の主張で1年ごとの特例法扱いになった。財政の赤字はその後も予想されたが、「毎年苦労をすることで赤字国債を減らそうという思いを新たにする必要がある」とあえて恒久法にしなかったとされる。

しかし、大平氏の思いとは裏腹に特例は恒例となり、それも歳入の4割強という38兆円超に膨れた。その責任は自民にも民主にもある。

特例公債法案を巡る3党合意は、国・地方の基礎的財政収支の赤字を国内総生産比で15年度までに半減させる目標を前提としている。赤字国債発行額の抑制も条件だ。消費税を10%に引き上げ、さらに歳入増や歳出抑制に取り組むということである。その任を負っていることを3党は決して忘れてはならない。

そして3党が合意を守り、無責任な財政に走っていないかを監視するのは、私たち国民の仕事だ。

読売新聞 2012年11月14日

赤字国債合意 ねじれ国会の暫定休戦協定だ

ようやく与野党攻防の出口が見えてきた。

民主、自民、公明の3党は今回の合意を踏まえて、衆院解散への環境を整えねばならない。

民自公3党が、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案の修正で正式に合意した。2015年度まで、予算案が成立すれば、自動的に赤字国債発行を認める仕組みを導入する。

衆参ねじれ国会の下、参院で多数を占める野党は法案を人質に政府を揺さぶってきたが、今回の合意で不毛な政争は避けられる。そのために、与野党が、新たなルールを作ったことは評価できる。

昨年は、法案の成立が菅首相退陣の取引材料になった。

今年は野田首相に解散を迫る“武器”となり、成立がずれこんだ結果、政府の予算執行の抑制で地方交付税の配分が滞った。地方自治体が「国民生活に影響しかねない」と反発したのは当然だ。

野田首相が言うように、今の財政状況では、どんな政権でも、赤字国債を発行せずに歳出に見合う財源を確保できない。

自公両党は、仮に衆院選後、政権に復帰しても、参院で過半数の議席を持っていない。法案を政争の具にしないという合意は自公両党にとっても損ではなかろう。

今回の合意には懸念も残る。

赤字国債の発行は、財源不足を特例措置として補うもので、本来は“禁じ手”である。

予算案とは別に特例公債法案を成立させねばならないとしてきたのは、財政規律を維持し、野放図に借金が膨らまないよう歯止めをかける狙いがあった。

三木内閣当時、大平正芳蔵相は国会で毎年の法案審議について「緊張した財政運営に資する」と述べ、その意義を強調している。それでも、赤字国債は増え続け、深刻な財政悪化を招いた。

今後、自動的に発行できるとなれば、財政規律が緩まないか。

民自公3党の合意は「特例公債発行額の抑制に取り組むこと」を前提にしている。政権交代があっても、政府はこれを肝に銘じて予算編成に当たらねばならない。

解散に向けて残る課題は衆院選挙制度改革である。民主党は「1票の格差」是正と定数削減を同時に行う法案を提出する方向だ。

だが、何より「違憲状態」を解消することが求められている。

首相も国会で「憲法と関係のある1票の格差が最優先だ」と答弁した。民自公3党は、小選挙区の「0増5減」先行処理でも、合意を急ぐべきである。

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