小沢氏再び無罪 検察審制度の見直しは早計だ

朝日新聞 2012年11月13日

小沢氏無罪 政治とカネ、いつまで

政治資金収支報告書にうその記載をしたとして強制起訴された小沢一郎衆院議員が、東京高裁であらためて無罪となった。

追加の証拠調べがなく、結論は予想されていた。高裁は、実際に報告書をつくった元秘書らについても、わざとではなく、認識不足から一部誤って書いた可能性があると結論づけた。

元秘書らは検察によって起訴され、一審で虚偽記載の故意が認められた。高裁の別の裁判長のもとで、あすから二審が始まる。そこではどう判断されるのか、行方を見守りたい。

刑事責任の有無をはなれ、事件は「政治とカネ」をめぐる多くの疑問や不信を招いた。

今回の判決も、問題となった土地の取引が本来報告すべき年に報告されなかったこと、元秘書が公表を先送りする方針を決め、不動産業者らと調整したこと――などを認めている。

金や資産の流れをそのまま明らかにして、国民の不断の監視の下におく。それが法の精神ではないか。何億円もの動きについて、事実と異なる報告がされていた点に変わりはない。

疑惑が指摘された当初、小沢氏は会見で身の潔白をあかす書類を示して追及をかわした。後にそれは、日付をさかのぼって急きょ作成したものであることがわかった。捜査や公判を理由に国会での説明から逃げ続け、一審の法廷では「関心は天下国家で、収支報告書は見たこともない」と述べた。

こうした行いは国民と政治との距離を広げただけでなく、小沢氏への失望を呼び、活動の幅をせばめる原因にもなった。

その自覚と反省を欠いたまま、新しい政党をつくって「第三極」の結集をうったえたとしても、広範な支持を得るのはむずかしいだろう。

なげかわしいのは、他の政党や国会議員も同じだ。

事件によって、「秘書に任せていた」「法律の知識がなかった」ですんでしまう制度の不備が、再び浮かび上がった。ところが、かねて課題の企業・団体献金の廃止をふくめ、見直しの動きは起きていない。

抜け穴の多いしくみの方が楽だし、どうせ国民は忘れてしまうさ。そんな甘えがないか。

氏が政治の中心にいるときは思惑ぶくみで事件を利用し、後景に退けば知らんふりを決め込む。政局優先のご都合主義が、既成の、とりわけ大政党への不信となって表れている。

衆院の解散が近い。政治とカネというこの古くて新しい問題に、各政党はどう取り組むか。国民はしっかり見ている。

毎日新聞 2012年11月13日

小沢代表判決 「秘書任せ」ゆえの無罪

政治資金規正法違反に問われた元民主党代表で「国民の生活が第一」の小沢一郎代表に対し、東京高裁が無罪を言い渡した。

1審に続く司法判断だ。「2度の無罪」の意味は重い。ただし、その内容も踏まえ判決を受け止めたい。

資金管理団体「陸山会」が04年に購入した土地をめぐり、元代表が提供した4億円が政治資金収支報告書に記載されなかったとして、元秘書らとの共謀が問われた。

1審判決は、衆院議員、石川知裕被告ら元秘書が土地購入費などを同年の報告書に記載しなかった行為を「虚偽記載」と認定。ただし、小沢代表が違法性について認識していたとの立証が不十分だとした。

高裁も元秘書らの認識の一部を除き、おおむねその判断を支持した。

1、2審の認定内容はこうだ。

小沢代表は土地購入の資金として4億円を石川被告に渡した。石川被告は金の出所についての取材などを避けるため、先輩秘書のアドバイスで4億円を簿外処理し、銀行から別途借り入れを行った。こうした政治資金のやり繰りに小沢代表はそもそも関心が薄かった−−。

小沢代表は公判で「政治資金収支報告書は一度も見たことがない」と述べた。報告書の作成を「秘書任せ」にしてきたとも繰り返した。

無関心だったがゆえに無罪になったといえる。報告書の記載を偽ることは「形式犯」ではないし、国民への背信行為に他ならないと、私たちは指摘してきた。刑事責任とは別に、政治資金に対する小沢代表の姿勢に改めて疑問を感じる。

高裁判決は、石川被告の4億円簿外処理について、計画的というよりむしろ「その場しのぎの処理」だとも指摘した。秘書を監督する立場の政治家としての責任も問われよう。

小沢代表は、刑事裁判を理由に国会での説明を拒んできた。政治家として説明責任を果たさなかったことを国民は忘れない。政治状況は混とんとするが、国会が近い将来、抜け道だらけの規正法の見直しに本腰を入れるべきなのは言うまでもない。

検察のずさんさも目を覆うばかりだった。供述の誘導があったとして石川被告らの調書の大半が証拠採用されなかった。また、検事が実際にはないやりとりを載せた捜査報告書まで作っていた。有力政治家への捜査のあり方を含め反省し、今後の教訓としなければならない。

検察審査会の強制起訴制度について批判も出ているが、市民の常識を生かす制度の意味は小さくない。不起訴の内容によって線引きすべきだとの意見もある。もっと公開性を高め、制度を前向きに生かす方向で検討を進めるのが妥当だろう。

読売新聞 2012年11月13日

小沢氏再び無罪 検察審制度の見直しは早計だ

国民の生活が第一の小沢一郎代表が、再び無罪となった。

小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡る政治資金規正法違反事件で、東京高裁は1審の無罪判決を支持し、検察官役の指定弁護士の控訴を棄却した。

判決は、土地購入原資として小沢氏が提供した4億円が簿外処理された事実を認めた。陸山会による政治資金のずさんな会計処理を指摘したものだ。

その一方で、判決は、小沢氏が元秘書から取引の経緯について詳細な報告を受けていなかった、と認定し、「政治資金収支報告書の記載を適法と認識した可能性がある」と結論づけた。

指定弁護士は上告の可否を検討するという。だが、上告は憲法違反や判例違反がなければ認められず、小沢氏の無罪が確定する見通しが強まったと言えよう。

この裁判は、一般市民で構成される検察審査会の議決に基づき、政治家が強制起訴された初のケースだ。2度の無罪判決で、制度の見直し論議が再燃するだろう。

しかし、公開の法廷で解明を求めた検察審の判断には、もっともな面があった。政治資金疑惑に対し、小沢氏が合理的な説明をしなかったためだ。

政治資金規正法は、自由で公正な政治活動を実現するため、政治資金の公開制度を定めている。政党助成法の施行で、政治資金に国民の税金が投入されてからは、資金の流れの透明性を確保する要請が高まっている。

陸山会が土地取引で億円単位の巨額の金を動かしながら、収支報告書に事実と異なる記載をしていたのは、規正法の趣旨に反する行為だったと言える。

検察審制度には裁判員制度と同様、刑事司法に国民の視点を反映させる意義がある。強制起訴は6件にとどまる。まずは事例を積み重ねることが大切だろう。現時点で見直すのは早計である。

ただ、限られた証拠での立証を強いられる指定弁護士の負担の重さなどを指摘する声がある。制度の改善に向けた検証は必要だ。

今回の裁判で、批判されるべきは、検察審に虚偽の捜査報告書を提出し、起訴議決に疑念を抱かせた検察である。検察官による供述の誘導や強制も判明した。検察は猛省しなければならない。

検察は虚偽報告書を作成した当時の検察官らを不起訴とした。この処分への不服申し立てが市民団体から検察審に出されている。検察審は厳正に審査すべきだ。

産経新聞 2012年11月13日

小沢氏2審も無罪 政治責任は変わらず重い

政治資金規正法違反(虚偽記載罪)で強制起訴された「国民の生活が第一」代表、小沢一郎被告の控訴審判決で、東京高裁は1審東京地裁の無罪判決を支持した。

高裁判決は元秘書らの虚偽記載行為の多くについても故意性を認めなかったことなどから、1審判決よりも「灰色」が薄まった印象がある。それでも、この判決が小沢氏の政治責任を免罪するものとはいえない。

小沢氏が1審公判で一貫して述べてきたことは、「全て秘書に任せていた」「記憶にない」の2つにすぎない。収支報告書については「見たこともない」と語り、規正法の趣旨について問われると、「正確に理解しているわけではありません」と述べた。

1審判決は、小沢氏のこうした供述を「およそ信じられない」と指摘し、「規正法の精神に照らして芳しいことではない」と、政治家としての資質にも言及した。

小沢氏は民主党時代、裁判への影響などを理由に証人喚問などを拒み、「公開の法廷で真実を述べる」と語ってきた。約束は守られていない。政治家としての説明責任は国会で果たすべきである。

1、2審の無罪を通じて改めて明らかになったのは、政治家本人の罪を問うことが難しい政治資金規正法の不備である。規正法で直接、罪に問えるのは会計責任者らで、政治家の刑事責任を問えるのは会計責任者との共謀が認定された場合などに限られる。

小沢氏自身、自著「日本改造計画」で「(政治家の)言い逃れを封じるために連座制を強化する」と提言していた。不備が明らかなザル法の下で得た無罪など、とても喜べる心境ではないはずだ。

検察審査会の起訴議決による強制起訴事件では、初の控訴審判決だった。1、2審とも無罪とされたことで、今後、検審制度の見直し論議も出るだろう。

検察官の起訴には高い有罪率を必要とする。強制起訴にも同様の慎重さは求められる。一方で、裁判が小沢氏の政治家としての資質への疑問や、規正法の不備を明るみに出したことは評価できる。

検審制度は検察官が独占する起訴の権限に民意を反映させる目的で設けられ、平成21年の改正検察審査会法で強制起訴が可能となった。まだ始まったばかりの制度だ。より充実させる方向で深い議論を進めるべきだろう。

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