東電経営方針 けじめあっての支援だ

朝日新聞 2012年11月09日

東電経営方針 けじめあっての支援だ

東京電力が新たな経営方針を発表し、政府に追加支援の検討を求めた。

福島第一原発の事故に伴う除染や廃炉の費用が「一企業の努力では到底対応できない」規模となる見通しだからだ。

現在の計画は、国が必要な資金を出すが、あくまで東電に返済させる建前となっている。国民負担を避けたい政府と、企業存続を願う旧東電経営陣の妥協の産物だった。

経営陣を入れ替え、社外取締役の目で再検討してみたら、やはり無理筋であることが明らかになった、というわけだ。

このままでは、延々と債務の返済に追われるだけの企業となる。利益を確保するため、地域独占の解消や競争環境の整備にも後ろ向きになる。日本経済にとって大きなマイナスだ。賠償や除染も遅れかねない。

そうした新経営陣の危惧は、私たちも共有する。

原子力の推進は国策だった。東電に責任を押しつけて逃げるのではなく、除染や廃炉から放射性廃棄物の処理策まで、国が主導して枠組みを整えなければならない。

費用について、どこまでを東電の責任範囲とするか、早急に議論をし直すべきだ。そのうえで足りない分は国民で広く負担するしかない。

ただし、それはあくまで被害者の支援と電力の安定供給のためだ。

東電経営陣は今後のあるべき姿として「世界とわたりあうダイナミックな電気事業者への変貌(へんぼう)」を掲げたが、国費による支援は「強い東電」を再生するためではない。

むしろ、多様なエネルギー事業者が平等に競える環境づくりへと、東電のもつ機能を分散していく方向で改革を進める必要がある。

東電は経営改革案に、発電部門と送配電部門の分社化を盛り込んだほか、火力発電でまかなう電力のうち3割分は他社からの購入や共同開発に切り替える方針を明らかにした。

政府の電力改革を先取りする形であり、方向性としては評価する。

だが、そこにとどまる限り、東電による東電のための改革にしか映らないだろう。

本来なら、破綻(はたん)処理すべき企業である。その原点に立ち戻って、国と東電は発電部門と送配電部門の完全な分離といった解体的な将来像を示さなければならない。

そうした「けじめ」があってこその国民負担であることを忘れないでほしい。

毎日新聞 2012年11月11日

東電の追加支援 国の責任回避のツケだ

東京電力が、新しい経営方針をまとめ、政府に追加支援を求めた。5月にまとめた再建計画が早くも見直しを迫られたのは、国の責任をあいまいにしたツケといえる。

東電は国内電力市場の3分の1を占める。原発事故の被害者救済と電力の安定供給に加え、電力制度改革でも重要な役割を担う責務がある。

追加支援は国の責任の明確化と、国民負担軽減への東電の真摯(しんし)な取り組みが前提でなければならない。

東電は原発事故の賠償費用について、5兆円を上限に原子力損害賠償支援機構を通じ国から調達している。これは毎年の利益から返済する仕組みで、最終的に国民負担は発生しない建前だ。

ところが、今回は除染を含む賠償額が10兆円規模に膨らむ可能性があるとして、返済の必要がない直接支援を求めている。安易な救済は認められないが、追加要請は国が選んだ社外取締役の結論だ。

東電が借金を返済するためだけの存在になっては、人材流出などで企業体力は劣化する。返済原資を稼ぐ必要に迫られるから、電力制度改革の先導役も期待できなくなる。賠償の全責任を東電に負わせるという現在の枠組みは、行き詰まったといえるだろう。

原発推進は国の政策だった。事故を起こした東電の責任は重いが、その原発に安全のお墨付きを与えていた国にも責任はある。それをうやむやにするためのその場しのぎは、もうやめるべきだ。

国が賠償責任を負わずにきたのは、原子力損害賠償法に根拠規定がないからだ。だから、東電が破綻すれば賠償の主体がいなくなるというのが、東電の法的整理を回避した大きな理由でもあった。そうであれば、直接支援の前提として原賠法を改正し、電力会社と国との責任の分担を明確にする必要があるはずだ。

政府は「2030年代の原発ゼロ」を目標に掲げた。当面、原発の再稼働を認めるからには、万一の場合の被害者救済に備えるためにも、原賠法の改正は欠かせない。

税金による直接支援は国民負担ということだ。理解を得るには、法改正の審議を通じて過去の原子力行政の問題点を洗い出す必要がある。株主や大手銀行など債権者の責任を問わずに、税金を投入することには反発も予想される。その是非についても原子力行政を問い直す中で、議論を尽くすべきだろう。

東電は新しい経営方針で、福島復興への貢献や合理化の強化、電力制度改革を先取りする持ち株会社制に向けた経営改革を打ち出した。追加支援を求める以上、当然の取り組みであり、確実な実行を求めたい。

読売新聞 2012年11月10日

東電支援要請 現実的な再建計画に改めよ

東京電力再建の道筋が不透明になってきた。

東電が政府に新たな支援策の検討を要請すると発表した。福島第一原子力発電所事故の賠償や廃炉の費用が膨らみ、自力では立ち行かないと判断したという。

政府は5月、東電再建に向けた「総合特別事業計画」を認定し、東電を国有化した。国が賠償資金を5兆円まで立て替える支援策も講じられた。

しかし、東電は賠償負担が10兆円規模に膨らみ、完済のメドが立たなくなるとしている。経営体力が低下し、人材も流出することが懸念される。電力の安定供給に支障が出て、経済や国民生活に打撃を与えかねない。

早くも支援策のほころびが露呈したのは、そもそも計画自体がずさんだったからだ。

政府が「東電救済」への批判を恐れ、賠償や廃炉の費用をすべて東電に押しつけた責任は重い。東電が負担する仕組みのためか、政府・民主党が相次いで賠償の積み増しや除染拡大を決め、コストを膨らませている面もある。

東電を国有化した政府は、国も応分の負担をする現実的な支援策に改めるべきだ。

東電の事業計画は、2013年度決算で利益を黒字にするとの目標を掲げている。来年度から新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働をスタートさせることが前提となる。

ところが、野田政権が打ち出した「原発ゼロ」方針が、再稼働の足かせとなっている。事業計画を認定した枝野経済産業相は、再稼働の判断を原子力規制委員会に任せきりにする無責任な態度だ。

こうした場当たり的なエネルギー政策が、諸悪の根源である。政府は「原発ゼロ」を撤回し、安全を確認できた原発の再稼働を推進するべきだ。

東電の経営悪化を防がないと、4月から順次、値上げされた東電の電力料金が、さらなる値上げを迫られる恐れがある。失政のツケは、国民の負担に跳ね返る。

もちろん、東電による一層の経営努力は欠かせない。

東電は追加支援の要請にあわせて、経営改革の行動計画をまとめた。4000人規模の福島復興本社を新設し、損害賠償や除染の取り組みを強化するという。賠償の遅れなどに、被災者の不満は強い。早急な改善が必要である。

年1000億円の経費削減を追加したのは妥当な措置と言える。独占企業の甘えを徹底的に排し、合理化をさらに加速させることが求められよう。

産経新聞 2012年11月11日

東電経営計画 政府主体で責任を果たせ

東京電力が政府に新たな支援策の検討を求めた。福島第1原子力発電所事故に伴う賠償や除染などの費用が膨らんで、東電だけでは対応できないと判断したからだ。

東電が1都8県に電力を安定的に供給し続けるには、経営基盤の確立は不可欠だ。だからこそ、政府は1兆円を投じ東電を実質国有化したはずである。

電力供給と賠償などに支障がないように、東電を支える体制をつくるのは、政府の責任である。

東電と政府がまとめた総合特別事業計画では、賠償費用は一時的に、政府が交付国債を発行して立て替え払いし、将来、東電が政府に返済する。だが、賠償費用は当初見込みの5兆円を超え、除染費用と合わせ10兆円を突破する。

除染費用は、もともと経営計画には盛り込まれていなかったものだ。5兆円を上限とする交付国債の発行枠を含め、現実に即して見直さなければならない。

問題は、いかに経営を安定させるかである。債務がかさむ一方、適正な利益も上げられないとなれば、債務超過に陥りかねない。

そうなると、銀行などによる融資引き揚げで経営が行き詰まり、電力の安定供給や賠償などにも支障を来す恐れが出てくる。

経営破綻を防ぎ電力を安定的に確保する最大のカギは、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働にある。経営計画で、来年度からの段階的な原発再稼働と料金値上げを再建の柱としたのは、当然である。

その再稼働の前途が今もって不透明だ。政府は地元の同意取り付けをはじめ、早期再稼働を主導しなければならない。

原子力損害賠償法も早急に見直す必要がある。現行法では、1原発当たりの賠償額は1200億円にすぎず、今回のような過酷事故にはとても対応できない。

だが、政府は法改正を口にしながら、具体的な取り組みはまだみせていない。原発は国策として進められてきただけに、一定規模以上の被害が出た場合は、政府が主体的に役割を果たすように改正するのが筋だろう。

東電も自身の将来像を示してほしい。このまま政府に借金を返すだけの企業になれば、現在の人材流出が加速し、原発技術の継承などにも影響を与えてしまう。

東電の再生には、さらに廃炉などの費用も、東電と政府が分担する仕組みを検討すべきだろう。

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