赤字国債発行法案が今国会で成立する見通しになり、野田首相が早期の衆院解散に踏み切る条件がひとつ、整う。
ゆきづまった政治を動かすには、首相が「近いうち」の解散の約束を果たすことが欠かせない。与野党がようやくその環境整備に動き出したことは、一歩前進といえよう。
だが、ここで改めて首相と民主党に強く求めておかねばならないことがある。
最高裁に違憲状態と断じられた衆院の「一票の格差」を、すみやかに是正することだ。
この問題で、民主党の姿勢は不誠実と言わざるをえない。
民主党は来週、次のような法案を国会に再提出するという。
▼小選挙区の一票の格差を正す「0増5減」。
▼最高裁が合理性がないと判断した、都道府県にまず1議席を割り振る「1人別枠方式」の条文の削除。
▼国会が身を切る姿勢を示すための比例定数の40削減と、比例区の一部に少数政党に有利になる連用制の導入。
比例定数の削減や連用制導入では各党の賛否が割れ、合意が得られる見通しはない。
なのに、民主党は一括処理にこだわっている。なぜか。
解散させないため、あえて野党に反対させ、法案成立を阻もうとしているのではないか。
そのあげく、「0増5減」もできないまま解散になったらどうなるか。
裁判になれば違憲判断が下るのは間違いない。選挙無効が宣言され、やり直し選挙が迫られる可能性も出てくる。
立法府の権威が傷つくだけではない。主権者である国民をないがしろにする暴挙でもある。
「違憲状態のまま唯々諾々と投票はできない」と、有権者のあいだで投票ボイコットが広がったとしても不思議はない。
そうなれば、政治が大混乱することは避けられまい。
ここは、首相みずから事態打開に動くしかない。
「0増5減」は、とりあえず一票の格差を2倍未満におさえる意味がある。今国会では最低限の緊急避難措置として、「0増5減」を先行処理すべきだ。
そのうえで、選挙権の平等をどう図るかや、定数削減と選挙制度のあり方については時間をかけて検討すればいい。
首相の諮問機関である選挙制度審議会をただちに立ち上げ、衆参の役割分担をふまえた抜本的な議論をゆだねるのだ。
最高裁は参院も違憲状態と指摘している。この際、両院を同時に改革する好機である。
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