田中文科相 「案の定」の大失態だ

朝日新聞 2012年11月07日

田中文科相 「案の定」の大失態だ

またしても、野田首相の任命責任が問われる事態である。

来春に開学予定だった3大学の認可をめぐり、文部科学省の方針が二転三転している。

先週、省の審議会が「可」と答申したのを田中真紀子文科相がたった1日でひっくり返し、不認可にした。

そのことが批判を浴びると、田中氏はきのうの記者会見で、「新しい基準のもとでもう一回審査をする」と事実上、不認可の見直しを表明した。

鶴の一声で答申を覆した田中氏のやり方は、あまりにも乱暴だった。誤りを悟ったなら、改めるのは当然のことだ。

ただ、田中氏は「今の設置認可の仕組みの下では新設は認められない」とも述べた。「早めに結論を出したい。年内にできれば一番いい」というが、これで本当に来春開学できるのか、関係者や受験生は心配だろう。

この中途半端な見直しは、田中氏の体面を保ちつつ軌道修正を図る方便ではないのか。そう見られても仕方がない。

「大学の乱立に歯止めをかけて、教育の質を向上させたい」という田中氏の主張には一理ある。だが、それと現行制度にそって申請された3大学を認可するかどうかの判断は別だ。

田中氏と文科省はすみやかに3大学の不認可を撤回し、関係者や受験生に謝罪すべきだ。

ことは、田中氏や文科省の問題にとどまらない。

藤村官房長官は「文科大臣が最終判断されること」と、ひとごとのように語っている。

だが、閣僚としての資質に疑問符がつく田中氏を、あえて入閣させた責任が、ほかならぬ首相にあるのは明らかだ。

田中氏といえば、小泉内閣の外相時代に官僚と激しい立ち回りを演じ、省内を混乱に陥れ、更迭された経緯がある。

そんな田中氏をなぜ、10年ぶりに入閣させたのか。

田中氏が民主党代表選で一部議員らの立候補要請を辞退し、野田陣営の選対本部長代理を務めた「論功行賞」。そして、高い知名度による「選挙の顔」への期待からだった。

内閣改造からわずか5週間。2週間前には、外国人献金や暴力団関係者との交際などで田中慶秋氏が法相を辞任した。

ともに、党内融和とさらなる離党防止を目的とした「内向き」人事の果ての、案の定ともいうべき失態である。

野田政権は末期的状況にあるとの思いが、いよいよ深い。

田中氏と文科省を指導し、一日も早く混乱を収める。首相として、せめてもの責務である。

読売新聞 2012年11月09日

田中文科相問題 一転認可に反省と謝罪がない

「不認可」とされるべきは大学ではなく、閣僚ではなかったのか。

田中文部科学相が、秋田公立美術大など3大学の新設を不認可とした自らの発言を全面撤回し、認可を決定した。

混乱は収束し、3大学は予定通り、来春の開校が可能になった。

政治主導をはき違えて、大学や入学希望者を困惑させ、教育行政に対する信頼を失墜させた。田中氏の責任は極めて重大である。

だが、いまだに反省の色を見せていない。田中氏が「今回、逆に良い宣伝になった」とまで言い放つのは論外だ。3大学に対し、すみやかに謝罪すべきである。

3大学については、文科相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」が、新設の認可を答申したにもかかわらず、田中氏がこれを覆し、文科官僚が追随した。

「大学の乱立に歯止めをかけるため」と田中氏は主張したが、大学政策全般の見直しは、個別大学の新設認可とは切り離して検討すべきテーマである。

田中氏は不認可への批判が高まると、「新基準で再審査する」と唐突にルール変更を唱えた。

同時に、「現時点で不認可処分は行っていない」と言い逃れた。「事務方が真意をくみ取らなかった」と、官僚に責任を転嫁する発言をしたのも見苦しい。

田中氏は小泉内閣の外相当時、常軌を逸した言動や外務官僚との確執で日本外交を大混乱させた人物である。

問題は、その田中氏の「発信力」に期待して、閣僚に選んだ野田首相の任命責任にとどまらない。田中氏から事前に不認可の方針を聞きながら、それを止めなかった首相や藤村官房長官の管理能力の欠如も厳しく問われよう。

田中氏によると、事前説明の際、首相は「そのまま推し進めてください」と答えたという。田中氏のスタンドプレーが世論の支持を得るとでも思ったのだろうか。

藤村官房長官は8日の記者会見で「大臣として間違ったことをしたとは、たぶん誰も受け止めていない」と、田中氏を擁護した。どこかネジが緩んでいないか。

文科省は今回の問題を機に、大学の設置認可制度の見直しに着手する。政府の規制緩和政策の下、大学数が急増し、教育の質の低下が懸念されているのは確かだ。

制度の変更は大学政策の根幹にかかわる問題だけに、拙速を避け、議論を尽くす必要がある。

これ以上、田中氏の思いつきに振り回されてはかなわない。

産経新聞 2012年11月09日

田中文科相 速やかに謝罪し辞任せよ

田中真紀子文部科学相は審議会答申に反して3大学の新設を不認可とした問題に関し、衆院文科委員会で「現行制度にのっとり適切に対応する」と一転、新設を認可する意向を表明した。

方針転換は当然だが、大学側を混乱に陥れ受験生を動揺させた責任は重い。田中氏は即刻、謝罪した上で大臣を辞任すべきだ。

2日に不認可の方針を示して以降、田中氏の発言は二転、三転した。6日の閣議後会見などでは、「まだ不認可処分をしたわけではない」として、新しい審査基準を設けた上で3大学の新設を再審査する「救済案」を提示した。

しかし、民主党文科部門会議から「子供や若者の学ぶ権利を脅かしている懸念を抱いている」(鈴木寛座長)と批判され、輿石東幹事長からも「3大学側が現行制度で認可に向け手続きを進めてきたことをとらえてほしい」と要請された。田中氏は最後は身内の説得を受け入れた。

既に現行の大学設置基準に基づく設置審議会での審査を終えている3大学の新設について、新基準で再審査することなど法治国家では許されない。田中氏が示した救済案の撤回も当たり前だ。

田中氏は3大学について「今回(の騒動が)逆にいい宣伝になって4、5年間はブームになるかもしれない」と述べ、当初の不認可判断も「文科相を拝命して(役所の)中からだったらブレークスルー(突破口)を作れると思った」と話した。無責任そのものの発言で、大臣の資質が疑われる。

今回のケースでは、そもそも田中氏を文科相に起用した野田佳彦首相の任命責任に加えて、田中氏の暴走を許した責任が首相官邸側にもあるのではないか。

田中氏は記者会見で、1日に野田首相と藤村修官房長官に不認可を事前報告し、首相から「そのまま進めてください」、藤村氏からは「大変結構なことだ」と言われた、と話している。野田首相と藤村氏はこれらの詳しい経緯について、改めて説明すべきだ。

自民党の石破茂幹事長は、田中氏について「これ以上閣僚を続けることがあってはならない。(首相は)罷免すべきだ。『認可したからいい』とは絶対ならない」と強調した。自民党は、田中氏の対応次第では参院での問責決議案提出も検討している。国会での解明と追及が不可欠だ。

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