中国共産党 成長の矛盾に向き合え

朝日新聞 2012年11月07日

中国共産党 成長の矛盾に向き合え

中国共産党大会があすから始まり、指導部が世代交代する。

トップの総書記の座は、胡錦濤(フーチンタオ)氏から習近平(シーチンピン)氏に引き継がれる。最高指導部の政治局常務委員も大幅に入れ替わる。

新時代の幕開けだが、急激な経済成長の矛盾が噴き出しており、習体制の課題は山積みだ。

胡体制の10年間で、中国は様変わりした。

トウ小平(トウは登におおざと)氏が進めた改革開放が花開き、昨年の国内総生産(GDP)は米国に次ぐ世界2位の47兆元(約600兆円)。10年前のほぼ4倍だ。

都市化も進み、昨年初めて都市人口が農村人口を上回った。中国メディアによると、上海など長江デルタ地域では、1千万元(約1億3千万円)の資産を持つ人が約35万人に及ぶ。

一方で、貧富の格差は深刻だ。単純労働で日銭を稼ぐ農民工など、貧しさから抜け出せない層が多い。

不公平感は強く、デモも頻発している。当局は05年の約8万7千件を最後に発生件数の公表をやめた。公表できないほど多い、ということだ。

党幹部の腐敗は底無しだ。10~11年に収賄で約3600人が処分され、賄賂の総額は約4億元(約51億円)にのぼった。これも氷山の一角だ。成長の分け前にあずかろうと、だれもが目の色を変えている。

常務委員入りを狙っていた薄熙来(ポーシーライ)・重慶市党委書記が解任され、党籍を剥奪(はくだつ)された事件の衝撃も大きい。高官親族の蓄財も相次いで報じられた。

ここに来て、欧州危機の影響や人件費の上昇で、成長にかげりが出ている。高齢化も急速に進む。「右肩上がり」が実感できなくなれば、党の存在意義は大きく揺らぐ。

共産党も、深刻に受け止めてはいる。胡氏は成長一辺倒の路線を改め、持続的な成長や社会の調和を重視する「科学的発展観」を03年から説いてきた。

しかし、社会の矛盾は覆い隠せないほどに広がった。胡氏の考え方が「指導思想」に格上げされるかどうかが党大会の焦点の一つだが、習氏としては改めて課題に向き合い、踏み込んだ対策を急ぐ必要がある。

中国でも、インターネットで情報が瞬時に伝わる時代だ。住民の反対で、環境汚染の恐れがある開発計画が撤回に追い込まれるなど、上からの指示は絶対でなくなりつつある。

尖閣諸島をめぐる反日デモも社会への不満に突き動かされた面があった。新指導部がどんな中国を目指すのか。日本も無関係ではいられない。

読売新聞 2012年11月09日

中国共産党大会 強硬路線の継承を懸念する

経済力と軍事力を膨張させる富国強兵路線を、新指導部が継承することが明確になった。

5年に1度の中国共産党大会が開幕した。

今大会では習近平国家副主席が総書記に就任し、指導部が大幅に交代する。中国の今後10年の針路を決定づける重要な大会だ。

総書記を退く胡錦濤国家主席は今後5年の党の活動方針となる政治報告で、領土を防衛するために軍の近代化を加速し、海洋権益を断固守る姿勢を強調した。

尖閣諸島の国有化を巡る日本との激しい対立や南シナ海の領有権問題に関する摩擦、米国の「アジア重視」の新戦略を念頭に置いたものだろう。

尖閣問題で中国の対日強硬姿勢が続くのは避けられまい。日本は日米同盟を基軸に東南アジア諸国とも連携し、中長期的な対中戦略を練らなければならない。

胡氏はまた、2020年の国内総生産や1人当たりの所得を10年に比べて2倍にするとの目標も打ち出した。年率7%程度の成長を維持していく必要がある。だが、かつてのような高成長は望めず、目標達成は容易ではない。

この10年、中国は北京五輪と上海万博を成功させ、日本を抜き世界第2位の経済大国となった。

成長の陰で、貧富の格差が広がり、不公正な司法や地方官僚の腐敗などに対する国民の反発が暴動となって各地で噴出している。

胡氏が「所得分配制度の改革を深化させる」として格差解消に全力を挙げる方針を訴えたのは、強い危機感の裏返しと言える。

09年末に総人口の12・5%だった60歳以上の高齢者は20年に18%になる見込みだ。社会保障などの整備の遅れは、社会を一層不安定にさせる要因となろう。

大会では党規約を改正し、調和のとれた持続可能な発展を目指す胡氏の戦略思想「科学的発展観」を毛沢東ら歴代指導者の思想と同列の指導思想に格上げする方針だ。引退後も自らの影響力を保ちたい胡氏の狙いがうかがえる。

大会の日程発表は通常より1か月も遅れる異例の事態となった。巨額収賄などを理由に党籍を剥奪した元重慶市トップ薄煕来氏の処分を巡る調整が難航したためとみられる。党内の権力闘争が影を落とした形だが、真相は不明だ。

言論統制の緩和など政治改革は手付かずだ。政治報告は「政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する」とうたうが、どこまで改革を進められるのか。習近平体制に重い宿題が残されることになる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1232/