オバマ大統領再選 チェンジの約束実現を

朝日新聞 2012年11月09日

オバマと日本 東アジアで共同作業を

オバマ大統領の再選で、国際協調路線の米外交が、さらに4年続くことになった。

アジア・太平洋重視を打ち出し、「核なき世界」を訴えるオバマ外交の継続は、日本にとっても歓迎すべきことである。

中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル問題で、東アジアは混迷を深めている。この地域に安定的な秩序をどう築くのか。

次の4年間、日本からも主体的に米国に働きかけ、共同作業で取り組まねばならない。

「米国は核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」

3年半前、オバマ氏のプラハ演説は、被爆国日本の心を揺さぶった。大統領が広島訪問に強い関心を寄せていることも、共感を呼んだ。

これを手がかりにして、新たな日米関係のあり方を考えてはどうか。

残念ながら、大国間の力学に阻まれ、「核なき世界」への歩みはきわめて遅い。広島訪問も希望の域を出ていない。2期目はぜひ実現してほしい。

大統領の広島訪問は、新しい安全保障環境づくりを進める力強いメッセージになる。朝鮮半島の非核化や、中国の核軍縮もにらんだ緊張緩和を進めるてこにもなるだろう。

そのためには何が必要か。

領土や歴史をめぐり、日本が中国などと対立する状況が続けば、大統領の広島訪問は逆に近隣国を刺激しかねない。また、日米関係がぎくしゃくしていても、米国の歴史の傷にさわる被爆地を訪れるのは難しい。

となると、日本がなすべきことは明らかだ。

ひとつは、中国や韓国との緊張関係をしずめ、改善の道筋をみつけることだ。

国際社会に日本の主張を訴えることは大切だが、この種の問題はまずは二国間で取り組むのが筋だ。日米安保に頼れば解決するものでもない。いかに困難でも、中韓との直接対話をつないでいくほかはない。

そして、日米関係の懸案である沖縄の基地問題について、首脳同士で仕切り直しをすることである。もはや不可能となった普天間基地の辺野古移設に固執することは、沖縄と本土との溝を深め、結局は日米間の信頼関係をも揺るがすだけだ。

国内・国外をふくめ、新たな移転先を本腰を入れて探るときではないか。

世界の現実も、東アジアの課題も厳しい。であればこそ、理想を掲げる大統領が米国を率いていることを、日本はチャンスとして生かすべきだ。

毎日新聞 2012年11月13日

日米同盟 日本が何をしたいかだ

オバマ米政権2期目の対日政策に関心が集まっているが、重要なのは日本が何をしたいか、何ができるかである。日米同盟を日本の安定だけでなく地域の平和・繁栄に生かすためにも、国家戦略を練りオバマ政権との対話を深めるべきだ。

1期目のオバマ政権は対日配慮が目立った。オバマ大統領が就任後初めてホワイトハウスに招いた外国首脳は麻生太郎首相(当時)であり、クリントン国務長官の初外遊先は日本だった。大統領が米外交のアジア回帰をうたったのは09年の東京での演説である。東日本大震災後のトモダチ作戦も忘れられない。

にもかかわらずオバマ政権1期目の日米関係は混迷し、漂流した。米国の対日重視メッセージに日本が適切に対応できなかったことが大きな要因だ。2期目のオバマ政権からはクリントン国務長官、キャンベル国務次官補ら知日派が去るとみられているが、日本の役割分担を求める声はこれまで以上に高まろう。日本は米政権の次の出方を瀬踏みするだけでなく、自分の頭で考え能動的に振る舞わなければならない。

まず積み残しの課題に政府は迅速に取り組むことだ。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の参加表明をこれ以上先延ばしし、自由貿易の新たなルール作りに加わらないことは通商国家である日本の国益を損なう。日米安保条約は両国の経済協力が国際的な平和に資することをうたっている。日米同盟の基盤は政治や安保にとどまらず経済でもある。その原点に戻って総合的な関係深化を改めて図るべきだろう。

東アジアにおける日米韓トライアングルの強化も重要だ。尖閣諸島をめぐる中国との対立は長期化への備えがいるが、そのためにも韓国との関係改善が欠かせない。オバマ氏再選を、日米同盟を基軸にした近隣外交立て直しの契機としたい。

沖縄県・普天間飛行場の辺野古移設問題は暗礁に乗り上げている。地元の反対を無視して日米合意を強行することは沖縄の対米不信、政府不信をより強め、日米同盟を内部から弱体化させる。政府は沖縄の声に真剣に向き合い、同盟維持には何が必要かを根本から議論すべきである。

オバマ大統領はあと4年の任期が約束され、中国では今後10年にわたり国を率いる指導部がまもなく決定する。韓国も任期5年の新大統領が来月選ばれる。日本はこうした国際環境の変化に置いていかれてはならない。年内解散・総選挙の機運が高まっているが、政治家が毎年のように内向きの権力争いを続けるだけでは、国力は落ちる一方だ。

読売新聞 2012年11月08日

米大統領選 続投オバマ氏を待つ財政の崖

米大統領選で、民主党の現職バラク・オバマ氏が、共和党候補ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事を退けて、再選を決めた。

オバマ氏が2期目で直面する課題の重さは、4年前にひけをとらない。金融危機はひとまず克服したが、経済再生は、なお途上にある。米国が世界で担う役割と責任の大きさを踏まえ、強い指導力を発揮してもらいたい。

オバマ氏は、「1期目の任期中に財政赤字を半減する」との公約を実現できなかった。雇用創出も思うようには進まず、失業率は8%近くに高止まりしている。

それでも再選できたのは、経済再建や安全保障分野での実績がおおむね評価されたからだろう。

就任早々に巨額の景気対策を実施し、金融システムを安定させた。破綻した米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)も救済して、大恐慌に転落する瀬戸際にあった米国を救ったと言える。

「負の遺産」だったイラク戦争を終わらせ、アフガニスタンからの米軍撤収にも道筋をつけた。

ロムニー氏の敗因は、大統領の経済失政を指弾しながら、説得力のある経済政策を示せなかったことに尽きる。

オバマ氏の最優先課題は、景気対策と財政再建の両立である。

年末から年明けにかけ、大型減税が失効し、歳出の強制削減が始まる「財政の崖」が控えている。何の手も打たなければ、大規模な財政緊縮をもたらし、米国は深刻な景気後退に陥りかねない。日本など世界への影響は甚大だ。

この試練を乗り切るには、連邦議会の協力が欠かせない。

議会選の結果、下院で共和党、上院で民主党がそれぞれ過半数を占める“ねじれ”の構図に変化はなかった。経済の混乱を防ぐため必要な法案を成立させるべく、オバマ氏は全力を挙げるべきだ。

外交・安全保障政策でも、北朝鮮、イランの核開発やシリア情勢など懸案が山積している。

特に注目したいのは、経済・軍事で膨張する中国への政策だ。

米国が「太平洋国家」としてアジア重視の戦略を打ち出していることは、地域の安定と繁栄に大きな意味を持つ。米国は同盟国の日本をどう位置づけ、中国とどのような関係を築くつもりなのか。

日本も、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)への早期参加を目指し、米国と政策協議を重ねる必要がある。自らの役割を果たす中で、日米関係をより強固にしていかなければならない。

産経新聞 2012年11月08日

オバマ氏再選 中国抑止の戦略貫徹を 「強い米国」が世界に必要だ

激戦となった米大統領選は、変革の継続を通じて「強い米国の再生」を掲げた民主党現職のオバマ大統領が共和党ロムニー候補の追撃を退けて再選を決めた。

オバマ氏は「安全で尊敬される世界最強の国をめざす」と勝利宣言で語り、経済再生など1期目の未完の宿題に加え、世界的指導力の回復に向けて内外の課題に立ち向かう決意を表明した。

何よりオバマ氏に求めたいのは、危機的状況にある米財政を立て直して国家再生の基盤を固めるとともに、世界の経済、安全保障の重心がアジア太平洋に移行する中で、中国の台頭に向き合うために打ち出したアジアシフト外交を一層貫徹していくことである。

≪「財政の崖」を回避せよ≫

そのためには、日本も日米同盟強化を軸とした協力と連携が不可欠になる。他の同盟諸国や国際社会とともに、米国の再生を積極的に支えていきたい。

オバマ氏が真っ先に取り組むべき課題が経済再生と財政危機の克服にあるのはいうまでもない。失業率は依然7%台に高止まりしている上に、来年初めには大型減税の失効と歳出の強制的削減が重なる「財政の崖」に直面する。

財政の崖に伴う実質的な増税と歳出削減は計6千億ドル(48兆円)に近く、国内総生産(GDP)の約4%にあたる。米議会予算局は「深刻な景気後退」を警告し、欧州では「2013年の世界経済成長率の半分が吹っ飛ぶ」と懸念する声が高まっている。

欧州債務危機に加え、対米輸出依存度の高い中国など新興国の成長が減速する中で、米国まで失速すれば、世界経済は総崩れになりかねない。大統領選直前に開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、米国の責任を厳しく問う意見が各国から相次いだのもそのためだ。

財政の崖の回避には議会の党派対立の解消が不可欠だ。だが、連邦議会選では上院を民主党、下院を共和党が制するねじれ構造が続き、オバマ氏のハードルの高さは2期目も変わらない見通しだ。

1期目の業績に掲げたオバマケア(医療保険改革法)も同様で、ロムニー候補が「即時廃止」を公約したように、オバマ流の「大きな政府」路線への保守派の反発は強い。経済、社会政策のいずれも議会との協調がカギを握るだけに、オバマ氏の誠意ある説得と政治手腕に期待したい。

外交では、引き続きイランの核問題、アフガニスタン撤退(14年末)、シリア内戦、中東和平などの課題が山積している。中でも、日本やアジアに死活的に重要なのはアジア太平洋戦略の展開だ。

オバマ氏は1期目の09年、戦略・経済対話などを通じて「米中協調(G2)」を模索した。だが、中国の急速な軍拡や南シナ海などを「核心的利益」とする強引な海洋進出に直面して昨年、外交・安保の重点をアジア太平洋に集中する戦略に大きくかじを切った。

≪日本は同盟国の責務を≫

政治、経済、安保のあらゆる面で中国に責任ある行動を迫り、暴走を抑止することが世界の平和と繁栄に直結する。この戦略をさらに強力に進めてもらいたい。

その中国は8日からの共産党大会で胡錦濤体制から習近平体制に交代する。尖閣諸島をめぐる日中対立で、新体制の権力基盤を固めるために一層の強硬路線に出る恐れがあり、日米は抑止と共同防衛に万全の備えを固めるべきだ。来月から始まる日米防衛協力指針の見直し協議などが特に重要だ。

アジアシフトを主導したクリントン国務長官は勇退する方向のため、アジア重視外交を担う2期目の外交安保閣僚や対日チームの人選にも目をこらしていきたい。

そのためにも、同盟国である日本には一層の奮起が必要だ。民主党政権下の3年間で、日米同盟は普天間飛行場移設問題で迷走を重ね、新型輸送機オスプレイ配備問題でもつまずいた。対中抑止などに不可欠といえる在日米軍再編計画をいまだに完了できないのは重大な遅延といわざるを得ない。

日本の安全を守り、アジア太平洋の平和と安定を確保していくには、強い米国を求め、「世界の警察官」役の復活を望むだけでは足りない。日本が同盟国の責務をきちんと果たした上で、次期米政権の対アジア戦略の形成・充実の過程に積極的に加わり、日本の国益や主張を反映させていく外交が何よりも大切だ。

朝日新聞 2012年11月08日

オバマ米大統領再選 理念を開花させる4年に

米大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が再選された。

グローバル経済の荒波のなか、退場を迫られる現職の指導者は少なくない。オバマ氏に与えられた、さらに4年の任期は貴重だ。大胆に指導力を発揮してほしい。

現職有利とされる2期目の選挙だが、共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に激しく追い上げられた。

社会保障を手厚くし、政府主導で景気回復を図る「大きな政府」のオバマ氏か、自由な経済競争を重視する「小さな政府」のロムニー氏か、という理念のぶつかり合いだった。

米国の閉塞状況を打破するのはどちらか。米国民は迷いつつも、社会の連帯に重きを置くオバマ氏の路線の継続を支持したということだろう。

この接戦が象徴する「分断」された米国社会を修復することこそが、オバマ氏にとって急務である。

選挙には両陣営がこれまでにない巨額の資金をつぎ込み、大量のテレビ広告で中傷合戦を繰り広げた。社会に残した傷痕は深いが、歩み寄るときだ。

米国では来年初め、政府の支出が大きく減らされ、ほぼ同時に増税される「財政の崖」が待ち受ける。

こうした事態に至れば、国内総生産(GDP)を5%近く押し下げるとされる。世界経済に与える影響も大きい。

まずは共和党との間で回避策を探り、協調の足がかりを得る必要がある。

オバマ氏は1期目、大型の景気対策や、国民皆保険に近い医療保険改革を導入して、財政負担の増加を嫌う保守層の猛反発を招いた。

厳しい財政削減を求める保守運動「ティーパーティー(茶会)」が勢いづき、2年前の中間選挙では共和党が下院で大勝した。同党は徹底して政権に非妥協的な姿勢を貫き、政治が動かなくなっていた。

大統領選と同時に行われた連邦議会選では、上院では民主党が過半数を確実にしたが、下院は共和党が多数を占めた。「ねじれ」は続くことになり、超党派での協力が不可欠だ。

共和党も大統領選で示された民意を受けとめるべきだ。「茶会」のような急進的な主張は、国民的な支持を得ていないことがはっきりした。協調すべきは協調しなければならない。

ロムニー氏は、オバマ氏の医療保険改革の撤廃を訴えた。だが、しっかりしたセーフティーネットの存在は、経済にも好影響をもたらす。共和党も改革を受け入れるべきだ。

選挙戦終盤、オバマ、ロムニー両氏がともに強調したのは中間層への配慮だった。中間層が活気を取り戻してこそ、米国の再生につながる。

また、それが分断修復のカギとなるのではないか。

オバマ氏が苦戦した最大の原因は、経済の低迷だった。

失業率は8%を超える高い水準で推移し、就任時に約10兆ドル(800兆円)だった財政赤字の累積は、約16兆ドルに増えた。

希望の兆しもある。

選挙の直前になって、失業率は2カ月続けて7%台に下がり、9月の住宅着工件数も4年2カ月ぶりの高い水準だった。回復の軌道に乗りつつある、との見方が強い。

この流れが続けば、政権基盤が安定し、社会のぎすぎすした空気も和らぐだろう。

財政的な制約もあり、世界に軍事力を振り向ける余力が少なくなるなか、米国が外交・安全保障でどういう役割を果たすのかも問われている。

4年前、アフガニスタンとイラクの二つの戦争で、米国の威信は大きく傷ついていた。

そこに、オバマ氏は全く違う米国の姿を示した。

「核なき世界」を唱え、米国とイスラム世界の新たな関係を求める力強い言葉に、世界は喝采を送った。

だが、いずれも道半ばだ。

中東は「アラブの春」後の秩序作りで揺れている。内戦状態のシリアでは多数の死者が出て、暴力がやむ気配はない。イラン核問題も緊迫している。

紛争の拡大を防ぎつつ、どう解決に導くのか。国際社会をまとめる指導力も試されている。

アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題だ。

経済面の相互依存が増すなか、実利的な関係を進めると見られるが、大国化した中国が周辺国と摩擦を起こす場面が増え、米国は警戒を強めている。

尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連携を深める必要がある。

外交、内政両面で、理念を開花させることができるか。オバマ政権の真価が問われる4年間になる。

毎日新聞 2012年11月11日

オバマ再選と世界…米中関係 アジアの安定を図れ

今回の米大統領選挙で「中国」は中東とならぶ外交の論点だった。共和党のロムニー候補は、中国を「ずる」によって人民元レートを安くしている為替操作国に認定せよと主張した。負けずに、オバマ大統領も世界貿易機関(WTO)に中国を提訴した件数は共和党政権より多いと強硬姿勢を強調した。

中国は日本と並ぶ米国債の巨額保有国であり、米国とはもたれあいの関係にある。だが両陣営とも激しい中国批判を競いあった。

米国はひしひしと「中国の脅威」を感じ始めている。8年後の2020年、中国の国内総生産(GDP)が米国にならぶといわれる。米国は「唯一の超大国」という戦後世界秩序の頂点の座を失う。

かつての日米経済摩擦と似ているが、ずっと深刻だ。中国は経済成長の果実を、軍需と関係の深い大型国有企業に集中し突出した軍事力を持つに至ったからである。

海空軍力の近代化は2030年に完成するとされるが、すでに艦隊の作戦行動範囲は東シナ海、南シナ海から西太平洋へと拡大した。米軍のプレゼンスと一部で重なり始めた。中国の軍事的台頭が、尖閣諸島や南沙諸島など、アジア太平洋における中国近隣国との「島争い」や海洋資源争いを激しくさせている。

オバマ大統領は昨年、「アジア回帰」を表明した。経済的意味もさることながら、海軍力の6割を太平洋に展開するなど軍事力の再配置である。ミサイル防衛網の設置に伴う日本、韓国、フィリピンなどとの同盟関係強化のような政治課題もある。

新興国が台頭して超大国の地位を脅かす時、武力衝突の危機が高まることは歴史上、珍しくない。しかも中国は10年に1度の政権交代期にある。次の共産党総書記となる習近平(しゅうきんぺい)氏は地方政界の経歴が長く、外交姿勢は未知数だ。

米中関係の土台が不安定になっているだけに、オバマ大統領の再選を中国は歓迎している。中国で国家主席や首相が交代するのは来年の春になる。胡錦濤(こきんとう)国家主席は祝電のなかで「米中戦略・経済対話」など、従来のハイレベル対話継続を希望した。

米中両国がアジア太平洋地域で安定した関係を築くためにはもちろん2国間対話だけでは不十分だ。目前の東アジア首脳会議(サミット)をはじめアジア各国との対話の場がこれからますます重要になる。

アジア諸国と中国との対話の場では、日本は重要な役割を演じてきた。尖閣諸島の国有化問題をめぐって日中対話が中断している。大局的に考えて再開を急ぐべきだ。

毎日新聞 2012年11月10日

オバマ再選と世界…経済政策 財政の崖で指導力を

大きな政府か、小さな政府か。経済活動への国の積極関与か、市場の競争原理を重視すべきか−−。「経済」が有権者の最大関心事となる中、二つの立場が真っ向からぶつかり合う米国の選挙だった。

最終的にオバマ氏が再選されたが、上院を民主党が、下院を共和党が支配する構図は選挙前と同じだ。2党が引き続き、互いの主張に固執すれば、何事も前に進まない。妥協、譲歩の時である。オバマ大統領はその先頭に立たねばならない。

直ちに試されるのが「財政の崖」問題だ。このままでは年明けに、大型減税の期限切れと強制的な歳出削減が米経済を同時に襲う。9割近い世帯で実質増税となり、来年だけで1世帯平均約3500ドル(約28万円)の負担増になるとの試算がある。改善の兆しがある住宅投資や消費を冷えこませ、生産活動にブレーキがかかるだろう。結果として約200万人が職を失い、国内総生産が4~5%押し下げられかねないという。

米国が深刻な不況入りとなれば日本を含め世界全体も大きな打撃を被る。何としても崖からの転落を回避してもらわねば困る。

オバマ大統領には、この状況を招いた責任の一端がある。歳出の強制的な一律圧縮は、財政健全化の手法をめぐり、増税と歳出削減をどう組み合わせるかで民主、共和両党が折り合わなかったことが主因だ。その際、オバマ大統領が十分な調整役を果たしたとは言い難い。

ただ、選挙が終わり明るい兆しも見えてきた。大統領は早速、両党の指導者との話し合いを呼びかけ、共和党のベイナー下院議長が「歳入増」で歩み寄りの可能性を示した。民主党院内総務のリード上院議員も「『妥協』は汚れた言葉ではない」と協議に前向きな発言をしている。

増税で共和党の譲歩を引き出すためには、まずオバマ大統領が歳出圧縮の妥協案を提示する必要があろう。共和党が支持する規制緩和も積極推進すべきだ。共和党との信頼関係が深まれば、財政だけでなく貿易など重要な他の経済政策でも、「決める政治」を進めやすくなるはずだ。

ゆっくりとではあるが、米経済の好転をうかがわせる指標が続いている。この芽を本格的な経済回復につなげねばならない。必要なのは、経営者や投資家、そして働く人々が自信と楽観を取り戻すことだ。今、政治が財政の崖を克服できたら、それに大きく寄与するはずだ。

経済を危機から再生させた大統領として、オバマ氏が歴史に名を残す可能性は十分ある。崖までの2カ月が重要なカギを握る。

毎日新聞 2012年11月08日

オバマ大統領再選 チェンジの約束実現を

「史上まれな激戦」が予想された米大統領選は民主党のオバマ大統領の圧勝に終わった。州別に割り当てられた選挙人(計538人)を取りあう独特の選挙制度で、オバマ大統領の獲得選挙人は300人を超えた。しかし、全米の総得票数では共和党のロムニー候補(前マサチューセッツ州知事)とほぼ互角で、オバマ陣営には手放しで喜べない結果ともいえよう。

勝因の一つには選挙直前に米国を襲ったハリケーン「サンディ」への迅速な対応が挙げられる。選挙戦を中断して現地入りしたオバマ大統領が被災者を抱擁する写真は米国民の胸を打った。軍最高司令官の革ジャンを着た大統領が、持論の「一つの米国」論を踏まえ「災害には民主党も共和党もない。ただ、あるのは米国人だけだ」と演説する姿も好感を広げた。心憎いほどの演出だった。

オバマ大統領の再選を祝福したい。ブッシュ前政権(共和)からアフガニスタンとイラクの軍事作戦、リーマン・ショックに始まる経済危機を「負の遺産」として引き継いだ苦労は並大抵ではなかったはずだ。

米国では「経済優先」のクリントン政権(民主)が巨額の財政黒字を実現したが、次の「強い米国」を掲げるブッシュ政権は「政府の剰余金は国民のお金だ」と減税に動き、さらに01年の米同時多発テロ後に二つの戦争を始めて財政が悪化した経緯がある。今回、クリントン元大統領が選挙応援に引っ張りだこだったのに対し、ブッシュ前大統領がほとんど表に出なかったのは、米国内の空気を反映していよう。

経済再建は道半ばとはいえ、オバマ政権が世界を恐慌から救ったという見方もある。第二次大戦後、失業率が7%を超える中、再選された大統領はレーガン氏だけだ。8%近い失業率にもかかわらずオバマ氏が再選されたのは、その努力を国民がある程度認めているからだろう。

だが、米国は来年早々、減税打ち切りと歳出の強制的削減による「財政の崖」に直面して景気が悪化しかねない。オバマ政権が国民皆保険をめざして導入した医療保険制度改革も、共和党は廃止に追い込むことを狙っている。年間1兆ドルに上る財政赤字の削減や債務圧縮を迫られるオバマ政権にとって、共和党との融和は必須の課題である。貧富の差や人種、性別を超えた国民和解が必要だ。

こうした状況下、オバマ大統領の目が内政に向きがちなのはやむを得ないが、2期目はもっと世界に目を向けてほしい。大統領は09年4月のプラハ演説で「核兵器のない世界」をうたい、同年6月のカイロ演説で中東和平への強い意欲を表明し、同年11月の東京演説でアジア太平洋の時代の到来を強調した。

だが、これらの演説は具体的にどんな果実を結んだだろうか。大統領とともに「チェンジ(変革)」「イエス・ウィ・キャン(私たちにはできる)」と唱和した人々は全世界にいるはずだ。私たちは内外での「チェンジ」の達成を求めたい。

世界は変動している。中東では民衆運動「アラブの春」が広がり、独裁政権の崩壊も相次いだ。騒乱波及を警戒するロシアと中国は、シリアの独裁政権の崩壊を恐れてか、国連安保理決議案に拒否権発動を繰り返す。シリアでの犠牲者は既に3万人を超えた。こうした人道危機に米国は真剣に取り組むべきだ。世界の問題は米国だけで解決できないとしても、米国抜きで解決できる問題はまだ少ない。

アフガンの安定化や中東和平への関与も必要だ。米国の親イスラエル団体は選挙に強い影響力を持ち、再選を目指す1期目の米大統領は中東和平への関与を控えるのが常だった。クリントン政権も、積極的に和平仲介をしたのは2期目の後半になってからだ。これまで仲介らしい仲介をしていないオバマ大統領も、2期目は積極的に対応してほしい。

オバマ政権が暗殺したウサマ・ビンラディン容疑者は同時テロの動機として、パレスチナ人の悲惨な状況に言及している。テロの温床を除く意味からも米国は同盟国のイスラエルを説得して和平交渉を動かす必要がある。また、イランの不透明な核開発は深刻な問題だが、イスラエルによるイラン空爆は世界の不安定化を招く。この点でもオバマ政権のイスラエル説得が不可欠だ。

激動は、アジア太平洋にも及んでいることを強調したい。尖閣諸島をめぐる日中摩擦や中国の軍拡、海洋進出は重大な問題であり、中国は米国主導の戦後秩序に挑戦するような発言を繰り返している。穏やかならぬ状況である。核開発を続ける北朝鮮の脅威も含めて、米国は東アジアへの関与を強める必要がある。

日本としても、米国の大統領に合わせた身の振り方を考えるのではなく、主体的に考え、行動することが必要なのは言うまでもない。日本を取り巻く安全保障の環境は変化している。日本の懸念や日米安保が直面する諸問題について、政府首脳は率直にオバマ大統領と話し合う必要があるはずだ。理念を重んじるオバマ大統領と日本の関係が緊密化することを期待したい。

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