毎日新聞 2012年11月07日
万里の長城遭難 無謀なツアーを許すな
中国の世界遺産「万里の長城」で、登山ツアーに参加していた日本人観光客3人が遭難死した。
現場付近は険峻(けんしゅん)なため一般の観光客は近づかない。登山家には人気が高かったが、転落などの山岳事故が多発していた。
ツアーを企画した旅行会社「アミューズトラベル」は直接現地の下見を行っておらず、ずさんなツアー計画だったことが判明しつつある。
52年ぶりの大雪に見舞われた中、なぜトレッキング(山歩き)が強行され、遭難が防げなかったのか。旅行会社の説明責任はもちろんだが、観光庁は徹底的に事故を検証し今後に生かさなければならない。
遭難したのは、日本人観光客4人と中国人添乗員、現地ガイドの6人。7日間で100キロを踏破するツアーだった。
添乗員によると、6日目の3日午前、万里の長城に向かって出発したが、吹雪に見舞われた。救出を求めに行ったガイド以外はテントを張り救助を待ったが、3人は意識がなくなり凍死したとみられるという。
添乗員は、天気予報で雪になると分かっていたが大雪になるとは予想せず出発した、と話した。一方、地元では寒波の到来を告げ外出を避けるよう呼びかける報道があった。
山では現地ガイドの的確な判断が状況を左右する。教育や緊急時の申し合わせなど事前の準備は欠かせない。だが、旅行会社は天候悪化に伴うツアー中止の判断を現地任せにしていたと認めた。また、夜間の気温が氷点下になることを旅行会社は把握していたが、セーターなどで足りると判断し参加者は軽装だった。
不十分な旅行計画と判断ミスが遭難死の一因になったのだろう。
この旅行会社は09年7月に8人が死亡した北海道・トムラウシ山の遭難事故のツアーも企画していた。その際、犠牲者は雨にぬれて体温を奪われ、低体温症に陥り死亡した。
観光庁は立ち入り検査の結果、天候悪化に伴う危険回避の判断基準がないことや通信手段の確保を怠っていたと指摘し、51日間の業務停止処分にした。これまでの状況を見る限り、旅行会社が失敗の教訓を業務に生かしていたとは到底思えない。
世界各地でのトレッキングが中高年を中心に人気で、ツアーの企画も多い。観光庁は、トムラウシの事故後、業界団体を入れた連絡会議でツアー登山のガイドラインを作った。今回の事故を受け、どうすれば指導が徹底できるのか業界団体と協議する意向だ。羽田雄一郎国土交通相は、観光庁の指導が十分だったのか検証する考えを示した。立ち入り検査や処分のあり方を検討し、適切な監督体制を築いてもらいたい。
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産経新聞 2012年11月07日
万里の長城遭難 悲劇繰り返した罪は重い
悲劇は中国に舞台を移し、繰り返された。河北省の万里の長城付近で日本人旅行客が吹雪で遭難し、3人が死亡した。
ツアーを主催した東京の旅行会社「アミューズトラベル」は、平成21年に北海道・トムラウシ山で登山客ら8人が凍死したツアーを企画していた。反省はまったく生かされなかったことになる。
参加者の人命を預かる旅行会社のあり方や、観光庁の指導が十分だったのかなど、悲惨な事故を繰り返さないための検証を徹底する必要がある。
亡くなった3人を含む4人が参加したのは、7日間かけて万里の長城をめぐるツアーだった。6日目の3日夜に52年ぶりという大雪に見舞われ、遭難した。
アミューズ社は現地を下見したこともなく、天候や旅程強行の判断を中国人の添乗員と現地ガイドに任せきりにし、定時連絡も行っていなかった。携帯電話に頼った遭難後の現地との連絡もおぼつかない状況が続いた。
トムラウシ山の事故でも悪天候の中でツアーを強行し、参加者が犠牲となった。観光庁は当時、同社に対し「安全管理の態勢が不十分だった」として業務停止51日間の行政処分を下した。
同社には天候悪化に伴う危険回避の判断基準がなく、気象情報について現地との定時連絡をせずに引き返す判断ができなかったことや、通信手段の確保を怠ったことなどがその理由だった。
今回の遭難で、何も改善されていないことは明らかだ。観光庁は昨年、同社に対し、3回の立ち入り検査を実施したという。「問題は見つからなかった」というが、検査や指導に不備はなかったのか。そもそも業務停止51日間という処分は適切だったのか。
日本旅行業協会などの業界団体が17年に作成した登山ツアー主催社向けの指針は、初めての企画では現地の下見や十分な情報収集を要請しているが、これすらも守られていなかった。
同社は遭難を受けた会見で「万全の対策を取ったつもりだった」と語ったが、あまりに空々しい。トムラウシ山事故の遺族が「またか」と怒るのも当然だろう。
中高年の登山ブームが続いている。山の自然は素晴らしいが、時に牙をむくこともある。旅行会社にはツアー参加者を守る重責があることを肝に銘じてほしい。
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