厚生年金基金 制度の廃止は当然だ

朝日新聞 2012年11月04日

厚生年金基金 制度の廃止は当然だ

AIJ投資顧問による年金消失で苦境が表面化した厚生年金基金制度について、厚生労働省は10年かけて廃止する方針を試案として公表した。

当然の流れだ。評価したい。

焦点は、基金が厚生年金の保険料の一部を国に代わって運用する「代行部分」である。

580弱ある基金のうち約半数は、手持ちの資産が国に戻すべき金額を下回る「代行割れ」に陥り、総額1兆1千億円の穴が開いている。

基金を解散する場合、本来なら、その母体企業と従業員が穴を埋めて国に返上すべきだ。

ところが、基金の多くは同業の中小企業が集まってつくっており、お金を出す余裕がない。その結果、傷口が広がる。

このため試案では、代行割れ基金の解散に向けて、5年間の時限措置を用意した。

まず連帯債務の廃止だ。今は基金の加入企業が倒産すると、その企業が国に負っている債務を、同じ基金の残りの企業が引き継ぐが、それをやめる。

連帯債務を負うと、いくら返しても借金が減らず、連鎖倒産を招きかねないためだ。

倒産で開いた穴は厚生年金本体で埋める。基金と関係ない厚生年金の加入者が肩代わりする形になるが、やむをえまい。

試案はさらに「債務を国に返済する期間を現在の最長15年から延長する」「債務に上限を設ける」との選択肢を示した。

返済期間の延長は必要だろうが、最初から債務に上限を設けるのには反対だ。

すでに基金を解散し、債務を全額返した企業との不公平感、「借りたカネは返す」という原則を揺るがすことなど、問題が多い。

どのようなケースに、この「徳政令」を使おうと想定しているのか、厚労省は明確に説明すべきだ。

基金制度そのものの廃止に対しては、代行割れしていない基金から「代行部分がなくなると運用資金が減り、スケールメリットが働かない」などと反対する意見が根強い。背景には、受託金融機関や各基金事務局の利害が透けて見える。

しかし、厚労省の試算では、資産が潤沢で「1年後の代行割れの確率がほぼゼロ」の基金は74、「2年後もゼロ」だと40しかない。

いくら健全に見えても、運用の失敗や母体企業の経営悪化などで、将来、代行割れに陥る可能性は残る。そうなれば、今と同じ状況に陥ってしまう。

厚生年金基金は、ここできっちり廃止を決めるべきだ。

毎日新聞 2012年11月07日

厚生年金基金 制度廃止に残る課題

AIJ投資顧問による年金消失事件を受けて厚生年金基金問題について検討してきた厚生労働省は、10年で同基金を廃止するなどの改革案をまとめた。国に代わって公的年金である厚生年金を支払う資金のない「代行割れ」の基金は5年以内に解散させるという。「制度そのものの廃止も含めて抜本的な改革に着手すべきだ」と私たちは主張してきた。これ以上の損失を抑えるためには速やかな改革が必要だ。

代行割れしている基金は11年度末時点で577基金のうち287基金に上る。現在基金に加入しているのは中小規模の運輸、建設業など構造不況に陥っている企業が多く、年金を受給するOBの割合が増えるに従ってさらに年金財政は苦しくなる。厚労省の試算では2年以内に代行割れに陥る可能性がない基金はわずか6%(35基金)しかない。

改革案では、財政状況が著しく悪い基金を厚労相が指定し、加入者らの同意なしに強制的に退場させる「清算型解散」も導入する。解散の要件も母体企業の経営悪化の条件は撤廃し、加入者の同意も現在の「4分の3以上」から「3分の2以上」に引き下げる。

代行割れしていない基金からの反発は強いだろうが、このままでは代行部分を返せずに公的年金の穴が広がっていく可能性が強い以上、制度自体の廃止はやむを得まい。3階部分の上乗せ年金はなくなるが、公的年金についてはこれまで通り受給できる。健全な運用をしている基金は代行部分を返上した上で、確定給付型など別の企業年金へと移行することもできる。

問題は、代行部分の資金を国に返せずに解散できない基金をどうするかだ。厚労省は、(1)返済額を減額し、差額を厚生年金保険料で補填(ほてん)する(2)返済期限(現行15年)を延長して企業側に自己責任で返済させる−−の2案を示した。ただ、(2)の場合も母体企業が倒産したら厚生年金から補填するという。基金は公的年金に上乗せした3階建て部分を企業が自己責任で運営してきたものだ。うまく運用できていた時は多額の年金を支給し、失敗した時だけ公的年金から補填というのでは理屈に合わない。公的年金にしか加入していない多数の企業や被用者は納得できないだろう。

ただ、基金が自力で代行部分を返済できなければ結局は厚生年金財政に穴が開く。厚生年金から補填しないのであれば税金で穴埋めするしかないが、この場合も基金とは無関係の多くの国民が負担を分かち合うことになる。ここで議論に時間を費やすとさらに負担は重くなっていく。公平性や納得感を考慮しつつ改革を速やかに断行するほかない。

読売新聞 2012年11月06日

厚生年金基金 改革へ議論を尽くすべきだ

財政難に陥った厚生年金基金制度をどう立て直すか。

改革を長年先送りしてきた厚生労働省の責任は重い。

厚労省が、公的年金の保険料の一部を企業が代行して運用している厚生年金基金について、赤字の基金は5年以内に解散し、制度も10年で廃止する案をまとめ、専門委員会に提示した。

厚年基金の資産は総額で約27兆円あるが、半数の基金が代行部分に積み立て不足を抱えており、その総額は1・1兆円に達する。

今後も運用の改善が見込めないため、厚労省は、制度の維持は困難と判断したのだろう。

だが、改革案には問題が少なくない。専門委でさらに議論を尽くしてもらいたい。

自民党は、制度の廃止をうたう厚労省案と異なり、健全な厚年基金については存続を求めている。民主党は制度を廃止する方針だ。改革には曲折が予想される。

厚労省案の最大の問題点は、基金の積み立て不足を、公的年金である厚生年金の保険料で穴埋めしようとしていることだ。公的年金による救済には、民主、自民両党とも慎重論が根強い。

企業年金は「自己責任」が原則である。積み立て不足の資金は母体企業が返済するのが筋だ。従業員OBの企業年金減額もやむを得ない。むやみに公的年金を使って救済することは避けるべきだ。

ただ、厚年基金は、景気低迷による運用難で大企業の多くが脱退し、残されているのは体力のない中小企業が大半だ。

母体企業の負担が過重になり、倒産することになれば、地域経済や雇用に与える影響が大きい。

改革案は、そうした企業を救済する際のルールが明確ではない。条件をあいまいにしたまま、厚年基金とは無関係のサラリーマンや企業にツケ回しするやり方は、理解を得られまい。

厚年基金制度の行き詰まりは以前から指摘されていた。基金が旧社会保険庁など国家公務員OBの天下り先になっていたことも、改革が遅れた背景ではないか。

少子高齢化で、公的年金の水準を将来、引き下げることは避けられない。サラリーマンの老後の所得保障に、公的年金を補完する企業年金が果たす役割は大きい。

厚年基金は、そうした企業年金の一つだ。加入者が懸念するのは、改革によって企業年金を受け取れなくなる事態である。

確定拠出年金など別の企業年金制度に移行しやすい環境を整えることも検討すべきだろう。

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