電力値上げ 当座しのぎではダメだ

朝日新聞 2012年10月31日

電力値上げ 当座しのぎではダメだ

原発への依存度が高い関西電力をはじめ、電力各社が値上げを検討している。

原発の代わりに動かしている火力発電の燃料費がかさんでいるためだ。

火力への依存が高まることによる当面のコスト増は、ある程度、利用者全体で広く薄く負担するのもやむをえまい。

しかし、それも電力会社が先々の電力供給や経営のあり方を真剣に見直したうえでの話である。それなくして、値上げには説得力がない。

原発への新しい安全基準は、来年7月をめどに原子力規制委員会がまとめる。追加的な対策をとるのが難しく、稼働が認められない原発も出るだろう。

運転寿命を40年とする規制を厳格に適用する方針は、すでに示されている。大飯原発など、活断層の存在が懸念される原発もいくつかある。

こうした危ない原発、古い原発から閉めていくことになる。

廃炉には多額の費用がかかるが、まだ十分に引当金を積めていないところが少なくない。

そうした状況を考えれば、経営戦略を早急に切り替えなければならない。

事業を見直し、経営の無駄をとりのぞく。安全対策費がかさみ、維持だけでお金がかかりすぎるなら、自ら原発を閉める選択肢もある。

世界一高いとされる液化天然ガス(LNG)の購入費も、政府の支援などを得ながら調達先を広げるなどして下げていく必要がある。

効率のいい新型火力や自然エネルギーなど、新たな電源を確保する。利用者に省エネ・節電を促す新しいビジネスを活用していく。やるべきことは、山ほどある。

ところが、各社の発言を聞いていると、まだ全ての原発の存続を前提に、当座をしのぐ策ばかり練っているようだ。

政府・与野党も、エネルギー産業の構造改革に向けて早く議論を深め、電力会社が自ら脱原発へと動くような枠組みを講じていくべきだ。

実際に値上げ申請となれば、少なくとも家庭向けの料金については、公認会計士など専門家による査定を受ける。

消費者庁も別途、検証の場を設けるだろう。どちらも広く公開される見込みだ。

原発依存からの脱却へ経営を切り替えているか――。コスト負担を引き受けるうえで、注意深く点検する必要がある。

「燃料代が上がったので」という説明だけなら、とうてい納得できない。

毎日新聞 2012年11月06日

電気料金値上げ 負担抑制に力を尽くせ

電気料金の値上げの動きが広がってきた。関西、九州の両電力が値上げを正式表明し、北海道、四国、東北電も値上げを模索している。原発の停止で、火力発電用の燃料費の負担がかさんでいるためだ。

原発依存度を引き下げるためには、一定の料金値上げは避けられないだろう。そうであれば、電力会社の合理化や政府の政策努力で、国民負担の抑制に力を尽くすべきだ。

電力10社の12年度中間決算は、原発のない沖縄電と原発依存度が元々低い北陸電以外の8社が最終損失になった。北陸電も今年度通期では赤字を予想している。稼働率が高まった火力発電用の燃料費は前年同期に比べ、10社合計で約1兆円も増加した。原発依存度の高かった関西、九州電のダメージがひときわ大きく、値上げ表明につながった。

値上げ幅は、関西電が家庭向けで15%程度、企業向けで20~30%とする予定。九州電は家庭向けで10%前後、企業向けも同時に値上げする考えだ。どちらも来年4月からの実施を見込んでいる。

料金値上げは、東電が9月に実施した。原発停止に伴う燃料費高騰という事情は程度の差こそあれ、沖縄電以外の各電力に共通する。値上げは全国に波及する公算が大きい。

値上げは、家計や企業業績に影響する。とりわけ、円高という逆風下で韓国や中国企業などとの厳しい価格競争にさらされている企業にとっては、深刻な打撃になりかねない。下請け企業の中には、コストが上がっても価格転嫁は困難とするところも少なくなく、負担増が重くのしかかりそうだ。

悪影響を抑制するには、値上げ幅圧縮のための合理化努力が不可欠だ。電力各社は東電福島第1原発事故の後、コスト削減を進めてきた。しかし、人件費についてはボーナスを一部削減した程度で、年収は各地域の最高水準を維持している。人件費がコストに占める割合は1割に満たず、値上げ幅の圧縮効果は限定的だが、利用者に負担を求める以上、一段の抑制は欠かせない。

燃料費についても、コストに利益を上乗せして料金を決める「総括原価方式」に甘え、抑制努力が足りなかった。電力会社には、より低価格で調達する努力も求めたい。

政府は値上げの申請を厳格に審査するという。当然だが、政府自身の取り組みも忘れてはならない。政府は電気料金抑制のため、事実上地域独占の電力事業に競争原理を導入する方針だ。しかし、その具体化に向けた議論は遅々として進まない。料金抑制の道筋がまったく示されないままの値上げでは、国民の理解は得がたいだろう。

産経新聞 2012年11月02日

電力値上げ 抑制の切り札は再稼働だ

電力会社が相次ぎ電力料金値上げの検討に入った。原子力発電所の停止で火力発電所の燃料費がかさんでいるためだ。

料金値上げは、国民生活や産業などに打撃を与える。電力会社の徹底したリストラが前提とならなければならない。

だが、それだけで値上げを抑制するのは無理だ。電力をできるだけ安価に、かつ安定的に供給するには、安全性が確認された原発を有力電源として活用することが欠かせない。

今なすべきは、原発再稼働に向けた手順を早期に確立し、円滑な運転再開につなげることだ。それが政府の責務である。

関西、九州の両電力は、値上げの時期や幅を今後、検討する。北海道と東北、四国の3電力も、原発再稼働の見通しをにらみつつ最終判断する。来春にも実施される値上げの幅は家庭用で1割、産業用で2割程度が有力という。

国内では現在、関電の大飯原発2基だけが稼働中だ。電力需要の3割を賄ってきた原発の運転停止に伴い、各社とも火力発電所をフル稼働させ、液化天然ガス(LNG)などの輸入が急増している。このコスト増を料金に転嫁する値上げだ、と各社は説明する。

電力料金値上げは日本経済に甚大な影響を及ぼす。とりわけ円高に苦しむ輸出産業のさらなる競争力低下を招き、価格の転嫁が難しい中小企業への痛手も大きい。

電力会社が遊休資産の売却や人件費の切り込みで、上げ幅をなるべく圧縮するのは当然である。認可が必要な家庭用については、政府も厳しく審査する構えだ。

しかし、関電などでは、燃料費と他社からの電力購入費が一昨年に比べて2倍に増え、コスト全体の半分を占めているという。

8%に満たない人件費の削減では、合理化にもおのずと限界がある。必要以上に人件費や修繕費を減らせば、技術者の確保や電力の供給にも支障が生じかねない。

今年度上半期の貿易収支は過去最大の赤字を記録した。専ら火力発電向け燃料の輸入増による。

原発の運転停止が長引けば、それだけ国富の流出を招き、国力の低下は避けられない。そうなれば台頭する中国との相対的力関係など、安全保障にも影を落とす。

電力各社の値上げ検討は、そうした猶予ならざる状況を改めて示した。政府は原発再稼働を一刻も早く主導すべきだ。

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