古典の日 超一流の芸を楽しむ

朝日新聞 2012年11月01日

古典の日 超一流の芸を楽しむ

11月1日は、今年から国が法律で決めた「古典の日」だ。

古典は勘弁してほしい、という人は少なくないだろう。古文の授業で「ありをりはべりいまそかり」などと丸暗記した文法も、大人になって音しか覚えていない人も多いだろう。

だとしても、学校教育の苦い思い出だけで古典を遠ざけておくのはもったいない。

古典はただの「古い作品」ではない。時代をくぐり抜けた強さを持ち、時に現代では失われた美を保つ。来(こ)し方(かた)行(ゆ)く末(すえ)を思わせる古典は、人生経験を積んだ大人こそ楽しめるものだ。

古典の日の日付は、紫式部が源氏物語に日記でふれた最古の日(1008年11月1日)にちなむ。源氏物語千年紀を祝った京都の文化人らが法の制定を求め、9月に成立した。

条文で「国民が古典に親しむことを促し、その心のよりどころとして古典を広く根づかせ」るために、国や地方公共団体が「ふさわしい行事が実施されるよう努める」とうたう。

何が古典か、という定義は広い。文部科学省の通知によると文学から美術、演芸などあらゆる分野に及び、外国由来のクラシック音楽なども含む。明治の作品でもよいという。

文化庁の調べでは、今年は京都や東京の28カ所で行事が催される。それらのイベントは、古典嫌いの人に少しでも関心を持ってもらえるだろうか。

古典は言葉が古かったり、感覚が異なっていたりして、なじみにくい面があるのは確かだ。

ただ、能・狂言や歌舞伎・文楽のように現代まで実演が続けられ、見ることから入れる古典もある。楽しむコツは、超一流の演者を選ぶことだ。

例えば、文楽だったら人間国宝、竹本住大夫(すみたゆう)の語り。残念ながら病気療養中だが、その歯切れのいい節回しは、初めて文楽を体験する人の耳にもすっと入る。字幕や台本を見なくとも、江戸時代の男女の悲劇が切々と心に迫るのだ。超一流は古典でも分かりやすい。

とかく古典の話では、教養をひけらかす文化人がいてうんざりさせられることもある。

だが、イタリアの大作家、イタロ・カルヴィーノは「まだ読んでない基本的な本の数は、つねに読んだ本の数をはるかに超えている」と断言する。そして「古典を壮年、または老年になってから初めて読むのは比類ない楽しみ」という(「なぜ古典を読むのか」)。

気後れする必要はない。古典を学校教育で終わりにせず、自分のペースで楽しもう。

読売新聞 2012年11月01日

古典の日 伝統文化への理解を深めたい

今日は、古典の日だ。「紫式部日記」の1008年11月1日の項に「源氏物語」についての記述が登場していることに由来する。

先の通常国会で古典の日に関する法律が超党派の議員提案で成立した。

古来の優れた文学や音楽、美術、伝統芸能などを古典と定義し、国民に古典への理解を深めてもらうのが新法の趣旨だ。

長い歴史の試練を経て継承されてきた古典は、人間の叡智(えいち)の結晶と言える。古典を通して(いにしえ)の人々の心に触れることは、新しい文化を創造する礎にもなろう。

文化庁は記念シンポジウムを開催する。各地でも伝統芸能の上演など多彩な行事が催される。芸術の秋の一日、古典の魅力に接してみてはいかがだろうか。

古典と聞いて、多くの人が「源氏物語」や「枕草子」などの文学を思い浮かべるだろう。誰もが学校の授業で習うが、大人になると、なかなか読む機会もないという人がほとんどかもしれない。

人々が古典に関心を持ち続けるには、やはり学校教育の中でその魅力を分かりやすく教えていくことが大切だ。小中学校の新しい学習指導要領も、伝統や文化に関する教育の充実を掲げている。

京都市は今年から、公立の全小中学校で華道や茶道などの体験学習に取り組むことを目標に掲げた。東京都世田谷区では、独自の教材を作り、小学校で和歌、俳句、論語、漢詩などを教える授業が定着している。

能や歌舞伎の鑑賞教室を積極的に実施するなど、各学校で工夫を凝らし、古典学習をさらに拡充していくべきだろう。

新法は、国民が古典に親しむことが出来るよう、国や自治体が必要な措置を講じる努力をすることを求めている。伝統芸能の存続のために人材育成などで一定の支援をしていくことも大事だ。

橋下徹大阪市長が大阪発祥の人形浄瑠璃文楽に対する補助金凍結を打ち出した問題は、文楽関係者との意見交換の結果、凍結解除の方針が示された。

文楽界を「特権階級」として敵視するかのような橋下市長の発言には行き過ぎもあったが、補助金の使途を透明化すべきだといった指摘にはうなずける面はある。

文楽のみならず伝統芸能、伝統文化をいかに次世代に継承、発展させていくか。この課題に応えるためには、官民共にもっと議論を深めていく必要がある。

初めて迎えた古典の日には、そんなことも考えたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1226/