国会審議を通じて、与野党が積極的に接点を探り、政治を動かす。
そんな前向きの展開は期待できそうにない論戦のスタートである。
野田首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が衆院本会議で行われ、自民党の安倍総裁が首相と初めて対決した。
安倍氏は、首相が約束した「近いうち」の衆院解散・総選挙について、「その言葉に責任を持たねばならない」として、年内の解散を決断するよう迫った。
首相は、赤字国債の発行を認める特例公債法案の成立や衆院選の「1票の格差」是正など、解散の「条件が整えば、きちんと判断をしたい」と語るにとどめた。
民主党の離党者が続き、野田政権の基盤は一層揺らいでいる。
支持率が低迷する中で衆院選を迎えた場合、民主党の大敗は免れない。首相にすれば、解散を先延ばしし、議席減少を極力抑えられる時期を模索したいのだろうが、その展望は開けていない。
特例公債法案の成立の遅れは、地方財政に深刻な影響を及ぼしている。首相は、早期解散から逃げることなく、野党の協力取り付けに自ら動く必要がある。
安倍氏も、特例公債法案などの「重要性は十分認識している」と言う以上、首相問責決議に基づく独善的な審議拒否を早急に撤回して、法案成立に協力すべきだ。
日本外交の再建に関して安倍氏は、「日米同盟を再構築」するため、集団的自衛権の行使を可能にするよう政府の憲法解釈の変更を求めた。首相は、当面の解釈変更を否定しつつ、「様々な議論があってしかるべきだ」と述べた。
領土を守り、中国、韓国との関係を改善するうえで、日米同盟の強化は欠かせない。集団的自衛権は安全保障の根幹にかかわる問題だけに、超党派の合意形成が望ましい。与野党は、行使を可能にする方向で議論を深めてほしい。
環太平洋経済連携協定(TPP)について、安倍氏は、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と強調した。首相も、国内の議論や関係国との協議の進展を踏まえて、正式参加を判断するとだけ語った。
経済再生のためにも交渉参加が急務なのに、両者とも消極姿勢だったのは残念である。
問題なのは、代表質問後に通常開かれる予算委員会に与党が慎重なことだ。田中慶秋前法相の任命責任など野党の追及を避けたいためとされる。そんな姿勢では政治が一層停滞してしまう。
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