日銀また緩和 数値至上主義に陥るな

朝日新聞 2012年10月31日

追加金融緩和 政治不況を起こすな

景気の急速な冷え込みを防ぐため、日本銀行が2カ月連続で追加の金融緩和を決めた。

政府と日銀が一体でデフレ脱却に取り組むという異例の共同声明も出した。

だが、一連の動きを見ると、政治が自らの機能停止のツケを日銀に押し付けているとしか思えない。特例公債法案の成立など、政治が責任を果たすことが先決だ。

今回の緩和では、国債や上場投信など計11兆円を買い増す。単に資金を積み上げても景気への効果が見通せないため、銀行が企業への新規融資を行う資金を超低利で供給する仕組みも新たに設けた。

ただ、企業に資金をいくら押し込もうとしても、実体経済の側に資金需要を生むような事業の盛り上がりが生まれなければ効き目がない。

政府による規制や制度の改革が不可欠だ。むろん民間の努力は重要だが、経営環境の展望が開けなければ、民間が動こうにも動けない分野も多い。

金融緩和だけでは、「何もせず景気回復を待つ」という現状維持の心理を助長し、民間経済を沈滞させかねない。

政府・日銀の共同声明は、こんな懸念を意識してのことかも知れない。政府はデフレを生みやすい経済構造の改革に政策を動員するという。

決意表明は大いに結構だ。しかし、現下の政治はこれを素直に受け取れるような状態ではない。機能停止にとどまらず、むしろ自ら不況をつくりだしつつあるといっていい。

臨時国会は始まったものの、特例公債法案は成立のめどが立っておらず、歳出抑制の動きが広がる。米国で不安視される「財政の崖」の日本版を自らつくり、解散するか否かのチキンレースに励んでいる。

さすがに機関投資家の間では不安が広がっている。12月に国債発行が停止になった場合、たとえ後から法案が通って発行が再開されたとしても、「だんご発行」になる恐れがある。

となると、市場で消化しきれず、歴史的な高値相場が変調をきたし、金利が急騰しかねない――。もっともな懸念だ。

そんな危機を覆い隠そうとばかりに、政府、与野党はこぞって日銀に緩和圧力をかけた。

予算の資金繰りすら始末をつけられない政治が、中央銀行に物申すことで何か一仕事しているかように振る舞うのは、まことに見苦しい光景だ。

政治不況は起こさない。政府と与野党はまずこの一点から良識を取り戻してほしい。

毎日新聞 2012年10月31日

日銀また緩和 数値至上主義に陥るな

先月に続き、日銀がまた大幅な追加金融緩和を決めた。2カ月連続の緩和はリーマン・ショック後の歴史的混乱期でさえなかった異例の対応だ。確かに景気の減速懸念が強まってきてはいるが、わずか1カ月余りで、資産買い入れ基金を11兆円も上積みしなければならなかった経済的理由がわからない。

しかも、今回もまた政策委員会(9人で構成)の全会一致による決定だ。会合には、政府代表として前原誠司経済財政担当相が「強力な金融緩和を求めることを前提に意見を述べたい」として臨んだ。会合終了と同時に、日銀の白川方明総裁、前原氏、城島光力財務相の連名による文書が発表され、日銀は「引き続き(インフレ率)1%を目指し強力に金融緩和を推進していく」と確約させられた形だ。政策委員会の各委員が真に独立した立場で判断しているのか、疑問を持たずにはいられない。

今回の追加緩和の背景には、日銀が同時に公表した経済や物価の見通し(展望リポート)が芳しくなかったことがあろう。12、13年度の実質経済成長率や消費者物価指数の伸び率は軒並み下方修正となった。

今回初めて予測対象となり注目された14年度については、実質成長率が0・6%、消費者物価指数の伸び率(消費税の影響を除く)が0・8%にとどまった。0・8%は、日銀が目指す1%に遠くはないものの、厳密には届いていない。

このため、インフレ予測が1%を明確に超えるまで日銀への緩和圧力が続く恐れがある。だが、過度に特定の数値にとらわれることは、政策決定の自由度や機動性を奪ってしまう。効果や弊害の点検が軽視される危険もはらむ。日銀にとっても日本経済にとっても利益にならない。

数値至上主義的な機運は、消費増税を阻止しようとする勢力の後押しにもなりそうだ。14年度は消費税が5%から8%に引き上げられる年だ。実施の最終判断は、約半年前に内閣が行うが、政策目標である「名目3%、実質2%」の成長率や「物価の1%上昇」を増税条件として厳格に適用するよう求める声が強まりそうな気配がある。

金融政策は目標を掲げつつも、その時その時の総合判断で最善とされる決定を下さねばならない。経済がグローバル化した今日は、なおさら複合的な議論が求められる。

白川総裁は今春の講演で「経済を管理することは、人間とその感情を巻き込んだ複雑なシステムである以上、科学ではなくアートであり続けるだろう」と述べ、機械的ルールにとらわれることを戒めていた。

残念だが今の日銀の金融政策にアートは感じられない。

読売新聞 2012年10月31日

追加金融緩和 政府・日銀は効果的な連携を

デフレ脱却を目指し、政府・日銀が連携を強化する姿勢を明確にした。肝心なのは効果的な政策の実行である。

日銀が国債などを買い入れる基金を11兆円上積みし、91兆円とする追加金融緩和策を決めた。貸し出しを増やした銀行に、日銀が低利で資金供給する新制度も打ち出した。総額に上限を設けず、手厚く供給するという。

海外経済の減速や日中関係の悪化の影響で、景気は冷え込み始めた。腰折れを防ぐため、日銀が2か月連続で追加策に踏み切ったのは妥当な判断と言えよう。

基金を積み増す従来の手法では企業などに資金が十分に行き渡らない。新制度によって貸し出しが増加することに期待したい。

政府・日銀がデフレ脱却に向けて「一体となって最大限の努力を行う」という、初めての共同文書も発表した。

金融政策決定会合に出席した前原経済財政相は記者会見で、「重要な一歩になる」と強調した。政府・日銀の協調を「かけ声倒れ」に終わらせないことが大切だ。

日銀が新制度を含む追加策に動いた背景には、「2014年度以降、遠からず」としていたデフレ脱却の時期が遅れることへの危機感があるのだろう。

日銀が追加策とあわせて発表した14年度の物価上昇率の見込みは「0・8%」で、デフレ脱却のメドとなる「1%」を下回った。

14年4月には消費税率が8%に引き上げられる予定である。社会保障・税一体改革に支障の出ないよう、政策を総動員し、デフレ脱却を急がねばならない。

政府や与野党には、円高是正を目指した外債購入や、インフレ目標の導入などを日銀に求める声もある。政府と日銀がさらに論議を深めることが求められる。

人口減少や潜在成長率の低下、産業空洞化など、構造問題への対応は主として政府の役割である。先週に閣議決定された小規模な緊急経済対策では全く不十分だ。

介護・医療や環境などの成長分野で新産業を育成し、雇用の創出も加速させてもらいたい。

安全を確認できた原子力発電所を再稼働して電力の安定供給を図り、経済再生を後押しする態勢を整える必要もある。

何より、今年度当初予算の財源を確保する特例公債法案の成立を急ぐべきだ。国庫が底をつき、行政機能が停止すれば、急激なデフレ圧力で日本経済は致命的な打撃を受ける。こうした混乱は回避しなければならない。

産経新聞 2012年10月31日

追加金融緩和 なぜ円高是正踏み込まぬ

日銀が9月に続き金融緩和に踏み切った。金融機関の不良債権問題で信用不安が日本を覆った平成15年以来の2カ月連続の金融緩和である。

日本経済の現状は厳しさを増す一方だ。欧州債務危機の長期化、中国経済の急減速などの海外情勢の悪化と円高で輸出が減少し、生産鈍化などにつながっている。

日銀も30日公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、今年度の物価見通しを7月時点の0・2%上昇から一転、0・1%のマイナスとし、デフレ状態が継続すると判断した。

この状況を踏まえると日銀が打った手は十分とはいえない。何より、日銀が日本経済最大の重しである円高にどう対応しようとしているかが見えない。

今回日銀は、市場に資金を流すために国債などの資産を買い取る基金を11兆円増やし、株価指数に連動する上場投資信託を買い増すことを決めた。金融機関の貸し出しを促すため、貸し出し増加分については低利で無制限に貸し付ける新たな仕組みも作る。だが、これらは従来の政策の延長であり、企業などの資金需要が落ち込む今、その効果も不透明だ。

歴史的高水準にある円相場は実体経済を反映していない。これが輸入品価格を押し下げ、デフレ要因になっている。国内の輸出産業、とりわけ中小企業に打撃を与えているのはいうまでもない。

円高是正の観点からいえば、日銀による外国債券の購入も積極的に検討すべきだ。円を売って発行国通貨を買うことになり、円安を誘う効果がある。これに対し、日銀も財務省も、外債購入は日銀法が認めない外国為替市場安定目的の金融政策になるとして難色を示している。

ただ、日銀の外国為替の売買自体は可能であり、資金供給手段として基金で外債購入できるとの解釈もある。これを財務省が容認すれば、政府・日銀が一体となって円高是正に取り組む意思を市場に見せることにもなろう。

両者は今回、デフレ脱却で最大限協力し合うとした共同文書も公表している。先の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で日本は円高是正への理解を求め、異論は出なかったという。日銀に今、求められるのは円高是正への強い意思を明確に掲げ、それを形にすることだ。

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