波乱の臨時国会 眼前の2課題に全力を

朝日新聞 2012年10月30日

臨時国会開幕 報復の連鎖を断ち切れ

異常な幕開けである。

きのう、臨時国会が召集され、衆院本会議で野田首相の所信表明演説があった。

ところが、参院はこれを拒否し、各党の代表質問も行わないという。憲政史上、例のない事態である。

参院は先の通常国会で首相の問責決議を可決した。だから首相の発言は聞くに値しない。自民党など野党側が、そう唱えたためだ。

政権にどんな問題があろうとも、あくまで審議を通じてただしていく。それが国会の役割ではないのか。怠慢というほかはない。

自民党としては、野党が多数を握る参院で野田政権を揺さぶり、衆院の早期解散を迫るのがねらいだろう。

だが、予算執行に不可欠な赤字国債発行法案や、衆院の一票の格差是正の「0増5減」法案などの処理は喫緊の課題だ。

参院自民党には、ただちに審議に応じるよう強く求める。でなければ、参院不要論に火をつけ、結局は自分たちの首をしめることになる。

そもそも「ねじれ国会」が続くなか、参院が政権の命運を左右するほどの力をふるうことが、今回の異常事態を招いたともいえる。

問責決議を理由に審議を拒んだり、重要法案を人質にとったりするのでは、政治の混迷は深まるばかりだ。

首相は、所信表明演説で赤字国債法案を駆け引きに使う悪弊を「ここで断ち切ろう」と訴えた。私たちも同感だ。

赤字国債発行法案は予算と一体で成立させる。問責を決議しても審議には応じる。

そんな慣例やルールをつくり、政治を前に進める。臨時国会では、そのことに与野党あげて取り組むべきだ。

一方、首相も野党に求めるだけでなく、譲るべきは譲らねばならない。

足元の民主党の惨状は目を覆うばかりだ。

28日の衆院鹿児島3区補選では、民主党推薦の候補が自民党前職に敗れた。離党者も止まらず、きのう新たに2人の衆院議員が離党届を提出し、単独過半数割れまで3議席となる。

政権に、難局を打開する力が残っていないことは明らかだ。

自民、公明に再度の党首会談を呼びかけ、解散時期についてより踏み込むなどして、協力を求める。そして互いに報復し合う連鎖を断ち切り、政治を動かす道筋をつける。

それこそが、野田政権の仕事ではないか。

毎日新聞 2012年11月01日

首相と安倍氏 不毛な攻防繰り返すな

野田佳彦首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まった。自民党の安倍晋三総裁が年内の衆院解散の確約を求めたのに対し、首相は経済対策や赤字国債を発行するための特例公債法案成立などの環境整備を説き、すれ違いに終わった。

首相と安倍氏がまずなすべきことは違憲状態にある衆院「1票の格差」是正と特例公債法案の処理だ。国会は序盤だが悠長に日程攻防を与野党が繰り広げている状況ではない。民主、自民両党は党首会談による同時決着を早急に探るべきだ。

総裁就任後初の論戦で安倍氏は持論である集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更などを主張、首相は「現時点で解釈を変えることはない」と応じた。次期衆院選に向け外交、内政にわたる2大政党による活発な政策論争に期待したい。

衆院解散と眼前の課題である「1票の格差」「特例公債法案」は腹の探り合いの域を出なかった。

安倍氏はこれら案件の決着を引き延ばしてきたのは首相側だと批判、「近いうちに」とする衆院解散の実行を迫った。首相は「条件が整えばきちっと自分の判断をする」と応じたが、月内にまとめる第2弾の経済対策も含め「やるべきことはやりぬく」とも強調、年内解散への慎重姿勢をにじませた。

首相が言う条件にしても特に衆院「1票の格差」是正は民主党の対応こそが問われている。同党はこれまで「0増5減」の先行処理に抵抗してきた。

首相が本気で懸案の決着を望むのであれば、早急に緊急是正に応じるよう党内調整を指示すべきだ。さもないと、やはり本音は自らが否定する「だらだらと延命を図る」ことだとみられよう。

特例公債法案の成立遅れも深刻な事態を来している。予算の執行抑制で地方交付税の11月分の支払いが延期される。財政力の弱い市町村の行政に混乱が生じかねない。

安倍氏も党首会談による諸懸案の同時決着を首相に迫るくらいの迫力があってしかるべきだ。代表質問でデフレ脱却を強調しても、こんな状況を放置したままでは説得力に乏しい。

代表質問では民主党が参院での首相の所信表明演説を拒否した自民党など野党の対応を批判する場面もあった。参院は代表質問にかわる「緊急質問」を検討しているというが、演説拒否で汚点を残した自覚が足りないのではないか。

新党結成に向け石原慎太郎東京都知事が正式に辞職するなど「第三極」結集を探る動きも急だ。解散に拘泥するあまり不毛な足の蹴り合いを演じることは民主、自民両党がともに沈み行く道である。

読売新聞 2012年10月30日

首相所信表明 戦略見えない「明日への責任」

「明日への責任」を掲げる以上、その言葉に見合う政策と実現への戦略を示す必要がある。

臨時国会が召集され、野田首相は衆院本会議で所信表明演説を行った。

だが、社会保障・税一体改革に続く政治課題として何を最優先に取り組むのかが見えてこない。

首相は、「決断する政治」の実現を強調し、デフレ脱却と超円高を克服する経済再生を「現下最大の課題」と位置づけた。

そうであれば、自由貿易の拡大でアジアの成長を取り込む環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が、手段として欠かせない。今回の演説でも「推進する」と言うだけで、交渉参加を正式に表明していないのはなぜなのか。

民主党から離党者が出ることや農業団体の反発を懸念しているのだろうが、内向きの守りの姿勢では、日本の活路は開けまい。

来月6日の米大統領選後、米豪など11か国による交渉が本格化する。来年にかけて、日本抜きで貿易と投資のルールが決まることになりかねない。日本が交渉に参加を表明することは急務である。

次期衆院選の政権公約(マニフェスト)作成に向けて、TPPに慎重な自民党との違いを打ち出すことにもなるはずだ。

エネルギー政策について首相は、2030年代に原子力発電所の「稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえて遂行すると主張した。

しかし、「原発ゼロ」への具体的な道筋は不透明だ。電力の安定供給が揺らぐだけでなく、電気料金値上げや産業空洞化など国民生活への深刻な打撃が予想される。原子力の分野で優秀な人材を確保することも困難となろう。

政府は「原発ゼロ」方針を撤回し、現実的な原発・エネルギー政策を策定し直すべきである。

主権・領土の問題に関しては、「国家として当然の責務を不退転の決意で果たす」と述べただけだ。対中・韓・露外交をどう立て直すのか、具体策を聞きたい。

問題なのは、首相が自民、公明両党の党首から協力を得られず、状況打開への戦略を欠いたまま、国会が始まったことである。

赤字国債の発行を可能にする特例公債法案や衆院選挙制度改革の関連法案の成立には、何ら見通しが立っていない。

「政局第一の不毛な党派対立の政治」と野党を批判するだけでは、政治は前に動かない。政府・与党が責任ある提案を行い、野党との接点を探るのが筋だろう。

産経新聞 2012年10月30日

首相所信表明 「明日への責任」は解散だ

野田佳彦首相の所信表明演説は、現下の政治課題を列挙しただけで、政権がこれから何に、どう取り組もうとしているのかが見えない。

首相は「明日への責任」を繰り返し、経済対策や東日本大震災の復興、社会保障制度改革国民会議の設置など、懸案を先送りしない「決断する政治」の重要性を強調した。だが、実現の具体策を明示できないようでは、政権を担う正当性や資格に疑念を持たざるを得ない。

政権延命のためだけに首相の座にしがみつくのなら、無責任の極みだ。一刻も早く解散・総選挙を行うことこそ、野田首相が掲げる「決断する政治」であり、「明日への責任」の取り方である。

驚いたのは、尖閣諸島の国有化後、初の国会であるのに「尖閣」という言葉が一度も出てこなかったことだ。中国公船が領海侵犯を繰り返すなど尖閣をめぐる危機は緊迫度を増している。

首相は「領土・領海を守るという国家としての当然の責務を、国際法に従って、不退転の決意で果たす」と述べた。だが、国民が聞きたいのは、一般論ではない。国難にどう備え、いかに立ち向かうかの具体策だ。国民に理解と覚悟を求めることこそ、最高指導者としての責務ではないのか。

尖閣を守る上で最重要の日米同盟についても、米兵による集団暴行事件への批判や沖縄の基地負担軽減などにとどまった。首相の持論である集団的自衛権の行使容認など、同盟深化に向けた意気込みをなぜ語らないのか。

島根県竹島への韓国の不法占拠についても、一切触れなかった。中韓両国を刺激しないことが問題解決の近道と思っているのであれば、大きな間違いだ。

首相は「現下の最大の課題」として経済再生を挙げた。だが、処方箋には抽象論が並び、日中関係の冷え込みなど具体的な懸案にどう対応するかは示していない。

臨時国会の焦点である特例公債法案や衆院の「一票の格差」是正についても、「『政局』第一の不毛な党派対立の政治」と野党側を批判するだけで、事態を打開しようという意欲が感じられない。

所信表明演説からも、野田政権に諸課題をやりこなすエネルギーが残っているとは思えない。国政の停滞を避けるためにも、首相は「近いうちに信を問う」という約束から逃げてはならない。

毎日新聞 2012年10月30日

波乱の臨時国会 眼前の2課題に全力を

臨時国会が召集され、野田佳彦首相による所信表明演説が行われた。衆院解散をめぐる攻防が早くも激化している。参院では首相演説が行われず、衆院のみという憲政史上初の異常な幕開けとなった。

「近いうちに」衆院を解散するとの約束実現を野党に迫られる中、首相演説は民意を問う覚悟から遠い内容だった。一方で与野党が解散時期の駆け引きだけに明け暮れることは子どもじみている。目の前にある課題の決着にまずは集中してほしい。

衆院補選に自民が辛勝した直後の召集だ。「安倍自民」がどう国会論戦にのぞむかがさっそく試されるが、参院はさきの首相問責決議を理由に本会議開催を参院自民党など野党側が拒み、演説が行われなかった。参院自らが存在意義を否定するような、職責放棄の愚行である。

首相演説もピントはずれだった。国会が一日も早く解決すべきなのは違憲状態の衆院「1票の格差」緊急是正と特例公債法案の処理である。

ところが首相は1票の格差について演説で後半に簡単にふれた程度で、しかも難しい定数削減問題と合わせての結論を説くにとどまった。

首相は格差是正後の新たな区割りでなくとも衆院解散は可能だと説明している。だが、たとえ次の選挙に区割り改定が間に合わなくとも、最低限の法的措置は講じないと衆院解散は難しいのが現実だろう。「0増5減」の緊急是正の先行になぜ、踏み込まないのか。

赤字国債を発行するための特例公債法案について自民党内には柔軟論も浮上しているようだ。1票の格差とただちに同時決着させれば年内解散もなお、不可能ではあるまい。

首相演説からは消費増税法成立を受けた野田内閣の次の目標や、来る衆院選に民主党が何を掲げようとしているかも伝わらなかった。

エネルギー政策は「原発に依存しない社会の実現に向けて大きく政策を転換」とうたいながら「不断の検証と見直し」も強調し、結局どちらをみているかがよくわからない。積み残された課題である社会保障の全体像を首相がどう考えているかも語られずじまいである。

首相は演説で持論の「中庸」を説き、「極論の先に真の解決はない」と語った。いわゆる「第三極」へのあてこすりかもしれないが、中庸とは決して足して2で割るような妥協を意味する言葉ではない。政策の中身を具体的に示すべきだ。

放置し続けた「1票の格差」「特例公債法案」を一日も早く決着させ、国民の審判に足る材料を示すことが与野党の役割だ。1年以内に必ず衆院選は行われる。逃げ腰の演説と、演説拒否ではさみしすぎる。

産経新聞 2012年10月19日

党首会談 首相は年内解散を伝えよ 残る課題は集団的自衛権だ

野田佳彦首相がその真価を問われる決定的な時を迎えた。

首相が19日の自民、公明両党との党首会談の席上、語るべきは「近いうちに信を問う」と8月に述べた約束の具現化だ。すなわち、年内解散の意向を明示的に伝えることである。

このことを表明できない限り、赤字国債発行に必要な特例公債法案の成立などに欠かせない自公両党の協力は取り付けられない。

首相が忘れてならないのは、政治生命を懸けて取り組んだ消費税関連法の成立が、3党協力の枠組みで図られ、「近いうち」は国民との約束になったことだ。

≪3党で「決める政治」を≫

今月上旬の産経新聞社とFNNの世論調査でも、「近いうち」の時期について「年内に限られるべきだと思う」との回答が68%に上っている。

この国民との約束を果たさない限り、政治空白は続き、行き詰まった日本は没落の一途をたどることになる。覚悟と勇気をもって決断してほしい。

懸念するのは、首相が増税法成立後に新たな政治課題を示していないことだ。燃え尽きたわけではないだろう。

提案したいのは、首相の持論でもある集団的自衛権の行使容認という、自民党政権もなし得なかったテーマに挑むことだ。

尖閣諸島への中国の攻勢を考えれば、日米共同防衛の重要性はより増している。同盟深化に資する行使容認こそ、「決める」政治のテーマにふさわしい。

「権利は保有しているが行使できない」という集団的自衛権をめぐる政府の憲法解釈について、首相は「これを踏み越えることができるかどうかが一番の肝」と自著「民主の敵」で主張した。

政府の国家戦略会議の「フロンティア分科会」も今年7月に行使容認の必要性を提起する報告書を出した。首相は「提言も踏まえながら政府内での議論も詰めていきたい」と答弁したこともある。

自民党の安倍晋三総裁も行使容認を唱え、米国を狙った弾道ミサイルの迎撃など行使すべき具体例も挙げている。臨時国会が開かれ、首相と安倍氏が活発な議論を行うことを期待したい。

集団的自衛権の行使容認という新たな課題を掲げ、憲法解釈の変更に踏み込んでその妥当性を総選挙で問うことができれば、極めて大きな意味がある。

景気後退の懸念が高まる中で、野田首相は経済対策を11月中に取りまとめるよう17日に関係閣僚に指示した。

経済対策を通じて景気の下振れを防ぐのは当然だが、その手法には首をかしげざるを得ない。

今年度予算の予備費と剰余金を活用し、補正予算は編成しないことを前提としているためだ。これでどれだけの景気浮揚効果が見込めるのか。

≪景気回復は補正予算で≫

景気をきちんと支えるには、まず今年度予算の執行を着実に進める必要があり、特例公債法案の早期成立が不可欠だ。党首会談では、経済対策を見据えた協力関係を構築するしか方策がない。

来秋には消費税増税の是非を景気動向を踏まえて判断しなければならない。そのためには本格的な補正予算を編成して景気が落ち込む前に果断な手を打つべきだ。

「一票の格差」をめぐり、平成22年の参院選を「違憲状態」とした17日の最高裁判決によって、衆院の「0増5減」と参院の「4増4減」の格差是正を実現する緊急性はより高まっている。3党合意を再構築するしかあるまい。

社会保障・税一体改革の3党合意に基づき、民主、公明両党は社会保障制度改革国民会議の早期設置を主張している。

これに対し、総選挙後の設置を唱えてきた自民党は、民主、公明両党に同調するかどうか対応を決めなければならない。

18日の幹事長会談では、自公両党が「年内解散」を首相が明言するよう求めたのに対し、民主党の輿石東幹事長は「党首会談で首相からもう少し具体的な提案があるのではないか」と語った。

自公両党には、解散時期が確約されないなら党首会談を拒否するという選択もあったが、首相の決断を信頼して会談に応じることにしたという。

日本を救うか、沈没させるか。すべては、野田首相の決断にかかっている。

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