鹿児島3区補選 自民を後押しした政権不信

毎日新聞 2012年10月29日

自民が補選勝利 「勢い」と勘違いするな

次期衆院選の前哨戦として注目された衆院鹿児島3区補選は、自民党前職の宮路和明氏(公明党推薦)が国民新党の新人(民主党推薦)らを破って当選した。自民党はこの勝利により、29日から始まる臨時国会で早期の衆院解散・総選挙を一段と強く求めていくと思われる。

だが、見逃してはならないのは、当初は宮路氏の圧勝と見られていたにもかかわらず、予想以上の接戦だったことだ。各種世論調査を見ても自民党が全国的に復調傾向にあるのは確かだが、それをもってして自民党への信頼が完全に回復したとはいえない。むしろ、民主党への失望感が日々、増幅しているという「敵失」による勝利といった方がいいのではないか。自民党はそれを勘違いしてはならない。

「勘違い」の最たるものが、臨時国会冒頭で自民党など野党が何とも奇怪な対応をしようとしていることだ。野田佳彦首相の所信表明演説は与党が多数を占める衆院では29日に行う日程が決まったが、野党多数の参院では演説を拒否するというのである。先の通常国会終盤で、参院は首相に対する問責決議を可決したからというのがその理由だ。首相演説に対する本会議での代表質問もしないという。

過去例のない異常な事態である。ただし、審議の全面拒否は国民からの批判が大きいことは自民党も分かっているのだろう。その後の予算委員会質疑には応じるというのだから、ますます分かりにくい。

法的根拠のない問責決議を乱用すべきではないと私たちはかねて主張してきた。首相演説と代表質問拒否の前例ができれば参院不要論にもつながると、なぜ考えないのか。野党は直ちに方針を撤回すべきだ。

今回の補選は野田政権発足後、初であり、自民党総裁に安倍晋三元首相が返り咲いてから初めての国政選挙だった。石原慎太郎東京都知事が新党結成を表明し、第三極の結集を呼びかけ始めた直後の投票ともなった。ここで自民党が過信して不毛な強硬路線に走るようでは、今後、民主でも自民でもない第三極に再び有権者の期待が高まる可能性がある。

今年度の赤字国債発行に必要な特例公債法案がいまだに成立していない影響が地方自治体では既に出始めている。ところが自民、公明両党は年内解散を確約しないと成立させないとの立場を崩していない。この姿勢にも批判が強まろう。

一方、民主党の「解散恐怖症」は収まる気配がない。しかし、もう腹をくくる時期だと改めて指摘しておく。衆院小選挙区の1票の格差是正のための立法措置など、これ以上の先送りは許されない。

読売新聞 2012年10月29日

鹿児島3区補選 自民を後押しした政権不信

早期の政権交代を目指す安倍自民党に追い風となろう。だが、自民党はこれにおごることなく、臨時国会で建設的な役割 を果たすべきである。

松下忠洋前金融相の死去に伴う衆院鹿児島3区補欠選挙は、自民党元議員の宮路和明氏が民主党の推薦する国民新党新人の野間健氏らを破って当選した。

野田政権初の国政選挙だ。次期衆院選の前哨戦ともなった補選は宮路、野間両氏による事実上の一騎打ちだった。

自民党は公明党の推薦を取り付け、安倍総裁、石破幹事長ら幹部を投入する総力戦を展開した。

鹿児島3区では地元に進出した工場の撤退が明らかになるなど、経済・雇用が深刻な問題だ。自民党はこれを踏まえ、経済再生に取り組む姿勢を強調した。

民主党政権の3年間を問う選挙と位置付け、「政権奪還」への第一歩になるとも訴えた。今回の勝利は、安倍新体制にとって幸先の良いスタートである。

一方、野間氏は、「松下氏の後継」を前面に掲げ、世代交代を訴えた。民主党も与党議席を一つでも失いたくないとして、「公認候補並み」の支援態勢を敷いた。閣僚や党幹部は「政権与党として改革に取り組む」などと訴えた。

支持が広がらなかったのは、政権への不信感があったからだろう。外国人献金問題や過去の暴力団関係者との交際で田中慶秋前法相が辞任したことも、野間氏への逆風となったようだ。

鹿児島3区には、九州電力川内原子力発電所がある。

ただ、宮路、野間両氏とも「国による安全性の担保」を前提に、再稼働を容認する姿勢を示した。共産党候補は「即時原発ゼロ」を訴えたが、有権者には浸透しなかったと言える。

補選敗北を受け、与党内では、「衆院選を行えば惨敗必至だ」として、衆院解散の先送りを求める声が一層強まるだろう。

しかし、いたずらに政権の延命を図って、政治をこれ以上停滞させてはなるまい。

自民党は、年内の衆院解散を求め、政府・与党との対決姿勢を一層強める方針だ。

自民党など野党は、29日に召集される臨時国会で野田首相の所信表明演説のための参院本会議開会さえ認めないという。これは明らかに行き過ぎである。

有権者は、与野党の不毛な対決ではなく、「決められる政治」の実現を望んでいる。自民党は勘違いをしてはならない。

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