技術流出 「守る」態勢を立て直せ

朝日新聞 2012年10月27日

技術流出 「守る」態勢を立て直せ

秘中の秘だった特殊な鋼板の製造技術を盗んだとして、新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手、ポスコを相手に損害賠償を求めた裁判が東京地裁で始まった。

日本企業が海外への技術流出をめぐって、真っ向から訴訟に踏み切るのは珍しい。不正の立証が難しく、費用や手間を考えると割に合わないと考えられてきたからだ。

今回は、ポスコ社員が問題の技術を中国の鉄鋼大手に売り渡したとして韓国の裁判で有罪となり、新日鉄からの流出だったことが表面化した。

新日鉄側が調査を重ね、4人の社員OB経由で漏れた経緯を突き止めた。

たとえ訴訟に勝っても、いったん流出した技術を再び秘密にすることはできない。

ただ、法廷で不正の実態がつまびらかになれば、今後、同じような行為を取らせないよう強く牽制(けんせい)する効果を生む。

秘密を守る緊張感に乏しいともいわれる日本企業の管理態勢を改める契機にもしたい。

経済産業省の最近の調査で、回答した2900社のうち7%が「明らかに漏洩(ろうえい)と思われる出来事があった」としている。定年や中途で退職した技術者を通じて漏れるケースが多い。

技術流出を警戒する企業はふつう、退職後も秘密を守るように社員と契約を結ぶが、破っても違反の事実を特定するのが難しい。

さらに、会社の中で何が本当に守るべき秘密なのかあいまいだったため、訴訟を起こしても被害を立証できない例もある。

韓国企業などは日本企業が不況でリストラした人材の再雇用に力を注いできた。高額報酬で誘うのも事実だが、誘われる方には不本意な形で退職し、新天地で古巣を見返したいと思う人も少なくないという。

業界横並びでさまざまな技術を開発しながら、それを十分に製品化・事業化できず、技術者ともども抱えきれなくなるとリストラで切り捨てる――。そんな経営にも、流出を生む責任の一端があるのではないか。

今や韓国企業の方が優れている技術も増えている。旧来のタコツボ的な開発と技術の囲い込みを卒業し、グローバルに流動化する人材を上手に活用しながら、大切な技術を守る態勢を築くべき時に来ている。

核心的な技術は断固として守る。一方、自力で生かせない技術は、開発者の独立起業を支援するなど人材を処遇して、世の中に生かす。

こうしたメリハリこそ企業を立て直す一歩になるはずだ。

産経新聞 2012年10月28日

技術流出 官民で阻止する態勢作れ

最先端の製鉄技術を盗用されたとして、新日鉄住金(旧新日本製鉄)が韓国・ポスコに損害賠償と製造差し止めなどを求めた訴訟は、ポスコ側が全面的に争う姿勢を明らかにした。

国内最大手で世界2位の新日鉄住金と、韓国最大手で世界5位のポスコが真っ正面から対立する図式になったのである。

しかも、新日鉄退職後、技術を持ち出したとされる元社員も賠償請求の対象になっている。長年日本の産業界をリードしてきた企業が技術流出に厳しい姿勢を見せたことを重く受け止めたい。

経済産業省の調査では、製造業の約7%が「漏洩(ろうえい)と思われる出来事があった」と回答した。国内電機メーカーが韓国勢などに苦戦しているのは、円高に加えて価格競争に敗れ、技術面、品質面でも優位性を失ったからだ。背景には、バブル崩壊後に日本の技術者が週末を使って韓国企業などで働いたことがあるとの指摘もある。

日本企業が開発し、保有する先端技術の外国企業への流出は一企業だけでなく、日本の国際競争力や成長力にも打撃を与える。

企業は退職後の技術者にも誓約書を求め、秘密保持契約を結ぶなど自衛策をとり、経産省も技術流出防止の指針を作成している。

ただ、最先端技術は開発スピードが速く、判決が出る頃には対象技術が陳腐化することも多い。このため和解による決着や訴訟自体を見送る例も少なくない。特に転職・退職による技術流出は立証が難しいという問題もある。

その意味でも今回の裁判の結果は重要だ。新日鉄住金側が「勝算がある」としてそろえた資料を裁判所がどうみるか。韓国での製造差し止めなどを日本の法律に基づいて日本の裁判所で扱うことに異を唱えるポスコ側の主張に対し、どんな判断を下すのか。

これらは、日本企業が技術流出問題にいかに対応すべきか、訴訟に持ち込むべきか、どうすれば勝訴できるか-などを検討する際の貴重な材料となろう。日本の技術を守るには、こうした前例を積み重ねていくことが大切である。

国も、iPS細胞など特に重要と認めた技術を保護するための新法制定や厳格なルールの設定などを検討すべきだ。日本で生まれた先端技術は日本の宝だ。流出阻止の態勢づくりに国、企業が一丸となって取り組まねばならない。

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