EU大統領 巨大欧州の「顔」ができた

朝日新聞 2009年11月22日

欧州連合 EU大統領が誕生する

欧州統合への取り組みが始まって50年余り。欧州連合(EU)に、ついに「大統領」が生まれた。

加盟27カ国の首脳が集まり、欧州理事会に新たに置く常任議長に、ベルギーのファンロンパウ首相を選んだ。

欧州理事会は、EUの最高意思決定機関である。常任議長は、年4回の首脳会議を仕切るだけでなく、日本や米国、中国などとの首脳協議にも、EUを代表して出席する。

「EU外相」にあたる外務・安全保障上級代表には、英国のアシュトン欧州委員が起用される。二人の「EUの顔」が決まった意義は大きい。

欧州統合は、各国の合意を積み上げながら実績を重ねてきた。今や通商や農業など各国の経済政策づくりの大半はEUに委ねられ、外交・安全保障から環境、司法、食品安全基準まで共通政策の実績も積んだ。当初6カ国だった加盟国は27カ国に拡大している。

ところが「EUの顔」がないままでは、欧州各国の市民とEUとの距離感が縮まらないばかりか、国際社会への発信力も高められない。

EUの旗の下に集まる国々を束ねて国際社会に「一つの声」を示すポストが必要だ。そういう論議が始まったのは10年近く前だ。曲折を経つつ、常任議長などの創設を盛り込んだリスボン条約が来月に発効する。

常任議長が主宰する首脳会議は、加盟国の大使・閣僚らがもんだ議論を最後に決着させる場だ。各国の利害対立をほぐして合意まで持っていく。その成否は、手堅い調整力があるファンロンパウ氏に大きくかかっている。

「外相」の権限と責任も大きい。

欧州では90年代の旧ユーゴスラビア紛争を機にEU外交が活発化した。これまで上級代表のソラナ氏は米国や国連などと連携しながら、中東和平やアフリカの紛争解決にも奔走した。

リスボン条約の発効により、EUの外交部門が一本化され、6千人規模の欧州対外活動庁が発足する。新たにかじ取り役になるアシュトン氏の実力は未知数だが、ソラナ氏を上回る活躍が期待されている。

イランの核問題や中東和平、地域紛争の解決など、欧州の外交力を必要とする世界の課題は少なくない。米中の「G2」、日米欧中の「G4」とさまざまな枠組みが語られるなか、ルールづくりにたけ、交渉能力も高い欧州の底力は無視できない。

G8などの会議には、EUの行政執行機関である欧州委員会のバローゾ委員長が出ていた。今後、ファンロンパウ氏とバローゾ氏の役割分担をどうするか。上級代表と各国外相との協力関係をいかに築くか。落ち着くまでに時間もかかろうが、自前の「大統領」を生み出した欧州統合は、また新しい一歩を踏み出した。

毎日新聞 2009年11月22日

EU大統領 巨大欧州の「顔」ができた

歴史的な一歩にしては地味な人選である。だが、派手さを排した手堅い人事こそ、成熟した欧州にはふさわしいのかもしれない。

欧州連合(EU)の「大統領」(欧州理事会常任議長、任期2年半)にベルギーのファン・ロンパウ首相が選ばれた。任期5年の「外相」(外務・安保政策上級代表)には英国の女性、キャサリン・アシュトン欧州委員が指名された。

EUの新たな規範「リスボン条約」の発効(12月1日)に伴って新設されるポストである。27カ国の加盟によって約5億人を擁し、なお拡大が見込まれるEU。その巨大欧州の「顔」になるのがロンパウ氏とアシュトン氏だ。

一時はブレア前英首相を大統領に推す動きもあったが、ドイツやフランスの支持を得られなかった。ブレア氏が米ブッシュ前政権とともにイラク戦争に打って出たこと、英国がユーロ圏に入っていないことが響いて「ブレア大統領」の目は消え、代わりにアシュトン氏が外相に選ばれたともいわれる。その意味では妥協の産物だが、イラク戦争が今なお過去になっていないことを痛感する。

ロンパウ氏は昨年末から国内の仏語圏とオランダ語圏の対立に対処し、これを収めた手腕などが評価された。知名度が高く強い指導力が期待される人物より、多くの国の意見調整を地道に行う人物をEUは好んだのだろう。敵を作らずオランダ語版の「俳句」を好むロンパウ氏は、まさしく調整型の大統領である。

半面、国際的な存在感には疑問符が付く。もともとEU大統領は強力な権力を持たない。国際会議に出席してもEU外相の権限を尊重する必要がある。が、それでもEU大統領として強く主張すべき時はしてほしい。世界が多極化に向かう折、国際社会がEUの声をはっきりと聞きたい時もあるはずだ。

ロンパウ氏が認識するように、世界には厳しい状況もあり、米国の指導力だけでは解決が難しい問題が増えてきた。世界経済や環境問題はもとより、アフガニスタンや中東和平への取り組みでも欧州への期待感が強まっている。米国を事実上唯一の仲介者とする中東和平は、オバマ大統領の「カイロ演説」にもかかわらず、まったく進展を見せていない。

「結束は私たちの力、多様性は豊かさだ」というロンパウ氏の言葉は、お互いの価値観を尊重しつつ共通の目標に向かう欧州の姿の反映である。リスボン条約の発効により欧州統合は新たな段階を迎える。EUの「共通外交」をリードする大統領と外相が、欧州だけでなく国際社会の平和と安定に積極的に貢献することを期待したい。

読売新聞 2009年11月24日

EU大統領選出 欧州は発言力を強化できるか

「一つの顔」「一つの声」で発信する欧州連合(EU)の難しさを、改めて示した人選だ。

EUの最高意思決定機関で、加盟国首脳で構成される欧州理事会は、初の常任議長と、新設される対外活動庁を率いる外交・安全保障上級代表を選出した。一般には、EUの「大統領」と「外相」と呼ばれる職務である。

「EUを対外的に代表する」だけで、一国の首脳や外相のような権限はない。だが、これまで欧州理事会の議長は半年ごとの輪番制で、上級代表も、手足となる官僚組織を持たなかった。欧州統合の歩みが進んだのは確かだろう。

両ポストは、国際社会におけるEUの政治的発言力を高めるために設けられた。世界のリーダー役を担う米国と、急速な経済成長を背景に影響力を強める中国に対抗するには、「EUの顔」が必要になる、との判断だった。

だが、常任議長に選ばれたベルギーのファンロンパウ首相は、国内での調整手腕は知られるが、EU域外では無名に近い。上級代表になるアシュトン欧州委員(通商担当、英国出身)も、外交手腕は未知数だ。

「顔」としての適性に疑問が出ても不思議はないだろう。

常任議長の有力候補には当初、ブレア前英首相の名が挙がっていた。しかし、欧州統合の牽引(けんいん)役を自任する独仏両首脳が、知名度の高いブレア氏の前に自らの存在感が低下するのを懸念して、ファンロンパウ氏を推したとされる。

欧州政界の多数派である保守陣営から常任議長、第2勢力の社民主義陣営から上級代表を選び、しかも、両ポストを小国出身者と大国出身者に振り分けるなど、域内の調和も図られた。

今回の人選は、その利害調整と妥協の産物だった。

欧州石炭鉄鋼共同体に始まるEUは、いつも加盟国間の利害調整に手間取りながら、統合と拡大を続けてきた。知名度より調和を重視した人選びは、EUらしいとも言える。

27か国に膨らんだEUの機構改革を促すリスボン条約は、来月発効する。「大統領」と「外相」の選出は、その序章である。

リスボン条約には、常任議長や上級代表の権限について、詳細な規定はない。その職務に就く人の個性や仕事ぶりが、イメージを作り上げていく、という側面もあるのだろう。

2人の仕事ぶりを、しばらくはじっくりと見守りたい。

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