毎日新聞 2012年10月27日
経済対策 本来やるべき事は何か
日本経済の減速が心配されている。主な原因が欧州や中国など海外にあるため、即効性のある対策が見当たらないのが現実だが、そんな中、景気をあえて冷え込ませようとしているのだから、あきれるばかりだ。
決められない政治とその象徴的現象になっている、特例公債法案のたなざらしである。
本来なら今年度予算と一体で4月までに成立していなければならなかった法案だ。このままでは来月中にも財源が枯渇しかねないというが、歳出の抑制により、影響はすでに広がっている。地方交付税の配布が遅れた結果、銀行からの緊急借り入れでしのいでいる自治体もある。景気の足を引っ張るばかりか、利払いという余計な負担増まで招いている。一刻も早く成立させることが、与野党に求められる最低限の責務だ。
法案の中身で対立しているのではない。衆院の解散時期をめぐる駆け引きの材料に使われてきただけだ。
そんな無責任ぶりを続けながら、緊急経済対策とは、本末転倒ぶりも甚だしい。政府は第1弾として4200億円規模の財政支出を閣議決定した。国会を通さず閣議決定で使える今年度予算の予備費を使うというが、本来、執行されるべき歳出を滞らないようにするのが最優先だ。
やるべき仕事を棚に上げ、政治家が日銀にさらなる追加金融緩和を求めるのも責任転嫁以外の何ものでもない。日銀は先月、追加の緩和策を決めた。それまで「来年6月末までに70兆円」としていた、国債などを購入する基金の規模を「来年末までに80兆円」に拡大する内容だ。
それを「100兆円に増やせ」とか、「デフレ脱却まで無制限に」といった声が聞かれる。資金不足が経済成長を妨げているわけではないのに、バナナのたたき売りのごとく緩和を積み増しても、何か手を打っているというアリバイ作りにしかなるまい。日銀は、経済効果が乏しく政治の怠慢を助長するだけの追加緩和に逃げ込むべきではない。
特例公債法案の遅れにはもう一つ大きな弊害がある。巨大な国債市場の無用な混乱だ。このままでは国債発行ゼロの月があったかと思えば、年度末前に大量発行が集中する極端な変動も起こりかねない。
経済活動に必要なのは、安定した環境と先行きの見通しやすさだ。それを提供することが政治の重要な仕事の一つであり、今の日本にとって最良の景気対策となろう。野田政権と野党の意思さえあれば、一円もかけず今日からできるのである。
週明けに臨時国会が召集される。これ以上の時間の浪費は、国民生活や国の信用に大きな痛手を与えることになり、許されない。
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読売新聞 2012年10月27日
緊急経済対策 「急場しのぎ」では力不足だ
申し訳程度の経済対策では、景気の腰折れを防ぐことはできまい。政府は危機感を強め、景気浮揚策に全力であたるべきである。
政府が、事業規模7500億円の緊急経済対策を閣議決定した。海外経済の減速を受け、輸出や国内生産が低迷しているためだ。日中関係悪化の影響で、対中輸出にも陰りが出てきた。
政府は景気判断を3か月連続で下方修正した。景気後退の瀬戸際にあると言えよう。日本経済の悪化を食い止めるため、機動的に対応した点は評価できる。
ただし対策は、環境や医療など政府が「日本再生戦略」で掲げた重点分野の前倒しが中心だ。
東日本大震災の被災地への補助金追加や学校施設の老朽化対策、尖閣諸島問題などを受けた海上保安庁の装備増強も盛り込んだが、内容は新味に欠ける。
さらに問題なのが、十分な財源もなく、今年度予算の予備費で急場をしのいだため、事業規模が小粒にとどまったことだ。国内総生産(GDP)の押し上げ効果は、わずか0・1%という。
政府は11月中に対策の第2弾をまとめる方針というが、財源確保のために編成すべき補正予算のメドさえ立っていない。
まずは来週からの臨時国会で、今年度当初予算の財源を確保するための特例公債法案を、早急に成立させることが不可欠だ。
国の資金不足で地方交付税や補助金支給が厳しく抑制されている中で、本格的な経済対策を実施することは難しい。
自民、公明など野党が、解散時期の明示に拘泥して法案成立への協力を拒み続ければ、いずれ国庫は底をつき、行政サービスがストップしてしまう。国民生活と経済には深刻な打撃となろう。
選挙をにらんだ政局的な駆け引きに終始して、国民生活に犠牲を強いるなら、「政治不況」の責任を負うのは政府・民主党だけではない。野党も同罪である。
復興予算が、被災地に関係のない事業に“転用”された問題もある。厳しい財政事情のもとで、復興に便乗した予算のムダ遣いは許されない。
補正予算編成にあたっては、新規事業の追加ばかり考えるのではなく、効果の乏しい施策を取り下げ、必要な事業に予算を配分し直すことが重要だ。
民主党の政権公約(マニフェスト)に沿ったバラマキ政策についても、さらに厳しく「仕分け」するよう求めたい。
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産経新聞 2012年10月27日
緊急経済対策 4千億円で景気上向くか
政府が閣議決定した7500億円規模の緊急経済対策は、どうみても小粒の事業を寄せ集めた印象しかない。
景気浮揚に効果がある国の直接的な財政負担は、4千億円規模にとどまる。これでは日本経済を支えられまい。
国の財政負担が小幅だったのは、国会審議を必要としない予備費が財源の多くを占めたからだ。野田佳彦政権には、しっかり野党の協力を取り付けて赤字国債の発行法案を成立させ、本格的な補正予算を編成していく責務がある。
日本経済は、欧州債務危機や中国など新興国経済の減速で景気後退の懸念が台頭している。対策に取り組むポーズだけの「アリバイ作り」に時間と資金を費やす余裕はないはずだ。
緊急対策としては、今年度予算の予備費から3900億円余りを計上し、職業訓練を補助する基金から300億円を充当する。これに地方負担などを合わせて事業費を7500億円としたが、乏しい財源を駆使して何とか規模を確保したにすぎない。
対策の中身もパワー不足だ。東日本大震災の復興事業に加えて、環境・医療・農林漁業の3分野への投資を柱とするが、企業の創意と活力を引き出す規制緩和などは来月末に改めてまとめる。有効な対策も小出しにしていたのでは効果が見込めない。
海上保安庁が来年度の概算要求で求めていた巡視船やヘリコプターの整備などの費用も前倒しで計上した。尖閣諸島の警備などに充てる重要な支出だ。ただ、直接的な景気浮揚にはつながらない。政府試算でも、対策の景気押し上げ効果は実質国内総生産(GDP)のわずか0・1%だ。
政府は現在、赤字国債を発行する特例公債法案の成立が見込めないため、地方交付税などの予算執行を抑制している。こうした中で予備費を活用して財政出動しても、ブレーキとアクセルを同時に踏むようなものだ。効果はますます限定されてしまう。
政府の月例経済報告は景気判断を3カ月連続で下方修正し、日銀も東北を除く地域の景況感を引き下げた。景気はまさに「失速寸前」といえる。
これ以上の景気後退を防ぐためにも、野田政権には補正予算を組み実効的な経済対策を実施する正攻法しか残されていない。
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