原発と活断層評価 安全優先の判断基準を

朝日新聞 2012年10月26日

原発と活断層 疑わしきは「黒」だ

原子力規制委員会は来月初めから、全国六つの原発で活断層の現地調査を始める。

国の指針では活断層の上に重要施設を建ててはならないことになっている。しかし経済産業省の旧原子力安全・保安院による審査の甘さが指摘され、新体制で調べ直すことになった。

調査は再稼働する原発を選ぶための作業ではない。不十分だった過去の調査を反省し、専門家が予断ぬきで危険性を判断する作業の一環だ。

手始めは、現在、唯一稼働している関西電力大飯原発(福井県おおい町)だ。調査団の5人の専門家の中には、敷地内の断層が活断層である可能性を指摘している研究者も含まれる。

過去の審査にとらわれず、徹底的に調べて、説得力のある判断を示してほしい。

活断層とは、過去に活動し将来もずれを起こす可能性がある断層だ。ここで地震があれば、直上はもちろん、周辺にも大きな揺れをもたらす恐れがある。

大飯の場合、焦点はF―6と呼ばれる断層だ。2号機と3号機の間にあり、重要施設である非常用取水路の直下を走る。

別の断層と連動して動く可能性も指摘され、活断層なら原発の運転には致命的となる。

規制委の田中俊一委員長は活断層の可能性が高ければ3、4号機の停止を求める方針だ。

現地調査は北陸電力志賀原発などでも順次おこなわれる。調査の結果、活断層なら無論だが、断定にいたらなくても疑いがあれば、安全優先の立場から「黒」とみなすべきだ。

東京電力福島第一原発では、津波の危険性が指摘されながら東電が軽視し、対策を怠ったことで事故に結びついた。同じ轍(てつ)を二度と踏んではならない。

原子力規制委は現地調査と並行し、活断層の審査指針なども来年夏までに改める。

島崎邦彦委員長代理は、12万~13万年前以降に動いた断層を活断層とする現行の指針を、40万年前より後に動いたものとする考えを示した。

活断層を、過去40万年の間に繰り返し動いているものと規定する政府の地震調査研究推進本部の見解に合わせる形だ。見落としをなくすため、安全審査の幅を広げるのは当然だ。

現在の安全審査は原発直下の活断層が主眼だが、それで十分か。東日本大地震で地下の構造が変化した地域もある。原発周辺の活断層についてもさらに調査し、リスクをきちんと見定めるべきではないか。

疑わしきは危険性あり。それを大原則として貫いてほしい。

毎日新聞 2012年10月25日

原発と活断層評価 安全優先の判断基準を

原子力規制委員会は11月から、稼働中の関西電力大飯原子力発電所(福井県おおい町)を手始めに、原発の敷地内に活断層があるかどうかの現地調査を始める。原発直下で活断層が動けば、原子炉が損傷するなど大事故が起きかねないからだ。

島崎邦彦・委員長代理は調査に先立ち、評価対象となる活断層の範囲を見直す意向を示した。現行の原発耐震設計審査指針は13万~12万年前以降に活動した断層を活断層と定義しているが、数十万年前に活動した断層にまで広げる方針という。安全を優先した措置として評価したい。

活断層とは、過去に繰り返して動いた痕跡があり、今後も活動して地震を引き起こす可能性がある断層のことだ。原発の安全審査でも、活断層が引き起こす地震への備えは大きな柱となっており、原子炉など原発の重要施設は活断層上には設置できないことになっている。

だが、東日本大震災をきっかけとした原発周辺の断層再評価作業の過程で、活断層が見逃されていた可能性のある原発が相次いで浮上した。このため規制委は、大飯原発に引き続き、福井県の日本原子力発電敦賀原発や石川県の北陸電力志賀原発など5施設も現地調査する。

原発の活断層評価を巡っては、国の地震調査研究推進本部の想定に比べて電力会社の想定の方が地震の規模が小さくなる傾向があるなど、以前から審査の甘さを指摘する声があった。同本部が2010年にまとめた報告書では、約40万年前以降に活動した断層を活断層としており、食い違いがあったことがむしろおかしかったと言える。規制委には、電力会社と当時の規制当局との間で意図的な活断層隠しがなかったかについても、調査を求めたい。

難しいのは、活断層であるかどうかについて、専門家の判断が割れる可能性があることだ。だが、原発でひとたび大事故が起きれは、その影響は計り知れない。規制委の田中俊一委員長は大飯原発の活断層調査について「黒はもちろん、濃いグレーの場合にはそれなりの判断をしていかなければいけない」と記者会見で語っている。今後は、全国の原発で活断層リスクを洗い出し、「グレー」の判定が出た原発も、稼働停止や廃炉を求めるべきだ。電力会社の経営よりも、国民の安全が優先されるべきことは言うまでもない。

規制委は原発の新しい安全基準を来年7月までに策定するが、その中に、安全サイドに立った活断層評価基準や評価結果を踏まえた廃炉措置の手続きも盛り込むべきだ。

地震大国日本には、原発周辺を含め、至る所に活断層がある。それを忘れてはならない。

産経新聞 2012年10月29日

原発と活断層 リスクと利便折り合いを

原子力発電所の真下に活断層があるかないかを確かめる調査が11月初旬から始まる。調査の主体は原子力規制委員会(田中俊一委員長)だ。

島崎邦彦委員長代理ら5人の専門家で構成される現地調査団が、その任にあたる。

関西電力の大飯原子力発電所(福井県おおい町)が最初の対象になっている。目下、原発が稼働している国内唯一の発電所である。予断にとらわれることなく、公正かつ冷静な調査を期待したい。

福島第1原子力発電所の事故以降、原発に対して安全性の向上が強く求められている中での調査である。大飯原発に続いて、北陸電力の志賀原子力発電所など計6カ所の発電所で地層の現地調査が行われる。

建設当時の基準では、6原発とも耐震設計指針に抵触するところはなかった。だが、平成18年に改定された現行の基準に照らすと、活断層を含む可能性が生じ得るとされ、再調査となった。

活断層は過去の地震発生を物語る地層の古傷である。現行の基準では12万~13万年前までの古傷に注目しているが、島崎氏は40万年前までの古傷を活断層に含める考えを示している。

政府の地震調査研究推進本部は以前から40万年を目安にしているので、学問上の整合性はとれる。だが、地質年代の幅が広がると地震を起こす活断層かどうかの判断が難しくなる事例も増えよう。

その際に、安全優先の立場から「灰色」を「黒」と判定し、原発を片端から廃炉に追い込むような硬直した判断の愚は、あってはならないことである。

日本列島は4枚のプレート(岩板)がせめぎ合う会合点に位置している。そのため、地下にはひずみがたまって多くの断層を抱えている。日本人は現代社会においても、活断層のリスクと暮らしの利便性の折り合いを上手につけている。高速道路しかり、新幹線もまたしかりである。

活断層は千年に1度、長ければ2万年に1度という頻度でしか動かない。だからといって原発直下の亀裂を軽視してよいことにはならないが、同時に日本がエネルギー資源の極貧国であることを忘れてしまっても、取り返しのつかない災厄を招く結果になる。

規制委には思慮深く、均衡のとれたリスク判断を求めたい。

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