原子力規制委員会が全国の原発16カ所について、福島第一原発のような事故が起きた場合を想定した放射性物質の拡散予測を公表した。
防災の重点区域を定めるために策定した。規制当局がこうした情報を初めて公開したことは評価する。
ただ、本来なら原発の計画段階で踏まえておくべきことだ。原発建設にあたって、いかに防災対策をおざなりにしてきたかを物語っている。
公表された予測図を見ると、1週間あたりの積算被曝(ひばく)線量が100ミリシーベルトに達する地域はどのあたりかが一目でわかる。これは国際原子力機関(IAEA)が定めた避難基準にあたる。
もちろん予測はあくまで現地の標準的な気象条件などをもとに試算したひとつの目安にすぎず、地形も考慮していない。
現実に事故が起きると、爆発の具合や風向き次第で、今回の予測と異なる状況が生じる可能性は十分にある。
福島以上の事故が起きる恐れも否定できない。日本の原発は1カ所にいくつもの炉を設ける「集中立地」が特徴だ。
福島の場合、なんとか作業を続けられたが、1基でも撤退せざるをえない事態になれば他の炉も連鎖的に制御不能となり、被害が飛躍的に大きくなる。
今回の予測の狙いを正しく読み取り、防災計画づくりに生かす必要がある。
防災の重点区域は福島事故の後、原発から30キロ圏に拡大された。予測では、30キロの外でも避難線量に達する原発が4カ所あり、重点区域がさらに広がる可能性がある。
規制委は防災計画の整備を原発再稼働の「最低条件」としており、重点区域の自治体は来年3月までに計画をつくる。
しかし、東海第二(茨城県)のように周辺人口が多すぎて短期間での避難が困難な原発や、地形上、十分な避難路が確保できない原発もある。浜岡原発(静岡県)は30キロ圏内に、日本の大動脈である東海道新幹線や東名高速道路が走る。
野田政権は相変わらず、再稼働の判断を規制委に丸投げする姿勢を変えていないが、自治体の計画策定を支援するのは政府の仕事だ。
新たに設置した全閣僚による「原子力防災会議」のもとで策定の進み具合を把握し、中身を精査する。
そのうえで、周辺自治体が実効性のある対策を取れない原発は、政治主導で廃炉にしていく枠組みを講じるべきだ。
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