放射能拡散予測 原発で最悪の事故防ぐ一助に

朝日新聞 2012年10月25日

放射能予測 防災が無理なら廃炉に

原子力規制委員会が全国の原発16カ所について、福島第一原発のような事故が起きた場合を想定した放射性物質の拡散予測を公表した。

防災の重点区域を定めるために策定した。規制当局がこうした情報を初めて公開したことは評価する。

ただ、本来なら原発の計画段階で踏まえておくべきことだ。原発建設にあたって、いかに防災対策をおざなりにしてきたかを物語っている。

公表された予測図を見ると、1週間あたりの積算被曝(ひばく)線量が100ミリシーベルトに達する地域はどのあたりかが一目でわかる。これは国際原子力機関(IAEA)が定めた避難基準にあたる。

もちろん予測はあくまで現地の標準的な気象条件などをもとに試算したひとつの目安にすぎず、地形も考慮していない。

現実に事故が起きると、爆発の具合や風向き次第で、今回の予測と異なる状況が生じる可能性は十分にある。

福島以上の事故が起きる恐れも否定できない。日本の原発は1カ所にいくつもの炉を設ける「集中立地」が特徴だ。

福島の場合、なんとか作業を続けられたが、1基でも撤退せざるをえない事態になれば他の炉も連鎖的に制御不能となり、被害が飛躍的に大きくなる。

今回の予測の狙いを正しく読み取り、防災計画づくりに生かす必要がある。

防災の重点区域は福島事故の後、原発から30キロ圏に拡大された。予測では、30キロの外でも避難線量に達する原発が4カ所あり、重点区域がさらに広がる可能性がある。

規制委は防災計画の整備を原発再稼働の「最低条件」としており、重点区域の自治体は来年3月までに計画をつくる。

しかし、東海第二(茨城県)のように周辺人口が多すぎて短期間での避難が困難な原発や、地形上、十分な避難路が確保できない原発もある。浜岡原発(静岡県)は30キロ圏内に、日本の大動脈である東海道新幹線や東名高速道路が走る。

野田政権は相変わらず、再稼働の判断を規制委に丸投げする姿勢を変えていないが、自治体の計画策定を支援するのは政府の仕事だ。

新たに設置した全閣僚による「原子力防災会議」のもとで策定の進み具合を把握し、中身を精査する。

そのうえで、周辺自治体が実効性のある対策を取れない原発は、政治主導で廃炉にしていく枠組みを講じるべきだ。

毎日新聞 2012年10月26日

放射能拡散予測 危険度評価の一助に

仮定をおいた予測なので、確かに限界はある。それでも、原子力規制委員会が公表した全国の原発の「放射性物質拡散予測地図」は、当然、示されるべきデータだった。

ここを出発点に、国の防災指針や、自治体の地域防災計画の策定に本腰を入れたい。あわせて、原発のリスクに改めて向き合い、脱原発依存を進めるためのひとつの手がかりともしたい。

今回の予測図は、「福島第1原発事故と同量の放射性物質が飛散した場合」と「各原発の原子炉すべてで炉心溶融が起きた場合」を想定している。過去1年間に観測された風雨のデータを使い、事故後1週間の被ばく量が100ミリシーベルトに達する地点を試算した。国際基準で緊急避難が必要となる線量だ。

その結果、大飯、柏崎刈羽、浜岡、福島第2の4原発では、原発から30キロを超える地域までが避難対象となった。30キロ圏は新たな国の防災指針で重点的に事故に備える地域だ。7基の原子炉が建ち並ぶ柏崎刈羽原発の場合、40キロ離れた「米どころ」の魚沼市も避難対象となる可能性が示された。影響の大きさにとまどった人もいるだろう。

今回の予測には地形の情報が入っていない。拡散は事故時の気象にも左右され、当然、予測通りにはならない。だが、思い返せば福島第1原発事故でも影響は30キロを超えた。むしろ、考えておかなくてはならないのは、影響が今回の試算を超える事故も起こりうるということだ。

現実の事故の影響が同心円状に広がるわけではないという事実も改めて肝に銘じておきたい。福島の事故では飯舘村など北西方向に汚染が広がった。その時の気象や地形に応じた避難対策が取れるようにしておかなくてはならない。予測地図の精度を上げることも検討課題だ。

原発立地自治体は、来年3月までに地域防災計画をまとめることを求められている。今回の予測地図はそのための参考資料として規制庁などが作製した。公表を受け、自治体からは国の事前説明が不十分という声が上がっている。

確かに、国は予測の根拠や意味を十分に説明する必要がある。ただ、国の画一的な方針に従うだけでなく、地域の特性を考慮した柔軟な防災対策を立てることが自治体の役割だ。国はそれを十分に支援してほしい。

私たちはこれまで、原発のリスクを横並びで判定し、リスクの高いものから廃炉にすることを提案してきた。拡散予測地図は、相対的なリスク判定の手がかりにもなるだろう。リスクの「見える化」は、人々の意識も変える。限界を知った上で、有効利用していきたい。

読売新聞 2012年10月25日

放射能拡散予測 原発で最悪の事故防ぐ一助に

全国16の原子力発電所で重大事故が起きた場合に、放射性物質がどう拡散するか。政府の原子力規制委員会が、その予測地図を公表した。

政府はこれまで、住民の不安を(あお)ることを恐れ、こうした予測を実施していなかった。だが、防災対策で最悪事態を想定するのは必要なことだろう。

原発の周辺自治体は、来年3月までに防災計画を策定することになっている。関係自治体は、予測結果を参考に、作業を着実に進めねばならない。

規制委は、今回の予測が現実の地形を考慮しておらず、複雑な風向変化を反映していないため、あくまで目安と位置づけている。

予測結果が無用な不安を広げぬよう、規制委は関係自治体に丁寧に説明し、防災計画作りを後押ししてもらいたい。

気がかりなのは、東京電力柏崎刈羽原発と関西電力大飯原発など4原発に関する予測結果だ。

規制委は、策定作業中の新防災指針案で、事前の対策を求める重点区域を、原発から半径30キロ圏とする方針を示している。

だが、事故後1週間の積算被曝(ひばく)線量が避難の国際基準とされる計100ミリ・シーベルトに達する地域を見ると、4原発では30キロ圏の外側にも広がっている。柏崎刈羽では、約40キロ離れた新潟県魚沼市にまで影響が及ぶ、と予測された。

田中俊一規制委員長は、「重点区域は30キロ圏で足りる。それ以上は事故時に(放射線量を)実測して対応すればいい」との見解を示している。混乱を避ける意味で、妥当な考え方と言えよう。

とはいえ、防災対策は自治体が主体的に決めるものだ。県などが区域を広げれば、県境をまたぐ避難や物資輸送、避難地確保も問題となる。政府も関係自治体間の調整を支援する必要があろう。

拡散の予測技術自体についても、規制委は今後、さらに性能の向上を目指すべきだ。

高度な予測が可能になれば、防災対策の一層の充実につながるうえ、事故時の避難対策にも役立つのではないか。

もとより、こうした事故を起こさないことが大切だ。

すでに各地の原発で、津波対策や非常用電源の強化など緊急安全対策が施されており、東電福島第一原発事故の発生前に比べ、当面の安全性は向上している。活断層の確認なども始まっている。

規制委は、再稼働の判断材料とするためにも、検討中の新たな安全基準を早急に整備すべきだ。

産経新聞 2012年10月25日

放射能拡散予測 現実に即した防災計画を

「汚染の限界」を示すはずが「汚染の予告」と誤解される可能性を孕(はら)んでいるのではないか。

原子力規制委員会が24日に公表した「放射性物質拡散シミュレーションマップ」を見ての危惧である。

国内の原子力発電所で、東京電力福島第1原発並みの過酷事故などが起きた場合に、住民の避難が必要となる範囲を発電所ごとに地図上で示している。

作成の目的は、各自治体が来年3月までに策定する地域ごとの防災計画作りの参考資料にしてもらうことにある。

マップにはシミュレーションの結果、「避難基準」である7日間で100ミリシーベルト以上の被曝(ひばく)となる範囲が多角形で囲まれるような形で示されている。

規制委は改定中の原子力災害対策指針で、原発からの半径30キロ圏内を事故に備える重点区域としているが、シミュレーションでは関西電力大飯原発や東電の柏崎刈羽原発などで、要避難区域が部分的に30キロを超えている。

そうした地域の住民は、強い不安を感じかねない。規制委や原子力規制庁は、くれぐれも丁寧に説明していくことが必要だ。

またマップの作成にあたっては、地形についての情報が考慮されていない。風向きなどについても各地域の年間を通じた傾向に基づくものであるために、事故時の風向き次第で異なる汚染の分布も生じ得る。

このようにマップの精度や信頼性には、さまざまな限界がある。そのことは担当した規制庁も補足しているが、ショッキングな情報ほど独り歩きしやすいことを忘れてもらっては困る。

このマップを提示された自治体の側も、困惑するはずだ。実効性のある地域防災計画の策定に有効につながるかどうか、疑問が残る。柏崎刈羽原発のケースでは適用された前提条件の影響で、汚染範囲が過剰に拡大する結果ともなっている。

シミュレーションの全般の傾向を見る限り、避難が必要となりそうな地点は多くの原発で20キロ圏内外に収まっている。そうした見方も忘れてはなるまい。

さらにもうひとつ。放射性物質の大量放出をもたらす水素爆発の再発防止策は各原発で講じられている。これを考慮しない防災計画は現実離れしかねない。

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