大谷投手の挑戦 18歳の決断にエールを

朝日新聞 2012年10月23日

高校生の挑戦 日米球界の垣根は低く

華やかな未来は約束されていない。それを覚悟でメジャー挑戦をえらんだ超高校級右腕の決心を見守りたい。

岩手・花巻東高の大谷翔平投手が、大リーグに挑むと宣言した。ドラフト1位候補の高校生が、日本球界を経ずに米国をめざす初のケースだ。

高校生最速の時速160キロをマークした逸材には、ドジャースなど米国の10球団近くが熱い視線を送る。

下積みのマイナーリーグで勝てなければ、メジャーの扉は開かない。

日本でプロになり、実績を作って大リーグを狙うほうが現実的だし、収入も安定する。

そんな損得計算も両親の反対も、18歳は押し切った。

イチロー選手がさっそうと大リーグに登場した年に小学1年生だった世代にとっては、現実味がある目標なのだろう。

25日のドラフト会議で、日本の球団が指名しても、米国行きを阻む法的効力はない。

4年前、社会人の田沢純一投手がレッドソックスと契約した。1位指名の確実な選手が日本球界を経由せずにメジャー契約を結んだ初のケースだった。

危機を感じた日本球界は防衛策を考えた。

ドラフトを拒んで外国の球団に入ったら、退団しても高卒は3年間、大卒・社会人出身は2年間、日本の球団と契約できない申し合わせだ。

しかし今回、高校生の夢が揺らぐことはなかった。一部の球団には「契約できない期間を延長すべきだ」という意見もあるようだが、若者の可能性を邪魔する内規はやめるべきだ。

サッカー界でも近年、高校生がJリーグを経由しないで欧州のプロクラブと契約する例があるが、日本に戻ればすぐにJリーグで活躍できる。野球界も有能な人材を締め出す手はない。

大谷投手はいう。

「ずっとメジャーでやりたい気持ちが強かった。若いうちから行きたいというのもあった」

今のルールでは高校生が日本の球団に入ると、自由に契約する球団を選べるフリーエージェント(FA)権は、国内移籍で8年、海外移籍は9年かかる。国内外を問わず、FA権の取得年数を縮めてはどうか。

日本でキャリアを始めても、全盛期で米国に渡れば、峠を越す前に復帰し、再び花を咲かすケースも増えるだろう。グローバル化に逆らい、日本に閉じ込めておく発想は、捨てよう。

嫌がらせのような規制では、若者の挑戦を止められない。それを日本球界は教えられた。

毎日新聞 2012年10月23日

大谷投手の挑戦 18歳の決断にエールを

高校球界屈指の右腕、岩手・花巻東高の大谷翔平投手が米大リーグへの挑戦を表明した。記者会見で「厳しい中で自分を磨きたい」と語ったように故障も含めさまざまなリスクがあるのは本人も覚悟のうえだ。18歳の決断にエールを送りたい。

大谷投手は昨夏と今春の甲子園大会に出場している。193センチの長身から繰り出すストレートは今夏の岩手大会で最高160キロを計測した。打者としても高校通算56本塁打を記録した逸材で、25日のプロ野球ドラフト会議で1位指名を予定していた複数の球団は戦略の練り直しを求められることになった。

日米球界には「互いのドラフト指名にかかりそうな選手は獲得しない」との紳士協定がある。だが、08年に1位候補だった田沢純一投手が国内12球団に指名しないよう通知した後、レッドソックス入りしたことで協定は効力を失いつつある。

野茂英雄投手がドジャース入りした95年以降、後に続いたイチロー選手らの活躍によって日本からメジャーへの流れは大河となり、才能と意欲のある高校生にとってメジャーは現実的な選択肢となっている。

田沢投手の件を受けて日本球界はドラフト指名を拒否して海外のプロチームでプレーした選手は帰国後、高校生は3年間、大学・社会人は2年間、日本のプロ球団とは契約できないとの申し合わせをした。メジャー挑戦をあきらめさせる「嫌がらせ」ともいえる復帰制限規定であり、今回もある監督は制限期間を延長する考えを口にした。メジャー挑戦を「流出」と捉え、日本球界の「空洞化」を危ぶむ意見も飛び交う。いずれも了見の狭い態度と言えよう。

逸材とはいえ、プロでの実績もない一高校生の去就をめぐって、戦前からの歴史を誇るプロ球界が右往左往するのは誠にみっともない。「流出」の原因を、日米球団の資金力の差に求める報道もみられるが、本質を突いているとは思えない。

世界から人材が集まるメジャーリーグが頂点にあることは言うまでもなく、日本球界が選手の待遇面を改善したからといって覆せるものではない。高いレベルで自分の力を試してみたいと思うのはスポーツ選手であれば当然のこと。研究分野でも同じだ。若者の内向き志向を打破したいのであれば、挑戦する若者の足を引っ張るようなことは慎みたい。

即戦力と言われた社会人の田沢投手が故障もあって実力を発揮するまで4年かかったように大谷投手も前途洋々なわけではない。仮に思うような成績を残せず日本に帰ってきたら気持ちよく迎え入れ、あるいは励まして再挑戦を支えるような度量が日本球界にはほしい。

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