EU首脳会議 心配な独仏の不協和音

毎日新聞 2012年10月21日

EU首脳会議 心配な独仏の不協和音

今年4度目の欧州連合(EU)首脳会議が終わった。今回もユーロ圏の債務危機対応が最大のテーマである。中でも債務危機と密接に関連する金融業界の安定化のため、これまで各国が独自に行ってきた監督行政や問題銀行への資本注入をEUで一元化することが中心議題となった。

恒例となった未明までの議論にもかかわらず、合意できたのは、大まかな日程くらいだ。銀行の経営監督にあたる新たな機構を設立するため、必要な法的枠組みを年内に整備し、来年中に同機構が欧州中央銀行(ECB)の外局として活動を始める、というものである。

しかし、合意を取りつくろってはみたものの、具体的に「いつ」「何をどうする」となると、わからないことだらけ、というのが実情だ。まず、新機構の始動時期だが、早期に軌道に乗せたいフランスなどに対し、ドイツは「速さより質だ」(メルケル首相)と、あくまでも実現に慎重だ。確かに準備に時間はかかるだろうが、問題は、欧州諸国が結束して早期に問題解決にあたろうとする本気さが伝わらないことだ。

新たな銀行監督機構の設立は、欧州域内の銀行に対し、EUの資金支援機関(欧州安定メカニズム=ESM)が直接資本注入するための前提条件でもあった。EU全体の資金で、弱った銀行の面倒をみる代わりに、放漫経営にならないようEU全体で銀行経営に目を光らせる、という考えである。

ところが、肝心のESMによる資本注入がどうなるのかがはっきりしないままだ。経営難の銀行に国が資本注入した結果、国の借金が膨らみ信用危機に陥ってしまったスペインやアイルランドなどは、国に代わってESMが銀行を支援してくれることを期待している。

それに対し、ドイツのメルケル首相は、すでに公的支援を受けた銀行は対象とせず、新たな銀行監督機構の始動後に資本注入が必要になった銀行のみ救済する方針だ。これでは危機の再発防止に役立っても、目の前の問題解決にはつながるまい。

心配なのは、60年に及ぶ欧州統合を主導してきたドイツとフランスに不協和音が目立ってきたことだ。サルコジ前仏大統領との間で「メルコジ」と呼ばれる二人三脚ぶりを演じてきた独首相だが、後任のオランド大統領とは公然と対立している。

合意を急がねばならない課題は山積したままだ。困難なものばかりである。だが、来年9月の独総選挙まで時間稼ぎをしている余裕は単一通貨ユーロにも世界経済にもない。まずは独仏の首脳間で信頼関係を築き、一つずつ問題解決に向けて共同推進役を果たしてもらいたい。

読売新聞 2012年10月22日

EU首脳会議 危機克服へ統合を深化せよ

財政・金融危機の克服に向け、欧州が結束を強めて統合を深化する方針を打ち出した。一歩前進だが、問われるのは、迅速な行動である。

欧州連合(EU)の首脳会議は、各国に委ねていた銀行監督を来年から段階的に欧州中央銀行(ECB)に一元化することで合意した。金融行政を統合する「銀行同盟」構想に沿った措置と言える。

欧州は通貨ユーロで統一されたが、金融行政や財政はバラバラという弱点がある。銀行監督が甘く、財政赤字を拡大させた要因となった。その反省から欧州が統合深化に踏み出したのは妥当だ。

恒久的な金融安定網として、欧州安定メカニズム(ESM)が8日に発足した。ESMが経営悪化の銀行に直接資本注入して支援するには、銀行の経営状況を正確に把握することが前提になる。

銀行監督の一元化によって、ESMを銀行支援に活用する道が開かれる。各国が銀行を公的資金で救済して財政が悪化し、市場が混乱するという「負の連鎖」を断ち切る効果が期待されよう。

ただ、銀行監督がいつ一元化されるか曖昧な点も残る。銀行同盟を完成させるには、欧州全体の預金保険制度や、銀行が破綻した場合の処理策も必要となる。負担増を警戒するドイツは慎重だが、早急に妥協点を探るべきだ。

首脳会議は、財政危機国を支える「ユーロ圏共通予算」の導入など、財政統合の方策も協議し、12月の次回会議まで議論を重ねることになった。具体的な行程表作りを急いでもらいたい。

懸念されるのは、当面の焦点であるスペインへの支援策が見送られたことだ。深刻な財政危機に陥ったスペインがまだ欧州当局に支援要請していないためだ。

スペイン国債の利回りが最近、比較的落ち着いているからと言って、油断してはなるまい。速やかに支援策をまとめ、財政再建に取り組むことが肝要である。

危機の震源地ギリシャの財政再建の先行きも懸念される。首脳会議は、ギリシャが求めた財政再建目標の先送りに応じるかどうかについて決着を持ち越した。

EUは今年のノーベル平和賞の栄誉に輝いた。授賞理由は「欧州の平和と和解、民主主義と人権の促進への貢献」である。

長びく欧州危機が、世界経済の減速を招いている。平和賞は危機克服に向け、統合を深化させようと苦闘するEUへのエールの意味合いがあろう。欧州各国が責任を果たすことが求められている。

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